33. Side 続く失敗
アイリスが王宮の使用人達にお茶を配っている頃。
ザーベッシュ邸の一室では争う声が響いていた。
「また失敗したのか! 失敗しただけならまだしも、今までにかけた洗脳を解かれただと!?」
「仕方ないじゃない! あなたが対策しないからこうなったのよ!?」
「お前が完璧だと断言したから信じていたんだぞ! 発言の責任を持て!」
「それは……あなたが絶対にバレないって言ったからよ! あなたこそ自分の発言に責任を持って欲しいわ! 大体、いつも私を頼ってばかりで自分ではなにもしないじゃない!」
問い詰めようとするロイドに、イリヤは責任を押し付け返す。
この様子を見ている使用人達は揃って口を噤んでいて、言い争いが収まる気配はない。
しかし、ロイドは言い返す言葉を失ったのか、途端に黙り込む。
そして間を置いてから、再び口を開いた。
「……そもそも、アイリスを利用しようとするのが間違いだったんだ! あの娘を消せば、ジュリアが聖女になる。それを利用しよう!」
「えっ、本当に良いの!?」
「それしか手が無いから仕方無いだろう……待て、喜ぶところか?」
あれだけの仕打ちをアイリスにしていても、ロイドは人を殺めることに抵抗がある。
一方のイリヤは、憎い女の娘をこの世からようやく消せると聞いて、表情を輝かせていた。
「喜んで当然だわ。あなたが反対するから生かしていたけれど、すぐにでも消したかったのよ」
「……そうか」
「どんな風にあの世に送るのが良いかしら? やっぱり、今までの恨みを晴らしてからの方が良いわよね?」
「勝手にしてくれ」
楽しそうに殺害計画を考え始めたイリヤを前に、ロイドは一歩後ずさる。
もし自分がイリヤに恨まれたら……想像するだけでも恐ろしい。
もっとも、喧嘩することはあっても、すぐに仲直りを出来る夫婦仲だ。
自分が殺されるとは微塵も思っていない。
「そう。でも、迷惑はかけたくないから、気付かれないように気を付けるわね」
「それは助かる。だが、消すのにも失敗したら、その時はアイリスに頭を下げてでもこの家に戻ってきてもらうつもりだ。そうしないと、この家は立ち行かなくなる」
「またあの娘と暮らすなんて、死んでも御免よ」
「前のように物置小屋に入れておけばいい。それなら大丈夫だろう?」
「それなら耐えられるわ。でも、嫌だから絶対にあの世送りにするつもりよ」
自信に満ちた様子で胸を張るイリヤは、さっそく計画を紙に書いていく。
一方のロイドは見守るだけで計画には関わろうとしない。
しかし、間もなく計画が立てられると、使用人達には口外しないようにと命令を下すのだった。
かくしてアイリス殺害計画は動き出す。
この計画が成功すると信じている者は、イリヤのたった一人だけだった。




