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義妹の引き立て役はもう終わりにします  作者: 水空 葵


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30. 洗脳を解きます

 あの後、私は給仕係に必要な知識を学ぶことになった。

 王宮には貴族令嬢が何人も仕えていて、私が受けたのは彼女達と同じ内容らしい。


 でも、ザーベッシュ邸に居た頃に使用人として働いていたお陰か、どの作法も学ぶ必要なんて無かった。

 だから少し早めに給仕の制服に着替え、お昼休憩の時間が来るのを待つ。


 ちなみに、イアン様も使用人と同じ装いをしていて、髪型を変えた上に眼鏡までかけている。

 ここは使用人用の食堂だから、怪しまれないように変装したらしい。


「そろそろ時間だから、俺は離れたところで見ているよ。頑張って」

「分かりました。頑張りますね!」


 まだ誰も来ていないから、そんな言葉を交わす。

 するとイアン様は物置の中に身を隠し、網になっている部分から私に視線を送ってきた。


 よく見ないと中に人が居るとは分からないから、彼が隠れていることが気付かれることは無いと思う。

 私が切っ掛けで気付かれるわけにはいかないから、イアン様からは視線を外し、ちょうど休憩に来た使用人達に笑顔を向けた。


「お疲れ様です! お茶をどうぞ!」

「ありがとうございます」

「私にもお願いします」

「少しお待ちください。……お待たせしました!」


 次々とやってくる使用人達に順番にお茶を淹れていく私。

 使用人向けのお茶は、事前にコップにお茶の粉を入れておいて、後からお湯をかけるというもの。


 本来なら何度もお湯を沸かし直さないといけないのだけど、私はティーポットの中に熱湯を作り出して、お水を汲む手間と沸かす手間を省いている。

 うっかり手に熱湯をかけても、自分の魔法なら火傷なんてしないから、このやり方が一番楽で安全なのよね。


「あなた、新人かしら?」

「はい! 今日からここで働かせていただくことになりました!」

「手際が良いから、新人には見えなかったわ。期待しているわ」

「ありがとうございます!」


 笑顔は絶やさず、お茶を零すこともなく。私は無事に計画を終えることが出来た。

 するとタイミングよくレオン様が姿を見せ、声をかけられた。


「初仕事お疲れ様。王妃様が君に話したいことがあるそうだ。ついてきて欲しい」

「かしこまりました」


 彼の言葉に頷き、後を追う。

 これも計画通りで、私は他の使用人達に一切興味を示されずに食堂を後にすることが出来た。


 王妃様が呼んでいるというのは嘘だと知っているから、そのまま着替えるための部屋に向かう。

 目的の部屋には誰も居なくて、私は一人で中に入る。


 使用人を欺くための計画で手を借りるわけにはいかず、変装を解いて外出用のドレスに着替えるまで全て一人でしないといけない。

 ザーベッシュ邸に居た頃は毎日のようにジュリアの着替えをしていたから、ドレスくらい一人で着れるはず。


 ……そう思っていたけれど、いざ着替え始めてみると想像していたよりも難しかった。


「――アイリス、入っても良いかな?」

「まだ駄目です!」


 ドレスは着られたけれど、髪やメイクを元に戻すのは難しくて、まだ終わりそうにない。

 イアン様が扉越しに声をかけてきたということは、休憩時間は終わっている時間で、申し訳ない気持ちになってしまう。


「侍女を呼んだ方が良いか?」

「もうすぐ終わるので、大丈夫です!」


 最初に想定していたよりも時間はかかってしまったものの、ようやく着替えを終えることが出来た。

 完璧ではないけれど、姿を見せても大丈夫だと思う。


「――お待たせしました。遅くなってしまい申し訳ありません」

「気にしなくて良い。アイリスでも、一人で着替えるのは大変なのだな」

「今まで髪を自分で結うことがなかったので、慣れなくて……」


 ザーベッシュ邸に居た頃は髪留めなんて与えられなかったから、いつも手櫛でとくだけだった。

 そのことに気付いたのは今になってからなのだけど、自分で髪型を作るのは大変でも楽しくて、家に戻ったら練習したい。


「そうだったのか。だが、綺麗に出来ていると思う。

 男の言葉は信じられないかもしれないが、いつも通り可愛いよ」


 不意に甘い言葉をかけられて、気恥ずかしくなってしまう。

 洗脳を解くという役目はまだ終わっていないのに、恥ずかしさから逃げるために帰りたくなってしまった。


「ありがとうございます……」

「一応、母上に確認してもらってからパーティーに出よう」

「分かりました」


 次の計画は、王宮に勤める貴族達にお茶を出すというもの。

 聖女がお茶を出すなんてとんでもないと思われそうだけれど、かつての大聖女様がねぎらいのためにお茶とお菓子を用意していたことが分かっているから、批判は躱せるという算段だ。


 不味いものは絶対に出せないから緊張するけれど、今まで毎日のようにしていたことだから失敗はしないと思う。

 そのお陰か、パーティーに参加した時より身体が軽く感じられた。

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