第25話 見えない罠
サキュバスクイーンのビアンカちゃんが強烈過ぎて霞んじゃったけど、ボクはひよっこ冒険者から初級冒険者にランクアップした。
ギルマスがボクに嫉妬して意地悪したせいで詳しい情報を聞けなかったのが悔やまれる。ガチャがどうのこうの言っていたから、今日の夜にはチャレンジ出来るかもしれない。
「ふふふ、やっぱりあったぞ」
目覚めると枕元にいつものアレがあった。黒い四角い箱です。そう、持ち帰り金庫ちゃんがボクを待っていたのだ。
ルンルン気分で金庫を持ち上げてテーブルの上に移動させる。ふむ、やっぱり力が上がっている影響なのか軽く感じて来た。やばい、ムキムキマッチョになっちゃうかも!?
「0・7・2・1・4・5・4・5っと。ふへへ、お宝ゲットだぜ~」
キラキラと輝きながら霧となって消えていく金庫。そしてテーブルの上には宝石が輝くブレスレットが残されていた。
「おおお! この宝石とか本物なのかな? 売ったら凄く高そうだ。売らないけどねー」
売らないというよりも売れないが正解だ。だってこれはギルマスからパクった貸出品のバリアシステム先生。近未来の技術を詰め込んだ凄いアイテムなのである。
ビアンカちゃんとキャッキャウフフを楽しんだ後、ボクはダンジョンをクリアする直前に持ち帰り金庫に何を入れるか考えた。
斬鉄剣パイセンを持ち帰っても扱いに困る。現状では金の剣ですら持て余しているのだ。鉄もスパッと切れるファンタジーなカタナである斬鉄剣パイセンは危険過ぎる。ちなみに、斬鉄剣パイセンは抜き身なのでご注意ください。
満腹の指輪も良いかと思ったけど、満腹状態だとマッキュの美味しい香りですら反応しなくなっちゃうのだ。ご飯を食べるのは好きだから今回は見送った。
あとは回復薬とかカードが何個かあったけど、別に次回でもゲット出来そうだったからバリアシステムにしました。まさかスペースコロニーのお宝とは知らなかったのです。
「ごめんよギルマス、このバリアシステムは有効活用させてもらいますー」
ボクは考えた。賢さが5……じゃなくて6になった頭脳で一生懸命に考えた。これを使ってストーカー被害に遭う七海さんをコッソリと守ってあげられないか……と。
芸能界で活躍するモデルの七海さんを小市民なボクがストーカー被害から守るなんてどう考えても無理だ。しかもストーカーというのが芸能人のキムタコである。そんな二人の間に入ったらボクが処されてしまう。
このブレスレットを装備していれば害意から守ってくれるはず。だからうまくバリアシステム先生を七海さんに渡して陰ながら守って貰おうという作戦である。どうやって渡せばいいか分からないけどね!
「…………装備しただけじゃサッパリわからない。ちょっと実験してみようかな……怖いけど」
試しに左手首に付けてみたけど体に変化は見られなかった。実験のため包丁で指先をツンツンしてみたら指から1mmくらいのところで包丁が止まった。
「す、凄い! これめっちゃ凄い!! なにこれファンタジーなんだけど~」
調子に乗ってツンツンしてるけど段々怖くなって来た。もし誤作動したらヤバいです……。バリアにも限界はあるって書いてあったし今日のところはこれで終わりにしよう。
「問題はどうやってこれを七海さんに渡すかだな……」
賢さが6では良い案が思い浮かばなかった。だからボクは相談する事にしました。
おっと、その前に鏡を見て確認だ。
「ふぅ、どうやら夢の世界で付けられたキスマークは消えるようだ」
残ってたら危ないところだった。鏡を見ても綺麗な肌が映っているだけでした。肌も綺麗になったし、イケメンになったかもー!
◇
「お待たせ~。いやー、あの教授チャイム鳴っても話続けてなかなか出れなかった。ごめんよー」
「いや大丈夫だ。俺たちも今来たところ」
「フハハハハハ、この前は楽しかったぞユウタ」
「あっ、こちらこそ誘って頂きありがとうございますミッチー先輩」
昼下がりのカフェテリアで野郎三人で集会です。ホッシーだけでも良かったけど、丁度ミッチー先輩と一緒に居るって聞いたので来てもらった。三人寄れば文殊の知恵ってやつだ。賢いでしょ?
