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バドミントン

 小町がやってきてしばらくが経過して、小町も湯田一家や、郷子たちにも慣れてよくじゃれてくるようになった。学校に行く前、郷子は温也の家に行って、小町と少し遊んでから二人で学校に行くのが日課になっていた。

「こまちゃーんおはよう。今日もかわいいねぇ。おーよしよし」

 頭を優しく撫でてやって、しばらく抱っこして小町の温かみを感じながら温也が出てくるまで待って、

「郷子おはよう。さてと学校に行くべェ」

 そこへ泉もやってきて

「郷子さんおはようございます。今日うちらはねぇ、防府市の自動車工場に社会見学に行くんよ~。どうやって自動車ができるのか、見るのが楽しみ♪」

「そうなんじゃあ。じゃあ、うちのお父さんに会うかもね。あとで知らせておこうか」

「うん」

「こまちゃんじゃあね。また帰ったら遊ぼうね」

「にゃ~ん」

 小町も甘えた声を出して、それぞれ学校に向かう3人を見送って、すたすたと自分の寝床にしているソファーのすぐ下のかごの中に入って

「ふにゃ~」

 とあくびをしながら眠りについた。

「ねぇねぇ、こまちゃんだいぶ重くなったねぇ。もうすぐ生後3か月くらいになるんじゃろ?やってきたときはがりがりにやせ細って、本当に大丈夫なのか心配したけど、健康になってよかったね」

「本当。母猫とはぐれてしまって、小町もすごい不安やったと思うけど、ここまで大きく成長してくれたから、もう安心なんじゃね?」

「そうよねぇ。今じゃあ、私たちのちょっとしたアイドルじゃからねぇ」

「あ、これこれ。昨日の夜写した小町の寝顔。うまく撮れてるやろ?」

「わぁかわいい。頭を抱え込んで寝てて、ごめんねしてるみたい。昔ごめん猫ってはやったよねぇ」

「確かに。あれはマジでかわいかったよなぁ。いつしか小町をモデルにした写真集作ってみるか」

「さんせーい。その時は私も一緒に写してね」

「OK」

 やがて学校に着いて、教室に入って一息ついていると、津留美が

「郷子~温也君、こまちゃん可愛いよねぇ。今度私も抱っこしに行ってもいい?」

「いいぞぉ。あ、そうそう、泉がねぇ、またバドミントンの相手してほしいって」

「じゃあ、ひろと一緒にまたこの土曜日に行くわ」

「天気よければいいんやけどねぇ。もう梅雨やから、雨降ったらどうする?」

「その時はまた考えるわ。ひろも泉ちゃんに会いたいみたいやしね」

「じゃあ、また来るとき連絡して」

「わかった~」

 予想通り山口県内も梅雨入りして、雨が降り続く日が何日か続いた。


「もう、雨ばっかりでうっとうしいなぁ。大雨が降らなければいいんやけどねぇ」

「本当それは言えてる。まぁ、今日も部活頑張ろうぜ」

 吹奏楽部の部室に行って、郷子と温也とながちゃんとたかやんと一緒に音合わせ。最初から主旋律なので、音の入りは慎重に、かつ大胆に音を出すような感じで、何回も合わせてきたので、だいぶ納得のいく音が出せるようになっていた。そして、金管パートでの音合わせで、第二楽章はホルンが主旋律を担当するところが多いので、ホルン担当の徳田佐知子(とくださちこ)鍋倉凛(なべらりんと、津田和美(つだかずみ)の3年生3人が息の合った演奏をみせる。さらにトランペット担当の3年生の船平紘一(ふなひらこういちと1年生の青野雄介(あおのゆうすけ日原文子(ひばらふみこなどが金管楽器を盛り上げるべく、一生懸命楽器に息を入れている。

