吹奏楽コンクール、中国大会へ
大会翌日の午後、学校での練習後――
部室の端末に、一通のメールが届いているのを、郷子が見つけた。
「差出人…黒木美香さん…!」
郷子はすぐに温也を呼び、顧問の上山先生にも知らせ、部員たちが自然と集まり、皆でそのメールを見つめた。
件名:おめでとうございます。
差出人:黒木 美香
宛先:山口第一中学校 吹奏楽部
みなさん、県大会金賞、そして中国大会への出場、本当におめでとうございます。
あの日、みらいのたねで聴いた演奏が、私の夢の始まりでした。
音を楽しむこと。誰かに届けること。
あのときの演奏がなければ、私は今も何も見つけられなかったと思います。
実は、私も明後日の福岡県大会に出場できることになりました。
地元の博多南中学の吹奏楽部で、まだまだ未熟だけど、毎日必死に練習しています。
私も、山口第一中のみなさんみたいに、心に届く音を吹きたい。
そしていつか、またどこかで、みなさんとお会いできる日を楽しみにしています。
本当に、ありがとうございました。
黒木 美香
読み終えた部室には、自然とあたたかい空気が流れていた。
「…また、頑張らんといけんね」郷子が、小さく呟いた。
「うん、今度はうちらが、追われる立場になるかもしれん」温也も、笑みを浮かべながら答える。
上山先生も静かにうなずき、皆に向かって言った。
「みんなの音が、確かに届いたってことよ。だからこれからも、誇りを持って、自分たちの音楽を続けていきましょう」
部員たちの目は輝いていた。
この日から――
「音で誰かを励ます」という意識が、彼らの演奏に込められていくことになる。
福岡県大会・本番直前
美香は、博多南中学校吹奏楽部の控室で、
自分のトロンボーンを見つめていた。
ピカピカに磨かれた真鍮のベルに、彼女は小さな祈りを込める。
(郷子さん…温也さん… 私、今日この音で、ちゃんと想いを届けます)
あの日、みらいのたねで見たふたりの姿が、何度も頭をよぎっていた。
同じ楽器を吹いていた郷子と温也。
その音が、美香の中に「夢」を宿したのだった。
プログラム発表
「次は、博多南中学校。演奏曲は――
大野雄二作曲『ルパン三世のテーマ』ジャズアレンジバージョンです。」
客席がざわついた。人気のある名曲。
だが、演奏する美香たちにとっては、「命を変えた曲」だった。
演奏開始
タクトが振り下ろされる。
低音のリズムがズシリと響き、ドラムが軽快に跳ねる。
そして――
トロンボーン・パートの見せ場。
美香は、魂ごと吹き込むように、
しなやかで厚みのある音をベルから放った。
(この音が、あの人たちの心に届いたみたいに――)
仲間と息を合わせ、スイングするリズムに身体を委ねる。
美香の頬を伝うのは、汗か涙か。
一音一音に、あの夏の日の「感謝」と「憧れ」を込めていた。
結果発表
「博多南中学校――金賞受賞!
さらに、九州大会への出場が決定しました!」
弾ける歓声の中、美香はトロンボーンを抱きしめ、そっと目を閉じた。
(郷子さん、温也さん――私も、同じトロンボーンでここまで来ました)
(次は、あなたたちと、どこかで一緒に吹ける日を夢見て――)
音に込めた夢は、確かに届いた。
そして今、美香はまた新たなステージへと歩き出す。
スマートフォンの画面に、1件の通知が届く。
差出人:黒木美香
件名:ご報告です!
本文:
「山口第一中学校の皆さん、こんにちは。
福岡県大会、無事に終わりました!
結果は……金賞! そして、九州大会への出場が決まりました!
演奏曲は、山口第一中さんと同じ“ルパン三世ジャズバージョン”でした。
私はあの日、みらいのたねで聴いた音に憧れて、同じ楽器――トロンボーンを選びました。
今では、あの時の夢が、少しずつ現実になってきた気がしています。
本当にありがとうございます。
またどこかで、音で会える日を楽しみにしています!」
郷子はメッセージを読んだ後、すぐに温也にLINEで送る。
郷子 → 温也
「見た!? 美香ちゃん、金賞!九州大会やって!」
温也 → 郷子
「おぉマジか! めっちゃすごいやん!やったな!」
郷子
「もう嬉しくて涙止まらんかったよ……あの子、ホントに頑張ったんやね」
温也
「おれらの音が、あの子の背中押せたんなら……めっちゃ報われるな」
郷子
「うん、なんかさ、やっぱり音楽ってすごいね。ちゃんと誰かの心に届くんやね」
温也
「これからも届けようや、もっともっと」
郷子
「うん、届けよ。私らの音で、誰かの明日が変わるかもしれんけぇ」
その後、郷子と温也は連名で、美香にメールを送る。
差出人:郷子 & 温也(山口第一中学校吹奏楽部)
件名:おめでとう!!
