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謝罪

やがて、小野寺と香川が教室に入ってきて、郷子の前にやってきて、

「上田…。ゴメン。嫌な思いさせて。許してくれんか」

 そう言ってきたのであるが、郷子は

「そう、あんたらにも一応謝罪するってことはできるんじゃ。許すも何も、それはこれからのあんたらの態度次第なんやない?とりあえず謝っておこうかっていう程度の謝罪だったら、私はいらないから」

 そうして、二人は謹慎処分を受けて学校を後にしていった。

「俺ら、これからどうなるんやろ?高校進学にも影響が出るんじゃないか?悪ふざけするんじゃなかった」

「なぁに、大したことねぇって。一応謝ったんじゃから、もういいんじゃね?」

 そうして、二人は自宅に戻った。

「郷子、あいつら謝ってきたけど、本当に申し訳ないって思ってるんかねぇ?なんか、本気で謝ってるようには見えんかったけど」

「まぁ、あいつらが本気で謝ったんじゃないって言うんなら、もう一回柔道技かけてやってもいいぜ」

「あっくん。それはやめて。あっくんまで処分が下されたら、私嫌じゃから」

「それにしても、本当あいつら、しつこかったよな。学校での処分はこれで決まったけど、あとはどうなることやら」

「まぁねぇ。私のお父さんも、かなり怒ってたからね。お父さんたちが相手の親のところに行くって言うのもありうるかもしれんね」

「俺の親父にお袋も、かなり怒ってた。俺は大事な仲間を亡くしてるから、そう言うのもあるんやろうけどな」

 やがて、授業が終わって、部活の時間。

「郷子~。先に部室に行ってて。俺は部室の鍵取りに行ってくるから」

「ラジャリンコ~」

 温也は職員室に、吹奏楽部の鍵をとりに行って、部室を開ける。そこへ凛と佐知子と和美がやってきて、

「郷子、まだ無理しちゃあいけんよ。少しずつゆっくり、また調子を取り戻していけばいいんじゃから」

「ありがとうございます。まだ少し息切れみたいなのがあって、ロングトーンがちょっとキツイかなって。でも、昨日吹いてみて、すこし感覚が取り戻せたような気がします」

「わかった。私達もできるだけカバーするからね」

 そこへ海斗と陽子、小夜子たちもやってきて、音出しをする。少し遅れて、たかやんとながちゃんも加わって、ENDLESSRAINの練習を始める。一番最初はピアノソロから始まるので、小夜子がピアノに移動して、すこし哀愁を帯びた感じで弾く。やがて、メロディーをクラリネットとフルートで演奏し、トロンボーンやトランペット、ホルンなどの金管は伴奏を演奏する。そして、ドラムが入り、今度はトランペットがメロディーを弾き、Aメロのサビの部分はトロンボーンとホルンが担当し、全体を盛り上げる。そして、AメロからBメロに移行する間奏部分ではセリフがあるが、これは英語が得意な海斗が担当。Bメロは金管が伴奏で、サックスが主旋律を吹く。そして、BメロからCメロの間奏はトランペットがスタンディングプレーを披露することになる。Cメロは各パートの1stが主旋律を担当することになり、ラストに向かう。一度、通しで演奏してみて、気づいた点をお互い話し合って、どう演奏したらいいか、皆で話し合いながら決める。

 上山先生は

「小夜子、もうちょっと最初の出だしのところ、強めに音を出した方が、この曲のイメージに合うんじゃないかって思うの。心持、もうちょい強めに音出ししてみて。フォルティッシモじゃから」

「はーい」

「それからAメロの主旋律なんやけど、もう少し滑らかにね」

「はーい。わかりました」

「ちょっと気になったんですけど。Aメロのサビの部分、結構音が高かくて、伸ばす音が多いから、みんな同じようなところで息切れしやすいんで、すこし、トロンボーンは、ブレスするところを意識的にちょっとずらした方がいいかなって思うんですけど」

「そうねぇ。郷子、今吹いてみてどんな感じやった?」

「確かに、二人が同じところでブレスしたら、そこで音がぶつってキレてしまうような感じになるんで、それに、まだ少し息が続かないって言うのもあるんで、すこし、お互いにずらした方がいいかと思います」

「郷子、じゃあ、俺がここまで一気にノンブレスでいくから、郷子は、こことここでブレスするようにしたらどう?

