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吹奏楽コンクール中国大会本番

 郷子の湯上りの、少し火照った浴衣姿を見て、思わずドキドキしてしまった温也。なかなかそのセクシーな姿が頭の中から離れずに、少し眠れない状態が続いていたが、それでも23時過ぎには眠くなってきて、翌日は朝7時に起床した。そして、中国大会本番に向けて、朝食を済ませた後は、各自本番に向けて、準備を始める。

「郷子、おはよう。今日は頑張ろうぜ」

「あっくんおはよう。いよいよ始まるねぇ。ながちゃん、たかやんおはよう。よく眠れた?」

「はい、私はよく眠れましたけど、たかやんは寝付けなかったみたいです」

「あんれまんまぁじゃね。緊張?大丈夫?自分が今までやってきたこと信じて。あとは運命を天に任せましょ」

「でもぉ…。大丈夫かなぁ…?」

「その時は、あんれまんまぁって言ってリラックス。大丈夫やって。楽しむくらいの度胸がないと、これから先、いろんなことがあっても、緊張しっぱなしで、実力が発揮できんぞ」

「まぁ、そうですけどねぇ…」

 そこへ、凛や和美・佐知子がやってきた。

「たかやんどうしたん?眼の下にクマが出来てんじゃん」

「はぁ、寝付けなかったっす」

「そうかぁ、私も初めてステージに上がって、大勢の人の前で演奏したときは緊張したもんなぁ」

「そうそう。あの時は佐知子、緊張しまくってたもんね」

「でもね、不思議とステージに上がって、最初の音がきちんと出たら、そのあとはうまくいったんよねぇ」

「まぁ、最初の頃はみんなそんなもんよ。あまり気負わずに精一杯、自分のできることをやればいいんよ」

「ありがとうございます。そうです…よね。自分は今まで一生懸命練習してきたっていう自負があるので、それを信じて、今日は精一杯頑張ります」

「そうそう。そのいき。たかやんが頑張ってくれんと、私も面白くないもん」

 そう皆から励まされて、少し自身が持てたたかやんであった。

 やがて木管組もそろって、会場へと移動。楽器を所定の場所におろして、まずは観客席で出番を待つ。各県3組ずつの出場で、その中の3校だけが全国大会へと駒を進める。皆全国大会出場を目指して、今この場に臨んでいるわけである。

 抽選の結果、山口第一中学校は5番目ということになった。そして、中国大会最初の演奏が始まる。指揮者がタクトをあげて、振り下ろすまでは、シーンと会場が静まり返る。やがて、タクトが振り下ろされると、演奏がスタート。やはりここに出場している学校は、迫力があるし、音も安定していて、伸ばすところはきちんと最後まで伸ばし切れている。

 やがて、3校目の演奏がスタートして、4校目の学校はステージ脇でスタンバイ。山口第一中学は、楽屋に行って、チューニングを合わせたり、最後の楽譜を見ながらの確認をしたりして、4校目の演奏が始まると、ステージ脇に移動。いよいよ、本番が始まる。

 そして、

「プログラム5番・山口第一中学校。曲目はエルガー作曲威風堂々です。指揮は上山先生です。それでは演奏を始めてください」

 上山先生がタクトをあげる。そして、タクトを振り下ろして、山口第一中学校の演奏による、威風堂々が始まった。最初の音は皆ばっちりと決まって、トロンボーンを奏でる4人は、アイコンタクトを取りながら、自分のそれぞれのパートを滑らかに、そして優雅に演奏していく。そして、最初の難関だったイントロ部分をクリアして、そのあとをホルン3人組へとメロディーラインを引き渡して、美しい旋律を奏でる。第2楽章、ホルンがずっと主旋律を奏でるが、その演奏する姿を見て着ると、まさに威風堂々とした、素晴らしい演奏であった。しかし、ここで、郷子はホッとしたのか、少し音を外してしまった。音が上がり切らなかったのである。郷子は

