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アルカナモラトリアム  作者: kiki
第1章 歪んだ世界
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1-1 誓いの旅路

強烈な鉄の臭い……。木々が燃える音……。瓦礫と化した家屋……。俺が目を覚ますとそこは赤に塗れた世界だった。




意識が段々と鮮明になっていく。起き上がろうとするが身体が動かない。何かが覆い被さっている。無理やり這い出て自分を押さえつけていたモノを確認する。




周囲の物が緩やかに朽ちていくその世界で目にしたものは、赤く染まった兄の死体だった。





激しい痛みが頭を襲う。目に映るもの全てが偽りだと本気で思った。どうか夢であってくれと心から願った。





何も思い出せないまま家だった場所から出てみると、生まれて初めて見る 地獄 がそこには広がっていた。





血塗れでそこら中に転がっているのは全員親しみのある顔の人間ばかり。感情を生み出さないようにただひたすらに心を殺す。





気がつくと、虚ろな意識の中で変わり果てた村を一周していた。どれだけ時を刻んでも終わらない地獄の中で、目を覚ました場所へと戻る。



変わり果てた兄の亡骸を優しく抱えると、ノイズ混じりだった景色が突然鮮明に色を付け始めた。それと同時に涙が溢れてくる。表情を変えることができないまま、ただただ涙を流し続けた。




「……どうし……て……」




絞り出せた声はそれだけだった。





それから何時間、何十時間経ったのかはわからない。炎が消え、立ち上る煙も消えて、死の臭いが立ち込め始めると俺は動き出した。




無気力なまま、作業的に村全体の埋葬を行った。どれだけの日を費やしたのかもわからなくなるほどひたすらに穴を掘り、ひたすらに埋めた。





村中の亡骸を埋め終わる頃にはようやく現実なんだと、受け止められるだけの思考力が戻ってきていた。





俺達の家だった場所に兄を埋める。それが終わった途端、糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。赤子のように喚き、泣き叫んだ。涙も声も出なくなると、自分が空腹であることを強烈に自覚した。こんな状況でも渇きを満たそうと欲している己という存在に吐き気を覚える。しかし、吐き散らかす物も残っていなかった。




村中を漁り食べれるものを探した。生きていようが腐っていようが口にした。泥水を啜ってでも無理やり胃に流し込む。




それからしばらくは気絶したかのように眠りに落ちた。







長い長い暗闇の中で、もう二度と目覚めないようにと祈って。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「……はぁ……はぁ……っはぁ……クッソしつこいなホントに」





こういうのが面倒だからわざわざ森の中通ってるっていうのに、本当にあの日から最悪な世界を生きているようだ。









「おいおいおいおい。なにも逃げるこたぁねーだろ」



「どこまでお散歩する気だよ?」



「待てよねぇちゃん。いい加減大人しく荷物渡せって」




森の中を駆ける俺の後ろを、いかにも 盗賊 といった見た目の三人組が追いかけて来る。こういった連中が星の数ほどいるのはわかっていたんだが……





疲労と素敵な出会いの連続のおかげでストレスは最高潮に達していた。




そして何よりも癇に障ったのが




ーーーーーーー俺は女じゃねえ




フードを被っているからなのか野郎共は俺のことを女と勘違いしやがった。頭にきた俺は走るのをやめてフードを乱暴に捲り上げ、振り向きざまに腰元の銃を突き付ける。




「アンタ達さすがにしつこいなぁ……こっちが大人しく逃げてやってりゃ女だなんだと吠えやがって……俺は男だ!」




すると盗賊三人衆も距離を保ったまま武器を構えて立ち止まる。




「こいつ偉そうに銃なんて持ってやがるぜ。いくらで売れるかなぁ」




「どうせ見せかけのアンティークだろ。売れねーだろあんなの。さっきまでビビって逃げてたくせに騙されねーよ馬鹿が」




「おいおい、ねぇちゃん男なのか?綺麗な顔して、頑張って嘘ついてんじゃねぇのか?」





――パン――





一つの破裂音が鳴り響く。一瞬の静寂の後、風の音と鳥達の羽ばたき立つ音が呼応するかのように後に続いた。




俺の撃った銃弾は三人のうち、一番図体のデカい男の頬を掠めて後ろの木に命中した。男の頬から血が流れる。





「お前だな。どっちもお前だ。警告はした……三回目はねーぞ?」





男は頬の血を震える手で触りながら恐る恐る答える。





「な……なにがでしょうか……?にかい?さ……さんかい?」





何のことを言われているか理解出来ていないようだ。周りの仲間達も銃が偽物だと本気で思っていたのだろう。本当に護身用に身につけているレプリカくらいに思っていたのかもしれない。うるさい口を閉じた。





手を挙げたまま立ち竦む三人の男達をそれぞれ睨みつけ、再度銃をあの男に突き付ける。





「俺は男だ。女じゃねー。最初とさっき。アンタは俺のこと 『ねぇちゃん 』て呼んだだろ?誰にだってつまらない間違いはある。だから一度目は見逃してやったんだ。そんな俺の好意を無駄にしたから、アンタは今血を流してる」





銃を横に傾けて男の頭に狙いを定める。





「もう一度だけ言ってやる。三回目はねーぞ。それとも、アンティークか試してみるか?お前らの頭で」





「も……も、申し訳ありませんでしたーーー」





強い口調で圧をかけると謝罪の言葉を残して3人は森の中へと消えていった。




全くもってついてない。本当に嫌になる。深いため息をついて銃を戻す。風がフードをなびかせた。




「お腹……空いたな……あいつらから逆に奪ってやればよかった……」




無駄な体力を使ったせいで……




空腹に苛立ちを感じながら近くの木に腰掛ける。






まだ一年も経ってないのか……




木々の隙間から覗く空を見上げ、 世界が絶望に染まった‘あの日’を思い出す。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