本文:
美香ちゃんへ
福岡県大会、金賞受賞おめでとう!そして九州大会出場、本当にすごい!
あの日、みらいのたねで出会った君のまっすぐな瞳、忘れてないよ。
あの時の演奏が君の背中を押せたなら、私たちは音楽をやってて本当によかったって思う。
同じトロンボーン仲間として、これからも一緒に音を楽しもうね。
九州大会、思いっきり楽しんで、自分らしい音を響かせてきてください!
遠くから応援しています!
――郷子 & 温也より
夏休み後半 ― 中国大会に向けての強化練習
灼けつくような夏の午後。
山口第一中学校・音楽室には、ひたむきな音が響いていた。
金賞受賞の喜びは束の間、彼らの目はすでに中国大会に向けられていた。
合奏中、上山先生の指揮が止まる。
「はい、ストップ。……そこ、トロンボーン。もう少し音に“芯”がほしいかな。温也くん、意識してみて」
「はい、先生!」
汗を拭いながら、温也は頷く。
彼の視線の先には、郷子がまっすぐ譜面と向き合っている。
2人の音が、しっかりと合わさる瞬間が増えていた。
心の中には、みらいのたねの子どもたち、そして美香の姿があった。
練習後、パート練習中の会話
郷子:「ねえ温也、やっぱりルパンって奥深いねぇ。吹けば吹くほど難しい……」
温也:「せやな。でも、この曲、俺らにとっても意味あるしな。絶対、完璧に仕上げたいわ」
郷子:「うん。あの日のこと、忘れたくないし、忘れられん……。また、美香ちゃんに届けたいんよ、もっと進化した音を」
部員たちの意識も変化していた
1年生の恋も、2年生の美咲や恭正も、自主練の回数が格段に増えていた。
中には、休日も学校に来て、個人練習に励む者もいた。
日原文子:「ねえ、なんか今、吹奏楽部が“ひとつ”になっとる感じ、せん?」
新南陽子:「するする!全員が“誰かのために”音を届けたいって気持ちになっとる感じがする」
上山先生の言葉
「金賞も、中国大会も、全国も大事。でもね、何よりも大事なのは、“誰のために吹いているか”ってこと。
自分のためじゃなく、誰かの心を少しでも明るくできるように……そういう演奏が、最終的には一番人の胸を打つのよ」
静まり返る音楽室に、その言葉はじんわりと染み込んだ。
みんなの心は、再び「音でつながる未来」へ
温也と郷子を中心に、山口第一中学校吹奏楽部は、今までで一番熱い夏を過ごしていた。
全員の中に、「届けたい誰か」がいた。
だからこそ、その音には、迷いがなかった。
次の舞台――中国大会へ。
あの“ルパンの音”が、再び誰かの未来を照らす日を信じて――。
山口第一中学校吹奏楽部の一行は、まだ朝も明けきらぬうちに新山口駅に集合していた。
そこから新幹線に乗り、まずは岡山駅へ。岡山で**特急「スーパーいなば」**に乗り換えて、目指すは鳥取市――中国大会の舞台だった。
車内では、誰もが静かに気持ちを整え、次の本番へと意識を高めていく。
誰一人、雑談などする者はいない。今、自分たちは大きな舞台に向かっている。
その緊張と、期待と、誇りを胸に――。
車内にて
郷子は隣に座る温也に、静かに声をかけた。
「……いよいよやね。全国、あと一歩やけ」
「せやな。……けど、なんか、焦りとかより、“絶対届けたい”って気持ちが勝ってるわ」
「うん、私も。演奏を聴いた誰かの心が、少しでも前を向けたらって。そんな演奏、したいんよ」
2人は少しだけ笑い合い、窓の外に目をやった。
同じ“夢”に向かう者としての、確かな絆がそこにあった。
去年とは違う空気
今年の吹奏楽部は、明らかに何かが違った。
ただの技術ではない、“音を届ける理由”を、全員が心に持っていた。
コンクールは、結果がすべての世界。
