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The Alter Story《ジ・アルター・ストーリー》  作者: 水落護
第四章『君の夜になりたい』

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第四十二『火床よ、煌々と甦れ』

 顔を引きつらせるブランクとドマを交互に見比べて、ガランドは不機嫌に眉を吊り上げた。


「ドマ、これは一体どういうことだ? この小僧が、なんでここにいる?」


 今にも噛みつきそうな低く鋭い声に。ドマは、一つの物怖じもせずにずいっと前へ出ると、


「ブランクに……鍛冶の特訓に、付き合ってもらっていた」


 堂々と言い放った。その言葉を受けて、ガランドは「何ィ!?」とあからさまに隠そうともしない苛立ちを露わにすると、猛獣のように歯を剥き出しにして、ブランクを睨みつけた。


「テメェ、人様の弟子に、勝手に物教えようなんざ、粗鉄(あらてつ)に唾吐くようなマネしやがって、一体全体、どういう了見だ!!」


 どうやら今日は酒が入ってないらしく、先日見た時とは違い、溶鉱炉より真っ赤な顔で、ガランドは怒り散らしていた。


「ドマさん……」


「……テメェ、どういうつもりだ?」


 腕をまくり、今にも食ってかかりそうなガランドの前に、ドマは、ブランクを庇うように躍り出た。


「問題は……おれにあった。おやかた、ブランクはわるくない」


「……気に入らねえな。いつからそんなスラスラ物が言えるようになりやがった?」


 ジッと研がれた刃物のように凄むガランドに、ドマはゆっくりとしゃがみ込んだ。


「おやかた、おれは、変わりたい。そのための特訓をしていた。だから──」


 ドマが全てを言い切るよりも早く。ガランドは「うるせえ!」と短気に言葉を叩きつけ、ドマの胸ぐらを掴み上げた。


「それが気に入らねえってんだッ! こんなどこぞの馬の骨なんかに、ホイホイついていきやがってッ! お前も弟子なら、師匠を頼れってんだッ!!」


 明らかに冷静さを欠いたその様子に、ブランクは慌てて止めに入った。しかしそんなブランクを他所に、ドマは、一言「すまない」と、素直に謝った。


「変わりたいだと!? 俺は気が短けぇからこれ以上は待てねぇ!」


 そういうと、ガランドはもう日の傾いた窓の外を、親指で示して、それから腕を組んだ。


「ドマ、弟子が師匠に楯突くなんざ、生半可な覚悟じゃ通らねえぞ!」


 ガランドの言葉に、ドマは確かに顎を引き、頷いた。


「……よし。お望み通り、これからテメェが変わったかをどうか見てやる。今から俺の工房で、テメェがどれだけ成長したかを試してやる。それで見込みがなけりゃ……ドマ、お前は破門だッ!!」


「そんな横暴な、ドマさんだって今日はもう疲れて──」


 ガランドの無茶苦茶な提案に、ドマはそっと手で制して、ブランクの言葉を押さえつけた。


「……いこう」


「ドマさん……」


 発端に自分があるため、気が気でないのだが、ドマは存外強かにあった。


 斯くして、三人はガランドの工房へと移った。日が沈み、夜が更けて、辺りはとうに暗くなったと言うのに、今更火の入った工房は、町中で明るく目立ち、見紛えば祭りのようだ。


「──……さあ、見せてみろや。お前らの特訓の成果とやらを」


「ドマさん、練習通りに」


「ああ」


 そうして顎で示し合わせ、ドマの補助にブランクが立とうとした時だった。


「待ちな!!」


 ガランドはそうやって水を差し、ブランクを指差し、親指で自分の足元を下す。


「余計な吹聴されると困るからよ、補助は俺がやる」


「……どうぞ」


 そんなつもりはないが、と言わんばかりに、ブランクは両の手のひらを見せつけて、身の潔白を証明する。腕をまくり、口ぶりに反してなかなかやる気を見せるガランドは、まるで初心に帰ったようだ。


