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義妹の引き立て役はもう終わりにします  作者: 水空 葵


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36/49

36. 安心できるので

「あのチームだな」

「逃げてきてますね……」

 

 私達に矢で知らせてきたのは五人組のようで、彼らの後ろからは大きな岩のようなものが迫ってきている。

 あの魔物はゴーレムと言われていて、巨体を持ちながら素早い動きをする厄介な相手だ。


 剣や矢は殆ど効かず、倒すためには鉱石を採掘するためのピッケルや魔法が有効だと言われている。

 私が過去に遭遇した時は、水を鋭い形にして心臓を貫くことで倒してきた。


「ここから倒せないか試してみますね」

「あれは落とし穴に嵌めて倒した方が楽だ。このまま堀まで引き付ける」

「でも、橋を渡られたら……」

「ゴーレムが乗ったら崩れるから大丈夫だ」


 イアン様はそう口にしているけれど、この橋が崩れたら王都への入口が一つ減ってしまう。

 かけたばかりの橋を失うのは勿体ないと思ってしまった。


「私が堀の上で囮になるというのはどうでしょうか……? もし距離を詰められても、ゴーレムならすぐに倒せます」

「堀の上というのはどういうことだ?」

「こういうことです」


 私はそう口にしながら、水の上に足を踏み出す。

 自分で作り出した水魔法はもちろん、元からあるお水でも思いのままに操れるから、足で踏む場所だけを硬くすることも出来るのだ。


 お義母様に追いかけられた時、こんな風に池の上に逃げたこともあった。

 その時は攻撃魔法で吹き飛ばされてしまったけれど、魔法を使ってこない魔物が相手なら丁度いいと思う。


「……俺は夢でも見ているのか?」

「現実ですわ」

「橋を失わずに済む方が良いのは確かだ。危なくなったら風魔法で助けに行こう」


 イアン様は私が囮になることを認めてくれたようで、そう口にする。

 だから橋から離れて、ゴーレムにあまり効かない火魔法を放つ。


 すると、ゴーレムは五人組を追いかけるのを止めて、私の方に向かってきた。

 囮になる作戦は上手くいったらしい。


「アイリス、石が飛んでくるかもしれない! 気を付けて!」

「分かりました!」


 イアン様と言葉を交わしている間に、ゴーレムは堀のすぐ前まで迫る。

 そして、私めがけて何かを投げる動きをした。


「避けて!」

「大丈夫です!」


 私の頭ほどの大きさがある石が飛んできて、危なげなく躱す。

 一方のゴーレムは、さらに私と距離を詰めようとしたのか、堀の中に入ってくる。


 直後、ゴーレムは動きを止め、崩れ落ちるようにして堀の中に倒れた。

 二階建ての屋根ほどの高さがある巨体だから、押しのけられた水が私に襲い掛かってくる。


 でも、全て私が作り出したものだから、操って元の静かな水面に戻した。


「本当に倒せました!」

「すごいな……。飛んでくる魔物が居なければ、王都は安泰だよ」


 私が何もしなくても、堀に引き付けるだけで魔物を倒せた。

 そのことが嬉しくてイアン様に駆け寄ると、彼も眩しい笑顔を浮かべてくれた。


 残る課題は空を飛ぶ魔物の対策なのだけど、数が少ないから王都の総力を挙げて戦う予定らしい。


「これで安心して過ごせますね!」

「ああ。成功祝いに、美味しいケーキでも食べに行こう」

「スイーツ、本当に良いのですか?」


 王宮で暮らしていた時はデザートにフルーツが出ていたけれど、ケーキは十年以上も口にできていないから、すごく楽しみだ。

 イアン様が美味しいと断言するくらいだから、頬が取れてしまいそう……。


「もちろん。好きなだけ食べて良い」

「ありがとうございます!」


 ゴーレムから逃げていた五人組に怪我が無い事を確認して、私達は馬車に戻る。

 いきなり王族がお店に行っても大丈夫なのか心配だけれど、これから向かうのは王妃様が趣味で経営しているカフェだから、何も問題ないらしい。


「――あの看板ですか?」


 しばらく馬車に揺られていると、御者台越しに行列が見えてくる。

 ここは王都の中心から少し外れているのに……。


「よく分かったね」

「あのお店だけ行列が出来ているので、すぐに分かりました」


 馬車はお店のすぐ前に止まり、私達は行列に並ぶことなく中へと案内される。

 ここは王家の方々が利用する時のために、個室が常に空けられているらしい。


 ご婦人ご令嬢を中心に、貴族も大勢が利用しているそうで、店員さんの作法はアースサンド邸に仕える使用人と比べても遜色ないほど洗練されている。

 こんな場所に私が入って良いのか一瞬だけ不安になったけれど、今の私は公爵令嬢だということを思い出して、堂々とすることに決めた。


「失礼を承知でお尋ねします。殿下、そちらのお方はどなたでしょうか……?」

「婚約者のアイリスだ」

「まぁ! では、本日はデートということでございますね!」


 デートという単語に、一気に顔に血が上っている気がする。

 でも、堂々とすると決めたから、視線は背けずに笑顔を浮かべた。

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