だが、その先に「聴く人の笑顔」があることを、彼らは知っていた。
そして、次世代を担う**たかやん(篠田隆)やながちゃん(長門峡子)**も、ひたむきに自分たちの役割を全うしていた。
ながちゃん:「……郷子先輩たちの背中、見とるだけで勉強になります」
たかやん:「でも、次は俺たちが引っ張る番になるけぇ。しっかり食らいつかんと」
大会当日――鳥取市民会館
空気がぴんと張り詰めたホール。
県大会とは比べものにならないほどの緊張感。
そして、ホールに響く各校の演奏は、まさに“圧巻”。
それでも、山口第一中のメンバーたちは、怯むことなく、控え室で静かに心を整えていた。
上山先生は一人ひとりに目を合わせ、最後にこう声をかけた。
「みんな、ここまでよう頑張ったね。あとはもう、出し切るだけよ。
結果はどうあれ、聴いてくれる人に、“あなたたちの音”を届けてきて」
プログラム14番――山口第一中学校
司会の声が響く。
「続きまして、プログラム14番。山口第一中学校。演奏曲目は――
『ルパン三世のテーマ』ジャズバージョン。指揮は、上山郷子先生です」
会場が静まり返る。
やがて、上山先生の指揮棒が振り下ろされ――
あの軽快なジャズのイントロが、堂々とホールに響いた。
音に乗せた“思い”
温也と郷子のトロンボーンが、空気を震わせる。
そこには、過去の不安や迷いはなかった。
みらいのたねの子供たち。黒木美香。
そして、今この演奏を聴いているすべての人に――
「あなたは一人じゃない」と音で語りかけるように、楽器が鳴り響く。
たかやんも、ながちゃんも、練習のすべてを込めて、一音一音を繋いだ。
演奏が終わった瞬間
最後の音が消えた瞬間――
しんと静まり返ったホールに、観客の大きな拍手が鳴り響いた。
それは、ただの「上手だったね」ではない。
「何かが届いた」と確かに感じた証。
郷子の目には、涙がにじんでいた。
温也も、小さくガッツポーズを握っていた。
結果発表へ
さあ、いよいよ――
全国大会へと続く、わずか3つの椅子が発表されようとしていた。
中国大会・最終審査発表
中国大会の本番演奏が終わり、審査結果発表の時間がついにやってきた。
舞台上には、出場したすべての学校が整列している。
一人ひとりの顔が緊張に強張り、まるで時間が止まったかのような静けさに包まれていた。
やがて、審査委員長の声がマイクを通してホールに響き渡った。
「それでは、金賞受賞校を発表いたします――」
壇上のスクリーンに映し出されていく金賞の7校の名前。
その中に「山口第一中学校」の名が映った瞬間、
郷子はそっと隣の温也の袖をつかんで、声にならない息を吐いた。
(よかった……)
だが、ここで終わりではない。
金賞7校の中から、全国大会に出場できるのは、わずか3校のみ。
そして、再びアナウンスが続いた。
全国大会出場校の発表
「続いて、全国大会への出場校、3校を発表いたします」
会場の空気が一層重くなる。
「1校目――出雲市立南中学校」
湧き上がる拍手。しかし、山口第一中の名前ではない。
「2校目――広島市立新町中学校」
またしても、別の学校の名前。
(……あと一つ)
誰もが息を止めた。
郷子も温也も、たかやんも、ながちゃんも、他の部員も、自然と手を合わせて祈っていた。
「3校目――山口市立……山口第一中学校!」
――その瞬間。
ホールに響き渡る、割れんばかりの歓声。
飛び上がって喜ぶ生徒たち。目に涙を浮かべる者もいた。
郷子の頬を、ひとすじの涙が流れる。
温也は拳を握りしめ、ぐっと目を閉じた。
(届いたんや……俺らの音、俺らの想い)
それは、仲間の心と、あの日出会った子供たちの心、そして音楽の力を信じたすべての人の心が繋がった証だった。
