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本当にそれ、ダンジョンですか?  作者: ポリエステル100%
ひよっこ冒険者の章

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第35話 舞台裏(薫視点):脅迫ビアンカちゃん


「ううっ……頭痛い、なんだこれ……」


 その日の目覚めは最悪だった。目の奥が焼けるように痛いのである。これはまるで能力を使い過ぎた時のような痛み……?


 僕が大学生の頃に突如として授かった鑑定という特殊能力は、人や物の情報を知る事が出来る夢のような能力だった。特に人物鑑定は今日の占いという項目があり、その日に起こる良い事や悪い事を教えてくれることがある。


 大学在籍中に黒川葉月(くろかわはづき)ちゃんと結婚し、今日まで幸せに暮らして来た。それもこれも全部鑑定能力のお陰である。この占いで助けられたことは数え切れない程あるのだった。でも……。


「こんな痛みは初めてだ……もしかして使い過ぎた? くっ……」


 最初は一日に数回しか使えなかったこの鑑定能力も、今では大きな制限も無く使う事が出来た。気にせずバンバンと使って来たツケが回って来たのだろうか。


 目の奥にナイフを突き刺されたかのような鋭い痛みが止まらない。


「大丈夫ですか、薫さん? 顔色が悪いですよ」


「ごっ、ごめん。起こしちゃったかな」


 隣で眠る僕の最愛の妻である葉月ちゃんを起こしてしまったようだ。起き上がり不安そうな顔で僕を見つめて来る。


 歳の事を言うと葉月ちゃんは怒るけど、今でも若々しくて綺麗である。先日のメイドさんのいる喫茶店での情報が何故か葉月ちゃんにバレてしまい、メイドさんの恰好をした葉月ちゃんに絞られたのはつい最近の事である。


「薫さん目が真っ赤ですよ? ちょっと冷やしましょう」


「ああ、大丈夫。自分でやるよ。ちょっと顔洗って来るね」


 心配そうにする葉月ちゃんに断りを入れて洗面所に向かった。鏡に映る自分の顔を覗き込めば、葉月ちゃんの言ったように目が真っ赤なのだ。まるで悪魔のように……。


 さすがにこれは何かあると思ったので自分を鑑定してみた。鏡に映る自分を見つめ、自分の事が知りたいと願った。


 すると鏡に映る自分から漫画の吹き出しのようなものが表示された。これが僕の鑑定スキルである。



黒川薫(くろかわかおる)

天王寺グループで働くアラフォーのフツメン。

大学時代の親友である天王寺玲子(てんのうじれいこ)の元でシコシコ働いています。

仲の良かった修二(しゅうじ)君は海外転勤中ですー。

子供は三人いるけどみんな家から巣立って行っちゃったねー。

実はコッソリと四人目を狙っている頑張り屋さん。


 ※今日の運勢※

結果次第ではこの能力も今日が最後の日かもしれません。

クエストに失敗しないよう全力で頑張って下さい♪ ふぁいとー!


 ※運命クエスト※

異界の魔神ビアンカ様の強制介入――



「っ!?」


 今まで見たことのない赤文字で記載された運命クエスト……何だろうこれは。


 しかも異界の魔神ビアンカとは一体……?


「きゃっ! 誰ですかあなたっ!」


 寝室から聞こえた葉月ちゃんの悲鳴を聞いて急いで戻る。するとそこにはセーラー服を着た美少女が立っていた。しかも何故か金色に輝く剣を持っている。


 長い黒髪のポニーテールが美しい彼女だが、見ているだけで心を揺さぶられる色気があった。



【ユウタの嫁ビアンカちゃんでーす♡】

スリーサイズ? えー、知りたいの~? ここに奥さんいるでしょ? いいのー?

うひひ、この世界にも鑑定なんてあるんだね? ちょっと借りちゃった♡

でも占いまであるなんて変わった鑑定だよね~。ぷち未来予知ってやつ?

