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第二話 許嫁の秘密と帝都の異能者たち③

「朔夜」


 元武家屋敷の立ち並ぶ住宅街は、敵の侵入を阻むように入り組んでいる。道はわざと曲りくねり、曲がり角や行き止まりも多い。

 そんな場所で、念入りに遠回りをして何度も角を曲がり、そろそろ家に戻る道を選ぼうかとしたころ、百瀬が夕暮れの静けさに溶け入るような声で朔夜を呼んだ。

 百瀬はそっと朔夜の手を取り、静かに足を止める。腕を引かれた朔夜も立ち止まり、黙って彼を見上げた。


「あんな人のせいで、悲しまないで」


 こわばった朔夜の頬をゆっくりと撫でる手はほのかに温かい。人より体温が低い朔夜にとって、あつらえたようにちょうどよいぬくもりだ。

 その儚いぬくもりを消されまいと、朔夜は胸のうちの冷たいものを吐き出すように息をついた。


「ただ放っておいてほしいって、それだけが、どうして聞き入れられないのかしら」

「一度手にしたものを放棄するのは、難しいことなんだよ」

「私たちは誰かのものじゃない」


 朔夜の手を握る百瀬の手のひらに、ぐっと力がこめられる。朔夜はそれを強く握り返した。


「私、普通に幸せに暮らしたいの。このまま卒業して、百瀬のお嫁さんになって」

「……普通に……」


 朔夜の声には焦りが滲んでいた。いつもなら宥めてくれる百瀬が、このときは低い声で肝心なところだけを繰り返し、目を伏せた。長いまつ毛の影で瞳が昏く鈍る。

 ひとり沈み込んでゆきそうな百瀬を引き戻すように、朔夜は彼の手を引いた。百瀬はゆったりとその手を見下ろし、そこから視線をすべらせて朔夜と目を合わせた。


「……人を幸福にするのは、その人が幸福になろうとする強い意思なんだって 」


 百瀬の、不思議に透き通る歌うような声は、夕暮れを迎えようとする空にすっと吸い込まれていった。

 彼の真意を探ってその瞳をじっと見上げても、あらゆるものを包み込む夜の静けさを思わせるまなざしに、引き込まれそうになるだけだ。目を逸らせない。


「幸福になるには、自分にとっての幸福が何かを、わかっていないといけない」

「そんなの……」


 わかりきったこと、と応えようとして、ひたと見下ろしてくる百瀬の視線に戸惑い、言葉が躓いて途切れる。


「…………」


 ずっと一緒、と『約束』を交わした。


 その約束にまつわるいくつかの記憶が閃光のように頭をよぎり、朔夜から声を奪っていた。そんな自分にも驚き、いっそう答えを見失う。


「私は……」


 それ以上を言えない代わりにせめても彼の手を取ると、百瀬はそれを待っていたとでも言うように目もとを和らげ、すいと朔夜を流し見て微笑した 。



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