19. 無事に成功したので
ジュリアが離れてから少しすると、私達は大勢の貴族から挨拶をされることになった。
イアン様は将来国王になることが約束されているから、関係を深めようとする人が多いのだろう。
私にも丁寧に挨拶をしてくれて、どの方も印象は悪くない。
初社交界で嫌われたらどうしようかと思っていたけれど、この感じだと大丈夫そうだ。
そして今、最後の方々が離れると、パーティーの終わりが近付いていることを告げる音楽が流れ出した。
私達は再び会場の中央に出て、参加者の方々に今日のお礼をする。
すると盛大な拍手を送られた。
ジュリア達は相変わらず不満そうにしているけれど、他の方々は笑顔だから、今日のパーティーは成功に違いない。
「あと少し、頑張ろう」
「はいっ!」
挨拶は済んだから、あとは参加者のお見送りをするだけ。
私は笑顔を浮かべたまま出口に立ち、イアン様と一緒に何度もお礼を口にした。
「――お疲れ様。喉、大丈夫?」
「お水を飲めば大丈夫です」
こんなに喋ったのは初めてだから、喉が痛む。
でも、いつもの水魔法で口の中を潤すと、違和感も痛みも綺麗に消えた。
「口の中に水を作ったのか……器用だな」
「イアン様もいりますか?」
「いや、遠慮しておくよ」
そんな言葉を交わしながら、私達も会場を後にする。
玄関前には馬車に乗るのを待つための列が出来ていて、ジュリア達の姿もあった。
「これを待つと疲れるだろうから、一旦上で休もう」
「分かりました」
イアン様もそのことに気付いたみたいで、私達は廊下を進み玄関から離れた場所にある階段を上る。
今も手を繋いだままで、緊張が解けたからか伝わってくる熱が気になってしまう。
庭園に面した部屋に入ってからも手は解かれず、ソファーに腰を下ろす時になって手が離れる。
なんだか寂しいけれど、私の身体がいつもより熱くなっていることに気付かれないと思うと、少しだけ安心した。
「パーティーお疲れ様。無事に終えられて良かった」
「ありがとうございます。イアン様が手助けしてくださったお陰ですわ」
パーティー中はほとんど社交のために表情を取り繕っていたけれど、ここでは必要のないこと。
だから、素の笑顔を浮かべながら答える。
「アイリスが努力した結果だ。無理はしないで欲しいが、これからも期待している」
「まだまだ大丈夫なので、頑張りますね!」
勉強は大変だけれど、成長していることを実感できるから、これからも手は抜きたくない。
ジュリアはサボることばかり考えていたけれど、あれは良くない見本だ。あんな風にはなりたくなかった。
「期待しているよ。そろそろ馬車寄せが空きそうだから、アースサンド邸まで送るよ」
「分かりました。ありがとうございます」
立ち上がると、イアン様に手を差し出される。
私はそこに手を重ね、彼に並ぶようにして廊下を進んだ。
馬車寄せに着くと、他の貴族たちの姿はなく、王家の立派な馬車が待機していた。
ここに来る時に乗っていたのと同じ馬車で、私はイアン様の手を借りて乗り込む。
彼も私に続き、扉が閉められると馬のいななきに続けて馬車が動きだす。
アースサンド邸までは五分とかからないから、会話が盛り上がってきたところで御者台から到着を告げられてしまった。
「――送っていただき、ありがとうございます」
「どういたしまして。また明日、会える時を楽しみにしている」
「私も楽しみにしております」
馬車から降り、私達はそんな言葉を交わす。
それからイアン様は再び馬車に乗り、私は彼を乗せた馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。
◇
その日の夜。
私の身体に異変が起きた。
「お嬢様、何かございましたか?」
ぐっすりと眠っていたのに、ふくらはぎ辺りの痛みで目が覚めてしまったのだ。
治癒魔法をかけても全く治らず、声をかけてくれた侍女に視線を向ける。
「足が痛くなってしまったの。治癒魔法をかけても治らないわ」
「お医者様をお呼びしますね」
治癒魔法が効かないのは初めてのことで、パーティー前よりも強い不安に襲われてしまう。
眠ってしまえば気にならないと思うけれど、目を閉じても痛みが邪魔して眠れそうになかった。
「――お待たせしました。痛むのはどの辺りでしょうか?」
「この辺りですわ」
本来なら他人に足を見せるのは、はしたない行為。でも、お医者様や侍女が相手なら関係のないこと。
太ももまで痛むものだから、恥ずかしいけれどドレスの裾を上げてお医者様に足を晒した。
「失礼いたします」
お医者様は見ても判断し切れなかったようで、最初はふくらはぎに触れられる。
変な病ではないといいのだけど……。
そう思っていると、お医者様が顔を上げた。
「アイリスお嬢様、病ではなさそうですのでご安心ください。この症状は成長痛の可能性が高いです」
「成長痛……?」
「普通は十歳頃に起こるものですが、お嬢様の場合は栄養不足で成長が遅れているのでしょう。これから背も伸びると思います。
このまま眠れないと大変なので、痛み止めを用意いたします」
どうやら病ではなかったらしい。
それを知れて安心したからか、まだ痛みが続いているのに眠気に襲われた。