変わり果てた村の中で気を失ったように眠っていた俺は起きてすぐ、淡い期待を抱いてあたりを見渡した。




しかし、地獄を再認識しただけだった。そこら中に飛び散っている血が乾ききって、深い赤で村中が塗り固められている。





どうしてこんなことになったのかを理解出来ないまま、何か手掛かりを掴む為に村を歩き回った。




やっとまともに思考できるようになってもただ悲しいだけ。何故一人だけ生きているのかも不思議だったし、どうやって生き延びたのかもわからない。兄や仲間が守ってくれたのだと思う。俺は気を失っていて気付けば卑怯にも一人だけ命が残っているという事実に胸が締め付けられた。




散策を続けているうちに、 塞ぎ込んでいた記憶が少しずつ蘇る。




ーーーーーーー目を覚ましたとき、微かに息のあった兄が俺に言った。




「……げろ。……まえ……けでも、生き……」




俺に覆い被さるように血に塗れていた兄は、何かから俺のことを守ってくれたんだと思う。





そうだ………俺はあのとき薄れゆく意識の中で確かに見たんだ。アイツが村を襲ったとき、部屋の隅に隠れていた俺は鏡越しに見ていた。俺を守るためにアイツに身体を貫かれる兄の姿をーーー










―――人狼―――







名前は聞いたことがあった。そういうバケモノがいるという話を幼い頃に兄さんが教えてくれた。




人狼とは、人ではないバケモノ。



領域を踏み違えた歪な存在。







けどまさか、自分達の村がそのバケモノに襲われるなんて思ってもいなかった。





情けない事にすぐに気絶してしまったんだろう。薄っすらとしか姿を確認できなかったが、兄を貫く血に塗れた獣の姿が脳裏に焼き付いている。





どういう理由で、何の為に、全くわからないが俺達の暮らしていた村を壊滅させた『アイツ』は今も存在している。そう思うとひたすらに殺意が込み上げてきた。




村のみんなのため……兄さんの仇を討つために、俺は哀しみを閉じ込めて村を出た。




アイツを殺すまではもう二度と戻らないと決意して。





哀しみは時間と共に行き場のない憤りへと変わっていく。そんな黒い感情をぶつけるべき仇を見つけるために俺は初めて村の外の世界に触れた。







村から数日歩くと、アシュグレイ王国という巨大な国がある。何か情報を得る為、この国に数日身を置くことにした。








しかし、そこで見たのは俺の生きてきた世界とはまるで違う世界だった。一部の権力者達によって搾取され続ける人々。国という檻で人が飼われているように感じた。そこには平等など存在していなかった。




自由な外の世界。村での暮らしに慣れた俺にはひどく息苦しい世界。






国民達はそれでも喜んで国の為に働き、高い税を納める。外の世界よりは格段に安全だからだ。少なくともバケモノは出たりしないし、現れても兵士が守ってくれる。






国は本当にたくさんの人々が集まり生活をしていた。とても広い領土を有しており、幾多もの街と人が国を形成している。法が秩序を守り、王に仕える兵達があらゆる脅威から国民を守る。





けれど、誰しもが安全な国の中で暮らせるわけではない。税を納められなかったり、罪を犯せば国外追放されてしまう。それすらも権力者の裁量一つでどうとでもなっているようだった。






国の外の世界というのは、自らを守ってくれる物は何一つない。自分の身は自分自身で守らなければいけないのだ。それが叶わなければ滅びるだけ。俺のいた村のように……




生まれた時から外の世界にいた俺には国での暮らしは驚きの連続だった。




建ち並ぶ建物、数えきれない商店、見たこともないような人の波。華やかで煌びやかな世界がそこにはあったら、





しかし、 国では何をするにも王族や貴族達に許可を貰わなければならないらしい。商売をするときも、国に出入りするときもだ。



華やかさとは裏腹に、窮屈で息が詰まりそうだった。




それでも情報というのは人のいるところに集まる。『アイツ』の詳細は何も得られなかったが、何日も何日も手当たり次第に情報を求め動いていると、隣国に行けば、人狼の情報を持つ人間がいるかもしれないという手掛かりになんとか辿り着く。



それから俺はすぐにこの国を出ることにした。




高い出国料を払って。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






それからというもの……国から出れば盗賊紛いの連中に何度も襲われた。







次の国に着くまでこれが続くのかと思うと気が重い。






短い休憩を終えて、目指すべき方向へと歩んでいく。






一旦森を抜けると強い日差しに目が眩みそうになった。






目をゆっくり開く、遥か向こうに国が見えた。







「あれか……しかしどんだけ距離があるんだこれ?」




あまりにもかけ離れた距離に少し心が挫けそうになる。きちんと舗装された道を通って行きたいが、国での申請といくつかの手続きを経て初めて使える手段らしい。その手間に加え、行商の荷車を狙い、国から離れれば離れるだけ盗賊に狙われる危険性も増えるという。途中にいくつかの関所があるため申請が認可されていない者が通るのは無理な話だった。魔獣などの被害には比較的合いにくいらしいが、面倒な手続き、膨大な時間と金、盗賊から身を守るための護衛、どれを取っても壊滅した村出身のガキ一人にどうにか出来る筈もない。俺は諦めて少し遠回りになるが自然溢れる巨大な森を抜けて行くことにした。



いくつかの森が国と国の間を埋め尽くしているようだ。そして、森を通るからと言って盗賊連中が出ないというわけではないらしい。身をもって味わった。国での僅かな暮らしがどれほど危険から程遠いものだったのかを痛感する。



後悔ばかりしていても仕方ない。一刻も早く目的を果たす為、情報を求め前を向いて歩み進める。









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