第3話 ハズレの卵
お腹を空かせた遥が、何やら綺麗な植物であしらわれた村のゲートを潜ると、村の中には小さいながらもお店が数店出立ち並んでおり、買い物をしている村人や、辺りを走り回る子供達で、そこそこ賑やかな様子だった。
遥が市場で売られているターキーに目を取られていると、2人の少年達が近づいて来て
「あ、オネェちゃんまだ卵孵化させてないの?」
「おっそーい、オレ達なんて見てよ」
すると2人の少年の間から、青と緑の幼いドラゴンがひょこっと顔を出した。
「わ、わ、何それ!その子達がドラゴンってやつ?」
「あったり前じゃん!ゲーム買った時に必ず1つ付いてくるドラゴンの卵を孵化させると、こうやって自分のお付きのドラゴンになるってわけ」と得意げに話す少年。
「俺のは青い卵から孵化した水属性のドラゴン」
「んで、俺のは風属性の緑ドラゴン」
「これが、ゲームのガチャみたいなもんだよ」
「…あ、でも…オネェちゃんのは真っ白だから…多分…ハズレ」
「ガクッ…て、え、ちょ!ハズレなの?」
「まだ分からないじゃない、物凄く可愛いくて強い子が産まれてくるかも!」
「ま、宿屋に孵化機があるからやってみたらいいじゃん、じゃーねー」といって2人の少年は走り去って行った。
(ふぅ〜、何なのよ、とにかくお腹空いたし、一休みしたいなぁ)
遥が辺りを見渡すと、宿屋『ヤドヤン』…(な、なんてストレートな名前!あそこに入って、美味しいもの食べて休も!)
「ごめんくださーい…」(チリン、チリン)
遥がドアの隙間から首だけ出してキョロキョロしていると
「あ、いらっしゃい!今日は泊まり?卵の孵化?それともセーブ?」
と話しかけてきたのは自分と同じ歳頃かと思われる少年だった。
「あ、え、えーと、えーと…その…食事を…」
「ははははっ、面白いお客さん!分かった食事ね」
と言って、少年はカウンターの脇の扉から奥に入っていった。
遥は部屋の中をぐるっと見回し微笑んだ。
(なんか楽しい。だってこんな世界って現実には…)
暫くすると、少年は奥から出来立てホックホクのターキーを持ってきてくれた。
「はい、どーぞハラペコさん」
「わぁ、最高!」
遥は抱えていた卵を隣の椅子の上に置いた。
「いっただっきまーす!」
少年はそんな遥をニコニコしながら見ていた。
「あ、君まだ卵孵化してないの?」
「うん、私まだついさっきゲーム始めたばっかりで、何にも分からなくて、これどうしたらいいんだろ?」
「それなら、そのソファーの横にある孵化機の中に置いとくといいよ。暫くしたら卵からかえるからさ」
「ありがとう」
「あ、あと今日はその〜…宿泊もお願いします」
「かしこまりました、ハラペコさん」
「ちょ!何その呼び方!まるで私が食いしん坊みたいじゃない」
「え、違うの?」
「違わなくはないけど、、」
「これこれ、ピート。お客様をからかうでない」
「あ、お爺ちゃん、いつからいたのさ!」
先程ピートが立っていた宿のカウンターには、白い髭を胸の辺りまで生やした1人の老人が立っていた。
「どうも、今晩はお世話になります」
「あ、それからピ、ピートさん、お風呂も入れるかしら?」
「かしこまりました、ハラ、」
「遥です。私の名前」
「かしこまりました、遥さん」
3人は顔を見合わせて笑い合った。
こうして、初めての宿屋の夜は更けていった。