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第四話 孤独の闇夜に射し込むひかりは③

「僕は、朔夜が思うよりずいぶんわがままだよ」


 微妙な沈黙が落ちていた帰り道で、唐突にそんなことをつぶやいたら、朔夜は黙ってじっと百瀬の横顔を見上げてきた。

 先ほど百瀬がほのめかした真実を、彼女はあやまたず理解しただろう。それを追及されるかと思っていたのに、彼女ふいとそっぽを向くと、かつんと足元の石を蹴飛ばしていじける。


「……そうね、にんじんはいつまでも食べてくれないし」


 そういう話じゃないとわかっていて、軽口で済ませようとする朔夜の臆病さがいじらしく、百瀬は吐息に混ぜてささやかに笑った。それもご不満だったようで、百瀬と繋いだ朔夜の手が、ぎゅうと力を込めてくる。小さくて、百瀬の手をうまく握り締められない朔夜の力は、百瀬にはちょっとくすぐったいだけだ。


「ねぇ百瀬、聞いてる?」


 唇をとがらせて顔を覗き込んでくる朔夜の可愛さに笑って、もちろん、と応えた。百瀬の好き嫌いをどう克服するかという話だ。他愛なく、嫌いなものを食べさせられようとする以外には、とても穏やかな話題。


(朔夜、君ならこの契約を破棄できるんだよ)


 朔夜が、百瀬との契約の話をあまり口にしないように、百瀬もまた、この事実を告げることはできないだろう。


「聞いているよ。そら豆を育てたらどうするかって話でしょう。僕としては、育てないことをおすすめしたいな」

「つまらない」

「僕にどうやって食べさせるか考えるの、楽しんでいるよね」

「やりがいがあるの」


 ついさっきの出来事が幻のように思えるような、ありきたりで平和な時間が流れていた。


「そら豆は粉末にして、薬みたいに飲むほうがましかも」

「百瀬」


 咎めるように呼びながら、朔夜は少しわざとらしくくすくす笑った。人を惑わすという、可憐な妖精のようだった。するりと抜けそうになった手をもう一度捕まえると、少し頬を染めながら指を絡めてくれる。

 頼りないほど華奢な手だ。


 その身が人か神かあやかしか定かではなかろうと、ひんやりとした肌の温度も柔らかさも、間違いなく今、百瀬の手のなかにある。


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