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区切り

そして、内部弁護士から1週間ほどして、上田家に連絡が入った。まずは慰謝料についてあるが、郷子に15万円・両親に10万円・温也家族に対して10万円ということ。そして、学校の公式SNSに謝罪文の掲載と、なぜそのような行為を行ったのか、という理由の説明と、今後どうするのかという文章の掲載というものを求めるということであった。

郷子はそれを聞いて、

「もうこれで、この件は終わりにしよう」

と思った。その夜、郷子は両親と話し合った。



「弁護士さんから、メールでお知らせがあったんやけど、うちはもう、これですべて終わりにしたいって思っちょる」


「そうかいね。郷子がそれで納得しちょるんなら、うちらは何も言わんけぇ」


「お父さんもや。郷子の思い、大事にするけぇね」


「心配してくれてありがとね。これで、うちも心置きのう、残りの中学校生活を送れる思う」



温也にも電話で。


「今日ね、学校から帰って弁護士さんから連絡があったんやけどね、慰謝料の支払いと謝罪文の掲載とかを要求するって言うことになったんよ」


「そうかぁ。まぁ、郷子が納得してるっていうか、それでええと思えるんやったら、ええんちゃう?」


「うん。うちも、この件はこれで終わりにしたいって思っちょるしね」


「ほな、これで一件落着ってとこやな?」


「そう。うちもこれでスッキリできるかも。じゃあ、うちはお風呂入ってくるけぇ」


「郷子の湯上がり姿……松江で見た時、めっちゃセクシーやったなぁ」


「もぉ、またエッチなこと考えちょるでしょ。あっくんはほんまにスケベなんやけん!」


「えへへへ~。褒めてくれてありがとな~」


「じゃあ、また明日ね」


「ほ~い。湯冷めすんなよ~」


その夜は更けていき、10月に入って、幾分涼しさが感じられるようになった。


「それにしても今年の夏は暑かったけど、ようやく涼しくなったねぇ」

そう思いながら、郷子は夜風に吹かれながら、コロナを発症してから、今日までのことを思い返していた。

「みんなに助けてもろうて、こうしてまたみんなと過ごすことができちょるけど、本当にいろいろあったな」

そう思いながら、眠りについたのであった。



翌日。目が覚めて学校の準備を始める。レノファの試合日程を見て、試合を観に行こうかと思いつつ、日程を確かめてみたら、10月はいずれもアウェーでの試合で、ミラスタでの試合は組まれてなくて、11月の最終戦までお預けとなった。


「※あっくん、おはよう。今度の11月に横浜FCとの試合、観に行かん?」


「今のとこ、予定ないから、たぶん行ける思うで」


「やった。じゃあ、またうちがお昼ごはん、なんか作って持っていくけぇね」


「ほな、頼もかいな」


「ところで、タイガース、今調子はどうなん?」


「たぶん優勝はジャイアンツに持ってかれるやろな。残りのゲーム数考えたら、逆転はなかなか厳しいわ。ジャイアンツが全然負けへんのや。ゲーム差が縮まらへん」


「そうかぁ。でも、まだプレーオフもあるんじゃろ?まだまだ先は長いけぇ、頑張ってほしいね」


「監督も次の一手、考えてるとは思うんやけどな。カープは9月に入ってから大失速して、今は4位や。でも、まだまだ油断できへんで。なんとか日本シリーズ目指して頑張ってほしいわ」


「レノファは連敗でプレーオフ進出はダメになってしもうたけど、来シーズンに向けた戦術をしっかり組み立ててほしいなって思う」


「そういや、サッカーも優勝争いが佳境に入ってきたんやろ?どこが優勝しそうなん?」


「このままでいけば、横浜FCとエスパルスが自動昇格する感じ。3位から6位まではJ1昇格プレーオフやけど、たぶんモンテディオ、ヴィファーレン、ファジアーノ、ベガルタで争うようになるんじゃないかって」


