どうやら私は生まれ変わったらしい。
クロエ・ケイト・ベイリーは幼い頃からおかしな少女だった。
伯爵家の名門ベイリー家の長女として生まれたはいいものの、3歳の誕生日を迎えるまで一切話すことはなかった。
母親や使用人が気付く最低限の泣き声だけあげ、誰かが気付けばパタリと泣き止む。
まるでこちらの行動がわかっているかのよう。
普通なら気味悪がるところだが、
「初産がこんなに育てやすい子なんて、私前世で国でも救ったのかしら?」
クロエの母親は非常に楽観主義者で、そして頭の良い人だった。
娘には何かあるとすぐに気づきつつも、人に危害を加えず自らを危険に晒すこともないのなら、気にせず育てようと密かに決心したのだった。
「母さま、今日は私の3歳の誕生日で合っているか?」
クロエが初めて発した言葉は見た目に反して随分と勇ましく、不釣り合いなものであった。
クロエは幼い頃から将来を期待されるほど、素晴らしい美貌の持ち主である。
柔らかな光を放つホワイトブロンドの髪は風が吹くたびサラサラと揺れ、ペリドットに喩えられる黄味のあるグリーンアイは長いまつ毛が重いのか常に伏し目がちだ。
甘いものを食べるときだけぱっちりと目を開けキラキラと輝かせるその姿は、クロエの母親であるエレノアでさえも時折ため息を吐くほどであった。
見た目だけなら「小鳥さん、おはよう」と朝の挨拶でもしていそうなクロエが、「わたし、ケーキだいすき!」と言いそうな幼児らしい可愛らしい声で、まるで女騎士のような台詞を言うものだから余計に異質であった。
それでも生来の楽観主義者であるエレノアにとってみれば、特に言い回しが妙なだけで「今日はわたしの誕生日?やったあ!」と言われたくらいの感覚である。
「そうよ、今日はクロエの誕生日!3歳おめでとう」
「やっと3歳か!今日まで育ててくれてありがとう、母さま。もうしばらくよろしく頼む」
使用人たちはその言い回しの奇妙さに若干の寒気がしていたものの、言われたエレノア本人は欠片も気に留めることはなく、こんな小さなうちから親に感謝できるなんて!とまた楽観主義を大爆発させていた。
「この国はクロエが生まれるずっと前、まだ母さまがクロエくらいの頃に、大魔導師さまが平和にしてくださったのよ」
クロエの3歳誕生日事件のすぐ後、周りが認識している以上にクロエは頭がいいと気づいたエレノアは、絵本を読み聞かせるように少しずつ教育を行い始めた。
特に歴史学はクロエの食いつきがよく、エレノアは積極的に話して聞かせた。
それもそのはずだ。
前世の自分が歴史上ではまるで英雄のように扱われていることに、クロエは笑い出しそうになっていたからである。
「大魔導師さまがご自身の命を犠牲にしてこの世界の魔力を半永久的に安定させる術式を組んでくださったの」
なんて美談だ、恥ずかしい。
母さまが語るその『大魔導師』とやらは、そんなにできた人間ではなかった。