38. 町を救います
「イアン、アイリス嬢。二人にはウェスフォール救出作戦に参加してもらいたい。
我が国第二の町が壊滅しては、国が立ち行かなくなる。すぐに準備を」
玉座の間に入ってすぐ、陛下は重々しい口調でそう口にした。
けれど、イアン様でさえ状況を理解出来ていない様子。
「父上、一体何が起きているのですか……?」
「ウェスフォールが魔物に包囲された。もっても一週間が限界だ」
ウェストフォールというのは、アースサンド公爵領の中心の町で、ザーベッシュ領に向かう時は必ず通る場所だ。
今の私はアースサンド家の令嬢だから決して他人事ではないのだけど、何度も立ち寄った場所だから、最悪の事態は想像したくない。
「魔物の数は分かっていますか?」
「少なく見積もっても十万は下らない」
その言葉に、重かった空気がさらに重々しくなる。
王国内の町なら城壁や堀のような防壁を持っているけれど、魔物の数が十万となれば無意味だと思う。
突破されなくても、包囲されていると食料が尽きてしまう。
魔物が一万体くらいなら私一人でも倒し切れると思うけれど、あの町を包囲できるほどの数となると、どんなに頑張っても魔力が保たないと思うのよね……。
「かなり不味いですね……。
アイリスの力があっても、突破口を作るのが関の山かもしれません」
「王都の防衛戦力を残しても、一万の軍は動かせる。そこにアイリス嬢の支援魔法が加われば、百万の魔物が相手でも問題無いだろう」
「アイリスはこの案でも大丈夫かな?」
陛下の言葉に続けて、イアン様が問いかけてくる。
あっという間に話が進んだせいで私はあまり理解出来ていないけれど、断る気にはなれない。
軍を動かすということは、勝算があるということ。
支援魔法は複数人同時にかけることもできるから、不安はあまり感じなかった。
「私は大丈夫です。ですが、今回の報告も洗脳の影響を受けている可能性はありませんか?」
「無いとは言い切れない。だが、アイリス嬢が作った水を飲ませた後でも報告は変わっていないから、軍を動かす決断をした」
「そうだったのですね、失礼いたしました。私も作戦に同行します」
「ありがとう。感謝する」
こうして私達のウェストフォール行きが決まり、すぐに準備に取り掛かることになった。
ウェストフォールまでは馬車で一日かかる。のんびりなんてしていられないから、私も自分で出来る準備を進めていく。
「暗殺者が仕向けた可能性もあるから、アイリスもこれを着て欲しい」
「分かりました」
その途中、イアン様に王国軍の制服を渡された。
王国軍は魔法部隊や騎馬部隊などで編制されていて、それぞれ装備が違う。私が着るのは魔法部隊のもので、どういうわけかサイズはぴったりだ。
「着替え終わりました!」
「よし、集合場所に行こう」
イアン様も同じデザインの服を身に纏っている。
軍のことはパレードで見たことがあったけれど、こうして近くから見ると女性の姿も目立つ。
腕力だと男性の方が優れていることが多くても、魔法になると女性の方が優れていることが多いという噂は事実なのかもしれない。
「アイリス、こっちだ」
「あの演台ですか!?」
「ああ。聖女様が同行していると分かった方が、士気が上がるからね」
……なんて軍の様子を観察していたら、私はあっという間に一番目立つ場所に来てしまった。
演台の後ろには王族や大臣の方々が控えていて、全員が軍服を纏っている。
この中で私も待つように言われたのだけど……演台で何を言えばいいのか分からない。
「イアン様……逃げても良いですか?」
「逃げないで。俺も逃げたくなる」
冗談を言い合っていると、陛下が演台の前に歩み出る。
そして、拡声魔法を通した声が響いた。




