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本当にそれ、ダンジョンですか?  作者: ポリエステル100%
ひよっこ冒険者の章

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第39話 舞台裏(薫視点):長い一日の終わり


 ビアンカ様の殺害予告を堂々とスルーした紫苑さんに驚きつつも、運命の時は刻々と迫って来ていた。


 無線でひっきりなしに情報が飛び交い、いつでも動けるように皆ピリピリとしているのを肌で感じていた。


 だけど、そんな僕らの気も知らない喫茶店の一角ではピンク色の空間が出来上がっていた。何故か突然大きな声で告白しているのだ。しかも七海ちゃんではなく友人の女の子に。





――盗撮しているモニターを皆で覗き込む。


『七海さんはとても素敵な女性だと思います。突然フラれたあの日からボクは彼女の事が気になって気になって、大学で見かけてもついつい目で追うようになりました』



――本当に可愛い男の子だ。アホっぽいけど。


『あの日、七海さんがボクにああ言った理由は分かりません。でも、泣きそうな彼女の顔が今でも目に焼き付いています』



――でも何故だろう、彼からは決死の覚悟が感じられた。あの顔は演技じゃない、何故かそう理解出来た。


『悲しい顔をした彼女の顔は見たくありません。彼女には笑っていて欲しいと思っています。ボクに微笑んでくれたら最高ですけどね……』



――まるで絶望の淵から這い上がって来たかのような男の顔は、男の僕から見てもカッコ良かった。


『ボクは女性の笑顔が好きです。七海さんの笑顔が見たい。ボクが七海さんを笑顔にしてあげたい。ちっぽけなボクじゃ頼りないかもしれないけど、力になりたい。心からそう思います』



――僕は一瞬で彼の事が気に入った。娘を持つ父親として、こんな男になら大切な娘を任せられる…………そう思ってしまった。


『ヘタレなボクじゃ彼女には相応しくないと思っています。でも、こんなボクでも七海さんが笑ってくれるのなら何だってしてあげたいと思います。だってボクは、七海さんに一目惚れしちゃいましたから!』





 ああ、良いなこれ。まるで舞台を見ているようだ。


「どうしたんですか薫さん、涙が出てますよ?」


 葉月ちゃんの言葉で頬を伝う涙に気付いた。そうか、自分の娘が嫁ぐ場面を想像してしまったのだ。でもうち娘は結婚出来るのだろうか……。


「そういう葉月ちゃんも涙が出てるよ」


「えっ、あ、あれっ?」


 どうやら葉月ちゃんも気付いてなかったらしい。自然と肩を寄せて舞台を見る。


「はぁはぁ、おにーちゃんカッコイイ…………キュンキュンしちゃう…………はぁはぁ、食べちゃいたい……」


 ビアンカ様が気になって視線を向けたら頬を赤くしてウットリとしていた。見なかった事にしよう。



 誰もが固唾を呑んで見守る中、ヒロインが動き出した。


『私も好き、貴方を初めて見た時から好きだったのっ! あの時は言えなくてごめんなさい……!』


 さすが玲子さんの娘だと思った。綺麗で輝いていて、まさに物語のお姫様のようで、あの頬を赤くした恋する乙女の表情はどんな女優さんにもマネできないだろう。


 よし行けっ、男ならここでビシッと決めろ! きっと僕ら以外の観客も同じ事を思っているのだろう。


 手に汗が滲む……。



――いけっ、自分の気持ちを伝えるんだっ!!!


『七海さん、ボクとお付き合いして下さい!』


『うん、宜しくねユウタ君!』



 その瞬間、割れんばかりの拍手が巻き起こった。


 僕らは歓声を送る事が出来ないが、惜しみない拍手を送った。ああ、凄い場面に立ち会ってしまった。これが青春か……。


「良かったですね、玲子さん」


「は、恥ずかしいですわ」


 玲子さんも嬉しそうだ。


「シオンちゃんも嬉しそうです」


「うふふ、なかなか見どころのある子ね」


 紫苑さんも満更じゃない顔をしている。


 そしてビアンカ様は……。


「はぁはぁ、ヤバい、おにーちゃんカッコイイ、エッチしたい……ベッドに拘束してもう無理って泣きながら許しを請うまで焦らしてR18(グチョグチョ)にしたい、はぁはぁ、我慢出来ないよぉ」


 発情していた。


 僕は見なかった事にして珈琲を口に含んだ。何故だろう、ブラックコーヒーのはずなのに凄く甘いのだった。





 そんな甘い雰囲気がしばらく続いた後、ビアンカ様が動き出した。


「さてと、じゃあビアンカちゃんはそろそろ行くね」


「えっ、どこに行かれるのですか?」


 これから奴が来て事件が起こる。それをここで見守るんじゃなかったのか?


「本当は見守るだけにするつもりだったんだけど、あんなに嬉しそうなおにーちゃん見ちゃったからね……コッソリとフォローしてあげようと思って。それにね、ななみんが可愛いくて気に入っちゃったんだ♪」


 ビアンカ様が嬉しそうに笑っている。


「じゃあおねーちゃん達、また会いに行くからおにーちゃんをよろしくね~」


 そうしてビアンカ様はサラサラと霧のように消えてしまった。夢を見ていたかのように一瞬で消えてしまったのだ。


「消えちゃいました……」


「誰かに見られてないかしら」


「はぁ、監視カメラのデータも回収しないと危険よね……」


「今度会ったら常識とかを教えた方が良いですね」


 僕達はビアンカ様との別れが寂しいとかそんな気持ちが出て来る訳でもなく、違う心配をしてしまったのだった。





 そして運命が動き出した。


『緊急連絡。駐車場にスポーツカーが猛スピードで侵入。中からキムタコと思われる男性がナイフを持って店内に向かいます!』


「全員配置に着きなさい。合図があるまで動かないように。もし被害が出たらすぐに確保しなさい」


 紫苑さんの指示が飛び、そしてヤツが現れた。店内に緊張が走る。


 ふとモニターを見たがユウタ君の姿が見えない。確かトイレに行ったまま出て来ていないはず……?


