第30話 友達ルート
※まえがき※
GW特別企画としてキリの良いところまで連続投稿します。
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残念ながら私にGWはありませんが、時間に余裕のある方は是非読んで下さいー!
読み飛ばしにご注意下さい。
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国道から少しだけ逸れたところにある喫茶店『紅茶とどら焼き』、ちょっとオシャレな洋館をモチーフにしたデザインがカッコイイお店だけど…………どら焼き?
駐車場にどら焼きをモチーフにした時計台を見つけた。時刻は14時を指していたが、広い駐車場には数台の車が止まっているだけであり、平日のこの時間は空いているようだ。
パリピに放置されて啞然としてしまったが、さすがにここで帰る訳にもいかない。意を決して入ってみることにした。
「いらっしゃいませ~。おひとり様ですか?」
入って見て驚いた。笑顔の可愛いメイドさんがボクを迎えてくれたのだ。ボクのバイト先であるエチエチなメイド服と違ってクラシックなメイド服というのだろうか、露出が少ない中でも女性の可愛らしさをこれでもかとアピールして素敵だった。
日頃から姫ちゃんのエチエチメイド姿をガン見していなかったら舐め回すように見ていただろう。インテリサラリーマンのように。
「え、えっとぉ、待ち合わせなんですけど……」
姫ちゃんには敵わないけどお胸の膨らみが素敵なメイドさんにドキドキして声がキョドってしまった。バイト先で接客するのは大丈夫だけど、こういう時はドキドキしてしまうのだ。
軽く店内を見渡すと見覚えのある黒髪ロングで清楚なお嬢様がボクを見て手を挙げた。キュン♡
メイドさんに断って店内へ進んで行くと通路までオシャレだった。ちょっとだけ暗い雰囲気の店内にランプの淡い光がマッチしているのだ。
ウチのバイト先と同じくらい美人なメイドさんがこんなに居る事に驚きつつも、今度ホッシーを誘って来ようと思った。もちろんライバル店の視察だよ?
「こ、こんにちはっ」
「来てくれてありがとう。好きなの頼んで」
「は、はいっ」
広々としたテーブルで向き合って座ったが、この洋館の雰囲気とマッチしたお嬢様を見ると緊張してしまう。軽く自己紹介したけど『そう……だから?』みたいな冷たい視線を送られてしまった。キュン♡
メニューを見たけど良く分からない銘柄の紅茶がたくさんあった。紅茶ってアイスかホットを選ぶんじゃないのって思ったけど流石に言えなかった。
チラッとお嬢様の飲んでいる紅茶を見れば、普通の紅茶よりも鮮やかな赤い色をしていた。アレは何て銘柄ですか?
「もしかして紅茶とか飲まない?」
こういう時に知ったふりをするのは危険だ。ボクは魅力48のイケメン笑顔で乗り切る事にした。頼むぞボクの魅力!
「え、えへへ。何が何だかサッパリですー」
「……へぇ、七海はこれがいいんだ。じゃあ私と同じのを頼んであげる」
「ありがとうございますー!」
何か小声で呟いた気がしたけど気のせいだろう。
注文が来るまで手持ち無沙汰になってしまった。目の前のお嬢様はボクの事を放置して優雅にカップを傾けている。
ちょっと居心地が悪く感じてしまったが、艶々な黒髪が綺麗で見ているだけで幸せだった。ミキちゃんはパリピのどこが良いんだろう……。
「七海はコレのどこが良いのかしら……」
「えっ?」
「あら、ごめんなさい。何でもないわ」
一瞬ボクの心の声が漏れたのかと思った。でも今、ボクと七海さんの話をしなかった?
