1-12 地下施設
「やったねアルメラ!早速リベンジチャンス!」
「あ?リベンジ?良い心がけじゃねえか。買ってやるよその喧嘩」
「……なんで勝手に話が進んでくんだ……だいたい、おもて出ろって言ってきたのはロゼさんでしょ!なんで俺から喧嘩ふっかけたみたいになってんですか!」
このままでは本当にボコボコにされそうなので被害に遭う前になんとか止めようと試みる。
「お前が来るの遅いんだろうが」
「そうだそうだー!」
「いや、だからそれはさっき説明した通りーーー」
頼んでもいないのに、ルミが面白がってどんどん場を盛り上げていく。
「うるせえ!いいからさっさとこい!ついでにルミもだ」
もう何を言っても無駄だと気付き諦めてトボトボと後をついて行くことにした。横でルミがとても嬉しそうに声を上げている。お前のせいで……
受付所があるメインホールまで着き、そのまま‘おもて’すなわち外に出るのかと思いきや、ロゼさんは出入り口とは逆方向に歩いて行く。何度か呼び止めようとしたが徹底的に無視をされてしまったのでこれも諦めた。少し歩くとT字路に突き当たる。開けたスペースでロゼさんが魔力を込めた手をかざすと、それに反応するかのように地面に魔法陣が現れる。ゴゴゴゴゴッと石と石が擦り合わされるような音が通路に響き、床から地下へと続く階段が出現した。
「なんだこれ、すげぇ……」
生まれて初めて見る驚異的な光景に思わず驚きの声を上げる。魔力の働きにより次々と石が組み変わり地下へと階段が伸びていっているようだ。
「地下施設に行くの久しぶりだ!」
ルミが我先にとどんどん階段を降りていく。俺もロゼさんについていくように螺旋状に形成された階段をしばらく降りると、想像を絶する広さの巨大な空間へ出た。
「なんだここ……地下、だよな?ギルドより大きいんじゃ……」
「ここも含めてミグルミなんだよ?何言ってるの?」
「地上の施設よりもって意味だよ!」
「ここは地下施設と呼ばれる場所だ。見てわかる通りとんでもなく広い。勝手にウロつくなよ?特にアルメラ。お前は構造も何も把握してねえんだからな。言われた所以外には勝手に行くな」
ロゼさんが設置されているパネルのような物を操作すると正面に見える壁がゆっくりと開いていき、巨大な通路が現れた。
「やっぱトレーニングエリアだ!テンション上がってきた!」
「外で暴れるとクルルの野郎がうるせえからな。ここなら文句も言われない。あ、それとルミ!ちょっとこっち来い!」
トレーニングエリア?暴れる?嫌な予感しかしない。まさかとは思っていたが本気で戦闘行為を始めるつもりらしい。憂鬱な気持ちを引きずりながら人生初の地下空間を散策する。目の前で二人がなにやら話し合いをしているようだがよく聞き取れない。それにしても、これだけの巨大空間だと部屋から部屋への移動も室内とは思えない距離を歩くことになる。三人分の足跡を響かせながら歩いて行くと、先ほどの部屋の半分くらいの広さの空間にたどり着いた。どうやらここがトレーニングエリアらしい。
またもやロゼさんなパネルのような装置をいじっている。ルミとなにやら話してるようだ。しばらくすると、エリアの景色がみるみるうちに変わり出して、無機質な広い空間から自然溢れる森の景色へと変わり、小動物の姿も現れる。何が起こったのか理解できず呆けていると鳥が顔目掛けて飛んで来た。判断が遅れ、思わず両手で顔を守り衝突の衝撃に備えていると鳥は身体をすり抜けていく。そこでようやく気付いた。これは投影魔法の一種だ。アシュグレイの国内にもいくつか用いられていた技術だということを思い出す。
「何をビビってんだよ。ただのホログラムだろうが。ああ、そうか。田舎者には刺激が強すぎたか?」
「アシュグレイ王国で何回か目にしてますよ!ただ、まだあんまり慣れてないだけで……」
「大丈夫だよアルメラ!ボクも田舎出身だから!」
