第20話 パイセン再び
「おう、今日も来たか。毎日来るとは良い心掛けだな」
「こんばんはギルマス。っていうかここに来るのって強制じゃないんですか? 来たくない日はサボったりできるんですかー?」
「あー、なんだ。その、裏技ってやつがある。まだお前には教えてやれないから今は忘れろ」
「…………」
つまりあれか、ひよっこレベルのボクには情報開示が出来ないってやつですか。はー、使えないギルマスだな。自分から情報を小出しにして内容は言えないとかクレームってどこに入れたら良いんだろう。
これは昔アニメで見た主人公の気持ちが分かった。美人なお姉さんに『禁則事項です♪』って言われて教えてもらえないのだ。でもあの主人公は美人なお姉さんだから許せたのだろう。それに比べてボクはゴリゴリマッチョなギルマスだ。許せん!
ぶん殴ってやろうかと思ったけどボクのステータスじゃ自滅しそうなので諦めた。代わりにジト目攻撃をしておこう。ふふ、男にジト目攻撃をされて不快な気分になるが良い!
「なんだその捨てられた子犬みたいな目は。はぁ、これは俺のミスだ。しょうがない、今回は特別大サービスでこれを貸してやろう。さっさと初級冒険者になって来い!」
「こ、これは!?」
ギルマスがカウンターの上に置いた4つのアイテムを見た瞬間、ボクはギルマスの事を許した。
ボクが愛してやまない斬鉄剣パイセンがあったからだ! 他にも見たことのない腕輪と指輪、そして『死神』と書かれたカードが置いてある。ナニコレ怖い。
もしかしてウチのギルマスは有能か?
「やらなきゃいけない事が出来たんだろ? 俺が手伝ってやれるのはこれくらいだ。後はお前が自分の力で勝ち取れ」
「ギルマスぅー!」
何かそれっぽい事を言ってるけど自分の失言を帳消しにしてるだけだからね? でもボクに不満は無いのでギルマスをヨイショしておきました。ふふ、長い物には巻かれる主義なのである。
あれ、でも持ち込めるのは4つまでだったような?
「あのあのっ、この4つをバッグに入れたらビッグマッキュセットが持って行けないんですけど……」
「ふっ、気にするな。その指輪は『満腹の指輪』だ。それを装備している間は空腹度が減らん。まあ悪いモノは無いから、詳しくは中で確認しろ」
「ギルマスぅー!」
なるほど、このマッキュのマスコットキャラであるバーガーキングちゃんのフィギュアが付いた指輪が『満腹の指輪』なのか。いいねこれ!
こんな至れり尽くせりな状況はなかなか無いのでは? よし今回こそバッチリと絶対に攻略してやる!
マジックバッグにギルマスから貰ったアイテムをしまって準備完了である。残念ながら夏子さんのお店で買い物は出来ません。何故ならお金が無いからです。
「ユウタ君、頑張ってね。その装備があるなら慎重に行動すれば大丈夫よ。でも新しい装備や指輪を見つけても安易に装備しちゃダメ、その装備より良いものはまず無いんだからね」
「分かりました」
「だから今回は装備品は諦めてスペルカードとか杖、あとは回復薬を優先して拾いましょう」
「分かりました」
「あとあと、空腹にならない事のメリットはフロアの制限時間いっぱいまでレベルを上げられるの。他にも――」
「…………」
ヤバい、夏子さんのサービスタイムが始まってしまった。どうやらボクの並々ならぬやる気を受けてキュンとしてしまった夏子さんは自分の知っている情報を色々と教えてくれる。
凄く有り難いお言葉だけど、そろそろチャレンジしても良いですか?
「――以上よ。頑張ってね、ユウタ君」
「あ、ありがとうございますー!」
たぶん10分くらい話が続いたような気がする。賢さ5のボクはどれくらい覚えていられるだろうか?