気になったから問い詰めたいが、目を閉じて紅茶を楽しむ優雅なお嬢様から話し掛けるなというオーラが出ていた。難易度が高すぎるぞこれ。
そしてしばらくすると紅茶の入ったティーポットとどら焼きが運ばれて来た。ティーポットからカップに注げばいいのかな? 良く分からないのでメイドさんに魅力48の視線を送ったところ、メイドさんがティーポットから紅茶を淹れてくれました。何か難しいお作法をテキパキとやるメイドさんがカッコイイ。これは姫ちゃんには無理だな~。
「いただきますー」
「どうぞ召し上がれ」
お嬢様に見つめられたまま紅茶を口に含んだ。何かバラのような香りが鼻を抜けて優雅な気分になった。甘さは全然なく、香りを楽しむお茶って感じかもしれない。
正直なところ味とか分からなかったけど、目の前で同じものを飲んでいる手前、下手な事は言えないのである。
「美味しいですー」
「どら焼きと合うのよ。食べて見て」
言われるがままどら焼きをパクリと食べた。こし餡かと思ったら粒餡だったけどお上品な甘さで美味しいです。ウマウマ。
ボクの満面の笑みを見たお嬢様が嬉しそうに頷いた。
「この前は彼のせいで迷惑を掛けたわね」
「いえいえ、全然大丈夫ですー」
どら焼きを半分くらいモグモグしたところでミキちゃんから謝罪のお言葉を頂きました。一瞬これが謝罪なのかと思ったけど、お嬢様にはこれが謝罪なのだろう。舞子さんとは違った意味でドSな感じにキュンキュンしちゃう。
きっとパリピはボクと違ってドMなのだろう。ベッドの上でもお嬢様にあんな責めやこんな責めをされて喜ぶ変態なのだ。ドSなお嬢様とドMなパリピはナイスカップルって事か。ユウタ把握した。
「それでここからが本題なんだけど……あんた七海の事どう思ってんの?」
「七海さんってこの前フラれたあの女性ですよね?」
何故か急に七海さんの話になった。七海さんをどう思っているか……それはもちろん好き、なんだと思う。
でも実際に会ったのはあの一瞬だけであり、話したことも無いのである。夢の中で会ったかもしれないけど、あれはラブリーポーションが見せた都合の良い夢なのかもしれない。
「そうよ、あんたと顔合わせた瞬間に凄い勢いで振った女性が七海。今まで七海が振るところを何度か見て来たけど、あそこまで即断したのは初めてで逆に面白かったわね」
「そ、そうなんですね……」
ドSなお嬢様からそう言われたボクはシュンとしてしまった。
あんなに綺麗なモデルさんがモテない訳がない。あのイケメンなキムタコでさえ相手にされないのである。それに比べてボクは魅力48の合法ショタだ。敵う訳が無い……。
何故だろう、このドSなお嬢様に真実を突き付けられるとあの日夢の中で決心した気持ちが揺らいで行く。ボクは七海さんが好きなはずなのに、これは単なる憧れだと諭されている気分になっていく。
だからボクは……。
「えっと、七海さんは綺麗だし、とても素敵な女性だと思います。ボクがどんなに逆立ちしたって釣り合わないくらいに……。だからあの時言われたのはしょうがないなって思ってます。はい……」
何故だろう、ドSなお嬢様には嘘が言えなかった。ここで『七海さん大好きですー!』と軽々しく言ったところで殴られていたかもしれない。そんな気がしたのだ。
「はぁ……そういう事らしいわよ、七海。貴方の言い方はこの子に大ダメージを与えていたようね」
「えっ、あっ?」
お嬢様が少し大きめな声を発したと思ったら視線がボクの後ろを向いている。ボクは思わず振り返った。そしてそこにはあの日見た黄金色に輝く綺麗な髪を持つ美女が……。
「あの時はごめんなさいっ! そのっ、あれはああ言うしかなかったの! 本当にごめんなさいっ!」
「あ、あああ、頭を上げてっ! あのあのっ、ボクは全然気にしてませんからっ!」
七海さんがボクの隣に立ち大きく頭を下げた。まさか本人が居るなんて思ってもみなかった。くそっ、このドSなお嬢様は後ろに七海さんが居ると知ってこんな事を言わせたんだな!?
周りのお客さんやメイドさんがボクと七海さんに大注目している。女性に頭を下げさせるなんて酷い男だと鋭い視線がボクに突き刺さる。お嬢様はすまし顔で紅茶をチビチビと飲んでいるしボクは針の筵だった。
「えとえとっ、どうぞここに座って下さい。お話しましょー!」
急いで横に移動してスペースを確保し、七海さんに移動して貰った。フワリと甘い花の香がボクの鼻を突き抜けた。ああ、七海さんはこんな良い匂いを振りまくのか。キュン♡
気を利かせたメイドさんが七海さんの紅茶を移動させてくれたけど、その瞳は好奇心で満ち溢れていた。
「改めて、本当にごめんなさい。ユウタ君を傷付けてしまって。許して下さい……」
「も、ももも、もちろんですー! ボクは全然、全く、これっぽっちも気にしていませんからー」
「ふふっ、何それおかしいわ」
ああ、七海さんはこんな素敵な笑顔で笑うのか。眩しい笑顔にボクは心を奪われた。七海さんはボクのような人間にも気を遣ってくれる優しい人だったのだ。
それからボク達は語り合った。ボクのプライベートなんてどうでも良さそうなのに、七海さんは嬉しそうにボクの事を聞いて来た。好きな食べ物や趣味、そして好みの女性など根掘り葉掘り聞いてくるのだ。
ボクも七海さんの事が知りたいと思ったけど、七海さんからの質問攻めが止まらなかった。なんだろう、この前の合コンと違って凄く恋してる感じだった。
七海さんがモデルのお仕事をしているのは知っていたけど、近々引退をするらしい。さすがに仕事の事は守秘義務とかあるから深く聞けなかったけど、こんな素敵な女性と話せるだけで幸せだった。
「はぁ、貴方達もう付き合っちゃいなさい」
「なっ!?」
「えっ!?」
突然のお嬢様からの一言でボクは固まってしまった。ボクがこの七海さんとお付き合いを? そう思った瞬間ボクの顔は沸騰したように熱くなった。
でもさすがに自意識過剰な気がして七海さんの顔を見てみたら、七海さんの白い肌がピンク色に染まっていたのだ。あれ、もしかしてこれ……。
「だってそうでしょう七海。貴方、あの振った日からずっとこの子の事を私に聞いて来たじゃない。聞いてるこっちが胸焼けしてしまいそうだったわ」
「そ、それは言わない約束だったでしょ!?」
「七海さんがボクの事を……?」
これは夢なのだろうか、七海さんがボクに興味を持ってくれた。そしてこの感じは……!
