32. 王都を守る方法
あの後、話題は魔物対策に戻された。
けれども中々良い案は出てこなくて、気が付けば私が淹れたお茶を楽しむ時間になっていた。
「――このお茶、いくら飲んでも飽きそうにありませんね。
茶葉を変えたのですか?」
「いえ、今までと同じ茶葉です」
どういうわけか、私が淹れたお茶は今まで王宮で出されてきたものよりも美味しいらしく、次々とお代わりを求められている。
茶葉は普段から出されているものと変わらないはずだから、水魔法の効果なのかもしれない。
「同じ茶葉でここまで味が変わるとは……」
水魔法のことを知らない高位貴族の方々は本当に驚いているようで、言葉を失っていた。
「味だけではないようですよ。全く信じられませんが、歯の痛みが消えました」
「虫歯は治癒魔法でも治らないはずでは?」
「ですから、信じられないと申し上げたのです」
治癒の効果にも気付かれてしまったけれど、洗脳が解けた今なら隠す理由は無い。
だから、お代わりを求められても同じ水魔法を使い続けた。
「――ゴホン、話を戻しましょう。今は茶のことより、魔物対策を考える時間です」
ふと、そんな言葉が放たれ、私に視線が集まる。
一体何を求められているのか分からないけれど、聖女として期待されていることは察せる。
「一つ質問しても?」
「申してみよ」
「アイリス嬢の水魔法はかつての大聖女様が作り出していた聖水に似ていると思われます。もし本当に聖水なら魔物を倒す効果もあると思いますが、実験をするのは如何でしょうか?」
その問いかけに、イアン様が立ち上がり口を開く。
私の水魔法で魔物を倒せることは実験済みだけれど、どんな力の使い方を考えられているのか分からないから、少しだけ緊張する。
「魔物を倒せることは確認してあります。しかし、今回の瘴気に対応出来るだけの魔法を使うとなると、アイリスは魔力欠乏に陥るでしょう」
「そこまで考えが及びませんでした。アイリス嬢に倒れられては本末転倒ですね。
……王都の周囲に堀を作り、聖水で満たすということを思いついたのですが」
「案としては悪くありませんが、生憎アイリスの水魔法は時間を置くと効果が弱まることが分かっています」
まだ数日しか試せていないものの、作りたての水魔法に比べて、数日置いた水魔法では傷を治す効果が弱まっているのだ。
だから、王宮を支えている水瓶を水魔法で満たすことはやめて、あえて一人一人にお茶を淹れている。
「殿下。保存魔法はご存じですか?」
「存在自体は知っている」
「アイリス嬢の水魔法で試されましたか?」
「まだ試していないが……」
「今すぐ試しましょう。これが成功すれば、王都を守り切れる可能性が上がります。
一度に作れる水魔法に限りがあっても、少しずつ増やせば魔力の問題も解決します」
保存魔法という言葉自体、私は初めて聞いたのだけど……意見を口にした方は手早く魔法式を書いていく。
元は光魔法のようだけど、治癒魔法や支援魔法よりもずっと簡単で、まるで生活魔法のようだ。
「――こちらが保存魔法になります。保存と言っても完全なものではなく、劣化を抑える程度の効果ですが……無いよりは良いでしょう」
「意見、感謝します。今から実験するので、少し席を外します」
イアン様は保存魔法が書かれた紙を受け取ると、私に手を差し出してきた。
そこに自分の手を重ね、彼と共に部屋を出る。
「アイリス、負担をかけることになって申し訳ない」
「国を守るためなら気にしませんわ。王都を水で包めと命令されても従います」
「そんなこと出来るのか?」
「干上がった湖を水で満たしたことはあるので、多分大丈夫です」
私が作り出した水魔法と保存魔法を組み合わせるのは、私の身に何かあった時に備える意味もあると思うけれど、王都を水で囲うくらいなら一分もかからないはずだ。
だから魔物対策自体はすぐに出来るのだけど、私の身に何かあれば破綻するから、今すぐ保存魔法を試したかった。
「これで試そう」
イアン様が迷わずに足を踏み入れた場所は侍従がお茶の用意をするための場所で、彼はティーカップを三つ取り出した。
私は最初の一つに水魔法を入れ、イアン様の保存魔法を待つ。
「保存魔法、お願いします」
「分かった。残りの二つはアイリスに保存魔法をかけてもらいたい」
そう言われ、私は水魔法を保存魔法を組み合わせる改変をしたものと、水魔法に保存魔法をかけたものを作り出す。
保存魔法の効果が分かるまで時間がかかるから、成功するようにとお祈りをした。