まぁ悪いようにはしないから仲良くしようね、おじさま♪


※今日の運勢※

ビアンカちゃんの未来なんて見える訳ないでしょー?




「異界の魔神ビアンカ様……?」


「あはっ、大正解♪ ちょっとお願いがあるんだよね~」


 彼女は薄っすらと笑みを浮かべて僕を見つめた。僕よりも年下に見える色気の凄い美少女だけど、気を許したら殺されそうな底知れぬ迫力があった。


 こんな摩訶不思議な状況はボクの鑑定能力が関係しているに違いない。いつの間にか目の痛みが治まっていたのだ。


「分かりました。僕で良ければお手伝いさせて頂きます。でもその前に、その物騒なモノをどうにかして頂けないでしょうか……?」


「あ、ごめんねー。これ剣に見えるけど斬れないし、単なる金の塊だよ。ほら、全然斬れないでしょー? 魔力全部貰っちゃったから要らないし、おじさまにプレゼント♡」


 ビアンカ様が自分の腕に刀身を当てて引いてみたが何も起こらなかった。僕に渡された剣は予想以上に重く、これを片手で軽々しく扱うこの美少女は人間では無いのだと理解出来た。




   ◇




 さすがに寝室で話すのもどうかと思ったのでみんなでリビングに移動した。


 今日は偶然にも僕達二人だけだから良かったけど、ここに葉月ちゃんのご両親が居たら大変な事になっていただろう。


「ど、どうぞ。珈琲です」


「ありがとー。あはっ、おねーちゃん達昨日も頑張ったんだね? お~、いけっ、がんばれっ、そこだっ、もうちょいっ、お、おおおっ、入った~♡」


 ビアンカ様が葉月ちゃんの下腹部を凝視して何か叫んでいた。


「えっと、私に何か?」


「うひひ、元気な精子だったね~? いまタマゴにオタマジャクシがニュルンって入るところ見ちゃった♡ でもこのままじゃ流れちゃいそうだね~…………そうだ!」


「えっ、なんですか!? ああんっ!」


 ビアンカ様が葉月ちゃんの下腹部に手を当てたところピンク色に光り輝いた。もしかして今のは……。



黒川葉月(くろかわはづき)

黒川薫のお嫁さんで三児の母です。実年齢は……おっと、これ以上は言えません。ぴちぴちです!

子供がみんな巣立っちゃったからちょっと寂しいと思う美少女です。少女?

異界の魔神ビアンカ様の加護を受け、たった今四人目が確定しました~♪

さすがビアンカ様、マジぱねーっすわ~。ちなみに産まれるのは女の子です。ちょー健康優良児で美人さん。ヤバイね!!



※今日の運勢※

ビアンカ様のためにお手伝いを頑張ろう♪


※スキル※

異界の魔神ビアンカの加護 ←NEW



「はいっ、着床完了♡」


「っ!?」


「あはっ、おじさまったら覗き見が大好きだねっ。それが報酬の先渡しだよ~」


 昨日まで無かったはずのスキルが葉月ちゃん付与されていた。そして鑑定によれば生まれてくる子供の情報まで書いてある。こんなに早い段階で確定するのもビアンカ様の加護のお陰なのだろうか。