「はは……ありがとう。何が大丈夫なのかわからないけど」
「さてと、そろそろ始めるか。それじゃ本題に入るぞ。アルメラ!ルミ!準備しろよ」
俺はわかるけどルミも?ついでに連れて来た感じだったのでてっきり見学だけかと思っていたけど……二人がかりでロゼさんとやるのか?そしたら負担は減るな。淡い期待を抱いている横で、ルミはとてつもなく嬉しそうな顔で準備運動を始めている。
「えっと……ロゼさん。二人がかりでいいんですか?さすがにいくらなんでも……ね?」
「何言ってんだ?別に二人同時でもいいけどルミがいるとなるとこないだみたいに手加減できねえぞ。今回はお前とルミでやるんだよ。ただの練習試合だ。入団テストよりも気が楽だろ?」
「え⁉︎なんでですか!女となんて……しかもさっきレイに忠告されたばっかですよ!ルミとやり合ったら俺がやばいって!」
「あの野郎……余計な事言いやがって。まあ、確かに今のお前じゃまだルミに勝てるとは思えん。けど何もしなきゃずっと女以下だな」
「だから大丈夫だよアルメラ!ちゃんとボクは手加減してあげるから!」
手加減?女に?多分ルミは俺より歳も若い。今までの人生で戦闘訓練なんか積んだことない俺が、こいつらみたいな魔導傭兵ギルドで腕を磨いてきた人間には力が及ばないかもしれない。でもいつまでもそれじゃあダメだろ。このままじゃ女にもガキにもこの人にも馬鹿にされたままだ。
さっきまでの自分がみっともなくて情けない。レイの魔力に当てられてビビってたみたいだ。決めたんだ。強くなるって。泥水すするのには慣れてるからな。
「クソ……好き勝手言いやがって。いいぜ!やってやる!本気出させてやるよルミ!大口叩いてられんのも今のうちだ!女には負けねーよ!」
「いよーし!早く始めよ!もういいロゼ?」
「そうだな……ルミはアイツのこと殺すなよ?アルメラは殺す気で行け」
ーーーークソ!どこまでも馬鹿にしやがって!
「ーーー始め!」
ロゼさんの開始の合図と共に両手に魔銃を召喚する。片方の銃に魔力を込めながら目の前でストレッチをしているルミへと向かって走り、もう片方の銃で魔力弾を数発放つ。
「そんなんじゃ当たらないよ?」
造作も無く躱されるが、これは想定内だった。ミグルミがバケモノの巣窟ってことくらいさすがにもう気付いてる。女だからって関係ない。最初からフルスロットルだ!
「これならどうだ!」
魔力を込めていた銃を後方へと向け放つ。推進力を利用して加速し、ルミとの距離を一気に詰める。勢いそのままに空中で蹴りを顔面めがけて繰り出した。
「は!女がどうとかほざいてた割に全力で顔狙いに行くとはな!いいじゃねえか!なるほど、力でねじ伏せようとあえて接近戦を仕掛けにいったか」
しかし、ルミはそれをギリギリのところで躱すとその場で激しく回転し、カウンターで回し蹴りを放ってくる。それを思い切り腹部に食らってしまい、最初の地点まで吹き飛ばされた。
「ぐぁっ!」
地面に倒れ、痛みと苦しさで顔が歪む。
ーーーどんな威力してんだよ……カウンターもろに喰らったとはいえ、あの体格の女の威力じゃねーだろ!
予想以上のダメージに驚愕していると視界が暗くなる。上からルミが物凄い勢いで落ちてきていた。顔目掛けて落ちてくるのを間一髪のところで横に転がりながら躱す。地面とルミの衝突音が地鳴りとなり、あの小柄な体型から生じた音とは思えないほどの地震のような衝撃音が響いた。あんな威力で顔を踏み潰されたら死ぬだろ……ロゼさんの言う通り殺す気でいかなきゃこっちが殺される。
土煙の中でゆっくりとこちらを見る少女に向かい再度突っ込んで行く。魔力弾の反動を使い加速していき、先程よりも小振りな蹴りを繰り出す。当たり前のように躱されるが、反撃をされる前に蹴りと拳を連続して次々と繰り出していく。だか、やはりどの攻撃も綺麗に捌かれてしまう。
ーーーダメだ!全然当たらねぇ!
