SS:罪の。
むかしむかし。
王が家臣に裏切られて滅びた国がありましたとさ。
王は生き残ったものの、精神をやんでしまっていつまでも一人で城にとじこもり、国の再建を夢見ていました。
しかし、いつまで経っても誰ひとりとして、手をさしのべてはくれません。
絶望した王は自殺を図ろうとしますが、本当はもう何も食べなかったことで死んでいたのです。だから死ねません。死んでも死んでも死ねない。
王はいつしか自分という概念を失って死に続けることしかできなくなりました。
そして気づけば王の怨念は城中に飽和して、王は城と一体化してしまったのです。
死のうとするたびに力は増していきます。
今にも瘴気は城のあった山を飲み、ドドドドド!と拡がろうとしているではありませんか。
昔、敵だった国の王はこの瘴気に痺れを切らして、怨念のこもりきった城の討伐クエストを発注し、クリアしたものにたくさんの報酬を与えることにしました。
発注当初は、国中の男という男が報酬と名を挙げることを目論み、城へ向かいましたが、帰ってくることはありませんでした。
今では誰もクエストを受けるものはいません。
「ふーん。だからこの国は女だらけなのね。でもどうして瘴気はここまできてないんだ?」
と、国の案内所で昔話を聞いた後、軽い感じで質問をする30代ほどの冒険者いた。
案内所の人がいうには、「我が国に伝わる伝説の宝物を使い、瘴気を中和しているからです。当時の王はクエストだけで終わらせるつもりでしたが、渋々使う羽目になったとか…」ということらしい。
男はへー…と
「じゃ、俺そのクエスト受注しまーす」と軽く言った。
「……はいっ?」
案内所の女が驚くのも無理はない。
すぐにそれは王の耳に入り、男は直接謁見することになった。わかりやすく恰幅のよい姿をしている王は、呆れたように男に言った。
「はぁ…旅人よ。本当に行くのか?死にに行くような者だぞ…」と。
しかし、男は今までの軽い雰囲気は何処か。真剣な眼差しを持って頷く。
「ただし、2つ条件があります。一つは討伐が完了しても私はいなかったことにしておいてください。そして二つ目は、その正気を中和しているという宝物に触れさせてください。なぜかは言えませんが、触れなければいけない気がするのです。」
王はその気概に圧倒されたが、勝手に触れられて宝物に何かあっては国が滅ぶかもしれないとなかなか首を縦に振ってはくれない。
ただ、そのクエストを受けようとする勇姿に答えて宝物を見せることはできる。と城の地下の宝物殿に案内された。
ぐるぐると無限に続く螺旋階段を降りる途中。男は脳裏で自身について考えていた。
俺は実はもう自分のことはよくわからない。
気づけば旅をしていて、何故か生きねばならないと強く思っていた。生きるためには多少卑怯なことをした。情を捨て、生きるものを欺き、ただ生きた。ついにはどこぞの国だったか、生きるために禁忌に手を出し、ついには不老になった。生きる…生きるためには魂を腐らせてはならない。だから記憶を消した。ただ悲しかった。でも生きるしかなかった。でもどうして生きねばいけないのか。俺は時々疑問に思った。でもそこにあるはずの真実にしか答えはないのだということも察しがついていた。
だというのに…ここで命を捨てる気になっている。旅の終わりはここだと叫んでいる。ここが答えなのだろうか…
気づくと大きな石造りの広間に出ていた。
噴水のようなものがあり、その真ん中には青い宝石が埋め込まれた盾がある。
男は盾に目を向けた。
その途端…盾の宝石は男と共鳴するかのようにとてつもない光を出して、男を包み込んだ。
男は完全に生きる/死ぬ意味を思い出した。
とてつもない光が宝石に収束したあと、男は噴水の真ん中で宝物に触れていた。
男は水に濡れなかった。魔法がかかったかのように水をはじいていたからだ。
王もまたその光の中で見た。
先祖の罪を。隠された真実を。
そしてこの宝物がこの男の作った物で男は恨むべきこの国の平和を願い、この神器じみたものをここに置いたことを。
もう何も王は言うまいと思った。
謝罪はこの男への哀れみでしかないからだ。
何も喋ることはなく、自分が用意できる最大限の装備を男にさせてから出発させた。
彼はジャラジャラと装備の音を立てながら、
一人で例の山まで歩いてゆく。
死の瘴気の影響か。
草木さえなく、岩場のみが広がっている。
男はついに瘴気が蔓延している場所まで来た。
一歩足を踏み入れる。
苦しみの紫をした瘴気は生きるものを一目散に狙う。彼も例外に漏れることはない。しかし、彼には効かなかった。
キィイイイイイイン!