「うん、OK。じゃあ、こことここでブレスと。あっくんありがとうね」

 そして、通しで何回か演奏してみて、それなりに郷子も実感がつかめた感じがした。

 そして、部活を終えて帰宅。すると、香川と小野寺が郷子の家に来ていた。

「あ、あなたが郷子さん?この度は、息子たちが申し訳ないことをしてしまって…。なんてお詫びしたらいいか」

「あ、いえ…。そのぉ。ここではほかの家にも迷惑が掛かりますので、家の中に入りますか?」

「はい…。ほら、あんたらもさっさと歩く」

 親に尻を叩かれて、香川と小野寺たちは、郷子の家に入っていった。

「お父さん、お母さん、ただいま。あの、クラスメイトのご両親が来てるんじゃけど…」

「あぁ、郷子おかえり。この人たちは?」

「お忙しいところお邪魔しまして、申し訳ございません。この度は、このバカ息子どもが、お嬢様に、大変無礼なことをしてしまいまして、お詫びさせていただきたく、お邪魔させていただいたものでして…」

「あのぉ…。ゴメンなさい。俺ら、何も考えなしにあんなこと言ってしまって…。ゴメンなさい」

「あのねぇ、あなたたちがやったこと、どんなことかわかる?誹謗中傷・罵声罵倒・侮辱。あんたら、娘がどれだけ辛い思いをしながら、コロナと戦ったか、本当に私たちも、娘も、もう駄目なんじゃないかって言うところまで症状が悪化して、それでも何とか回復して、学校に行けるようになったっていうのに、何も考えなしに言った?ふざけんな」

「本当に申し訳ありません。僕たちでできることがあれば、何でもします。本当にごめんなさい」

「ごめんなさいで済めば、俺らもこんなに怒ったりするわけないでしょうが。なんでもする?じゃあ、どう責任を取るって言うんか?言ってみぃや‼‼」

「あのぉ、これ、私達からの気持ちです。受け取ってもらえませんか?」

 そう言って、封筒を取り出す。中には10万円が入っていた。

「あのねぇ、何でも金で解決できるとでも思っているんですか?私はね、娘に対しては、もう中学生にもなったんじゃから、自分が言ったこと、やったことに対して生じた結果には、きちんと責任を取りなさいって、そう言い聞かせてきたんです。今自分がやろうとしてることがどのような結果をもたらすのか、今自分が言おうとしてることがどのような結果をもたらすのか。言葉って言うのは、使い方を誤ると、人を死に追いやる凶器にもなるんですよ。ねぇ、あなたたちもそれくらいわかるでしょ?そんなこともわからんかった?いったいどのようなことを親から教えてもらったんですかねぇ。本当、同じ親として、情けない」

「お父さんも、お母さんも、もういいじゃない。私はまた、あっくん達と学校で楽しく過ごせたらそれでいいし」

「それで、郷子はこれからどうしてほしい?」

「もうね、私や、仲のいい友達と関わらないでほしい。あっくんにも、随分と酷いこと言ってたよね?私のことをかばってくれたあっくんに対して、白馬の王子サマは言うことが違うねぇとか。散々コケにしてたじゃない。もう二度と関わらないで」

「上田…。本当に…」

「気安く私の苗字を呼ばないで。二度と」

「ゴメン。もう許してほしいなんて思わない。ただ、今はごめんしか言葉が見つからなくて」

「もう、帰ってもらっていいですか?いつまでも居座られたらこっちも迷惑なんで。それから後日、弁護士を通じて、慰謝料の請求をさせてもらいますんで、そのつもりでおってくださいね」

「そうですか。本当に申し訳ございません。ほら、達也帰るぞ」

「和正、お前も帰るぞ」

 そう言って、帰っていった。

 弁護士に通告されるのか…?ここまで来て、ようやく、自分がやったことの大きさを身に染みて実感した二人であった。そして、知り合いを通じて、教育問題に詳しい弁護士を紹介してもらって、連絡を取る。

