8. 義両親と縁を切ります
あの後、私はイアン殿下に起こったことを全て報告した。
すると彼は頭を抱えてしまい、国王陛下に相談することになってしまった。
「――こんなに大事になるなんて、思いませんでした」
「それは僕のセリフだよ。傷跡が残らなかったことは喜ばしいが……」
「イアン、良かったな。婚約者が綺麗になって。こんなに可愛くて美人なら、目のやり場に困るだろう?」
「揶揄うな、まだ候補だ」
殿下は戸惑っているようだけど、すごく良い笑顔を浮かべている。
レオン様はイアン殿下を揶揄って、なんだか楽しそうだ。
私が治癒魔法を使えると決まったわけではないけれど、ボロボロの状態から一瞬にして傷一つない綺麗な状態にするのは、治癒魔法よりも凄いことらしい。
このままだと、聖女候補として王家の保護を受ける可能性が高いと言われた。
つまりジュリアと同じ扱いになるのだけど、彼女とは接触しないように配慮してくれるという。
だから心配する必要は無いのだけど、このまま聖女になったとして、私にその重役が務まるか不安だ。
心配事はもう一つある。
あの義両親のことだ。
「もう一つ、不安があるのです。お義母様達が私の水魔法のことを知ったら、利用しようと連れ戻しに来る気がして……」
「聖女として保護することになれば、間違いなく関わりに来るだろう。家族である以上、王家であっても面会を拒否することは難しい」
私の不安は否定されなかった。
でも、もう二度と義両親やジュリアとは関わりたくない。
「家族でなければ、拒否できるのですか?」
「もちろん」
「それなら、私はザーベッシュの名を捨てます。私から家名を捨てられないなら、義両親に手紙を書きます」
今の王国の法律では、子が家名を捨てることは不可能で、結婚するにも当主の許可が必要だ。
それなのに、当主が子を勘当することは簡単に出来てしまう。
だから、私は王家に不義理を働き、罪を問われているという内容の手紙を書こうと思う。
欲深い義両親のことだ。王家からの追求の手を逃れようと、私を勘当するに違いない。
「……どうするつもりだ?」
「私が殿下の怒りを買ったことにしたいのです。それでも大丈夫でしょうか?」
イアン殿下は関心したように頷いてくれた。
「良い考えだと思う。元々は交渉するつもりだったが、手間が省けそうだ」
「最初から離れることは決まっていたのですね」
「当然だ。養子に迎え入れてくれる家も複数候補があるよ」
イアン殿下はそう言ってくれているけれど、今の私は教養なんて持ち合わせていない。
お母様の実家が私を養子にしてくれなければ、望みは薄くなるはずだ。
「私も一緒にお願いしに行きます」
「既に手を上げている家は複数あるから、今はその中から選ぶだけで良い。
挨拶する時になったら一緒に行こう」
……最初から私が養子に行くことは決まっていたらしい。
よく考えたら、王族と婚約するには身分も必要になる。
義両親から私を引き離しつつ権力から守るためには、他家の養子になることが一番確実だ。
殿下はそこまで考えてくださっているらしい。
「分かりました。本当にありがとうございます」
そうしている間に玉座の間に入ったのだけど、陛下は席を外しているらしく、戻ってくるまでの間で手紙を書くように言われる。
今まで貴族の教育を受けられていなかったから、簡単な文字しか書けないものの、内容は伝わるはずだ。
「この文章で伝わるでしょうか……?」
「完璧だよ」
念のために、殿下やレオン様に確認をお願いする私。
幸いにも問題はないみたいだから、そのまま封をして侍女に渡す。
すると、タイミングよく陛下が姿を見せた。
「父上、相談したいことがあります」
「アイリス嬢のことか?」
「はい。彼女はまだ治癒魔法を使えませんが、水魔法で怪我を治すことが出来ます。ですので、聖女候補として王家で保護するべきかと」
早速イアン殿下が説明すると、陛下は私を見定めるような視線を送ってきた。
そして、少し間を置いてからこんなことを口にする。
「アイリス嬢は身体中に傷を負っていると聞いていたが、その水魔法を使って治したということか?」
「その通りです」
「イアンを疑うつもりはないが、信じがたい。私の前で見せることは出来るか?」
陛下はイアン殿下の言葉を信じられないらしい。
水魔法で傷を治すなんて、私でも信じられないことだから、見てもいない陛下が疑うのも無理はないと思う。
けれど、使うのは水魔法。
玉座の間を少しの間でも水浸しにするのは気が引ける。
一滴だけなら濡らさずに済むかもしれないけれど、治癒の効果が出なかった時のことを考えると恐ろしい。
「アイリス、出来そうかな?」
「はい、いつでも出来ます」
「分かった。昨晩、紙で切った傷があるから、この場で使って見せなさい」
その言葉と共に、陛下は立ち上がり右手を出した。
私は粗相をしないように気をつけながら陛下の前に歩み出て、陛下の手に視線を向ける。
そこには確かに切り傷があって、私は水魔法で一滴だけ作り出した。
「触れてもよろしいでしょうか?」
「いつでも良いぞ」
陛下は私が触れやすいように、少し屈んでくださった。
「では、失礼いたします」
作り出した魔法を小さな切り傷に触れさせると、あっという間に塞がる。
そして……
「本当に治るとは……自分の目が信じられなくなるな。貴女を聖女候補として認めよう」
……陛下から優しい声をかけられた。
私は無事に聖女候補になったらしい。




