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義妹の引き立て役はもう終わりにします  作者: 水空 葵


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46/49

46. 罠と同じ方法

「――殿下、お怪我はありませんか?」

「無傷だ。皆も怪我は無いか?」

「全員、かすり傷一つありません!」


 元お義父様が取り押さえられて少しすると、兵士達がイアン様の問いかけに余裕の表情で応える。

 元お義父様は拘束の手から逃れようと必死にもがいているけれど、六人の屈強な兵士に囲まれては成す術が無いようで、うめき声は聞こえてもピクリとも動かなかった。


 でも、まだ油断は出来ない。うつ伏せで何も見えない状況でも、周囲を巻き込む攻撃魔法なら使えるのだから。

 何かいい方法があればいいのに……。


 そう思った時、使っていた洗脳魔法が脳裏を過った。


「イアン様、洗脳魔法が書かれている本はありませんか?」

「ここにある」


 あることを思いついて問いかけると、イアン様は懐から小さな魔法書を取り出した。

 手のひらと同じくらいの大きさで、中の文字は普通の魔法書よりもずっと小さい。


 それでも洗脳魔法の記述を読み取ることは出来るから、さっそく詠唱を始める。


「味方に当てないように気を付けて」

「分かりました」


 ここからだと兵士に当ててしまいそうだから、私は兵士達のすぐ近くまで移動して、間に手を差し込む。

 そして洗脳魔法を放つと、うめき声が止まった。


 すると兵士の一人が縄を取り出し、あっという間に元お義父様を縛っていく。続けて元お義母様も縄で縛られて、路地の外へと運ばれていった。


「……アイリス、俺達も馬車に戻ろう。あの二人が首謀者とは限らないから、防御魔法はそのままで」

「はい、分かりました」


 元お義父様達には洗脳の魔法がかかっているから、取り調べに苦労はしないと思う。

 でも、まだ本人達の口からは何も語られていない。だから、今は最悪の事態を考えることにした。




   ◇




 あの後、私達はウェストフォールの町で一泊してから王都に戻った。

 これから元お義父様達の取り調べが行われることになっていて、洗脳魔法をかけた私は最初の一瞬だけ顔を合わせないといけない。


「えっと、命令すれば良いのですよね?」

「ああ。この文通りに言えば大丈夫だ」


 今はその時で、私の目の前には元お義父様の姿がある。

 正直、これ以上顔を合わせたくない。


 だから、渡された紙に書かれている文章を読み上げる。


「これは命令をする。これからは他人にも自分にも危害を加えないこと。質問を受けたら、誰が相手でも正直に答えること。私の命令を最優先にすること。この場に居る人の指示に従うこと。以上」


 自分の言葉ではないから違和感があるけれど、これが洗脳魔法の使い方だから仕方ない。

 幸いにも一回で成功したみたいで、元お義父様は一回だけ頷く。洗脳魔法にかかっている時特有の、視線が定まらない様子は変わらないけれど……イアン様が指示を出すと従っていたから、効果は出ているらしい。


「これで取り調べが出来ます。ご協力、感謝します!」

「ロイド、ついてこい!」


 兵士の命令にも従っているから、取り調べで私が手を出すことはこれ以上無いと思う。


 ちなみに、元お義母様はイアン様が跳ね返した洗脳魔法にかかっていて、命令は彼自身がしている。

 元お義父様と違って、元お義母様は厄介な魔法を使えるから、イアン様の命令だけを聞き入れるようにしたらしい。


「アイリス、嫌な役を任せて申し訳なかった」

「大丈夫です。これくらい気になりませんから」


 元お義父様が連れていかれ、静まり返った広間に私達の声だけが響く。

 焦りも危機感もない状況は久々だから、なんだか落ち着かない。


「……それに、恨んでいる人の惨めな姿を見られて気分が晴れたので、感謝しているくらいですわ」

「それなら良かった。取り調べの結果が出るまで、お茶でもどうだろうか?」

「ぜひ、ご一緒したいです」


 ようやく緊張が解けて、私は久々に笑顔になれる。

 イアン様に手を差し出すと、彼は迷いなく手を重ねて笑顔を返してくれる。


 そして、二人並んで庭園が見える部屋に足を向けた。

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