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本当にそれ、ダンジョンですか?  作者: ポリエステル100%
ひよっこ冒険者の章

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32/119

第31話 契約はしっかりと確認しましょう!

※まえがき※

連続投稿しております。

読み飛ばしにご注意下さい。

(2/5)


 気が付いたら自分の部屋に居た。あれからどうやって部屋まで帰って来たのか良く覚えていない。


 突然の出来事に何も出来なかったボクは、本当に情けない事に何も出来なかったボクは、ただただ見ている事しか出来なかったのだ。


 あの後警察や救急車が来て七海さんは運ばれて行った。必死に呼び掛けるミキさんが付き添いで救急車に乗り込み、ボクは残って警察から事情聴取を受けていた。


 残ったという言い方は少し語弊があるかもしれない。正しくは足が動かなかったのだ。


「もう夜……七海さん大丈夫かな……ううっ、どうしてボクはあの時咄嗟に庇えなかったのだろう、どうしてボクはあの時ブレスレットを渡さなかったのだろう……くそっ!」


 勢い良く投げ捨てたバリアシステム先生がベッドにボスンと沈んだ。今頃になってボクの目から涙が溢れているのだ。本当に自分が情けなく、本当に自分が嫌いになっていく。


 このまま七海さんが死んでしまったら……考えるだけで胸が苦しくなる。


「これから、これからだったのにっ!! ボクと七海さんの人生はこれからっ、う゛っ……う゛う゛う゛っ…………七海さん……!」


 人生で一番泣いた。涙が枯れるくらい泣いた。でもボクの心はポッカリと穴が空いたように空虚であり、その隙間を後悔が埋めていた。七海さんは治療中だろうか……お友達になったというのに連絡先すら知らないのだ。せめてミキちゃんの連絡先くらい聞いておけばよかった。


 どれくらいこうしていただろうか、喉が枯れ、目から何も出て来なくなった。




「あはっ、情けないおにーちゃんみーっけた」




 縮こまって泣いていたボクに声が聞こえた。


 顔を上げるとそこには悪魔(天使)が居た。ボクの大好きなポニーテールにセーラー服を着ている。しかもミニスカートにニーソックスというボクの好みを覚えていてくれたのだ。ボクの事を好きだと言ってくれた悪魔的に可愛い女の子。


「ビアンカちゃん……?」


 ボクはいつの間にか夢の世界に来ていたのだろうか。いや、ここは間違いなくボクの部屋だ。でも何故だろう、ビアンカちゃんにキスをされた首筋が熱いのだ。


「おにーちゃんはビアンカちゃんのお気に入りだからね、いつも見てるんだよ~。それよりもおにーちゃん、七海ちゃんだっけ? あの子の事、助けてあげたい?」


「も、もちろんだよっ! 助けられるなら教えてくださいっ!」


 ボクは彼女の足元に駆け寄り土下座した。今のボクには絶対領域が気になったりとかそういう不純な気持ちも湧かなかった。ただただ、七海さんを助ける方法があるのなら悪魔にも魂を明け渡す気分だったのだ。


「あはっ、いいねいいねおにーちゃん。そこまで言うのなら助けてあげる。でもでも、いくらおにーちゃんだからってタダじゃダメかな~。ここに来るだけでも凄く無茶してるんだからね?」


「もちろんだよビアンカちゃん! ボクが出来る事なら何だってする! だからお願いします、七海さんを救って下さいー!」


「うひひ、おにーちゃん必死で可愛いね~」


 必死なボクを見て愉悦に浸るビアンカちゃんの笑みはまるで悪魔のようだった。でもビアンカちゃんにだったら命を渡しても良い。そう思ってしまったのだ。


「じゃあ契約しよっか。魂の契約だよ?」


「魂の契約……?」


 ボクは思わず後ずさりしてしまった。ボクを見下ろす悪魔の笑みは獲物を見つけた狩人のようだった。


「そそっ。私はおにーちゃんの要望通り七海ちゃんを助けてあげる。まあおにーちゃんもちょっとだけ痛い思いをしてもらう事になるけど、死ぬことはないと思うよ? まあ死んでもビアンカちゃんが可愛がってあげるから問題ないよね?」