「ビアンカ様、こちらの加護というのはどのような効果が?」


「ん~、基本的には美容と健康に大きく補助が掛かる感じかな? ずっと若々しくなれるんだよー。女の子だったら誰もが欲しがるビアンカちゃんの加護で~す」


 凄い加護だ。きっとこの話を玲子(れいこ)さんのお母さんである紫苑(しおん)さんに話したらどんな事をしてでも入手しろって言いそうだ。


「本当ですか!? そんな加護が私に……薫さん、私綺麗になりました?」


「う、うんっ! でも葉月ちゃんは加護を貰う前から綺麗だよ?」


「もう薫さんったら恥ずかしいですよ~」


 葉月ちゃんが嬉しそうだ。どうやらビアンカ様の事を信用しているのか楽しそうに会話している。


 ちなみに、後から聞いた話だけどこの加護、ちょっと性欲が増すらしい。頑張ってと励まされてしまった……。





 ビアンカ様がミルクと砂糖をこれでもかとドバドバ入れて珈琲を飲んでいる。葉月ちゃんもビアンカ様に心を許したようで席に着いていた。


「それでビアンカ様、お願いと言うのは何でしょうか?」


「実はね~、今日の15時くらいに『紅茶とどら焼き』っていう喫茶店で大事件が起きるの。キムタコって知ってる? そいつがナイフ持ってななみんを殺しに行くんだよー」


「ななみんって、もしかして七海ちゃん!?」


「アタリ~。お腹にブスっとナイフが刺さって血がドバーっと出て、あれはかなり危険だねー」


 どういう事だ? 確か七海ちゃんの鑑定をした時はキムタコのストーカー被害は『彼』が何とかしてくれると書いてあったはずだ。


 玲子さんが調べさせた情報によればユウタという名の可愛い男の子だったはず。そう言えばさっきビアンカ様を鑑定した時にユウタの嫁と出ていたような。もしかしてこの目の前の美少女が嫉妬して七海ちゃんを……?


「うぐっ!!」


 そんな事を考えたところ心臓が握り潰されるような圧迫感を感じた。思わず顔を上げるとそこには僕を冷めた視線で見つめる女王様が居た。


「なーに? このビアンカちゃんがキムタコを操ってななみんを殺させようとしてるとか思ったのかな? あんま変な事考えないでよねー。可愛いおにーちゃんの邪魔する訳ないでしょ?」


「か、薫さん!?」


「だ、大丈夫だよ葉月ちゃん。失礼しましたビアンカ様、お許し下さい」


「うんうん、みんな仲良くしようねー」


 この女子高校生にしか見えない女性は人間では無い。さっきまでフレンドリーに接していたから勘違いしてしまったが、相手は異界の神なのだ。


「でも安心していいよ。ななみんはおにーちゃんがしっかりと守ってくれる。だからかすり傷一つ負う事は無いって約束出来る」


「そ、そうですか……」


 ヤバい、胃が痛くなってきた。この女王様は僕にいったい何をさせたいのだ。七海ちゃんを彼が守るというのなら何も問題にならないのでは……?


 葉月ちゃんもハラハラドキドキしながら僕達を見ていた。


「でもねー、何か血の匂いがするんだよねー」


「つまり警備を強化して……」


「ダメダメ、それじゃおにーちゃんのカッコイイところが見れないでしょ? だからさ、おにーちゃんが頑張った後のフォローをお願いしたいの。ほら、犯人確保とか怪我人の救護とか色々あるでしょ?」


「それは……」


 時刻を確認すると朝の7時を回ったところだ。ビアンカ様の言う犯行時刻が正しい場合、あと8時間を切っている。


 僕の力なんて人を鑑定するだけであり、国家権力を動かすなんて無理だ。


「薫さん、玲子お姉様に相談しましょう。それが無理そうならシオンちゃんです」


 日本の主要産業を根底から支え続ける天王寺グループ、そのトップである紫苑さんなら出来るかもしれない。彼女なら国家に強いコネがあるはずだ。


「分かった、まずは玲子さんに相談してみるよ。ビアンカ様にもご協力をお願いしたいのですが……」


 ビアンカ様を見ると珈琲に砂糖を追加していた。昔、千葉とかの一部地域で限定販売していた激甘な缶コーヒー、それを超える甘さの珈琲を美味しそうに飲んでいた。


「うん、いいよ~。どうせおにーちゃんが来るまで暇だし、この世界を観光するのも楽しそうだよね~」


 よし、これで何とか話が通じるだろう。後はどうやって玲子さんを説得するかだな……。


 そうして僕の長い一日が始まった。

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