37. 人気の理由
「……デートということにしておこう」
イアン様も恥ずかしいのか、普段よりも威勢がない気がする。
でも、笑顔が覗いているから、嫌ではないみたい。
「ご注文はいかがなさいますか?」
「すぐには決められないから、後で呼ぶ」
慌ててメニューに視線を落とすと、イアン様がそう口にする。
でも、ここのメニューは名前に加えて綺麗な絵も描かれているから、迷うことはなかった。
「私はこのパフェにします!」
「俺はこれにしよう」
私がメニューの絵を指差すと、イアン様は隣の絵を選ぶ。
どちらもパフェだけれど、中身は色々と違っている。どちらも美味しそうだ。
ウェイトレスさんは何かにメモすると、一礼して部屋を後にする。
それからしばらくすると、立派なパフェが運ばれてきた。
「……すごい」
こんなに立派なパフェを見るのは初めてで、呟きが漏れてしまう。
ザーベッシュ家にいた頃もパフェを見る機会はあったけれど、大きさも豪華さも目の前のものと比べると大したこと無いと思えてしまうほどだ。
「これ、本当に私が食べて良いのですか!? 後でお金を請求されたり……」
「全部俺が払うから、気にせず楽しんでほしい。それとも、こっちの味が気になっているのか?」
その言葉とともにイアン様のパフェが差し出された。
絵で見ていた時は気付かなかったけれど、クリームの味も違うみたいで、すごく気になってしまう。
「気になりますけれど、我慢しますわ」
「はい、どうぞ」
私は我慢するつもりだったのに、イアン様は気を利かせてくれて、私の目の前にひと口分のパフェを差し出してくれた。
本当は良くないのかもしれないけれど、口元に来ているものだから、そのまま口に含む。
すると程よい甘みと不思議な香りが広がって、頬が落ちてしまいそうになる。
私もお礼にとイアン様にひと口分を差し出して、彼も私がしたように口に含んでくれた。
……何も気にせずに分け合っているけれど、これって何かの物語で見た動きにそっくりだ。
確か、恋人同士でしか出来ないという……。
これ以上は羞恥心でどうにかなってしまいそうだから、考えるのをやめた。
「アイリスが選んだ方も美味しいな」
「イアン様も初めて食べるのですか?」
「ああ。こういう場所は男一人だと入りにくいからね。
甘いものも好きだから、アイリスが来てくれて嬉しいよ」
「私も甘いもの大好きなので、また来たいです!」
「分かった。次も一緒に来よう」
そんな言葉を交わしながら、ゆっくり食べ進めていく。
すごく美味しいから普段よりも食べ進められるけれど、味を楽しまないのは勿体ないと思う。
ジュリアや元お義母様はあっという間に平らげて、何個も注文していたけれど、あれでは楽しんでいたのか疑問だ。
「ぜひ、ご一緒したいです!」
ゆっくり口にしていても、いずれは無くなってしまうもの。
この後はイアン様と色々なことをお話していたのだけど、ついに空になってしまった。
「――ごちそうさまでした」
「ごちそうさま。次のお客さんも居ると思うから、そろそろ出よう」
もう少しのんびり過ごしたいけれど、あの行列のことを思い出して立ち上がる。
ここは王妃様が経営しているということで、支払いは王宮でするらしく、私達はそのままお店を後にした。
「さっきよりも列が長くなっていますね……」
「かなり人気だからね。さっきのパフェでも銀貨一枚で食べられるから、平民も来ているんだ」
「そんなに安いのですか!?」
パフェを食べるのは今回が初めてだから何とも言えないけれど、王宮で出されるケーキと同じくらい美味しかったから、もっと高いものとばかり思っていた。
一体どんな手を使って安く作っているのか気になってしまう。
「俺も詳しいことは知らないが、工夫して作っているはずだ」
「そうなのですね。今度、王妃様に訊いてみます」
言葉を交わしながら、私達は馬車に乗る。
それから少しして、無事に王宮に戻ることが出来た。
けれども、出発した時と雰囲気が違うことに気付く。
王都は無事だから、思い当たることは無いのだけど……。
「殿下、アイリス様! 陛下がお呼びですので、すぐに玉座の間に来て下さい!」
衛兵が敬礼を省いて口にする様子に、すごく嫌な予感がした。




