第50話 自白魔法
キッチンで七海さんと間違えて見知らぬ女性に抱き着いてしまい気まずい気分なまま、ボク達はリビングへ移動して来た。どうやらこのお家はかなり広いっぽい。てっきりワンルームかと思ったら家族で住むような広さですよ。
七海さんと似た女性が淹れてくれた珈琲にミルクをタップリと入れて頂きます。まずは自己紹介ですね。
「ユウ君、この人は私のおば――」
「天王寺紫苑です。私の事はシオンちゃんと言うように」
「え、えっと、ユウタですー! シオンちゃん、さっきは失礼しました。えへへ、シオンちゃんは七海さんとソックリなので間違えちゃいました。テヘペロー」
「ふふ……七海と間違えたなら仕方ありませんね」
なるほど、この七海さんとソックリな女性はシオンちゃんと言うのか。良く見たら髪の長さが違うけど、ボクの目には姉妹のように見えるのでした。そう言えば七海ママとも似てる気がする。
七海さんがシオンちゃんを紹介する時、『おば……』って言ってたから七海ママの姉妹かもしれない。七海ママが病院のオーナーみたいな感じだったし、このシオンちゃんがこのマンションのオーナーって事か!?
つまりボクはシオンちゃんにタダでこのお家を貸して貰えるのである。いつまで住めるのか知らないけど、媚を売っておくのが良い気がして来たぞ。ふふ、この閃きからしてボクの賢さが10くらいなってる予感!
「こんな凄いお家を貸して頂けて嬉しいです。ありがとうございますー!」
「これくらい別にどうって事ないわ。それに七海を助けてくれてありがとう。七海も良い彼氏を捕まえたわね」
「ありがとうございます、紫苑様」
ふむ、どうやら七海さんはシオンちゃんの事を紫苑様と呼ぶらしい。ボクも言い直そうかと思ったけど面倒くさいのでこのまま行こうと思う。
それからシオンちゃんと三人で部屋を案内して貰いました。もうボロアパートと比べるのが失礼なほどに綺麗なお家なのでした。家具とか全部あるし、ボロアパートから持って来るものは少なくていいかも?
「さっき業者を手配しておいたから明日の午後に受け取りをお願いね」
「わかりましたー!」
シオンちゃんが引越しの手配をしてくれたらしい。明日は土曜日でお休みだし荷物整理には持って来いだな。でもホッシーとの飲み会もあるんだった。まあそれは夜からだし何とかなるか!
リビングに戻って雑談を楽しんだ時、シオンちゃんから思わぬ話が来た。
「そろそろ本題に入りましょうか。実はユウタさんが七海の相手に相応しい方なのか調べに来たんです」
「えええええっ!?」
「紫苑様! これは私とユウ君の――」
「七海は黙っていなさい」
まさかの身辺調査ですか!? 七海さんはお金持ちのお嬢様である。ボクみたいなショタ属性以外に魅力が無い男が相手じゃ不安なのも頷ける。
シオンちゃんは天王寺家の中でもかなり高位なお方なのだろう。黙ってろと言われた七海さんがシュンとしてしまった。
ここは彼氏としてビシィっと決める時だな。
「分かりました。何でも聞いて下さいー!」
「ふふふ、良い子ですね。その前に一つだけ私の特技を披露しましょう。実は私、魔法を使えるのです。これは一族の中でも極少数の者しか知らない秘密、もちろん他言無用ですよ?」
「ご、ゴクリ…………」
急にシオンちゃんが魔法を使えると言い出した。きっと一週間前の自分だったら胡散臭いものを見る目をしたであろう。だけどダンジョンを攻略した今なら信じられる。つまりシオンちゃんもダンジョン攻略者か!?
「ユウタさんのようにダンジョンで手に入れた魔法ではなく生まれつきです。その魔法ですが、どんな質問にも答えさせる自白魔法のようなものが使えるのです」
「へ、へぇ~。生まれつきですかぁ。す、凄い魔法ですねー」
ニヤリと笑うシオンちゃんが不気味で怖かった。ダンジョンアタックが出来る事は七海さんと七海ママにしか言ってないのにバレていた。どこから情報を仕入れたのだろうか。
それに何ですか自白魔法って。隠し事があってもペラペラ喋っちゃう危険な魔法じゃないか! 別にやましい事はないよ? でも何故だろう、ボクはキョロキョロと目が泳いでしまうのでした。
「あらあら、その顔は信じて無いですね」
「そ、そそそ、そんな事ないですよー!」
「いいでしょう。ユウタさんには身をもって体験して貰いましょう。七海も良く見ているのですよ」
「はい、紫苑様」
「あのあのっ、ボクは信じてますからそういうの要らないと思いますー!」
ボクの必死の抵抗も虚しく、シオンちゃんの鋭い視線がボクを射抜いた。まるで斬鉄剣パイセンのような鋭い視線に目が離せない。これが自白魔法!?
「ユウタさんに質問です。私は何歳でしょうか?」
「っ!?」
何だこの質問は? シオンちゃんは七海さんのお姉さんと言っても過言では無い美貌の持ち主だ。でも七海ママのお姉さんだとした場合……そんな事を考えていたらボクの口が勝手に動き出した!