まるで動きを先読みされているかのようにことごとく避けられる自分の拳と蹴り。俺は一旦距離を取るために魔弾を互いの間に放ち、衝撃を利用して後ろへと下がる。地面に向けて撃った為、辺りに煙が立ち込めるが、この視界の悪さを利用して呼吸を整えると同時に魔銃へ魔力を溜めることも忘れない。
「ほう。一手で自らの利になる距離を作り、呼吸を整え、次の接敵に備え力を蓄えるとは……悪くないな」
ーーーどこから来る。ルミの姿は見えないし気配も感じない。下手に動くのは危険か?
色々な状況、展開に合わせ様々な可能性とそれに見合った策を練るが、全てが俺の思い込みになりかねない。まだ底の見えないルミを相手にしているのに後手に回るわけにはいかない。その考えが全ての思考を抑えつけ、‘動かない’という選択肢以外を消した。気配を悟られぬよう、空気の揺らぎに飲まれてしまい呼吸すら覚束ない。細心の注意を払い、周囲に気を張っているが一向に攻撃の気配を感じなかった。煙が立ち上って晴れていき視界が開ける。
俺の予想とは裏腹に、ルミは先程の場所から動いておらず、ただ突っ立っていた。警戒などしている様子も無く、ただいつも通りの日常を過ごすように立っているだけだった。
「……何してんだお前?やる気あんのかよ」
「あれ?かくれんぼの次はおしゃべりタイム?」
思わず話しかけてしまった俺に対し、ケーキを食べていたときと変わらないような明るい態度で、笑顔のまま逆に質問を飛ばしてくるルミに、わなわなと怒りが込み上げてきた。
「質問してるのは俺だろ。なんで攻めてこなかった?どうして距離を取った俺に、見す見す時間をやるような真似をしたんだ⁉︎チャンスだったろ!」
「なんで?とか、どうして?とか、逆にどうして戦ってる最中に敵に教えを請うの?」
ーーーくっ!!
真顔で首を傾げ、こちらを見てくるルミに何も言葉が出てこない。
「それに、チャンス?アルメラがわざわざ煙幕張って距離を取ったんでしょ?そこにボクが突っ込んで行ったら危ないかもしれないもん。ボクにとっての最善策は無理に攻めることじゃない。ちゃんと状況を見極めた上で対策すること。あれは‘意味ある停滞’だったんだよ!」
ごもっともだ。ルミの言ってることは何一つ間違っちゃいない。圧倒的な優位性を示していたにもかかわらず、それが俺の演技である可能性も思考から排除しなかった。選択肢の一つとして戦略に取り組み、無駄な手傷を負わないように、万が一にも負けたりしないように最善の手を打ったんだ。俺は勝手に自分の意見を押し付けて、勝手に慌てただけ。恥を晒しただけか……
「だけど停滞してくれたおかげで俺にとっての状況は好転したけどな!」
“ 真紅連弾”
溜めていた魔力の一部を消費して無数の弾丸を放つ。しかしルミは余裕を持ってジャンプをし、空中へと身を躱した。
「さっきよりも全然速くて質量も多い!やっと本気出したのかな?」
避けられることは予想出来ていた。けど、空中じゃまともに避けることすら出来ないだろ!更に魔力を消費して空中にいるルミへ向けて弾丸を放つ。
“真紅連弾”
無数の弾丸が空中にいるルミへと命中する。轟音と共に攻撃の手を休める事なく魔銃に残った魔力を全て撃ち尽くす。弾丸を撃ちきると周囲には煙が立ち込める。一切の情報を見落とさないように煙を凝視しながら、気持ちを落ち着かせて魔銃に魔力を充填していく。
「う〜ん。速いし量も多いけどちょっと軽すぎるかな」
視界が晴れていくと、白い魔力の膜のようなものがルミを覆っていた。あの程度でヤレるとは思っていなかったがあれだけの弾幕を無傷で凌がれたという事実に動揺を隠せない。