彼の体は青く発光して瘴気をはじく。
足跡は青く燃え、男はひたすらまっすぐ城に向かって歩く。
ついに城についた。今にも崩れそうな建物であるがその隙間を瘴気が埋めている。中は特に濃度が高く、彼が一体化していることもあり、城の壁中にもがき苦しむ彼の顔が浮かび上がっている。
その無数の顔は男の生を吸おうと特攻してくるが、男にぶつかった瞬間に蒸発する。
暫くして王の間へ足を踏み入れた。
そこにはただ瘴気を無限に生み続ける獣がいた。
「かわっちまったな…ヴェンタ…」
男は幼馴染の時の名で彼を呼ぶ。
そして深呼吸をし、足に力を込め、獣にむかって跳躍した。
凄まじい勢いで彼の触手と男の剣は拮抗しあった。
無限の生と死がぶつかり、無の波動がはじける。
無は空間を侵食し、城の中は男と獣だけの空間になってゆく。そして彼ら同士も触れた面々が打ち消し合い、もう機能しなくなっていた。
キリがないと考えた獣は全ての瘴気をその体に圧縮、自爆しようとする。
男もそれならと目を静かに閉じて詠唱を始める。「_______________E flvi yw aevi ln exhexeyi aehi. Xwo fiui ek yfi quebi!」
瞬間、2つの光の衝突は世界を駆け巡る。
対極の力はそれぞれの力を打ち消しあった。
しかし、男の方が少し力が足りず、無の浸食によって死の呪いに負けそうになる。
「っっっっっっっ!!!あぁがぁぁああああ!」
叫びも虚しく、青い光は綻びを見た。
だがその時、王にもらった鎧が砕け、光の翼になる。翼は男の背中を押すようにして男を支えた。男は全て捨てる勢いで力を咆哮に乗せて、最後の力を振り絞った。
「うくっ……終わりだ…終わりだあああああ!」
轟音と共に獣の呪いの体は溶けていく。
何かが始まり何かが終わった。
そして、その先にはただ2人の少年がいた。
二人は数百年という歳月を超えて再開する。
彼らは何も言わずに殴り合いを始めた。
下手に会話するより気持ちが伝わる
と、どちらも考えたからだ。
一撃一撃がとてつもなく重い。
犯した罪を咎める一撃。
助けなかった相手を叱責する一撃。
謝罪の一撃。
血だらけになっても撃って撃って
撃ちあい続けた。
やがて二人は同時に倒れた。
しかし、そこには怒りや憎しみはなかった。
二人は横たわったまま、
神妙な顔でヴェンタは口を開く。
「ナルク…僕は君に…罪を…」
男…ナルクはヴェンタを見つめる。
そして淡々と喋った。
「俺たちはまた生きなければならないだろう…
おまえを助けるためだったとしても、私は禁忌に触れ、人ではなくなったのだ。その罰は必ず返さなければならない。だから、おまえと融合してやり直そう。」と。
ヴェンタは静かに頷き、手を繋ぐ。
彼らは一つの光となって、二人のいた無の空間はゆっくりと消えてゆく。
その光は、青でもなければ
紫でもなく、
輝く朝日の色だった。
古城付近の謎の爆発から3日後。
突如として数百年間あったはずの瘴気は消え去り、崩れた城が残った。
昨日までもそうだったかのように蒼々とした草原が城の周りには広がり、風が気持ちいい。
私は家臣の危ないという忠告を退けて、
ここへやってきた。
………おや。あの男の鎧が古城跡の階段に残っている。
近づいてみるとその中で、赤ん坊が一人ですやすや寝ているではないか。
ここにいては危ない。私が暫く面倒をみよう。
まあ危ないと言われた場所にいる私が、人のことを言えるわけではないのだがね…
きっとこれが私にできる祖先の罪滅ぼしなのだろう。
私は赤ん坊を抱えて古城を背に歩く。
これも友達に煽られたのでここに投稿します。
これが多分メモの一番古いのです。
文章的に型★月に影響受けまくってるときでしょうか。
かなり厨二病を煮詰めた感じです。
まあここは黒歴史的自由帳なので、
幸せならOKですb