「へっ、親方になって補助なんざ、いつ以来だ」


「おやかた……よろしくたのむ」


 ドマが甲斐甲斐しく頭を下げると、ガランドは気恥ずかしそうに「ケッ」と吐き捨てて、


「テメェのその生意気な口も聞き飽きたもんだぜ。俺以外なら、一発で手が上がるぞ」


「……」


 ドマの疑問を覚える仕草に、ブランクは、手の上がったことがあるのだろう、と思った。


「さあやるぞ、久々だぜ、この溶鉄(ようてつ)の熱気……!」


 ブランクは、ハッとした。


「溶鉄!? もしかして、これからやるのって鋳造(ちゅうぞう)鉄の加工処理じゃ──」


 意外に飛び退くブランクに、ガランドは、ひと時呆気に取られて、それから──ニヤリと勝利を確信した笑みを浮かべた。


「なんだ、鍛造(たんぞう)だと思ってやがったのか。ウチは基本、鋳造生産だぜ」


 しまった、とブランクは思った。


 鍛治仕事は、大きく分けて二つの生産方法がある。


 一つは、ブランクがよく学んできた、鍛造である。これは、金属を熱して叩き潰し、中の不純物を取り除き、鉄の硬度を上げたり、時には、異なる金属を混ぜ合わせたり、変形し、様々な加工をするものである。


 そして──そのもう一つが、鋳造である。鋳造は溶鉱炉から流れてきた溶鉄を鋳型(いがた)に流し込み、冷やして加工するものだ。技術的に必要な仕事といえば、鋳型の設計を除かば、温度管理やバリ取り、研磨、検査などがもっぱらであり、ブランクは、ドマがあんなに悩んでいるのだからと、すっかり鍛造のことだとばかり思っていた。


(そりゃ初心者同然なはずだよ……!)


 あんまりにも見当違いだった。勘違いも甚だしく、まともに言葉を交わしていれば、すぐにでも思い至りそうなことであったのに、ブランクは、とうとう最後まで気づかなかったのだ。空いた休憩時間で、ドマとダザンの資料を覗きはしたが、鋳造に関しての知識は、もうそれぐらいしかない。ブランクにできることといえば、もはや祈ることくらいである。


「……!」


 そこへ。ドマは、親指を天に向けてつき立て、任せろ、と、音もなく呟いた。


(ドマさん……!)


 ブランクは、両の指を重ねて、必死に神へと祈った。

 ──……そうして、溶かした鉄を鋳型に流し込み、冷やし、加工処理を終えて。


 ドマの完成品を、穴が開きそうなほどしかめっ面で見定めるガランドは、ようやく重い腰を持ち上げて、ふんぞり返った。


「てんで駄目だな。見こぼしが多すぎる。こんなんじゃお話にならねえ」


「そんな……」


 得られた結果は、あまりにも無慈悲であった。


(僕が、余計な首を突っ込まなければ……!)


 ブランクに芽生えたのは、今更遅い、自責の念である。

 余計なお節介を焼いたばかりに、ドマは今日から根無し草だ。職もなくなり、明日から、どうにか生きるための術を見つけなくてはならない。現在複雑な事情で居候なブランクには、面倒を見切ることだってできやしない。


 そんな申し訳なさに、ドマの顔が見れない。ブランクがそうやって、敗北感に打ちのめされながら地面へ顔向きを落としていると、


「だからよぉ──」「わっ!?」


 ガランドは、ブランクの頭をくしゃくしゃに撫でた。


「こいつの師匠は、俺しかいねえんだって、目が覚めたぜ」


 ありがとよ、と。ガランドは照れ臭そうに鼻を鳴らす。


「えっ。それじゃあ──」


 ブランクが大口開けて目をパチクリとさせていると、ガランドは、ああ、と頷き、自身より頭一つ高いドマの顔を、腕に引っかけてぐいっと寄せると、朗らかに笑った。


「む……」


「こんな手間のかかるやつ、俺以外に任せられる奴がいねえだろうが」


 ガッハッハっと大口開けて豪快に笑い飛ばすガランドであったが、ドマも悪い気はしないらしい。頬をポリポリと掻いて、どうやら一件落着か、と、ブランクに思わせた。

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