「やっばい。音が上がり切らんかった…」

 と思ったのであるが、少しでも顔に出すと、減点要素になってしまうので、顔には出さなかったが、少し心残りな感じがした。しかし、まだ演奏は終わっていない。そのちょっとしたミスを引きずってしまうと、残りの部分の演奏にも影響が出てしまうため、郷子は平静を装いながら演奏を続けた。やがて、演奏は第3楽章に入り、再びトロンボーンが主旋律を担当する。ホルンも、トランペットも、ユーフォニウムにチューバ・フルート・クラリネット・サックスもそれぞれクライマックスに向けて、次第に盛り上がっていって、最後は全員できちんと音を伸ばし切って、山口宇第一中学校の演奏による、威風堂々は終わりを迎えた。みんな少しずつミスをした部分はあったが、それでも今、自分たちが出せる、精一杯の音をだして、やり切ったという思いが漂っていた。

 そして、楽器を撤収して、片付けに入ったときに、郷子が

「みんなごめん。ちょっと音が上がり切らんとこがあって、ミスってしもうた」

「いいじゃん。俺も少し伸ばし切れんかったところがあったし。それでもみんな頑張ったじゃん」

 温也にそう言う言葉をかけてもらって、郷子の目には少し涙がにじんでいた。

「郷子先輩。素晴らしかったですよ。私も郷子先輩に今まで助けてもらったことがたくさんあって、郷子先輩と一緒に演奏できて、嬉しかったです」

 ながちゃんも声をかける。そして、本番前、緊張してカチカチになっていたたかやんも

「俺も郷子先輩と一緒に演奏できてうれしかったです。思ったより本番を楽しむことが出来たのも、郷子先輩と、温也先輩のおかげです」

 そして、上山先生がやってきて、

「今日はみんなお疲れさまでした。私達の演奏は、これで終わったけど、皆素晴らしい演奏をしてくれたよ。ありがとう。あとは客席に戻って、他の学校の演奏を聴きましょう」

 そういって、楽器をトラックに積み込んだ後は、他の参加校の演奏をじっくりと聴く。やはりどこの学校も演奏レベルが高い。特に静かな曲では、表現力や音を最後まで安定して伸ばせるかが、はっきりとわかるので、山口第一中学校の皆も、自分たちの参考にしようと、じっくりと耳を傾けて聴いていた。


 やがて、中学校部門の演奏がすべて終わり、審査結果の発表へと向かう。各学校の部長と副部長がステージに上がって、審査を待つ。やがて、学校ごとに賞が発表される。

「山口第一中学校。演奏曲はエルガー作曲威風堂々・指揮は上山先生。金賞ゴールド」

 その瞬間、観客席からは歓声が上がる。最終的に、金賞を受賞したのは8校で、その中から3校が、全国への切符をつかみとることが出来る。各校の審査結果が発表されて、次に、宇都宮市で開催される、全国大会に出場する学校が発表される。緊張が走る…。しかし残念ながら、山口第一中学校は、4位で、全国大会出場は叶わなかった。こうして、郷子と温也の今年の吹奏楽部コンクールは終わりを迎えた。佐知子や凛・和美達3年生は、涙を流しながら、今までやってきたことの手ごたえと、全国大会に出場できなかった悔しさがこみあげてきた。やり切ったという思い、そして、もっと上を目指したいという思い。それに、あと一歩届かなかった、全国大会出場の夢。上山先生は