全国大会への扉が開いた日
中国大会の審査結果が発表され、山口第一中学校の名前が最後に読み上げられた瞬間、
鳥取市民会館の一角に、歓声と涙と拍手が渦を巻いた。
全国大会へ──その夢の扉が、いま確かに開かれたのだった。
ステージ裏へと戻る通路、誰もが顔を紅潮させ、呼吸を整えながら、実感がまだ湧いていないような様子だった。
そんななか、顧問の上山郷子先生が一歩前に出て、皆に向き直る。
「みんな……ほんとうに、よくやったね」
言葉を切ると、少し声が震えていた。
けれど、その瞳はまっすぐで、誰よりも誇らしげだった。
「今回、審査員の先生方が評価してくださったのは、技術や音のきれいさだけやない。みんなが心をこめて、**“自分たちの音を誰かに届けたい”**って、そう強く思って演奏したからやと思います。……それがちゃんと、伝わったんよ」
部員たちの目からは、再び大粒の涙がこぼれていた。
「このメンバーで全国大会に行けること、本当にうれしいです。ありがとう」
拍手が自然と起こるなか、部長の郷子はその場に立ち尽くしていた。
大きな達成感と、背負ってきた責任、そして喜びがいっぺんにあふれ出し、
声も出せないまま、ただ静かに、ぽろぽろと涙を流していた。
その隣にいた温也が、そっと郷子の肩を抱き寄せる。
「……よう頑張ったな、郷子」
その一言に、郷子はこくんと小さくうなずきながら、温也の胸元に顔を埋めた。
周囲の誰もが、ふたりを見守るように、あたたかいまなざしを送っていた。
鳥取の空は、少し秋の気配を帯びていた。
全国大会という、新しい舞台に向かって、
山口第一中学校吹奏楽部はまた一歩、確かな足取りで歩み出した。
湯けむりの中で交わす、未来への言葉
中国大会の興奮と喜びを胸に、山口第一中学校吹奏楽部の一行は、宿舎に戻ってきた。
重い荷物を降ろしたあとは、それぞれに一息つける時間が訪れる。
郷子は女子部員たちを誘って、宿舎の地下にある天然温泉へ向かった。
木の扉を開けると、ほのかに硫黄の香りが鼻をくすぐり、柔らかな湯けむりが空間を包み込む。
湯に浸かれば、疲れた身体がじんわりとほぐれていく。
「はぁ~~……やっと肩の荷が少し降りたわ~」
と、郷子がぽつりと言った。
「でも次は、全国で金賞じゃね!」と、パーカッションの千佳が笑顔で続ける。
「この勢いでてっぺんとるぞーっ!」
「おー!」
と、湯船の中に小さな声援が響く。
少し静かになったとき、ながちゃん(長門峡子)が小さな声で呟いた。
「……私たち、先輩たちと同じ結果、残せるでしょうか」
湯気の中で、誰かの視線を避けるように俯いた彼女に、
郷子はそっと近づき、柔らかな声で言った。
「ながちゃん。私もね、部長になったときはそうだった。
先輩たちに恥ずかしくない演奏ができるか、不安でいっぱいだったよ。
でも……ここまで来られたのは、ひとりで頑張ったからじゃない。みんながいたから」
郷子は優しく笑った。
「だから、ながちゃんはながちゃんらしく、“音を楽しむ”ことを忘れんかったらええんよ」
「……うん」
ながちゃんの目に、熱いものがじんわりと浮かんだ。
湯船の中、少女たちは肩を並べて、静かに未来を見つめていた。
男子風呂、炸裂!青春バカ騒ぎ
一方その頃、男子チームも温泉で大盛り上がり。
湯気の向こうから聞こえてくるのは、もうほぼお祭り騒ぎだ。
「なあなあ、温也先輩!どうやって郷子さんのハート射止めたんすか!?」
と、やや悪ノリ気味に声をかけてきたのは、後輩の雄大。
「そ、それは……内緒や。まあ、誠意とギャグセンスかな?」
と、照れ隠しにおどけてみせる温也。すかさずドッと笑い声が起こる。
「いやでも、マジで温也さんのギャグ、毎日救われてますって!
