私の前世を少々誤解している。
世間でいう『大魔導師』とはフィリミナという女魔導師のことであり、何を隠そうクロエの前世であった。
フィリミナは偉大な人物……ではなかった。と思う。
一言で言えば適当。無計画。無鉄砲。
思いつきで走り出し、正直思いつきのまま死んだ。
クロエが住むヴィエール帝国に限らず、この世界は魔法によって成り立っており、その反面自然界の魔力の不安定さによって災害が起きていた。
地中奥深くの魔力の歪みで地震が起き、水源付近の魔力の暴走で水害が起き、空気中の魔力の濃淡で異常気象が起きる。
根本的な解決方法はなく、対処療法で凌ぐしかない。
いつ起きるかわからない自然災害への対策を講じるしかなかった世界に希望の光が差したのが、つい20年前のことであった。
かの偉大な魔導師フィリミナが、自身の命と引き換えに、半永久的に全世界の魔力を安定させたのだ。
それからというもの、フィリミナは世界を救った英雄として、各国で語り継がれている。
……らしい。
大いに誤解を招いている。
まずフィリミナの死因が違う。
そして自らを犠牲にして世界を救うとか、そんな崇高な精神は微塵もなかった。
確かに自然災害の被害には心を痛めていた部分はある。
けれど一番問題だったのは、被害が出るたび「宮廷魔導師長だから」という理由で、仕事を回されることだった。
その仕事の面倒なこと面倒なこと。
せめて自分とその子どもや孫が生きるであろう、この先200〜300年くらいは魔力を安定させ仕事を減らそうと術式を完成させた。
それが死ぬほんの一ヶ月前。
魔力の多くが持っていかれることは承知の上だったものの、もちろん死ぬほどではなかった。
「二日酔いで術式展開したのがまずかったな…」
思い出すたび後悔するのは、友人と明け方まで浴びるように酒を飲み、何を思ったか仮眠後術式を展開し発動確認をしたのが運の尽きだった。
おそらく飲んでいる最中、より効率的に展開するためのいいアイディアが思いついたのだと思う。
もう思い出せないどうでもいいようなアイディアのために、酷い頭痛の中術式を発動させ……
肉体に宿る魔力生成機能ごと術式に組み込んでしまい、半永久的に魔力を安定させるため肉体ごと犠牲にするほかなかった。
つまり、ケアレスミスで死んだのだ。
肉体を取られた魂は転生し、記憶を持ったまま「クロエ」の人生を始めてしまったらしい。
「母さま、この大魔導師さまはどんな方だったのですか?」
「ベージュの髪に黄緑色の目をしたとても美しい方だったそうよ。ちょうどクロエの瞳の色によく似ているわね」
今度王都に行ったら、フィリミナさまの絵画を見せてあげましょうね、と言われた。
顔から火が出るほど恥ずかしい。
かくして見た目は幼女、しかし中身は大雑把適当スボラ大魔導師の新しい人生が始まったのである。