 そうして、お互いに気づいた点やこうしたほうがいいというようなことを意見交換しながら合わせていく。

 金管パートの練習が終わって、木管楽器との合同の音合わせに入ると、まずはチューニングをして、音程を合わせて練習開始。上山先生から

「第二楽章の主旋律がもう少し音強めでもいいんじゃないかしら。佐知子・凛・和美。もうちょっと音を割らない程度に大きい音出せる?」

「はーい。やってみます」

 そして第二楽章のところの最初からもう一回練習。

「いいよいいよ~。今くらいの音を出してね。それから、郷子と温也とながちゃんとたかやん、最初の入りが肝心やからね。出だし気をつけてよ」

「わかりました~」

 やがて練習が終わり帰路につく。

「本番の8月4日まであと一か月半かぁ。だいぶ仕上がってきてはいると思うけど、まだもう少し改善したほうがいいなって思うところがあるんやけどねぇ。一番最後のところ、どうしてもなんか、いきなりぶつって切れるような終わり方になってしまうんよねぇ」

「うん。確かに最後の終わりは俺も気になる。もう少し余韻を残せるような感じで終われたらいいんやけどねぇ」

「もうちょっとイメージトレーニングしておいた方がよさそうやねぇ」

「確かにね。そうそう、今日も小町抱いていくか?」

「うん」

 家の鍵を開けて、中に入ると

「にゃ~ん」

 と小町がとことことやってきて、すり寄ってくる。

「こまちゃーん。今帰ったよ~。う~ん。こまちゃんはいつ見ても美猫さんやねぇ」

 小町は嬉しそうにのどをごろごろ鳴らしている。そうして小町とじゃれあった後、郷子は家に帰っていった。

 やがて土曜日を迎えて、午前中に部活動があったので学校に行って、同じく部活に参加していた津留美と合流して、

「温也君。今日何とか天気も持ちそうなやけぇ、昼済ませたら、家に行くわ」

「OK。泉がねぇめっちゃ楽しみにしてるから」

「わかった~」

「やっぱり泉ちゃん、ひろ君のことが好きなんやろうねぇ」

「まぁどうやろうねぇ?泉にしてみれば、今はまだ、仲のいい男の子の友達みたいなんかもしれへんしね」

「でも、同じスポーツするのが大好きじゃから、もっと大人になったら、カップルになってるかも知れんよね」

「それはありうるね」

 家に着いて、

「じゃあ、昼飯食べたら、郷子も来るやろ?」

「うん。また後でね」

 家に入って、泉を呼ぶ。

「泉~。今日ねぇ、つるちゃんとひろ君がくるって。一緒にバドミントンやろうって言ってたぞ」

「本当?じゃあ、急いで用意しないと」

 昼は冷蔵庫の中にあった、ゆうべの残りのコロッケとサラダを食べて、バドミントンの用意をしていた泉である。

「小町、ちょっと今日はごめんねぇ。今日は遊んであげられへんからね。また夕方一緒に遊ぼうねぇ」

 やがて、津留美と宇宙がやってきた。

「泉ちゃん来たよ~」

「「ひろくん?ちょっと待っててねぇ。今行くから」

「はーい」

 やがて階段を下りてくる音が聞こえて、泉が出迎える。

「津留美さん・ひろくんいらっしゃい。ちょっと上がっていく?」

 宇宙の声が聞こえて、嬉しそうに玄関に出た泉である。

「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」

「つるちゃん、ひろくんいらっしゃい。ゆっくりしていってね」

「はい。お邪魔させていただきます」

「あれ?郷子は?」

「もうすぐ来るんじゃね?」

 少し間があって、郷子もやってきた。

「お待たせマンボー」

「郷子さんも来たし、さっそく校庭で体動かしますかぁ」

「じゃあ、れっちらごー」

「れっちらごー?」

「あぁ、これは俺の家の中でだけ通用する湯田語。行くぜぇっていう意味」

「ふーん。まだ私にもわからん湯田語があるんやねぇ」

 雑談をしながら中学校の校庭に着いた5人。早速バドミントン開始。ラケットを用意して、シャトルを打ち合いながら、皆結構わいわい言いながら楽しんでいた。郷子や敦也は普段あまりシャトルを追いかけまわすっていうことがなくて、バドミントンは幼いころに親と一緒にしたくらいで、素人なため、珍プレーが続出していた。

