20. 勘違いされています
翌朝。
私はいつもよりも重たい瞼を持ち上げ、ベッドから身体を起こした。
足の痛みは引いているから、普段通りに身支度を始める。
着替えは侍女が手伝ってくれるけれど、顔を洗うのは自分でした方が良いのよね。
侍女のことは信頼していても、水を顔にかけられるのは少し怖い。
だから侍女が来る前に水魔法で顔を洗った。
「おはようございます、アイリスお嬢様。痛みは良くなりましたか?」
顔を洗い終えると侍女がタオルを手に部屋に入ってくる。
寝不足を心配されているのか、まじまじと顔を見られてしまった。
メイクを任せているというのに、こうして見られるとなんだか恥ずかしい。
「ええ。今は全く痛くないわ」
「それは幸いでございます。本日は朝食後から王宮で魔法の練習をされることになっておりますので、外出の準備をいたしますね」
「お願いするわ」
顔を拭ってから、私はドレッサーの前に腰を下ろす。
すると侍女二人がかりで身支度をされていく。メイクをされるのはあっという間で、髪も瞬く間に結われていく。
今日はハーフアップに三つ編みをあしらった髪型だ。
髪飾りは普段より控え目だけれど、三つ編みのお陰で寂しくない。
昨日は貴族令嬢らしく美人に見える感じだったけれど、今日はイアン殿下としか会わない予定だからか、少し可愛い感じになっている気がする。美人とは間違っても言われないと思う。
イアン殿下の好みはまだ分からないけれど、昨日の反応は普段と同じだったから、今日はどうなるか楽しみだ。
「今日はこんな感じでよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう
髪型だけでもこんなに変わるのね……」
「分かりにくいかもしれませんが、メイクも変えております」
今日のメイクも控えめだから分かりにくいが、よく見ると目元の雰囲気も変わっていた。
でも、私が気付けるのはこれだけだ。
「目元しか分からなかったわ……」
「変えたのは目元だけでございますので、問題ありません」
侍女と言葉を交わしていると、朝食の時間が迫っていることに気付いた。
まだ余裕はあるけれど、遅れて迷惑はかけたくないから、私はダイニングへと向かった。
それから談笑しながらの朝食を楽しんで、少ししてから玄関に近い部屋でイアン様の迎えを待つ。
すると遠くの方から馬車の車輪の音が聞こえてきて、私は玄関の外に出た。
「――アイリス、お待たせ」
「今日も迎えに来て下さって、ありがとうございます」
笑顔で言葉を返すと、イアン様も笑顔を返してくれる。
反応は昨日と同じ。可愛い雰囲気になっても、彼の目は騙せないらしい。
最初はそう思ったのだけど、馬車に乗ると彼にこんな言葉をかけられた。
「今日のアイリスはいつにも増して可愛い気がする。これが恋なのだな……」
「ふぇ……?」
「すまない。心の声が漏れていた」
想像もしてなかった言葉に、間抜けな声を漏らしてしまう。
イアン様は冗談だったかのように笑っているけれど、全く冗談には聞こえない。
彼が私を好いてくれている。
すごく嬉しいけれど、まだ私は自分の気持ちが分からないのよね……。
でも、これだけは言える。
「私もイアン様のこと、好きです……」
「そうか……」
恋とは違うかもしれないけれど、イアン様のことは人として好きだ。
だから気持ちは伝えてみたのだけど、彼は顔を真っ赤にして固まってしまった。
悪いことは何もないのに、気まずい空気が流れる。
すると御者台から到着を告げる声が聞こえてきて、私達は少し距離を置いたまま降りる準備を始めた。
そうして王宮に着くと、出迎えに来ていたレオン様と目が合う。
続けて視線はイアン様にも向けられ、今度はレオン様が一瞬だけ固まった。
「――イアン、アイリス嬢と何があった?」
「何も問題は無い。だから気にするな」
王宮に入ると、レオン様が心配そうにイアン様に声をかける。
今日は手も繋いでいないから、勘違いされたのだと思う。
不仲になったわけではないけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
手を繋ぎにいけば疑いは晴れるに違いないが、そうすると今度は私が茹だってしまう。
だからどうすることも出来ない。
そんな時だった。
「殿下、陛下がお呼びです。アイリス様と玉座の間までお願いします」
少し焦った様子の騎士の言葉に、イアン様の顔つきが一瞬にして変わった。
どうやら何かあったらしい。
イアン様はいつものように手を差し出してくれて、私は手を重ねた。




