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第1話 アホなボクがフラれた日

 20年生きて来たボクの人生を振り返った時、一番古い記憶は何時だろうかとベッドの上で考えてみた。今日のようになかなか寝付けない日は、どうでも良い事を考えるか妄想の世界で物語に浸るに限る。


 一度大きく深呼吸をして目を瞑り過去を振り返ってみれば、一番古い記憶は小学生の頃の記憶だった。


『えへへ、またユウタ君と同じクラスになったね。やった~♪』


 初めてのクラス替えがあったその日、ボクは心細い気持ちで登校した。でも廊下で偶然出会った彼女から眩しい笑顔でそう言われた瞬間、心がポカポカと温かくなり不安な気持ちが全て無くなったのを思い出した。


 小学校低学年だったと思う。今でも鮮明に覚えている初恋の瞬間である。


 腰にまで届く綺麗な黒髪を三つ編みにしていた彼女、きっとその影響でボクは黒髪ロングが好きなのだろう。罪な幼女である。


 だがしかし、同じクラスで嬉しいと言われて舞い上がっていたのはボクだけであり、結局のところ彼女とそれ以上仲良くなった訳でもなく、あの時の言葉は単にリップサービス的なセリフだったのだと知ったのは何時だっただろうか。


 小学生男子というものはとてもピュアな存在である。可愛い彼女が名字ではなく名前でボクの事を呼びそんな甘いセリフを笑顔で言えば、大抵の男子なら勘違いしてもおかしくないと思う。やはり罪な幼女である。


「あの頃は楽しかったな~」


 初恋は初恋のまま実らず、今もあの時の少女の顔が思い浮かぶ。


 中学を卒業するまでずっと同じクラスだった彼女、勇気を振り絞って告白した訳でもなく、いつか彼女から告白されないかなーっと努力もしない単にヘタレているだけなボクには絶対に訪れない未来なのは分かる。


 高校で別々になった彼女とは全く顔を合わせて居ない。連絡先だって知らないのだ。時間が経てば経つほど思い出の中の彼女が美しくなっていき、きっと今会ったら理想と現実のギャップで胸が痛むのだろう。きっと彼氏とイチャイチャしてるに違いない。


「はぁ、大学生活もあと二年だし、ボクの人生はどうなるんだろ……」


 初恋の淡い思い出にホッコリしたのも束の間、考えないようにしていたつもりが憂鬱な事を思い出してしまった。






 毎週水曜日というのはボクにとって憂鬱の種だった。


 大学の講義で必修科目というものがある。進級や卒業までに必ず修得しなくてはいけない科目であり、つまるところ会いたくない奴と強制エンカウントする最悪な日なのだ。


『ウェーイ、今日も辛気臭い顔してんなー。そんなんじゃいつまで経っても童貞だぞ?』


『ど、どどど、童貞ちゃうわっ!』


 会いたくない奴は上井(うえい)という名前の男だ。毎日ウェーイって遊び回って留年したらしく、同じ講義に出ているのである。


 この講義では二人一組で課題を行い発表するという地獄のような時間であり、課題の相棒がこのパリピなのだ。陰キャなボクと違って陽キャな彼はボクの事を面白おかしく揶揄(からか)って来る。正直なところボクは苦手だった。


 ちなみに、課題と発表はほとんどボクが一人で行っております。パリピで陽キャな先輩に強く言えない自分が憎い……。


『実はさ~、ミキの友達が彼氏探してるらしくてな……紹介してやろっか?』


『ほ、本当に?』


 課題の資料をまとめている傍ら、スマホをポチポチしていたパリピが急にそんな話をしてきた。


『ああ。だって俺たち仲間だろ? 任せろって!』


『上井君……!』


 ミキというのはパリピの彼女である。ツンツン頭でウェーイなパリピには相応しくない清楚系なお嬢様なのだ。ボクがこのパリピを嫌いな理由の多くはこれなのかもしれない。何となくだけど、ミキちゃんは初恋の彼女と似ているのだ……黒髪ロングなところが。


 まさに童貞が絶対に選ぶ女って感じの清楚系ですよ? さっきは童貞じゃないって勢いで言っちゃったけど童貞です。だからボクはミキちゃんを選びます。ぐぬぬ、彼女が欲しいです!


