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本当にそれ、ダンジョンですか?  作者: ポリエステル100%
中級冒険者の章

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第100 たぶん初めてまともに冒険したかもしれない


「止まれ……、この先に人食い虎がいるな。俺が処理して来る。ユウタはここで性獣様と隠れていろ」


「う、うん……」


 ボク達は感度3000倍チェリーという謎のアイテムを求めて深い森に戻って来た。賢さの低い獣であるウサ吉に頼んだところで本当に案内してくれるか不安だったが、今のところキュッキュと鳴きながら案内してくれている。


 ギルの話によると、古代エルフはこの森で迷う事はないらしい。だけどこの森は迷路のように常に地形が変わっており、特定のアイテムをゲットするには聖獣であるウサ吉の力が必要らしいのだ。まさにダンジョンってやつですね。


 でもボクとウサ吉の二人だった時に比べてやたらとモンスターに遭遇するような気がする。もしかしてこの早漏エルフ、運が悪いのか?


「キュキュ」


「大丈夫だよウサ吉、ギルは強いから」


「キューン」


 モフモフを抱っこして茂みに隠れた。どうやらボクは運が高いからなのか、モンスターに狙われることが無かった。ウサ吉もそれを理解しているのか、ボクの傍から離れないのだ。


 コッソリとギルを見る。人の背くらいある黒塗りの大弓を横に構えた。こんなイケメンエルフだけど夜はボロ負けらしい。ボクもイケメンだけどボロ負けだから仲間だな。


 弓を構えたが矢が無かった。だけど早漏エルフが弦に手をかけた途端、青白い光が矢を形どり、魔法の矢が出来た。まさにファンタジーエルフだ。早漏だけどね。


「……シッ!」


 ボクじゃなきゃ見逃しちゃう程の鋭い発射は音を置き去りにした。ブワっと空気が震え、キンッという甲高い音が聞こえて来た。どこまで飛んで行ったのか分からないが、撃ち終わったイケメンエルフが颯爽と戻って来た。どうやら敵を倒したらしい。


 ここに来るまでも同じような展開は何度もあった。ボクがどう頑張っても勝てないモンスターだけど、このイケメンエルフにとっては雑魚なのかもしれないな。さすが古代エルフ、この森に住んでいるだけの事はあります。


「いくぞユウタ」


「はーい」


 頼もしい仲間と共にどんどんと奥へと進んで行く……。




   ◇




 ズンズンと進んで行くこと20分くらい。敏腕ならぬ敏感スナイパーの正確無比な射撃はモンスターを寄せ付けなかった。ものすごい視力で遠くからモンスターを見つけ、サーチアンドデストロイでどんどん進んで行く。


「ねぇギル、ここのモンスターって倒した後の処理とかしないでいいのかな? 死体がそのまま残るとアンデッドになったりとか良くあるよね」


 いつものダンジョンと違い、ここで倒したモンスターはすぐ消えなかった。動物系のモンスターだからお肉とか皮をゲットするのかと思ったら全部放置なのだ。エルフって草食だからお肉は食べないのかも。


「そうか、ユウタは知らないのか。ここのモンスターは死ぬとそのうち土に還る。それに剥ぎ取ったとしてもいつの間にか消えてしまうのだ。この森は一つの生命体、森の奥深くには巨大な木をしたボスが居ると言われている。その巨木には宝石のような赤い果実があり、それがダンジョンコアという話だ」


「はえー、すっごい」


 今ボクが立っている森はボスの一部ってことか? つまりこの森で採れる果実はダンジョンでいう宝箱みたいなものって事かも。宝箱を求めて森に入った冒険者を食い殺してダンジョンが栄養にしているのかな。


「ユウタが居た聖域、あそこは別だ。聖なる泉がある場所はモンスターが発生しない安全地帯でな、俺たち古代エルフも別の聖域で生活しているのだ」


「なるほどー」


 ウサ吉が案内してくれた場所はセーフティーエリアってやつだったのか。泉の水も美味しかったし、もしかしたら回復効果があったのかもしれないな。あの水を持って帰ったらポーションとか作れたりしないかな?


 このダンジョンでも活躍ゼロなヒモ野郎だけど、もうボクは普通の冒険は諦めました。ウサギと早漏エルフをテイムしたテイマーって事でおなしゃす!


「キュキュキュー!」


 抱っこするウサ吉がボクの手をビシビシと叩いて来た。


「もしかしてチェリーあった?」


「キューン!」


 自信満々なウサ吉が示す先を見ると、金色の実を付けるサクランボがあるのが見えた。でも……。


「チッ、厄介な場所にあるな……」


「あれってワニだよねー」


「きゅーん……」


 斜めに傾いた木が池の上に垂れている。その木の先に金色に光るチェリーが1房だけ実っているのだ。そして池の中からワニがジャンプしてチェリーを食べようと狙っている。


 ワニってチェリーを食べるのかと疑問に思うが、きっとこれはダンジョンが仕掛けた罠なのだろう。


「あれはガンギマリ・アリゲーターだ。感度3000倍チェリーが大好物な危険なモンスターだぞ。倒せない事もないが数が多い。どうする?」


「くっ……ヤバそうですね」


 何ですかガンギマリ・アリゲーターって。人を丸吞みに出来るんじゃないかという巨大なワニ、しかも目がイっちゃってる……。


 身軽なボクが木を登ったとしても、あの細い枝を伝って行くと重みで沈んでしまうだろう。そうしたらワニに食べられて終わる。他に手は無いか……?


