40. 魔物の原因
陛下の演説の後、私は同行者として紹介された。
聖女という肩書きだけで兵士達の心の支えになるのか、紹介された時は歓声が上がって恥ずかしい思いをしたけれど、心配していた演説をすることはなかった。
そうして王都を発った私達は、馬車に揺られてウェストフォールの町を目指している。
普段よりも揺れが激しいのは、私が馬にも支援魔法をかけたから。車輪の音も大きく、壊れないか心配になるけれど……魔法部隊の馬車はこういう使い方を前提に作られていて、今の倍以上の速さでも大丈夫らしい。
この馬車には私達と御者しか乗っていないから、戦い前の緊張はイアン様と手を重ねることで紛らわす。
ウェストフォールの町はまだ見えていないけれど、魔物の気配は少しずつ強くなっていて、楽しくお話する気分になれなかった。
そんな時。
私の緊張が伝わったのか、イアン様が口を開く。
「アイリス、魔力は大丈夫か?」
「大丈夫です! 殆ど魔力を使っていませんから」
「そうか。この後は魔物と戦うから、魔力が少しでも減ってきたら言って欲しい」
「分かりました」
少しずつ魔物との戦闘が増えてきているけれど、まだ行軍を止めて戦うほどの強さではないようで、全て魔法だけで対処出来ている。
けれども、小高い丘を登り切ったところで馬車の速度がゆっくりになった。
「何事だ?」
「報告いたします! 前方に魔物の大群が現れました!」
窓から外を見ると、城壁の前を埋め尽くす魔物が目に入る。
もうウェストフォールの町が見えていることにも驚きだけれど、この魔物の数は十万では済まないと思う。
「十万と聞いていたが……」
イアン様も同じことを思ったようで、隣から呟きが聞こえた。
今の魔物の数だけでも大変なのに、遠くの方を見ると次々と魔物が迫ってきている。
この数の魔物を相手にしたことは無いから、最悪の状況を考えると恐ろしい。
そんな時。イアン様が問いかけをしてきた。
「アイリス。軽く見積もっても百万は居るが、対処できるか?」
「私一人では難しいと思います。やってみないと分かりませんけれど……」
「分かった。アイリスは最後まで温存して、包囲されないように戦おう」
魔物の数が増えていることは予想していたから、作戦は用意されている。
その作戦は、私の支援魔法を維持しつつ遠くから魔法で魔物を減らしていくというものだ。
距離を保てるから、標的が私達に移っても対処はしやすい。
とはいえ、魔法部隊以外の戦力を活用できないから、町を救うのに時間がかかってしまう欠点もある。
でも……今は足踏みして良い状況ではないから、私は支援魔法の効果をより強くするために、少し改変した魔法を使った。
直後、馬車の外が一気に明るくなる。
「魔法ってこんなに明るいのですね……」
私の支援魔法の光もあるけれど、攻撃魔法の光もかなりのものだ。
普段から使われる攻撃魔法の光はこんなに強くないから、視線を離せなかった。
「威力が上がっている証拠だな。一発でかなりの魔物を倒せている」
「この感じなら、全部倒せるかもしれませんね」
「ああ。アイリスの支援魔法、本当にすごいな……」
イアン様が感心したように口にする。
けれど、攻撃魔法の向かう先が町の近くではなく、私達の近くにある森の方へと変わった。
馬車の中だから状況が分からなくて、イアン様が立ち上がり天井の窓から外を見る。
すると、彼は深刻そうな表情で口を開いた。
「……魔物に包囲された。俺達も動く」
「分かりました」
私も頷いて天井から顔を出そうとしたのだけど……背が足りなかった。
支援魔法のお陰で飛び跳ねたら一瞬だけ顔を出せるけれど、これでは魔法なんて使えない。
だから諦めて窓から顔を出そうとしたのだけど、イアン様に声をかけられた。
「アイリス、触れても良いか?」
「は、はい……大丈夫です」
頷くと、あっという間に抱きかかえられ、天井から周囲を見渡せるようになった。
くすぐったいけれど、外の惨状を見れば気にならなかった。
魔物が次々と押し寄せているせいで押されている状況。支援魔法の効果は出ているようだけど、魔物の方が強いみたいだ。
でも、魔物の上に水を降らせると、魔物が次々と倒れていく。
「アイリス、状況は?」
「私の魔法は効くみたいなので、危ないところから倒してます!」
「分かった! 魔力は大丈夫か?」
「今のままだと、夜には足りなくなると思います!」
夜に魔物と戦うのは危険だから、それまでには魔物の包囲を破らないといけない。
でも、次々と魔物が迫ってくるせいで、終わりなんて見えなかった。
それに、どういうわけか魔物から人の魔力の気配がする。
まるで、誰かが魔物を呼んでいるようだ。
「イアン様、この魔物……誰かが呼んでいる気がします!」
「どういうことだ?」
「魔物から人の魔力を感じるのです」
「……まさか、罠に嵌められたのか?」
私がそのことを伝えると、イアン様の表情が一気に険しくなる。
絶望は感じられないけれど、代わりに怒りが沸き上がっているように見えた。




