ケレン先輩も考えたい
お昼休みにいつものように、みーちゃんと新と三人でご飯を食べていると、ある人がいつものように現れた。
「小花さん、“牛の首”について、私も考えたわ」
ケレン先輩である。
しかし話の内容はいつもと違った。
いつもは「生徒会に入りましょう」と何度断っても誘ってくるのだけど、今日は有名な都市伝説の話だった。
「え、何ですか!?」
戸惑いを隠せないのでそう聞かざるを得ない。
「砂川君の考え方も悪くはないと思うけれど、私の説もそれなりに説得力があると思うわ。聞いてちょうだい」
新とみーちゃんに目をやると、面白そうにこちらを見ていた。
たぶん二人も聞きたいのだろう。
夏のせいか最近、都市伝説や怪談話が学校を飛び交っていて、私も砂川先輩と“牛の首”について話をした。
それで砂川先輩は砂川先輩なりの答えにたどり着いたのだけれど、たぶんそれをケレン先輩に話したのだろう。
そこからケレン先輩はケレン先輩なりに考えて、“牛の首”の真相にたどり着いたということが予想できた。
「それじゃあ、聞かせてください」
私の言葉を聞くと、ケレン先輩はニヤリと笑って人差し指をぴんと立てて話し始めた。
「私が着目したのは“聞いた者は三日と経たずに恐怖のあまり死んでしまう”というところよ。砂川君の説にはこの部分の説明がなかった」
「そうですね」
たしかにそうだった。砂川先輩の説は、なぜ“牛の首”が怖いのか、というところに重点が当てられて、その“牛の首”というキーワードから連想していた。
ケレン先輩は「だから甘いのよ」と言って笑った。
「よく考えて。内容がわからないのにその効果がわかる、というのは本質として、言い伝えではなく、予言と考えられると思うの」
「は、はい」
聞きながら整理する。先輩の言いたいことは、聞いたら死ぬということは、死を知らせるというこだから、予言ということか。たしかにそう言える。
「ところで小花さん、“パンは危険な食べ物”っていうアメリカンジョークは知ってる?」
砂川先輩もそうだけれど、頭の良い人って、話の展開があっちこっち飛んで追いつかなくなる。
「いえ、知りません」
「犯罪者の九十八パーセントはパンを食べているとか、犯罪行為はパンを食べてから二十四時間以内に起こるとか、そういうジョークよ。まあ日本だったら、パンをお米に言い替えてもいいかもしれないわね。つまり、日常的なことは統計的に考えれば、何にでも当てはまるということよ」
なるほど。素直に面白いと思った。こういうしゃれの効いているジョークは好きだ。
「はい。それがどうしたんですか?」
でもそのアメリカンジョークがどう関係するのだろうか。
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの笑顔で「私はこれを“牛の首”に応用してみたのよ」とケレン先輩が指を私に向けてポーズを決めた。
「簡単なことよ。ただ名前が“牛の首”なだけで、本当は中身は関係ないもので良いの。例えば“こんにちは”とか“ありがとう”とかでいいのよ。どんな死因や状況であれ、その三日以内にこの言葉は聞いているはずよ」
それはそうだ。たぶん私が死ぬときも三日以内にその言葉は聞いているはずだ。
みーちゃんが「なんかうける」と言って笑っている。
「それにこれは“恐怖のあまり死ぬ”という部分にも応用できるわ」
「そうなんですか?」
「ええ。私の言った“こんにちは”や“ありがとう”には恐怖は感じないけれど、死ぬということは怖いはず。つまり“恐怖のあまり”がさっきのアメリカンジョークでいう“パン”に当たるということ」
「えーっと、それは、死んでからでは恐怖は感じないから、恐怖を感じてから死ぬのは当たり前と言うとですか?」
私なり先輩の言葉を整理する。
「そうよ。だからまとめると、三日以内に絶対に耳にする言葉が“牛の首”の内容であり、死ぬということに恐怖を感じるのは当然である、ということよ」
そう言い終えると先輩は髪の毛をかき上げて「これが私の考える“牛の首”の真相よ」と付け加えた。
ケレン先輩はお父さんがアメリカ人でお母さんが日本人のハーフなので、アメリカンジョークから連想したのだろう。
「いやぁ、さすがウル先輩っすね」
ケレン先輩に従順な新が言った。
「当たり前よ」
得意げに答えるケレン先輩。
面白いのは、砂川先輩は“牛の首”という言葉そのものから考えを広げ、ケレン先輩は現象からアプローチしたということ。どちらにしてももはや怖い話ではなくなってしまっている。
「その説も面白いです」
素直に私も伝える。
「ありがとう。まあでもこの“牛の首”は真相がわからないからこそ面白いと思うの。逆にこんなことを考えてしまうと興ざめよね。でもせっかく考えたし、聞いてほしかったの」
「そうなんですね」
砂川先輩もそんなようなことを言っていた。
「そうよ。だから今日は生徒会の件はいいわ。聞いてくれてありがとう」
そう言ってウインクをすると、ケレン先輩は去っていった。
「まじめに“牛の首”について考えてんのなんかうける」
みーちゃんが笑って言ったけれど、たしかにその通りだと思った。