「そ、それでボクは何を差し出せば良いの?」


 ビアンカちゃんの瞳がキラリと光ったような気がした。でもボクはビアンカちゃんに縋るしかないのだ。それにビアンカちゃんになら良いかなって思ってしまった。こんな時に不謹慎だけど、彼女の事は結構好きなのだ。


「もちろん魂だよ。おにーちゃんが死んだら私が魂を貰うの。それであっちの世界でず~っと二人で楽しく暮らすんだよ。私の家で一日中エッチしたり、たまに冒険に行ったり、でもやっぱりエッチしちゃうの。時間を忘れてず~っと仲良くイチャイチャしようね?」


「ゴクリ……」


 スカートをヒラヒラとさせてボクを誘惑するビアンカちゃん。こんなエロい子とずっと一緒にエロい事を?


「あ、もちろんおにーちゃんが死ぬまで待ってあげるから安心してね? ここでグザーって殺して魂持って帰ったりしないよ? 大丈夫、寿命を迎えるまでず~っと見守ってあげる♡」


 これはまさに悪魔の契約だった。ボクは死んだら永遠にビアンカちゃんに囚われてしまうのだ。終わりのない時間の中をずっとあの夢の世界に囚われてしまう。もしかしたらギルマスや夏子さんもそういう存在なのかもしれない。


 チラッとビアンカちゃんを見た。さっきまでの愉悦の笑みは消え去り、まるで恋する乙女のような不安な表情を浮かべていた。一瞬、どうしてそんな顔をするのか分からなかった。


「か、勘違いしないでよね。こ、こんな事言うのおにーちゃんだけなんだからねっ! ビアンカちゃんがおにーちゃんを選んであげたのよ、光栄に思いなさいよねっ!」


 この時ボクは思った。これはビアンカちゃんの愛の告白なのだと。永遠を生きる彼女が永遠の伴侶とも言える生涯のパートナーにボクを選んだ。言い方は脅しに近いけど、その不器用な言い方にクスリと笑いそうになってしまった。


 だからボクは……。


「ボクは七海さんの事が好きです。でも、ビアンカちゃんの事も同じくらいに大好きなんだ。ビアンカちゃんと一生あの世界で暮らすなんて夢みたいでボクの方からお願いしたいくらいだよ」


「おにーちゃん……!」


 堂々と二股宣言をしている最低なボクだけど、ビアンカちゃんは嬉しそうにしていた。だけど契約っていうのはしっかりと明記しないとダメな事がある。後で文句を言われたくないのでビシィっと伝えておこうと思う。


「あのねビアンカちゃん。ボク、鞭でピシピシとかロウソクでアチアチとか絶対に無理です。あと、お尻もNGだからね?」


「あはっ、なにそれおもしろーい。大丈夫だよおにーちゃん、ビアンカちゃんの手にかかればお尻だって気持ち良くなれるんだよ?」


「お尻は嫌だよー!」


 さっきまで泣いていたのにもう笑ってしまった。ビアンカちゃんは脅すような言い方をしていたけど、優しい彼女の事だからきっとボクを助けてくれただろう。不器用なところも可愛いと思ってしまった。


「じゃあおにーちゃん、契約しよっか」


「うん、分かった」


 ボクは立ち上がりビアンカちゃんを見つめた。


 ビアンカちゃんの金色の瞳がキラリと輝き吸い込まれそうになった。こんな至近距離で美少女と向き合うなんて初めての経験だ。これからどうやって契約するのかドキドキとしていたところ、彼女の瑞々しい艶やかな唇がボクに近付いて来た。