◇
「ふぅ……今日は少し緊張するな」
ゴツゴツとした岩肌が露出したダンジョンに戻って来た。今回で6回目の攻略になるけど、掲示板の人達はどれくらいで攻略しているのだろうか。
落ち着いて地図を確認して周囲を伺うとすぐ近くにスライムが居た。だけど運の良い事に寝ているようだ。スライムも寝るんだね。
まずはマジックバッグを確認して装備してしまおう。
【マジックバッグ】
・斬鉄剣+3(装備中)
・バリアシステム+3(装備中)
・満腹の指輪(装備中)
・死神カード
【ひよっこユウタ】
最深階:10
満腹度:100%
剣の強さ:13
盾の強さ:13
ちから:8/8
経験値:0
「つ、強~い!」
右手に装備した斬鉄剣パイセンは今日も怪しく光を反射している。そのギラギラと光り輝く刀身は血に飢えているように見えた。
ギルマスも+3の強化品をくれるなんて太っ腹だ。
そしてその斬鉄剣パイセンと同じくらい強いバリアシステムという盾、これがまた凄いのだ。
【バリアシステム】
近未来の技術を結集して制作されたバリアシステム。
腕輪型デバイスで、装備者をあらゆる攻撃から守ってくれる。
賢さ5では理解出来ない原理で動いています。
「凄くオシャレな腕輪だけど馬鹿にされてる……」
銀を基調としたシャープなデザインの腕輪にはキラキラと光り輝く宝石が散りばめられていた。ダイヤにルビー、サファイアとかそんな感じの宝石だと思うけど、賢さ5のボクには名称が分からなかった。
っていうかこれ、どうやって防御するのだろうか。賢さ5のボクには動作原理が分からなかった。
「ちょっとスラリン起きて~」
『ピギィ……』
「あっ、殺っちゃった。えっと、またつまらぬものを斬ってしまった……」
眠っているスライムちゃんで実験しようとしたのに倒してしまった。素手だと1発じゃ倒せないのに斬鉄剣パイセンだと一撃だった。レベル1でこの強さ、何かチートな感じがして来た。
ちなみに、次に見つけたスラキチさんに協力して貰って確認したところ、ボクに向かってジャンプしたスラキチさんは見えない壁のようなものに当たってショボーンってなっていた。たぶん知らない人が見たらスライムが変な動きをしたように見えただろう。そしてこの盾の強さだとスライムからのダメージが0だった。
もしかしてこれを使えばずっとラブリーポーションを楽しめるのでは……? でもあの感触を味わえないんじゃ意味がないか。
それからボクは狩りを始めた。まさに虐殺ショーと言っても過言では無いほどにワンサイドゲームになっている。
夏子さん曰く、低い階層では可能な限り歩き回り敵を倒して経験値を上げるのが良いらしい。確かに上の階に行くと敵も強くて嫌な攻撃をしてくるのだ。
とりあえずボクの苦手なキノコが出て来ない3階までは限界までレベル上げをしようと思う。4階から出て来るキノコとかマジでキモイからね。変な白い液体飛ばして来るし……。
「おっ、地震だ。結構揺れる」
これが夏子さんの言っていたやつだな。震度3くらいかな? 確かこの地震が何回か続くって言っていた。
しばらく虐殺ショーを続けているとまた地震が起こった。さっきよりも揺れが強くて立っているのが大変なくらいだ。
このままこのフロアに居ても良いのか分からなかったけど、夏子さんを信じてスライムを倒そう。
「こ、これはヤバい! ぎゃー!!」
スライムちゃんを倒した瞬間、3回目の地震が起こった。天変地異を思わせる激しい揺れに立っていることも出来ず座り込む。
そして大きな音を立てて地割れが起こり、ボクはそのままダンジョンの闇に飲み込まれてしまったのだった。
ボクは落下の浮遊感を味わいながら思った。次は1回目の地震で階段を使おうと……。
そしてボクは出逢う事になる。以前オートプレイで殺された魔女っ子に……。