 そして……。


「ななみぃぃぃぃ!! 俺をコケにしやがったなぁぁぁあああ!!!」


 狂人がナイフを振り上げた。あの鋭いナイフは容易に七海ちゃんを切り裂くだろう。


 でもそうはならなかった。さっきまで居なかったはずの彼が急に現れたのだ。まさに瞬間移動してきたかのような出来事に僕は目を疑った。


「危ないですよっ!! そんなナイフ持って何するつもりですか!?」


「何だ貴様っ! 俺の邪魔をするなっ!!!!」


 その構図は大人と子供だ。必死に取り押さえているがかなり不利だろう。


 チラッと紫苑さんに顔を向けたが首を振られてしまった。どうやらビアンカ様の合図を待つようだ。


 僕は葉月ちゃんの手を握って祈った。




「クソガキがー!! 邪魔をするなああああぁぁ!!!」




 モニターからは見えないが少年は床に押し倒され、狂人がナイフを振り落とした。ああ、これは見ないでも分かる。悲鳴が答えを教えてくれる。


「やりなさい!」


 結局ビアンカ様からの合図は無かった。これ以上はダメだと判断した紫苑さんの一言で一気に片付いた。


 狂人は一瞬にして拘束された。少年の頑張りは何だったのかと思う程にあっさりと……。


 そこからは迅速だった。駐車場に用意されていた特殊車両に乗せられたユウタ君は治療を受けながら病院に運ばれたのだ。


「これで良かったんですか、ビアンカ様……?」


 僕は小さく呟いた。やっぱりユウタ君が刺される前にやれたのではと思ってしまう。だけど……。


『あはっ、カッコ良かったね~。愛する人を身を挺して守るなんてキュンキュンしちゃう~。おじさまは約束守ってくれてありがとね♪』


 どこからかそんな声が聞こえたような気がした。




   ◇




――とある収容所、薄暗い監獄に収容された男は怨嗟の声を上げていた。


「なぜだ、なぜころせなかった……どうして邪魔された? あのガキ、ころす、つぎはゆるさん、ななみもしね、がきもころす、つぎはぜったい…………!!」




――狂人の他に誰も居ない貸し切りの監獄、その薄暗い空間で監視カメラに向かってブツブツと不気味な声を上げる中、男の視線が横を向いた。


『あら~、随分と辛気臭いところに居るんだねー。ビアンカちゃんが遊びに来たよ~♪』


「だ、誰だお前は!?」




――だがしかし、監視カメラには何も映っていなかった。男は壁に向かって一人芝居を始めた。


『ねーねー、おにーちゃんをブスっと刺した時の感触はどんなだった?』


「へ、へへっ、感触ぅ? ナイフがスーッと入ってな、まるで高級ステーキみたいだったぜ? いや、あれはもっと柔らかかったなぁ」




――男が急に蕩けた顔をして涎を垂らした。


『そっかー。ところでさ、実はちょっと反省してたりするー?』


「反省だぁ? する訳ないだろ。へへっ、おれはジョニーズ事務所のキムタコ様だぞ? 明日にはおれの無実が証明されて外に出られる。へへ、あれは単なる事故で処理されるんだぜ。そうしたら今度こそあのガキと七海、まとめてぶっ殺してやるぜぇ」




――男が壁に向かって愉悦の笑みを浮かべた。


『そっかそっか。やる気満々ってやつだね~。いいねいいね、そんなに元気だったらビアンカちゃんが特別に居場所を用意してあげようか? 天国みたいに綺麗な場所でななみんと同じくらい美人なお姉さんが遊んでくれるの。本当だったら相応の対価が必要だけど、今日だけの特別大サービスでタダだよ?』


「居場所だと? ははっ、お前がおれの居場所を用意するのか? いいな、それは傑作だ。おれに相応しいような美しい舞台を用意しろっ!!!」




――男は大きく笑った後…………急に倒れ込んだ。


『うひひ、契約完了だね。戦乙女の戦場っていう舞台があるんだけど、知ってる? まるで天国のように美しい大地で、もう何万年も天使と悪魔が戦争してる頭のおかしいところがあるんだ~。天使軍を率いているヴァルちゃんが何度でも死ねる不死身の下僕をご所望でね、やる気満々なヤツを連れて来て欲しいってお願いされてるんだー』


「な、何を……言って、いる…………? お、お前は……悪魔、だろう? 何故……天使…………と…………」




――そして男は動かなくなった。


『何で天使と仲良しなのかって? えへへ、ヴァルちゃんって両性具有なんだよね。戦争で楽しんだ後のヴァルちゃんってさ、もうギンギンに勃起しちゃって凄いんだよ? 低級サキュバス(うちの子)がアヘ顔晒して気絶しちゃうくらい凄いんだから~。つまりね、サキュバスの館の常連さんなのでしたー! もちろんビアンカちゃんは相手にしてあげないけどお友達なんだ~って、もう聞こえてないか。あースッキリした』




 翌日、テレビのトップニュースを独占するのは一人のイケメン俳優の不審死だった。


今日から『ドロドロ~』の方も更新しています。良かったら読んで下さいー!

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