 そしてボク達は自然と抱き合い、熱いキスをした。でもキスをする直前にビアンカちゃんが不吉な事を言いだした。


「おにーちゃんはビアンカちゃんのモノ。おにーちゃんの唇も手も足もアソコもぜ~んぶ、お尻だってビアンカちゃんのモノだからね? 一生ビアンカちゃんが可愛がってあげる♡ んっ――」


「ん゛ん゛ー!? ん゛ん゛ん゛ん゛ー!!!」


 何やらお尻という単語が追加されていたけどキスで口を塞がれてしまい否定する事が出来なかった。まさに悪魔の所業である。


 ファーストキスは蕩けるような熱いキスだった。彼女の甘い舌がボクの口内を犯し、熱い甘露を流し込まれた。胸が焼けるような痛みが続き、そして契約が完了したのだ。


「ぷぁっ、はぁはぁ。どうだったおにーちゃん、ファーストキスは?」


「しゅごかったです……」


 ボクよりも年下に見える女の子に手玉に取られたボクは、情けない事にそう言うしか出来なかった。


 そんなボクをクスクスと嬉しそうに笑ったビアンカちゃんがボクの耳元に口を寄せて呟いた。


「実はねおにーちゃん、ビアンカちゃんもファーストキスだったんだよ? 素敵なキスでキュンキュンしちゃった♡」


 ボクはこの悪魔に勝てる気がしなかった。




   ◇




 悪魔の契約という名のキスにドキドキしてしまったが、今は七海さんである。彼女を救う方法を教えて貰うためにボクは悪魔の契約を結んだのだ。


「それでビアンカちゃん、七海さんを救うにはどうしたらいいの?」


「まーまー、焦らないでおにーちゃん。ビアンカちゃんが全部全てまるっと解決してあげるから」


「う、うん……」


 ビアンカちゃんは自信満々だけど、どうやって七海さんを救うのか不安だった。


 今更だけどあの鋭いナイフをお腹に受けた七海さんは重症だと思う。もしかして夢の世界から上級回復薬でも持って来てくれたのだろうか?


 だけどビアンカちゃんからの提案はボクの予想を大きく上回っていた。


「おにーちゃんは『やり直しカード』と『金の剣』を持ってるよね? どうやってこっちの世界にあっちのアイテムを持って来たのか知らないけど、これを使えばいいんだよ」


「やり直しカード!」


 どうしてボクはこれを忘れていたのだろうか。押し入れにしまっていたカードと剣を取り出す。


 カードの方はまだ分かるけど、金の剣はどうするのだろうか。もしかしてこれでキムタコを倒せって事か!?


「こっちの世界ってね、魔力が全然ないんだよね~。だからビアンカちゃんは今、おにーちゃんに刻んだキスマークの魔力を目印に、その金の剣の魔力を使って顕現してるの~」


「はえー、すっごい」


 賢さが6のボクには頷く事しか出来なかった。置物だった金の剣が役に立ったという事だ。そう思っておこう。っていうか魔力ってどのステータスですか? MPのことか、それとも賢さなのか。うーむ、わからん。


「それでこのやり直しカードだけど、おにーちゃんの魔力だと使ってもせいぜい1時間くらい過去に戻れるくらいかな~。危なかったね、知らずに使ってたらワンワン泣いてるところに戻ってお終いだったよ?」


「う、うん」


 賢さが6で良かった。もし賢すぎたら帰ってすぐにやり直しカードを使っていただろう。そして自滅したと。でも優しいビアンカちゃんの事だから使う前に止めてくれたかもしれないな。


「ビアンカちゃんがおにーちゃんを喫茶店に入る前の時間まで戻してあげる。もっと前の時間まで戻してあげたいけどこの剣の魔力じゃそこが限界かな。そこからは全部おにーちゃんの頑張り次第だよ」