「あの、お忙しいところ申し訳ございません。私の娘のが受けた、誹謗中傷の件で、お電話させていただきました」

「あぁ、上田さんですか?詳しいことは伺っております。娘さん、大変でしたね。昨日お話を伺った後に、何かありましたか?」

「はい、今しがた、加害行為を働いた少年たちと、その保護者がやってきて、一応謝罪を受けたんですけど、なんか、お金で済ませようというように感じて、私達はそのお金を受け取らずに、帰ってもらったんです。弁護士を通すって言うことも伝えて、その後はどのような話を相手側はしてるのか、はっきりわかりませんが、毅然とした態度を示さないといけないと思いまして」

「そうですか。具体的に相手側にはどのようなことを求めますか?」

「娘は、今お付き合いさせていただいております、近所の同級生と、友達に一切かかわるなって言うことを訴えてます。それから、二度と娘の名前や苗字を気安く呼ぶなって」

「そうですか…。お父様とお母様が望まれることは何かありますか?」

「そうですね。学校の公式SNSに、謝罪文の掲載と、相応の慰謝料を払っていただきたいのと、クラスにこう言った行為は犯罪になるんだって言うことを知っていただきたいですね」

「そうですか…。わかりました。明日、学校の方に出向いて、学校のトップの方と話をしてみます。慰謝料については、どの程度の誹謗中傷があったのか、総合的に考える必要がありますので、しばらくお時間がかかるかと思います」

「わかりました。お手数をおかけいたしますが、宜しくお願いいたします」

 そう言って、望と桜は電話を切った。

 一方、郷子は温也とラインでやり取りしていた。

「さっき、郷子の家に誰か来てなかったか?」

「あぁ、香川と小野寺が、親と一緒に来て、一応の謝罪はしてったよ」

「そうかぁ、でも、これで片が付くってわけでもないようなぁ」

「そう、私はね、あっくんや、仲のいい友達と二度と関わるな。そして、二度と私の苗字を気安く呼ぶなって、そう伝えたよ」

「郷子も相当頭にきてると思うんやけど、何かあったら、俺ら家族も力になるから」

「ありがとうね。今お父さんとお母さんが、知り合いに紹介してもらった弁護士の先生と電話で話してる。たぶん、私の家族からも、慰謝料の請求をするんじゃない?」

「それにしても、あいつら、本当にバカだよなぁ。人の心の痛みが分からんのかって、そう思うわ」

「わかってたら、あんなことしないじゃろ」

「本当それな。一生ついて回ることになると思うし…」

「私はね、きちんと自分のやったことに対して、責任を果たしてくれたら、それでいい」

「そうやな。それじゃあ、俺そろそろ風呂入るわ」

「うん分かった。よくあったまるんだぞー。お休みね」

「ほーい」

 そうして、温也は風呂に入った。脱衣場で着ていた服を脱いでいると、小町がやってきて

「にゃーん」

 と鳴いている。

「小町どうした?風呂入るんか?」

「にゃーん」

 猫はあまり風呂に入りたがらないが、小町は時々風呂に入っては、ご満悦な表情を見せる。温也は自分がサッと湯を浴びて湯船につかり、小町を洗面器に張ったお湯につけてやると、小町はじっとして

「いい湯加減だにゃ」

 とでも言っているかのように、気持ちよさそうに目を閉じる。

「あ、そうだ。風呂に入ってる小町の写真送ってやろうっと」

 そして、小町の写真を何枚かとって、郷子に送る。

「風呂でご満悦な小町だにゃ」

 湯気の立ち込める中、お湯を張った洗面器の中でリラックスモード満開の小町の写真を見て、

「こまちゃん、お風呂苦手じゃないんじゃ。かわいい~」

 郷子から着信があって、温也は

「小町が俺に似て可愛いんやろ?」

「は?いいんや。かわいいのはこまちゃん」

「じゃあ俺は?」

「あっくんはねぇ。エロ・変態・スケベ・エッチ」

「そのうち、郷子もエッチになるかもよ…」

「もう、変なことばかり言ってないで、よくぬくもりなさい。ヽ(`Д´)ノプンプン」

「ほーい。郷子もまだ完全に回復したんじゃないから、疲れため込まんように気をつけるんやぞー」

「じゃあ、私もお風呂に入ろうかな。あっくん、変なこと想像せんのよ」

「ラジャリンコ~」

 そう言って、郷子も入浴を済ませて、眠りについたのであった。



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