27. 隠し扉と隠し通路
「成功したようだね。次は隠し通路を教えよう」
青色に変わっていた魔法陣は数秒で元の色に戻り、私はこの部屋を出て隠し通路を教わることになった。
最初に向かったのは私の部屋。全く気付かなかったけれど、この部屋には二つも隠し通路があるらしい。
「どこにあるのか見当もつきません……」
「まずはベッドから一番近いここだ。外から絶対に見えないようになっている」
伯父様はそう口にすると、ベッドの枕元にある壁の二点を押し込む。
すると壁の模様だと思っていた部分が開き、隠し通路が現れた。
この天蓋付きベッドは部屋の中央ではなく壁際にあるから、何かあれば枕を踏み台にして逃げることが出来そうだ。
隠し扉の先には柔らかいクッションが敷き詰められていて、転んでも怪我はせずに済むと思う。
「こんなところにあったのですね……」
「ああ。ちなみに、この扉は隠し通路側から鍵をかけられるようになっているから、使った後は必ず閉めるように」
「分かりました」
部屋から開けられないのなら、隠し通路にさえ逃げ込めば落ち着いて逃げられると思う。
クッションの先には絨毯が敷き詰められていて、足音で気付かれることも無さそうだ。
「もう一つの隠し通路は衣装部屋にある」
「窓が無いから衣装部屋なのですね!」
「ああ。それと、衣装部屋そのものに鍵をかけられることも理由だよ」
いかに襲撃者に気付かれずに逃げるか、そして足止めを出来るかが大事らしい。
衣裳部屋の隠し通路は少し入りにくいようで、ドレスをかき分けた先にあった。
「少し使いにくいが、部屋の扉は頑丈だから入る余裕はあるだろう。
ここにはダミーの隠し扉もあるから、隠れてやり過ごすことも出来ると思う」
「そこまで徹底されているのですね。全部覚えきれるか不安です……」
隠し扉は屈まないと通れないくらい低く作られているけれど、伯父様でも難なく通れるから、万が一の時に使えないということは無いだろう。
ちなみに、各私室も同じような場所に隠し扉があるから、何かあった時は隠し通路を進んだ先にある隠し部屋で敵をやり過ごすことも出来るようになっているらしい。
出口も王都のとある場所に繋がっていて、包囲されていても逃げられるから、ここでの暮らしは安全だと思えた。
「アイリスなら絶対に覚えられる。
ここは使用人に教えられないから、試す時は人払いをするように」
「分かりました!」
「今日はもう遅いから、他の隠し扉は明日教えよう。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
説明はあっという間に終わり、伯父様と伯母様が部屋を後にする。
すると、侍女が入れ替わりで入ってきて、就寝の準備を手伝ってくれた。
◇
翌日。
私は普段と変わらない時間に目を覚ました。
今日も王宮で魔法の勉強をすることになっているから、朝食を済ませてから外出の準備をする。
「今日は動きやすい方が宜しいかと思いますので、こちらに致しましょう」
「ここまでシンプルだと印象が悪くなると思うのだけど……」
「イアン殿下が事情を察せないとは考えにくいので、問題ありません」
ドレスは生地にこそ模様はあるものの、フリルや宝石のような装飾は殆どない。
アースサンド家の養女になってから、外出用でここまでシンプルなドレスを着たことは無いから、侍女の言葉があっても不安になってしまう。
「髪飾りも少ないけれど、本当に大丈夫かしら?」
「万が一の時に動ける方が大切でございますので、こちらも問題ありません。もし不安でしたら、イアン殿下に直接事情をお話されると良いでしょう」
「そうするわ」
今日はドレスという錘が無いお陰で、肩が軽い。
命を狙われていることは心配だけれど、支援魔法は眠っている間も切らさずに使えたから、襲われても無事で済むはずだ。
捕まったら逃げられないから、身軽な方が良いのは確かだけれど、まるで部屋着のままイアン様に会いに行くような感覚だから落ち着かない。
「……いつものドレスは重いと思っていたのに、軽くなると不安になるのね」
「普段の感覚とは違うのですから、仕方ありません」
そんな言葉を交わしながら玄関に降り、護衛が来るのを待ってから馬車に向かう。
一応護衛達にも支援魔法をかけているから、何かあっても全員が無事で済むはずだ。
「それでは出発いたします」
そうして馬車が動き出し、しばらくすると王宮の馬車寄せに辿り着く。
イアン様は玄関の中で待っていて、目が合うと眩しいほどの笑顔を向けられた。
侍女の言っていた通り、彼は私が簡素な装いをしている理由を察しているらしい。
嫌われないか不安だったけれど、イアン様の笑顔を見たら不安は消えていった。