丸テーブルに座って一息ついたところ、何故か二人がボクの顔を驚いた表情で見て来るのだ。
「お、おいユウ。もしかしてお前……」
「や、やるなユウタ。まさかお前があの人を選ぶとはな……」
二人がボクの顔を見て驚いている。そう言えば今日は良く見られていたような気がする。
はは~ん、分かったぞ。レベルアップしたボクの魅力に驚いているのだ。肌艶も良かったし、急にイケメンになったからね。
「ふふふー、ボクも成長してるって事ですよー。溢れ出る大人なオーラに気付いちゃったんだね?」
「お、おう」
「お前がそれで良いならいいんだ。俺は無理だがな……」
「…………んん?」
どうやらボクの魅力が上がり過ぎて混乱しているらしい。まあいいや。
「そう言えば二人は合コンの後どうでした? 何か進展ありましたー?」
「俺は姫ちゃんと連絡取ってる。今度デートに誘ってみようかと思うんだ」
「おおお! ホッシーは姫ちゃん狙いか。なかなかお目が高いですなぁ」
姫ちゃんはとても良い子です。Eカップだし。ボクも実は好きだったけど、この前の合コンで遠回しにフラれたので諦めました。Eカップ……。それに今のボクは七海さん推しです。あの夢の世界での出来事、アレはボクに彼女を助けろというお告げだったのだろう。Eカップ……。
姫ちゃんが誰かと付き合うのはちょっとだけ複雑な気持ちだけど、ホッシーと姫ちゃんが上手く行ったら祝福してあげよう。Eカップ……ぐぬぬ。
「それでそれで、ミッチー先輩はどうなんですか? 志穂さんと良い雰囲気でしたよね~」
「ああ、星野には伝えてあったんだがな、実は今週末にデートする事になった」
「わーお! みんな凄いですね~」
高身長なミッチー先輩とロリロリな志穂さん。でも実年齢はロリロリな志穂さんの方が上なのである。不思議だね~。
つまりアレか、ミッチー先輩は俺様系のイケメンだけど実はロリコンさんだったと。ベッドの上では小さな女の子に責められるのがお好きって感じか。まあその気持ちは分からなくもない。ボクだってビアンカちゃんとキャッキャウフフなことを想像するとキュンキュンしてしまうのだ。性癖に貴賤はありません。みんな違ってみんな良いってやつです。でも隠しダンジョンを責められたりスカなトロもNGです。ノーマルなやつでお願いします。
「次はボクですねっ。ふへへ、実はですね~。ボクも――」
「いや、ユウは言わないでも分かるから」
「うむ。それよりも相談事を言ってみろ」
「そ、そうですか? えへへ、何で分かっちゃったんだろな~」
どうやらボクが七海さんに恋している事はバレバレだったようだ。何かバレるような事あったっけ? まあいっか! よし、さっさと本題に入ろう。
「とある女性に間接的にプレゼントを贈りたいんだけど、どうしたら良いかな~って。良いアイデアないですか?」
「間接的にプレゼント? 直接渡せば良いじゃないか。それにとある女性って誤魔化してもバレバレだけどな」
「もしやサプライズ狙いか!?」
「うへへ、そんな感じですねー」
こんな人が多いカフェテリアで七海さんの名前を出すのはマズイと思ったから濁したのに……もしかしてホッシーさん、賢さ低いですね?
直接渡せというのは正論だけど、ボクと七海さんは接点が無いから無理なのだ。それくらい分かって欲しいんだけどなぁ。
「宅配便で贈るのはどうだ?」
「ふーむ……」
ホッシーの提案は普通だった。ボクは七海さんのお家の住所も知らないのでダメです。
「他には?」
「じゃあ彼女の友達を経由して渡してもらうのはどうだ?」
「ほほう。なかなか良いかも~」
さすがミッチー先輩だ。つまり七海さんのお友達であるパリピかミキちゃんだな。
明日は丁度水曜日、つまり会いたくないけどパリピと強制的にエンカウントする日なのだ。よし、パリピに相談してみよう!
「二人ともありがとう! なんか上手く行きそうな気がして来ました」
「バイト先で姫ちゃんに相談してみろよ。応援してるぞ」
「なんだったら俺が志穂に言ってやるからな。遠慮するなよ」
「んん? 良く分からないけど分かりましたー」
どうしてここで姫ちゃんと志穂さんが出て来たのだろうか。もしかしてボクの思い人を舞子さんと勘違いしているのか……?
◇
「姫ちゃんおはよー! 今日もよろしくね~」
「…………ええっ!?」
授業が終わりバイトに入った。だけどボクを見た姫ちゃんがビックリとしているのである。ホッシーやミッチー先輩もそうだったけど、今日は会う人みんなボクの顔を見て驚いていた。そんな魅力上がったっけ?
「先輩と舞子先輩って付き合ってないですよね?」
「うん。舞子さんは可愛いけど、残念ながら性癖の不一致ってやつでNGです」
「性癖の不一致……」
ボクはノーマルなのだ。あんな特殊なプレイは体が受け付けないと思う。姫ちゃんもそうだけど、どうしてボクと舞子さんが付き合っているような話になるんだ?
「じゃあ先輩、誰と付き合っているんですか?」
「ボクはフリーだよ。そんなの知ってるでしょ?」
「フリー……」
何か話が嚙み合わない。姫ちゃんは一体なにを言いたいのだろうか……。
腑に落ちない顔をしていたからだろうか、姫ちゃんがボクの首筋を見て言った。
「へぇ~、つまり先輩はそういうお店に行ったんですね。あれだけ初めては好きな人とって言ってたのに……私、軽蔑します」
「な、何の事? そういうお店って?」
「だって先輩、キスマーク出来てますよ? しかも唇の形がくっきりと浮かび上がるくらいハッキリと。さいてーです」
「なななっ!? 嘘っ、そんなはずないよ。だって今朝鏡見たとき何もなかったもん!」
「はいはい、そうですねー。でも不快に思うお客様も居るので隠した方が良いですよ?」
「っ!」
ボクは急いでトイレに駆け込んだ。そして鏡で首筋を見たら朝に無かったキスマークがくっきりと浮かんでいたのだ。ピンク色のルージュで彩られた鮮やかなキスマーク、これは正しくビアンカちゃんのキスマークだった……。
『あはっ、実はそれね~、自分以外の人に見られて初めて浮かび上がるように魔法で細工しておいたんだ~♡』
どこからかビアンカちゃんの声が聞こえた気がした。つまりボクは一日中これを晒していたと言うのか!?
どうしてみんな指摘してくれなかったのだろうか……。