「来年は最低でも、プレーオフ圏内に入ってくれたらええな」


「うん。来年はやってくれるって思っちょる」



学校に着いて、いつもの授業が始まる。こうしていつもの学校の生活が送れるのが、何気ない幸せなんだなって思う。


「温也、おはよう。タイガース、かなり優勝は厳しゅうなってきたじゃん。やっぱり、ピッチャー陣、夏の疲れが出てきちょるんかなぁ?」


「おはよう、トシ。まぁな。夏場はずっと中継ぎとかクローザーとか連投続いてたしなぁ。最近、クローザーが打たれることも多くなってきたわ」


「でも、まだCSもあるしな。日本シリーズ進出、諦めるわけにはいかんよな」


「そやな。俺も最後まで応援するで」


「サンキュー!」



授業が始まって、お昼。


「は〜、お腹すいた〜。体育でグラウンド10周はけっこうキツかったわ〜」


「でも、今のうちに体を鍛えちょかんと、年取ったらよぼよぼになるんよ」


「うちも、体鍛えちょるつもりなんやけど、持久力が続かんのよね〜」


「まぁ、郷子はどっちか言うたらスプリンタータイプやからね」


「うん、短距離はけっこう自信あるんよ」


「俺は、どっちか言うたら中長距離タイプかな」


「あっくんは10周とか走っても、けっこう平気なんじゃない?」


「あんまり疲れ感じへんかな」


「すごいなぁ」


「ほら、腹減ったし、はよ弁当食おうや」


「ラジャリンコ〜!」



昼食を済ませて、お腹が膨れると眠くなって、昼寝タイム。二人そろって、熟睡していた。やがて、午後の授業も終わって、部活に向かう。


今日は、マイレヴォリューションの練習。この曲は80年代にヒットした曲で、ノリのいいリズムと、前向きな歌詞が印象的な曲である。この曲は陽子がドラムを担当する。陽子がスティックでカウント取りながら、まずは前奏を合わせる。16小節後からはフルートとクラリネットが主旋律を奏でて、Aメロの最初はサックスとユーフォニウムとホルンが主旋律。そして、サビの部分はトランペットとフルートとクラリネットが主旋律を担当する。そして、間奏部分は前奏と同じく、フルートとクラリネットが主旋律を奏で、Bメロの最初はトロンボーンとトランペットとフルートが主旋律を奏でる。そして、Bメロのサビがサックスとユーフォニウムとホルンとが担当し、codaからトロンボーンとトランペットとユーフォニウム・サックスとフルートが主旋律を奏で、ラストに向かっていく。


上山先生がいろいろと指示を出して、こうしたほうがいいとか、話をして、次第に形になっていく。練習が終わって、下校しながら、郷子が


「この、うちらが最初にメロディー吹くとこの入り、もうちょっと、弾んだ感じで吹いたほうがええんじゃない?」


「あぁ、あの部分かぁ。歌詞の感じから言うても、ピシッと決めたほうがええと思うわ。俺もそう思う」


「たかやんとながちゃんは、ほかになんか気ぃついたとこある?」


「そうですねぇ。サビ部分が全体的にキーが高いので、もうちょっと息入れて吹かんと、曲の明るさが伝わらんと思うけぇ、意識してみよう思います」


そう、あれこれ演奏について話をしながら、家に着いた。



「ちょっと演奏の打ち合わせしたいけぇ、あとであっくんの家、行ってもいい?」


「ええよ〜。今日は親父が泊まり勤務やからおらへんけど、多分、泉とおかんがいてる思うわ」


「わかった〜。じゃあ、あとで行くけぇね」


「ほな、温也先輩・郷子先輩、また明日〜」


「うん、気をつけて帰りんさいよ〜」


「は〜い!」



玄関を開けて、家の中に入る。


「ただいま〜。おぉ、小町〜、帰ったで〜」


「にゃおーん」


「お兄ちゃん、おかえり〜!」


「帰ったで〜。あとで郷子も来るって言うてたで」


「やった〜!郷子さん来る〜!」


「あのな、吹奏楽の打ち合わせで来るんやからな」


「ええやん♪ あとでいっぱいしゃべろ〜っと」



そうこうしているうちに、郷子がやってきた。


「お邪魔しま〜す。泉ちゃん、ちょっとお邪魔するね。小町〜、よしよし。ほら、おいで。小町、だっこ〜」


「じゃあ、あっくんの部屋行くね」


「ほ〜い」


「泉ちゃん、またあとでね〜」


「ラジャリンコ〜!」



楽譜を持ち出して、今日通して演奏してみて、こうしたほうがいいとか、打ち合わせをしてみた。楽譜を見ながら、曲を通しで聴いてみて、イメージを膨らませながら、演奏方法についてとか、「ここはもう少し強めに吹いてみよう」など、楽譜の上に書き込んでいく。