 ビアンカちゃんが真剣な表情でボクに伝えた。


 あの時ボクが七海さんに自分の気持ちを伝えていたら、ブレスレットを渡していたら、ボクがもっとしっかりとしていたら……。


 次は視聴者(モブ)じゃなく恋人(主人公)になろう。そしてボクが七海さんを幸せにするんだ。拾い上げたバリアシステム先生がキラリと光ったような気がした。さっきは投げてごめんなさい……。


「そうだおにーちゃん。この剣も持っててね。この剣の魔力が無いと失敗するから」


「えっ、もしかしてこの剣も過去に戻っちゃうの?」


「あー、こればっかりはしょうがないよ~。じゃあ適当に布で包んでおこっか」


「そうだね……」


 黄金色に光る剣を手に持って喫茶店に入る勇気は無かった。新品の綺麗なベッドシーツがあったからグルグル巻きにしておく。これなら大丈夫だろう。


 過去に戻るのってどんな感じなのだろうか。もし今の自分に未来のボクが戻って来たとしたら、急に未来のイメージが書き込まれるのだろうか。


 でも今回は剣を持って過去に戻るという。つまり過去の自分に置き換わるような感じになるのかな。ふむ、靴とか準備しよう。


 ボクは金の剣を抱き締めてカードを持った。ここからはもうやり直しの効かない一発勝負だ。深呼吸をして気合を入れる。


「大丈夫だよおにーちゃん。全部上手く行くから。それにもし失敗したってず~っと一緒に居てあげるからね」


「ありがとうビアンカちゃん」


 ビアンカちゃんの手に青い光が灯り、その光がカードを優しく包んで行く。ビアンカちゃんの優しさに包まれているような錯覚を覚える程にその光は暖かかった。


 カードが神々しく光り輝いた。これでボクは本当の意味でやり直せる……。


 静かに気合いを入れたボクの顔をビアンカちゃんの優しい手が包み込んだ。


「そんな泣き腫らした顔じゃカッコ悪いから治してあげる」


 顔がポカポカと暖かくなり、ビアンカちゃんの優しさが流れ込んでくるのが分かった。


 もう迷わない、もうヘタレない……ボクが死んでも七海さんを守ってみせる!!


「行って来るねビアンカちゃん。本当にありがとう! 愛してるー!!!」


「うんっ、頑張れ旦那様♡」


 カードを使う直前になって思った。過去に戻ったらビアンカちゃんとの契約は無かったことになるんじゃ……?


「うひひ、過去に戻ったからって契約は無くならないよ? お尻もぜーんぶビアンカちゃんのモノだからねっ!」


 まさに悪魔の所業だった。だけど今はそれが嬉しかった。ビアンカちゃんとの繋がりがボクに勇気をくれる。ポケットにしまったバリアシステム先生がキラリと光ったような気がした。


 そうしてボクは時間を飛んだ。ヘタレた自分をやり直すために。




   ◇




「あーあ、行っちゃった~」


 無人の部屋で少女は笑った。その笑みは花の咲いたような眩しい笑顔だった。


「さてと。可愛い可愛い旦那様のためにビアンカちゃんもパートナーとして頑張っちゃおうかな~。まずは旦那様を追いかけよう♪」


 あの世界には今、2本の剣が存在する事になる。ユウタが持ち込む魔力が空っぽの金の剣とユウタの家にある魔力たっぷりな金の剣だ。そしてユウタの家にある剣は私が先回りして頂戴する。これで自由に顕現出来る(あそべる)のだ。


「本当は金の剣の魔力を使って七海ちゃんを回復させる事も出来たけど、それじゃ面白くないよね~。あははっ、ビアンカちゃんってば天才~♪」


 そして悪魔は金の剣からちょろまかした魔力を使って転移した。悪魔(クイーン)には契約した伴侶の居る世界なんて簡単に分かるのだ。それに保険として自分の魔力を刻んだ剣を持たせてある。


 演者が誰も居なくなった舞台はシーンと静まり返り、時間と共にサラサラと溶けるように無くなった。


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