「みんなよくやったよ。よく頑張った。私をここまで連れてきてくれた皆を誇りに思うよ。ありがとう。本当にみんなありがとう」

 そして、ひとしきり青春の涙を流した後の吹奏楽部員の表情は、晴れやかであった。

「さぁ、皆今日はお疲れ。明日は胸を張って山口に帰ろう」

 上山先生の明るい声に皆も

「はーい」

 そうして、ホテルに向かったのであった。

「あっくん、今日はありがとうね。励ましてくれて。嬉しかった」

「いやいや。俺もやっぱり少しミスしたところがあったからね。そういう時は、お互いにフォローするのが仲間。まぁ、次同じところミスせんかったらいいんじゃね?」

「そうですよ。来年はリベンジできるように、また頑張りましょう」

 とたかやんが言うと

「おぉ、たかやん頼もしいじゃん。来年こそは全国大会に出ましょう」

「そうよね、来年こそは、私達が全国大会に行こう」

 やがて、バスはホテルの前に到着して、チェックインを済ませる。

「はぁ、でもやっと緊張から解放されたぁ。ねぇねぇ、ながちゃん、あ、文子先輩に凛先輩。一緒に温泉はいりに行きません?」

「おぉ、いいねぇ、一仕事終わった後の温泉は格別。はいりに行きますかぁ」

 そういって、女子部員たちが温泉に入りに行くのを見て、温也はたかやんに

「俺たちも温泉行くかぁ?」

「そうですねぇ、一緒に行きますか」

 海斗がいたので、

「海斗先輩、俺たち温泉にはいりに行くんですけど、一緒に行きません?」

「そうやねぇ、温泉入ってさっぱりするかぁ」

 ということで、男子部員も何人か誘って、温泉に入る。

「海斗先輩は高校はどこ受験するか、もう決めてるんです?」

「まぁ、俺は将来自動車関連の仕事がしたいから、工業系の高校に決めてるよ。自動車の整備の仕事したいからね」

「そうですかぁ…。俺は将来、旅行作家みたいな仕事がしたいから、これから先、自分の文章力とか、表現力を高めたいなって思ってるんですけどね。そのためには、もっと、いろんな知識を蓄えないといけないかなって思うんです。文系の学校に行けたらなって思ってます」

「そうかぁ、温也ならいけるんじゃないか?まぁ、何するにせよ、自分が後悔しない生き方、それから、周りの人に胸を張って言える生き方ができるようになれば、いいんじゃないか」

「たかやんは、何か自分がなりたいものとか、夢とかある?」

「そうですねぇ、自分は将来警察官になりたいなって思うんです。自分の父が警察官ですので、その仕事ぶりを見ていたら、かっこいいなって」

「そうかぁ、じゃあ、警察音楽隊に入るんか?」

「まだそこまでは考えてないですけど、音楽とかかわりは持ち続けたいなって思います」

 そうして、将来のことについて、あれこれ話しながら、時間は過ぎていった。

 女子グループの方では、

「あともう少しで、凛先輩と文子先輩は部活引退なんですよねぇ。文化祭が最後でしょ?ずっと一緒に演奏続けていたいな」

「なにしんみりしてんの郷子。まだあと2か月半あるじゃん。それに吹奏楽部を引退しても、ちょくちょく部室に顔出すから。それに私、高校に行っても吹奏楽は続けるよ」

「私も高校に入ったら、吹奏楽続けるから、また一緒にやらない?」

 と、文子が声をかける

「そうですよね。凛先輩はどこの高校受けるんですか?」

「私はね、中央高校に行って、大学進学も考えてるよ」

「凛先輩は中央高校なんですねぇ。文子先輩は?」

「私はね、山口西高校。そこで、体育系の学科に進学して、サッカーやってる彼のサポートができればって思ってる」

「そうなんですねぇ。先輩たちは進路がもう決まってるんですね。私も先輩たちの頑張りに負けないように、頑張ります」

「郷子はどこに進学するか決めてるの?温也君と一緒の高校とか?」

「彼は、文系の学校に進みたいって。私も彼と一緒の高校に進学できるように頑張ります」

 郷子もやはり自分自身の進路が気になるのであった。

 やがて、温泉から上がって温也たちと合流。

「おぉ。今日も郷子の湯上り姿見られるとは思わんかった~。凄い色っぽいなぁ」

「ちょ、もう本当にあっくんはスケベなんやから」

「あれぇ、温也、頭ん中、エッチなことと、スケベなことでいっぱいなんじゃないか?」

「へ?い、いや、そんなことないっす」

「いやいや、顔が思いっきりにやけてるし。多分頭の中は、エッチなことが9割、腹減ったが1割じゃね?」

「あっくんの場合、それはありうるかも。まぁ、仕方ないんじゃないですか?健全な男の子っていうことで」

「ま、まぁな。でも、郷子がめっちゃ綺麗っていうことやからね」

「ありがとうねあっくん。それじゃあ、夕食までのんびりしましょうかねぇ」

 そんなこんなで、松江でのコンクールの発表を終えて、夕食の後は、緊張から解放されたためか、郷子も温也も深い眠りに落ちていったのであった。



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