第20話 え、パパが勇者!? 山岳地帯でみゆが限界、姉と聖獣がブラッドベアーを討つ!
王都の夜。
神崎家ともっふるはギルドから戻り、そのまま宿の部屋で作戦会議に入った。
あんな「……決まりだね。明日の早朝に出発しよう。」
みゆ「うん。それまでに食料と簡単な道具は揃えておく。」
テーブルに広げられた地図を見下ろしながら、あんなが指で距離をなぞる。
あんな「ギルドマスターの話だと、馬車で往復十日ほど……山岳地帯だともう少し時間がかかると……」
みゆ「少しでも早く届けたいから、山岳地帯の手前までは、私の風魔法で強行移動する。そうすれば2日もかからないと思う。」
みゆが地図に指を指す
みゆ「でも、山岳地帯に入ったら風魔法は使えない。地形が複雑で、魔物の縄張りも多いから。そこから先は隠蔽魔法で進む。見つからないほうが、結果的に一番早い」
亮「えっ、大丈夫か!?」
みゆ「これぐらいなら問題ないよ。その後、魔物と戦闘になるとヤバイけど…」
亮「よし、魔物は任せておけー!」
あんな&みゆ「それが一番心配なんだけど……」
亮「よし、明日のために体調をしっかり整えよう!」
そのまま三人は準備を整え、眠りについた。
翌朝の薄明かりの中、宿屋を静かに出発した。
風魔法での移動は予想以上に順調だった。
草原を走り、丘を越え、時おり休憩を挟みながら二日目の昼には山岳地帯に到達する。
みゆ「ここからは、隠密魔法で慎重にいくよ」
あんな「疲れているようだけど、大丈夫?」
亮「少し、休憩するか?」
みゆ「ありがとう、でも大丈夫!一刻でも早く戻って助けたい」
その言葉に、亮とあんなは何も言えなくなる。
湖を目指し、しばらく歩いていると
周囲の空気が急に冷えた。
あんな「……止まって。前方、魔物の気配。」
みゆ「Bランク、ブラッドベアー、気づかれた?……」
Bランク魔物の中でも特に凶暴で知られる魔物。
ピシッ……バキッ!!
巨体が木々の間から姿を現す。
赤黒い毛並み。唸るだけで地面が震えた。
みゆは風魔法での強行移動に加え、隠蔽魔法も続けて使っていた。
その反動が一気に押し寄せ、息を整えようとした瞬間――膝が落ちた。
亮「みゆ、大丈夫か?」
亮は慌ててみゆの肩を支えた。
あんな「みゆ、もう無理しないで」
みゆ「……うん。今の状態では戦えない……」
あんな「……」
一瞬の沈黙。
あんなは無意識に、横を見る。
そこにいつもいるはずの“みゆ”がいない。
あんな(……これ、こっちの世界に来てから初めて、……みゆが、隣にいない戦闘)
みゆ「判断だけはできる。正面衝突は危険。あの魔物、突進速度が異常」
あんな「分かった!」
けれど――
“一緒に戦えない”という事実が、胸の奥をざわつかせる。
もっふる「……ピィ」
その小さな声に、あんなはハッとする。
あんな「……そっか。うん、大丈夫」
一人じゃない。
あんな「正面は私が引き受ける。もっふる、お願い!」
ブラッドベアーが、地面を蹴った。
あんな「速い!」
真正面からの突進。剣で受ければ、弾き飛ばされる。
だが、その瞬間。もっふるが宙を舞う。
あんなの言葉に反応したかのようなひときわ甲高い鳴き声
もっふる「ピィーーー!」
ブラッドベアーの視線が、一瞬、揺らいだ。
みゆ「……感覚干渉。視覚と平衡感覚を、ほんの一拍だけズラしてる」
その“一拍”で十分の時間だった。
あんなは地を蹴った。
正面――ではなく、わずかに踏み込みが遅れた左側。
あんな「……そこ」
剣が閃く。
一撃目――脚。 体勢が崩れる。
ブラッドベアーが吠え、振り向こうとした瞬間、
もっふる「ピィッーー!」
みゆ「今……!」
あんな「――終わり」
低い姿勢からの、確実な一閃。
巨体が、音を立てて倒れ伏す。
あんなは、剣を下ろし――深く息を吐いた。
あんな「……はぁ」
みゆ「……お姉ちゃん、ごめん。今回は、任せきりになった」
あんなは振り返り、首を振る。
あんな「ううん。ここまで来るのに無理させすぎた。それに、みゆの判断があったから迷わず動けた」
もっふる「ピィ♪」
あんなは、もっふるに視線を落とす。
あんな「……もっふる、ありがとう。みゆがいないと、不安になるって思ってたけど……」
小さく、笑う。
あんな「ちゃんと、支えてもらってた。ありがとう」
もっふる「ピィー♪」
みゆ「……薬草は、この先の岩陰。水気の多い場所に群生してるはず」
あんな「……行ってくる。みゆは休んでて」
みゆ「……気をつけて。魔物の気配は薄いけど、安全じゃない」
亮「パパが行くぞ!」
あんな「パパはみゆを守ってて。今は、それが一番安心だと思う」
もっふる「ピィ!」
あんな「……もっふる、一緒に来てくれるの? ありがとう」
急ぎ、あんなともっふるは薬草を探しにいく。
あんな「……あった。これだ!」
もっふる「ピィ!」
あんなはそっと薬草を摘み取り、胸に抱えた。
あんな「よし、もっふる……戻ろう」
もっふる「ピィ♪」
こうして――。
静寂が戻った山の空気のなかで、目的を果たした神崎家ともっふる。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、互いを想う温かな絆を力に変えて、目的地へと再び動き出す――!