 一時間くらいシャトル打ち合って、泉が

「ねぇ、津留美さんとひろ君の真剣勝負見せてよ」

 というので、

「いいよ。じゃあ、ひろ、ちょっと試合形式でやろうか」

「OK。泉ちゃんよく見ててね」

「はーい。ひろ君ガンバって」

「おーう」

 そして、津留美と宇宙の真剣勝負を泉は食い入るように見ていた。シャトルをうつ

「バシュ‼‼」

 という音とともにシャトルが左右に行きかう。そのスピード感にすっかり魅了された泉は宇宙がスマッシュを決めるたびに大声援を送っていた。津留美とは3つ年下であるが、姉にも負けないくらいのスマッシュを決めて、激しい攻防が続いていた。やがて、津留美と宇宙の打ち合いが終わって

「どう?泉ちゃんもちょっとやってみる?」

 と聞かれて、

「はい。お願いします」

 と言って宇宙と交代して、津留美からシャトルを打ってもらいながら、まずはラリーの練習をしてもらった。

「どう?泉はバドミントンの選手になれそう?」

「うん。私は筋がいいと思うよ。正確に相手に打ち返せてるからね。どう?ひろと中学ではダブルス組んでみない?」

「私がひろ君と?うん絶対組みたい」

 将来は宇宙と二人でオリンピック目指すのもいいなぁと思った泉であった。

 そんなこんなで夕方になって家に帰宅。

「うーん。いい運動になったわ。私も少しは楽器ばかり吹いてないで、体を動かした方がいいかもねぇ」

「そうやなぁ。俺も久しぶりに体動かしたから、結構足に来たわ」

「私は全然へっちゃら。おなかすいたからおやつ食べようっと」

「郷子もビスケットがあるから、お茶にするかえ?」

「サンキュー。喉乾いた~」

「ミャオ~ン」

 小町がやってきて、郷子の脚にすりすりし始めた。

「こまちゃん帰ったよ~。抱っこ~」

 小町も郷子が帰ってきたのが嬉しいのか、郷子の腕に抱かれながら気持ちよさそうに目を閉じて、寝息を立て始めた。

「う~ん。このかわいい寝顔、いつ見ても癒される~」

「いいなぁ。俺も郷子の腕に抱かれてみたい…」

「だめ。あっくんと私が結婚したら腕枕してあげる。それまではお預け」

「小町が羨ましい…」

「こまちゃんに嫉妬しないの。でも、あっくんにそう言ってもらえるのは嬉しいけどね」

 やがて郷子も家に帰る時間となり、小町をトントンと軽く起こして、床にそっと置くと、小町はおなかが空いたのか、小町が使っているエサ用の茶碗で残していたキャットフード尾を食べ始めて、小町用のベッドに行って再び眠り始めた。家に帰って郷子は

「そろそろ夏休みの計画立てておこうかな」

 とレノファの試合の日程を確認してみる。夏場はナイトゲームが多くなるので、中学生が遅くまで試合観戦するわけにはいかないだろうなと思い、望と桜に相談してみることにした。

「ねぇねぇ、7月のレノファの試合、お父さんかお母さんが一緒に観に来てくれない?」

「7月はナイトゲームやからなぁ。温也君は行くって言ってるの?」

「まだ誘ってないけど、一緒に行ってくれるんじゃないかなって思う。中学生だけで夜9時過ぎまで外出するのはちょっと校則でも禁止されてるからね。お父さんかお母さんが来てくれたら嬉しいんじゃけど」

「試合はいつあるん?」

「7月6日の土曜日」

「えっとねぇ、その日は空いてるから私は大丈夫。お父さんは?」

「俺は休日出勤が終わってすぐやから、たぶん行けんと思う」

「じゃあ、私が一緒に行こう」

「ホント?有難うお母さん」

「温也君の予定も聞いときなさいよ」

「はーい」

 その夜温也にラインで

「7月6日の夜ってなんか用事ある?私のお母さんについてきてもらうことになってるんじゃけど、レノファの試合観に行かん?」

 少しして温也から

「6日の夜?えぇっとねぇ。多分大丈夫。今度は俺が何か夕食作って持っていこうか?」

「あっくんが?何作ってくれるの?」

「俺が作れるって言ったら、コロッケかなぁ?」

「じゃあ、私も一緒に作ってもいい?」

「じゃあ、6日の14時くらいにうちに来るか?」

「わかった。そっちに行くね」

 こうして、鹿児島戦を観戦できることになったのであった。

 そして、6月も後半を迎えた。雨降りが続くが、もうすぐ本格的な夏がやってくる。夏休みは何しようかなと考える郷子なのであった。


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