「シオンちゃんは七海さんのお姉さんかと思いましたけど七海ママのお姉さんですよね? う~ん、40歳くらいだと思いますー! って、何ですかコレ!? 口が勝手に動きましたよー!」
「ふふ、どうですか私の自白魔法は。私の前では嘘が吐けないのです」
「はわわわ、凄いですー」
この魔法の怖いところはいつ魔法に掛かったのか分からないところだ。ボクの時魔法は愛棒をタッチしないと発動しないからね。
でも自白魔法の恐ろしさはここからだった。
「では次の質問です。ユウタさんは七海のどこが好きですか?」
「えっ、そ、それはっ!」
マズい、これは危険な質問だ。賢さが6しかないボクはアホな回答をハッキリと言ってしまうだろう。それはヤバい、七海さんに嫌われちゃうかもしれない……。
「どうしたのかなユウ君? 遠慮しないでいいよ」
横から七海さんがニッコリと笑顔を向けて来た。アカンです。昨夜のお風呂シーンが頭から離れないのだ。
「あっ、えっと、その、七海さんはスタイルが良くて綺麗で良い匂いがして、あとあと、長い髪が素敵ですー! そ、それとお胸が大きくて柔らかくてエチエチで、ボクはそんな七海さんが大好きですー!!」
ああ、言ってしまった。これが自白魔法の恐ろしさなのだろう、ボクは身を持って知りました。
「良かったわね七海」
「はい、紫苑様。どうもありがとうございます」
あ、あれ。こんなアホな回答だったのに喜んで貰えたようだ。七海さんも頬を赤くして嬉しそうなのだった。これでいいのか?
「でも男という生き物は常に新しい女を求めるもの。これはオスという生物が自分好みのメスを見つけたら種付けして子孫を残そうとする言わば本能と言っても過言ではありません。だから七海、もし貴方がユウタさんを愛していると言うのならば慢心せずに己を磨き続け、死力を尽くして虜にしなさい」
「分かりました!」
「……えっと、ボクは浮気なんてしませんからね?」
目の前でこんな事を言われるのは心外です。七海さんのように綺麗な彼女が居て浮気する訳ないのにね。
そんなボクの回答を聞いたシオンちゃんがニヤリと笑った。何だろう、背筋がゾクゾクします。
「…………ふふ、じゃあユウタさんが親しい女性の事をどう思っているのか質問してみましょうか」
「そ、それはダメですー! あのあの、プライバシー侵害だとおもいまーす! えっと、ちょっとトイレに行って来ようかな」
一流冒険者であるボクは危険察知にも長けているのです。今は戦略的撤退だ!
でも魔王とラスボスからは逃げられなかった。
「どうしたのユウ君? やましい事なんて無いんだよね?」
「ちょっ、七海さん離して~。はうっ、こんなのズルいですよー!」
「うふふ、これでもう逃げられないね。ユウ君の髪サラサラで良い匂いがするね。クンカクンカ」
非力なボクは強引に七海さんの膝の上に座らせられ、後ろから抱き枕のようにギュッとされてしまった。背中にムニュムニュと柔らかい感触が気持ち良いです。
「じゃあユウタさんに質問です。アルバイト先で姫ちゃんと呼ぶ後輩が居ますね? 性的な目で見たり浮気しようとか考えた事は無いですか? どんな事したいですか?」
「っ!?」
その質問をされた時、ボクはドキッとしてしまった。どうしてシオンちゃんはボクのバイト先の事まで知っているのだろうか。
いや、今はそれどころじゃない。あのEカップのワガママボディな姫ちゃんとワンナイトラブとか考えた事が無いかという質問をされてしまったのだ。そんなのあるに決まってるじゃないですかー!! あんまり童貞を舐めないで頂きたい。プンスコですよ。
20年間伊達に童貞やってませんからね。つらつらと口から欲求がこぼれていくのでした。
「え、えっとぉ、姫ちゃんは背が小さいのにエチエチなEカップを武器にボクを誘惑してくる小悪魔系な女の子なんです。バイト先の制服がメイド服なんですけど、超ミニなスカートでニーソックスまでしてるんです! あの見えそうで見えない絶対領域が凄くて、おっぱいも凄くて、童貞なボクには刺激が強すぎて、もうサキュバスみたいな姫ちゃんはとても良いと思います。あとあと、姫ちゃんの足元に寝そべって下から見上げたら凄い景色が見れると思いますー!!」
我ながら酷い回答だった。くっ、自白魔法には勝てなかったよ。七海さんの顔が見えない事だけが救いだった。でも七海さんの締め付けが強くなったのは気のせいですかね?
「ほら見なさい。男というのは頭の弱い生き物よ。頭では冷静になっているつもりでも、最後は下半身で決めてしまうの。天王寺家の女として生まれたからにはしっかりと男の手綱を握っておくのよ。分かったわね、七海?」
「はい、肝に銘じておきます」
「……うう、浮気なんてしませんよぉ」
ボクはそう言うしか出来なかった。っていうか自白魔法は卑怯です。ズルいぞー!
「さて、今のは自白魔法のテストのようなものです。ユウタさんは身を挺して七海を守ってくれた素敵な男性であり、浮気もしない一途な男性という事ですね?」
「えへへ、もちろんですよー! ボク、七海さんを愛していますから浮気しませんー!」
今のがテストですか? つまりまだ始まったばかりと?
「実は七海から聞いたダンジョンの話を詳しく聞きたいのですが、質問に答えてくれますか?」
「えっ…………?」
どうやらここからが本番だったようです。