緊張した日でも笑わせてくれて、空気やわらげてくれるから」
「そやろ?俺のギャグには癒し効果あるんやで。温泉より効くって評判や」
「うさんくせぇ〜!」「出た出た温ギャグ〜!」「はい、座布団ゼロ!」
湯気の向こうで、はしゃぐ笑い声が響く。
だけどその背中には、確かな努力の証が刻まれていた。
全国という高みを目指す中で、互いを支え合い、笑い合える――
そんな関係が、ここにはちゃんとあった。
湯けむりの夜、ひとときの安らぎのなかで、
誰もが少しだけ、夢に近づいたような気がしていた。
就寝前の乙女たちのささやき
温泉から戻った郷子たちは、寝巻きに着替え、部屋に敷かれた布団にごろりと横たわる。
修学旅行のような空気の中で、部屋の灯りはすでに落とされていたが、誰もすぐには寝つかない。
「ねえ、郷子ちゃんさあ、温也先輩とは、どっちから告白したん?」
千佳が、布団の中からニヤニヤしながら小声で問いかける。
「え!? そ、それは……内緒じゃけど」
「え〜〜!絶対郷子ちゃんからでしょ!?見た目クールだけど、中身は積極派って感じ!」
「う、うるさいわ……!」
郷子の声がほんのり赤くなっていた。
「でもさ、なんか良いよね。あんなにお互いを尊敬し合ってるカップルって」
「うん、演奏してるとき、息ぴったりだし」
「美香ちゃんも、ほんとに素敵な後輩になると思う」
「うちらも、来年の今ごろは……どうしてるんだろうね」
そんな未来の話をしながら、布団の中で頬杖をつき、少女たちは目を閉じた。
それぞれの胸に、小さな灯のように夢がともっていた。
男子風呂のあと、部屋で恋バナ大爆発
男子の部屋はというと、温泉後のテンションがそのまま持ち越され、枕を抱えた男たちが、どんちゃん騒ぎの延長のように恋バナを繰り広げていた。
「で、温也さん。初デートはどこやったんすか?」
「それがな、演奏会のあとに近くのカフェ入って、めっちゃ緊張してしもて……コーヒー飲みながら、ずっと楽譜の話してたわ」
「音楽的すぎる初デート!」
「いやでも、郷子さんならそれでめっちゃ喜びそう!」
「やっぱ相性って、自然にわかるもんなんすね〜」
「てかさ、俺も卒業するまでに、誰かに告白したいな……」
「無理無理、お前まず女子と会話できるようになってからな!」
「うっせぇ、努力中なんだよ!」
夜が更けても、男子たちの小さな野望とからかいは尽きなかった。
翌朝 ― おみやげと別れの余韻
翌朝、チェックアウトを済ませた一行は、鳥取駅近くのお土産屋に立ち寄った。
名物の「鬼太郎饅頭」や「蒜山高原ジャージーミルク饅頭」、木製のキーホルダーを手に、
それぞれが親や兄弟、部活仲間への思いを込めて品を選んでいく。
「これはお母さんに…これは、泉にあげよっかな」
温也がレジに並びながら呟くと、隣で郷子も「私の両親もジャージ牛乳飲んでみたいって言ってたわ」と微笑んだ。
そして、再び新幹線に乗り込む。
車窓から流れる風景は、今までよりも少し輝いて見えた。
山口に帰還 ― 家族の笑顔
新山口駅に降り立つと、改札の向こうで見慣れた笑顔たちが手を振っていた。
「お兄ちゃん!郷子さん!おかえり〜!」
元気いっぱいに駆け寄ってきたのは、温也の妹・泉。
「お兄ちゃん、すっごくかっこよかったよ!全国行けて、ほんとにおめでとう!」
「ありがとう、泉。おみやげ、あるで」
「ほんと!?やった〜!」
やがて、光と瑞穂が車から降りてきて、
「温也、郷子さん、お疲れ様。よかった。無事に全国の切符つかめて」
「みんなよく頑張ってくれたからね。郷子も部長として毎日一生懸命やったからな」
「応援ありがとうございます。温也君にもずいぶん助けられて、ここまでやってこれました。あとは全国で思いっきり音を楽しんできます」
そう話して、感謝を述べる
一方、郷子のもとには両親の望と桜が。
「おつかれ、郷子。……よう頑張ったな」
と、父の望が誇らしげに肩を叩き、
母の桜もそっと娘の手を握る。
「これまでの努力、ちゃんと伝わってきたよ。おめでとう」
「温也君、本当に娘を助けてくれてありがとうね。これからもよろしく頼むね」
「はい。まだまだ次の目標が控えてますんで、郷子さんと一緒に力合わせて頑張っていきます」
「……お父さん・お母さん・温也ありがとう」
郷子の目が、少し潤んだ。
それぞれの車に分かれて、家路につく。
祭りのあとの静けさの中、心には次の舞台「全国大会」への希望が満ちていた。




