第10話 え、パパが勇者!? 森ごと浄化しちゃったー!?
――森はしんと静まり、咆哮の余韻は消えた。耳に届くのは風の音だけだった。
しかし空気の重さはまだ残り、森の気配はどこか淀んでいた。
あんな「……終わったはずなのに、森がまだ息苦しい」
みゆ「ゴブリンキングの魔力反応は消えた。でも残滓が森全体に染み込んでる。浄化が必要ね」
あんな「……できるの、みゆ?」
みゆ「試してみる」
みゆは杖を構え、静かに呟いた。
みゆ「――《ピュリフィケーション(清浄なる光)》」
白い光が森全体に広がり、腐食した木々がたちまち息を吹き返す。
漂っていた瘴気が霧のように消え、透明な風が木々を揺らした。
あんな「……綺麗。まるで森が目を覚ましたみたい」
亮は剣を地面に突き立て、深呼吸しながら笑みを浮かべる。
亮「おおっ、空気がうまい! まるで新米の炊きたての――」
みゆ「それは関係ない」
亮「え、でもなんか“炊きたての香り”って感じしない?」
あんな「パパ、それはただの“新鮮な空気”だから」
──こうして、森の脅威は完全に消えた。
⸻
村に戻る頃には、夕焼けが空を茜色に染めていた。
リーネ村の入り口では、村人たちが心配そうに集まっていた。
村長「おおっ! みんな無事か! よくぞ戻った!」
子ども「すごい! 勇者さまだ!」
亮「いやいや、勇者というか、えーと……“臨時パパ代表”?」
あんな「それ余計にわかりにくい」
みゆが淡々と報告を済ませると、村中がどっと歓声に包まれた。
村長「森が浄化された……! これでまた、木の実も採れる! 本当にありがとう!」
亮「いやぁ、助け合いですよ、助け合い。持ちつ持たれつ、炊きつ炊かれつってやつです」
みゆ「最後の一言、意味不明」
村人たちは焚き火を囲み、急ごしらえの宴が始まった。
⸻
夜。
星明かりの下、笑い声と楽器の音が響く。
香ばしい焼き肉、焼きたてのパン、スープの香りが広場を満たしていた。
村人「さあ、勇者さま、どうぞ! 森で採れたばかりのキノコです!」
亮「おおっ、これはうまい……! ふっくらしてて、まるで……白飯のおかずにぴったりな味だ……!」
あんな「パパ、だから米はまだないって」
亮「じゃあ……パンで代用だ!」
パンを豪快にかじる亮に、村人たちがどっと笑った。
焚き火の炎が、神崎家の顔を温かく照らす。
みゆ「……こうして、村もまた元通りね」
あんな「うん。パパも、ちゃんと勇者っぽかったし」
亮「お、珍しく褒められた!」
みゆ「“っぽい”だけよ」
亮はパンを片手に、満天の星を見上げた。
亮「……でも、いいな。こういう夜。家族と、笑って、食べて……」
あんな「うん。なんか、少しだけ“異世界”ってこと忘れそう」
みゆ「忘れないで。私たち、まだ帰り方探してるんだから」
亮「えっ、スローライフ満喫してる場合じゃなかった!?」
あんな「最初からそうだよ!」
みゆ「今さら気づくとか、パパらしいわね……」
みゆ「そもそも“スローライフ”な日、今まで一日でもあった?」
亮「うっ……た、たぶん……朝寝坊した日とか?」
あんな「それ、ただのサボり」
みゆ「データ的には“スローライフ未達成”ね」
亮「判定すんな!」
…(少し間を置いて)
亮「いやぁ……スローライフって、油断すると自然に始まるもんなんだよ」
あんな「開き直らないで!」
みゆ「研究対象としては興味深いけどね……“天然スローライフ発生現象”」
亮「今度は名前つけるな!」
その瞬間、家族も村人も一斉に吹き出した。
焚き火のまわりに、あたたかい笑い声が広がっていく。
亮は肩をすくめながら笑った。
亮「今は、これでいい。家族と一緒に生きてるってだけで、ごちそうだ」
こうして――
“咆哮する森の王”を退け、リーネ村に再び穏やかな風が吹いた。
ツッコミどころ満載な、家族の異世界スローライフ(?)は、まだまだ続く――?
第11話 え、パパが勇者!? 異世界で迎える、穏やかな一日々
亮「穏やかが一番だねー♪」