ドキドキと七海さんを見ていたら大きく深呼吸した彼女がボクをキリっとした顔で見つめて来た。もしかしてこれっ!?
「あ、あのねユウタ君。私、貴方を見ていると心臓がドキドキするの。今までこんなにときめいたのは初めてよ。その、良かったらだけどお付き合い………………の前にお友達から始めてみないかしら?」
「ひよったわね七海。はぁ、そんな友達なんて甘っちょろい事いってると――」
「ちょっ、ミキは黙ってて! その、どうかなユウタ君……?」
ボクがこの素敵な女性とお付き合いを前提としたお友達からスタート。胸の奥深くから嬉しい気持ちが湧き出て来た。本当ならボクから告白するのが良いと思うけど、ここで断る訳がない。
ボクは七海さんが好きだ。あの夢の中で悲しい顔をした七海さんを幸せにしてあげたい。ずっと笑顔で笑って欲しい。そう思ったのだ。だからボクは……。
「えっと、分かりました。よろしくおねがいしますー!」
「ありがとうユウタ君っ。よろしくね!」
そんなヘタレた返事をしてしまった。男らしさの欠片も無い酷い返事だった。やり直せるならやり直したが、既に返事をしてしまったのだ。
でもそんなボクのヘタレた返事でも嬉しかったのだろうか、七海さんは満面の笑みを浮かべていた。
「はぁ、ヘタレ同士お似合いなのかもしれないわね……」
対面に座るお嬢様が呆れながらもボク達を祝福してくれた。
きっとこの日がボクの春であり、幸せの絶頂なのだろう。いや、ボク達のストーリーはここから始まるのだ。きっともっと素敵な事は沢山あるのだろう。
この時ボクはそう思っていた。
楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもので、店内に設置されているどら焼き型の壁掛け時計が15時を教えてくれた。ポーンというシンプルで落ち着いた音が三回繰り返されたのだ。
だけどそんな幸せを邪魔するように赤いスポーツカーが猛スピードで駐車場に止まった。タイヤから白煙が登り、ガラスドアの向こうから鬼の形相をしたイケメンが荒々しい足取りで近づいて来るのが見えた。
喫茶店のドアを激しく開けたそのイケメンはメイドさんの静止を振り切り、ボク達のテーブルにやってきた。
「ななみぃぃぃぃ!! 俺をコケにしやがったなぁぁぁあああ!!!」
ボクはただただ見ている事しか出来なかった。
全てがスローモーションに映るこの世界の中で、ボクは主人公ではなく単なる視聴者だったのだ。
「えっ、きゃっ、キムタコさんっ!? あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
「七海ぃぃぃぃぃっ!?」
イケメン殺人者のキムタコが主人公であり、美人被害者の七海さんがヒロインである。親友のミキさんがお嬢様に似つかわしくない大きな悲鳴を上げていた。
「キャーーーーー!!!!!!」
「誰か救急車、救急車呼んでー!!!!!」
「警察に電話しろっ!!! 急げっ!!!!」
店員や客でさえも悲鳴を上げる中、ボクはただただ見ている事しか出来なかった。綺麗な白いドレスを赤く染めるヒロインの姿を……。
「お、俺は悪くねーからなっ!! 全部コイツが悪いんだっ!!! 俺をコケにしやがったこいつがなあああああ!!!!」
主人公が手に持った凶器を投げ捨てて退場していく。本当に、本当に一瞬の出来事でボクの脳では理解出来なかった。
ボクは無意識にポケットへ手を突っ込んだ。渡せなかったブレスレットが痛いほどにボクの手を痛めつける。
ああ、どうしてボクはこれを渡さなかったのだろうか。浮かれていたからか? それともこんな事になるなんて思わなかった?
右手の痛みが無くなる程に強く握り締めたけど、ボクの足は震えて動いてくれなかったのだった。