 打つ手なしかと思ったその時、腕からウサ吉が飛び出した。


「キュキュ!」


「あっ、ウサ吉!」


 自信満々に声を上げて走り出し、スイスイと木を登って行く。そしてあっという間にチェリーのある枝先に辿り着いてしまった。さすがウサ吉さんやでー!


 ボクはギルと一緒にウサ吉を見守った。どうやら果物をゲットするのはウサ吉の担当と思っているらしく、嬉しそうにカリカリと枝を嚙み砕いていた。そう言えば黄色い謎の果実をゲットする時もウサ吉が頑張っていたな。


「キュキューン! キュ? キュ?」


「あ、バカっ! 早く戻って来いよウサ吉ぃ」


 自慢げに枝を見せつけるアホウサギ、あろうことかワニに向かってヒョイヒョイと枝を向けて煽っているのである。目がキマっているワニはプッツンしてしまった。そしておもむろに木を揺らし始めたのである。


 人間よりもデカいワニが木に向かってタックルをしている。ドスンドスンと凄い音が響いていた。


「ウサ吉早く戻れって! おーい!」


「きゅーん……」


 アホウサギは揺れにビビッて木にしがみ付いた。あれだけ煽っていたのにヘタレだなウサ吉……。


 だけどワニのタックルは終わらない。どんどん熾烈になる木へのタックルが続き、遂にウサ吉が木から宙に投げ出された。


「キューン!?」


「ウサ吉ぃぃぃぃぃ!!」


 宙に投げ出された白いウサギが驚愕した目でボクを見つめていた。落下するその先では、ワニが口を開けて待ち構えていた。


 スローモーションのようにゆっくりと流れる世界の中でボクは思った。このままウサ吉を見殺しにしていいのだろうかと。


 ウサ吉と出会ってからの時間は短いけど、このウサギには数え切れないくらいの恩がある。このダンジョンで生き残れたのは全部ウサ吉のお陰だし、ギルという友達に出会えたのもウサ吉のお陰だ。


 ボクは死んでもギルドに戻るだけだが、この可愛いウサギは違う。ここでウサ吉を見殺しにしたら一生後悔するだろう。


『テレポート!』


 ウサ吉を見殺しになんてしない。ボクが死んでも彼を助けるんだ。ワニに食い殺されるのは恐怖だけど、ウサ吉を失う方が怖かった。


 ボクのテレポートは地点登録すればどんなに遠くても転移することが出来る。そして見える範囲でなら瞬間移動する事だって出来るのだ。ダンジョンの中では地点登録出来ないけどね……。


「ウサ吉っ!!」


「キューっ!」


 体がフワリと宙に浮き、玉ヒュンする感覚がボクを襲った。でもボクの胸の中にあるフワフワなコイツの温かさが恐怖を忘れせてくれる。


 後はどうやってウサ吉を助けるか……。下には口を大きく開けたワニが待ち構えていた。もう一度テレポートをするにも、しっかりと目標地点を凝視しないとダメなのだ。


 ウサ吉をギルの居る方へ投げるか……そう考えた時、視界の隅で青く光るのが見えた。


「俺が援護する! 何としてでもこっちへ来い!!」


「っ!!」


 頼もしい友の声が聞こえた次の瞬間、落下地点で待ち構えているワニの頭が吹き飛んだ。力の抜けたワニがプカプカと水面に浮かび、奇跡的に着地する事が出来た。


 だけど危機は始まったばかりだ。池のど真ん中に立つボク達を狙って他のワニが次々と口を開いた。


『テレポート!』


 場所を選んでいる余裕なんて無い。この池の中は死地だ。いくらギルが援護してくれるからって耐えられる訳がない。池に落ちた瞬間にパクリだ。


 視界に入った陸地にテレポートで避難した。地面に足が着いているだけで安心感を覚えた。これで一安心か?


「キュキュ!」


「っ!?」


 ウサ吉が声を上げた次の瞬間、ボクの横を青い光が通過した。背後から大きな水飛沫が上がりボクの体を濡らしていく。


「後ろから来てるぞ! 走れっ!!」


 ボクはウサ吉をギュッと抱き締め、ギルの声のする方へ全速力で走った。


 ギルがボクの後ろに矢を放つ。何度も何度も……。そして遂にギルの元へと辿り着いた。


「ウサ吉、どっちに行ったらいい? 案内して!」


「キュ! キュー」


「ギル、ボクに付いて来て!」


「ああ、後ろは任せておけ」


 頼もしい仲間と駆け巡る初めての冒険、いつものダンジョンでは決して味わえない体験に笑ってしまった。


 ああ、これだ。これなのだ。ボクはこういう冒険がしたかったのだ。


 そうしてボク達は危険な森の中を笑いながら走り抜けたのだった。


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