 そんなパリピが彼女を紹介してくれるらしい。どうやらボクはパリピを勘違いしていたようだ。未だにボクの名前を呼んでもらった事が無いけど許してあげよう。


 ボクにもやっと彼女が出来る……そんなルンルン気分で課題を進めていたらあっという間に授業が終わった。


『よし、じゃあ行くぞー!』


『う、うんっ』


 パリピの金髪が輝いて見えた。今ならアニキって呼んでしまいそうになる頼もしさを感じる。これまで全然課題を手伝ってくれなかった彼の悪行も許してしまいそうだった。


 そしてカフェテリアの隅の席で大人しく座っている美女が居た。ミキちゃんである。ああ、今日も神々しい程の美しさである……主に黒髪が。こんな可愛い彼女のお友達なら期待出来るだろう。


『おーい、ミキ!』


『遅い……』


『わりーわりー、こいつ連れて来た。名前何だっけ?』


『えっと、こんにちは……白井裕太(しらいゆうた)です』


『…………』


 ミキちゃんから氷のような視線を感じる。視線だけで人を殺せそうな冷たい目だった。そしてアニキはボクの名前すら憶えてくれていなかった。そりゃないぜー、アニキ!


 確かにボクは平均よりも背が小さいし、男らしい容姿じゃないかもしれない。でも挨拶くらいして欲しかったのである。


 それから気まずい時間が続いた。どうやらミキちゃんの友達が遅れていたのだ。でも彼女を紹介して貰える嬉しさから、これくらい安いモノだと二人にコーヒーを奢った。


 パリピとミキちゃんが仲良く会話する傍ら、ボクは置物のようになって耐えた。


『お待たせしました』


 そして遂に彼女が現れた。ミキちゃんのお友達に相応しい美女だった。パッチリとした目は力強く、プルンプルンで艶やかな唇、そしてお尻に届きそうな程に長い黄金色に輝く金髪が美しい。お胸が大きいのに腰はクビレており、まさにボンキュッボンを体現したギャルっぽいお姉様だったのだ。凄く背が高くてモデルさんみたいです。


 こんなモデル美女がボクの彼女に!?


『……ごめんなさい無理です!!!』


『……えっ? あの、えっと、えええっ!?』


 パリピに紹介されたボクを見て、名前も知らない清楚系色白ビッチギャルがそう言ったのだ。ボクの大好物であるミニスカニーソが眩しい彼女に厳しい事を言われたボクは、思わず新たな性癖に目覚めてしまうところだった。


 ちなみに、ボクの中で背の高い金髪のお姉さんはビッチギャルなイメージなのだ。薄い本を読み過ぎたのかもしれない。


 えっと、ボクはまだ自己紹介すらしていないのにフラれましたよ?


『そっかー。スマンな、えっとユウタだっけ? じゃあ俺達これからカラオケ行くから、元気出せよっ!』 


『……』


 それからボクはどうやって家に帰ったのか思い出せなかった。


 脳裏に残っているのは去りゆくパリピの茶髪とミキちゃんの良い匂いのしそうな黒髪ロング、そして名も知らぬ清楚系色白ビッチギャルのエロい絶対領域だけだった。ゴクリ……。






「ううぅ……辛い」


 思い出したら涙が出て来た。


 パリピはきっと良い事をしたと思っているのだろう。ミキちゃんの冷たい目は『えっ、こいつが……?』という疑問の視線だったのだ。


 ろくな会話もしないでフラれるなんて思ってもみなかったが、ボクが面白い会話で清楚系色白ギャルビッチな彼女を射止める事が出来たとも思わない。つまり書類選考で落ちたようなものである。


 きっと小柄で女顔なボクには男性としての魅力が足りていないのだろう。魅力って何だろう……? 容姿? 身長? 性格? 話術? 性技? パリピ? ……う゛っ、頭が。


「誰でも良いです、ボクに魅力を授けて下さい」


 そしてその夜、ボクは枕を濡らして眠った。


 でも寝ようとすると清楚系色白ビッチギャルの言葉を何度も思い出した。なのであの素晴らしいムチっとした生足とミニスカニーソが作り出す絶対領域を脳内で好き放題して自分を鎮めて眠りました。


 色々とスッキリして眠ったせいだろうか、ボクはその夜、不思議な夢を見た。

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