それが一通り終わって、この前からのトラブルについての話になった。



「昨日ね、弁護士さんから連絡があってね、誰にどれだけ慰謝料払うかとか、謝罪の方法とか、連絡があってね。うちもね、もう早う終わりにしたいってのもあるし、残りの中学校生活、楽しく過ごしたいし……。うちは、もうこれでええかなって思っちょる」


「そうかぁ。郷子が納得してのことなら、それでええ思うよ」


「ただね、香川と小野寺たちの居場所が、教室になくなってしまうんじゃないかって……それが、心配なんよね」


「確かに、あいつらがやったことは許されへんけど、かといって俺らがあいつらの居場所を奪う権利はないしなぁ」


「じゃけぇね、出席停止が終わったら、もう普通に学校に来てほしいんよ。そうじゃないと、うちも気をつかってしまうけぇ」


「まぁな、それは弁護士さんにも伝えといたほうがええかもしれんな」


「うん、また帰ったらメールしようと思うし、明日学校行ったら、みんなにもそう伝えようと思っちょる」


「わかった。俺は郷子の気持ち、大事にするよ」


「……あっくん、ありがとう」


部屋を出て、郷子が泉を呼ぶ。


「ねぇ、郷子さん。ちょっと、ここの問題、教えてほしいんやけど、ええ?」


そう言って持ち出してきたのは、算数の台形の面積の求め方であった。

底辺の長さと上辺の長さと高さをかけて、それを2で割るのが台形の面積の求め方の公式であるが、その基本を押さえて、応用問題や文章問題を解く方法を教えて、泉は


「なるほど〜。わかった〜!郷子さん、ありがと〜!」


泉の勉強を見ていると、瑞穂が


「郷子さん、いらっしゃい。今日は一緒に晩ごはん、食べて帰る?」


「いや〜、おばちゃん、今日はお母さんが帰り遅うなるって言うちょってね。うち、自分で作ろう思いよったんじゃけど」


「じゃあ、お母さんに連絡して、今日は一緒に食べて帰りんさい。ええから、ええから」


「はい、じゃあ……お言葉に甘えさせてもらいます」


「郷子さん、今日は一緒に食べるん!?やった〜!」


「こら泉、はしゃぎすぎじゃろうが〜」


「だって、うちにとって、郷子さんはお姉ちゃんみたいな存在なんやもん!」


「郷子さん、ごめんねぇ。泉もね、ずっと姉妹がおったらええのに、って言うちょったけぇ、すごい喜んでて」


郷子は母親にLINEで連絡して、桜からも


「わかった。温也くんのお母さんに、お礼言うといてね」


「は〜い。あの、お母さんからもありがとうございますって」


「いいのよ〜。じゃあ、食べましょか」


「いただきま〜す!」



そう言って、4人でわいわい言いながら夕食を済ませる。今日のメインはチキンカツだった。カリッと揚がった衣にソースをかけて、キャベツのみじん切りにはフレンチドレッシングをかけて。他にはラディッシュと玉ねぎとカブとカブの葉とトマトを使ったマリネ、そしてコンソメスープという夕食であった。

部活で疲れた体に、甘酸っぱいマリネがしみ込んでいく。美味しく食べて、夕食を済ませて、郷子は帰っていった。



「郷子、おかえり」


そう言って、仕事を終えた望が迎えてくれた。


「ただいま〜。お母さんは?」


「もうそろそろ帰ってくるんじゃないか?」


「お父さんは晩ごはん、どうしたん?」


「俺は会社の会議が終わったあと、食べて帰ってきたけぇ」


「そうね、わかった〜」


「学校はどうや? あれから何もないか?」


「うん。今は普通に過ごせちょる。ただね、香川と小野寺が出席停止終わって学校に戻ってきた時に、ふたりの居場所がなくならんようにって、思うんよ。確かに、ふたりがしたことは許せんことじゃけど、それでも、また普通に戻ってこれるようにしてあげたいなって」


「そうか。そりゃ、郷子から連絡するか? それとも、お父さんから伝えておこうか?」


「ううん、ええよ。うちが連絡するけぇ。それに、明日学校行ったら、うちの口から、みんなに伝えよう思うんよ」


「うん、わかった。……また何かあったら、いつでも相談せえよ」


「ありがとう、お父さん。じゃあ、部屋行くね」



そう言って、自室に入って、明日の学校の用意や、楽譜の目通しをして、夜は更けていった。


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