9. 狙い通りです
聖女候補として認められた日から二日。
私の元に、義両親からの手紙が届いた。
内容はこうだ。
『王家に無礼を働いたお前を家族にしておくことは出来ない。二度とザーベッシュを名乗るな』
たったの二文。私にはこれだけでも嬉しく思えてしまう。
ようやく悪魔のような義両親から解放されるのだから。
一方で、イアン殿下は手紙の内容に驚いている様子。
「ここまで簡単に縁を切れるとは思わなかった」
「あの人達は自分のことしか考えていませんから……」
いくら相手が王族とはいえ、普通は多少の無礼で家を潰されることは無いらしい。
義両親――いえ、元義両親がこのことを知っていたら、こんなに上手く勘当されることは出来なかったに違いない。
「そうだったね。しかし、どこまでも無知と考える訳にはいかない。
今、ザーベッシュ家に動かれると厄介だから、養子になるための挨拶に行こう」
「分かりました」
今の私は何の後ろ盾も無い平民だ。
聖女候補という肩書はそのままでも、不敬罪の疑いをかけられると不利になる。
だから、勘当されてすぐに正式に養子になることになっていて、これから私を迎え入れてくれるアースサンド公爵家に向かう準備を始めた。
アースサンド公爵家は私のお母様の実家で、お父様が亡くなってからは一切お話が出来ていなかった。
イアン殿下の計らいで、昨日ようやくお祖父様やお祖母様に会うことが出来たのよね……。
既にお祖父様は家督を伯父様に譲っているから、養子に迎え入れてくれるのは伯父様ということになる。
なんだか不思議な感じだけれど、私はアースサンド公爵家の血を引いているから、対外的にも何も問題ないらしい。
「――お待たせしました。こんな感じで大丈夫でしょうか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
色々と考え事をしていると、侍女が私の髪を整える手を止めた。
視線を鏡に向けると、どこかのお嬢様のような装いになった私と目が合う。
可愛らしすぎるけれど、伯父夫妻に気に入られるためだから気にしない。
不細工になるよりも可愛い方が絶対に良いのだから。
「イアン殿下、お待たせしました」
部屋を出ると、待っていたイアン殿下と目が合い、慌てて頭を下げる。
「もう終わったのか……早かったね。準備は大丈夫かな?」
「はい! いつでも大丈夫です」
私が殿下の問いかけに頷くと、彼は馬車寄せの方へと足を向けた。
そうして馬車に乗り、王宮を発つ私達。
けれども、その途中で会いたくない人の姿が目に入った。
「……ジュリアも来ているのですね」
「彼女も聖女候補だから、勉強のために来ることになっているんだ。ただ、王宮への立ち入りは許可していないから、中で会う心配は無いよ」
「それなら安心して過ごせます」
今日のジュリアはいつもよりもメイクが濃くて、最初は誰か分からなかったほどだ。
まるで何かを隠しているような感じがする。
私がお風呂の用意をしなくても侍女がお肌の手入れをしているはずだから、肌荒れは考えにくいけれど……。
もしかしたら、義両親の暴力の矛先がジュリアに変わったのかもしれない。
そう思うと可哀そうな気もするけれど、ジュリアも私に暴力を振るっていたのだから、自業自得だ。
「――そろそろ着くよ」
「もう、ですか?」
ジュリアの今の状況を想像していると、窓の外の景色はアースサンド邸の庭園に変わっていた。
アースサンド邸は王宮の隣だから、少し考え事をするだけで着いたらしい。
転ばないように馬車から降り、玄関の方に視線を向けると、アースサンド家の方々の姿が見える。
お祖父様とお祖母様の姿もあって、少しでも気を抜いたら涙が零れそうだ。
「養子に迎えてくださって、本当にありがとうございます」
「アイリスちゃん、いらっしゃい。今日からここが貴女の家になるから、気楽にして良いわ」
「今日から家族になるのだ。堅苦しくならなくて良い」
伯母様と伯父様がそんな言葉をかけてくれて、余計に目頭が熱くなった。
ここで涙を流したら心配されてしまうから、ぐっとこらえる。
「……立ち話も疲れるでしょう。殿下、応接室にご案内いたします」
そんな時、伯父様がそう口にし、応接室に移動することになった。
案内された部屋には養子になるための書類が用意されていて、最初に私がサインする。
続けて伯父様がサインをし、私は正式にアースサンド家の養子になった。