「マジか……あれで無傷かよ」
ゆっくりと地面に着地するルミ目掛けて溜めた魔力を解き放つ。
“真紅放射”
ルミは一直線に向かって来る魔力の塊を命中する直前で半身になって躱す。その際に服の胸元が弾け飛ぶが、意にも介さず身を屈めて勢いよくこちらに向かい距離を詰めてきた。魔力の放出が終わっていない俺はその場から動くことができず、真横からの回し蹴りを腹部にもろに喰らってしまう。骨に響くような衝撃により地面と水平に吹き飛ばされる。痛みと衝撃により一瞬呼吸が出来なくなり、声にならない声を上げていると背後から強烈な衝撃を感じた。それにより気付くと空中に身体が舞っていた。どうやら蹴り飛ばされたようだ。予想以上の速度で追撃してきたルミを何とか視界に入れようと吹き飛ぶ身体の体勢を無理矢理変えて、一秒前まで転がっていた場所を見るがそこには既に何も無い。
しかし背後から突如、魔力の気配を感じたので後方に向けて魔弾を放つ。
ーーーそう何度も蹴り飛ばされてたまるかよ!
完全に不意を突いた一撃だったので捉えたと思ったがそこにルミはおらず、魔弾は虚しく宙を舞った。よく見ると白い魔力の塊がふわふわと空に浮いている。これに反応してしまったのだろう。見事に騙されたわけだ。
「テンポの速い攻撃と背後からの痛みに恐怖しちゃった?だから簡単に操られる。次の攻撃も背後からだって思い込まされてるんだよ」
真下から声が聞こえてくる。その瞬間両銃を下へ向けて魔力弾を次々と放つ。一心不乱に引き金を引くが、ルミはバックステップをして軽やかに弾丸の雨を回避すると、呆れたように溜息を吐いて一気に空中にいる俺目掛けてジャンプしてきた。
「ほらほら落ち着いて。慌てたって隙にしかならないよ。もっと楽しもうよ!」
顔面に強烈な痛みと衝撃が走り地面へと叩きつけられる。ルミの拳が頬に直撃したのだ。口の中に鈍い鉄の味が広がっていく。アイツの言う通りだ。落ち着け!口の中に溜まった血を吐き捨ててふらつきながら立ち上がり、煙の向こうにいるルミをしっかりと見据えて銃を構えた。
「はは……予想を上回るバケモノぶりだな。ここまで差があるとは正直思わなかったよ。そんなに小さくてしかも女だっていうのにどんだけ強いんだ?」
「前から思ってたんだけど、小さいとか女って強さと関係あるの?そんな見せかけの情報に惑わされてるから弱いんじゃない?」
「確かに……世界が狭いんだろうな。村にいた頃はこんなヤツらがいるなんて考えもしなかったよ」
「そういえば、ボクも村の出身だよ!仲良くしようね!」
「ホントか?田舎出身って村のことだったのか。だったら尚更お前より弱いままじゃいられねーな。いや……今負けるわけにもいかねえ!」
「どうして?女に負けるのはプライドが許さない?そんな小さいこと気にしてたらこの世界じゃ生きていけないよ?」
「別にそんなんじゃねーよ。ただなんとなく負けたくないって思っただけだ」
ありったけの魔力を魔銃へ込め、こちらに走って向かってくるルミへ銃口を向ける。
「無理だよアルメラ!キミじゃボクを捉えられない」
「どうかな?」
“真紅連弾”
「またその技?当たらないってば!」
放った無数の弾丸も当たり前のように躱される。ルミは走った勢いそのままに空中へと高く飛び上がった。それを予測していた俺はさっきよりも早いタイミングで、近い距離でもう一度真紅弾丸を撃ち込む。だがやはりこの攻撃も白い膜によって完全に防がれてしまう。
「ちょっとだけ危なかったけど、これじゃさっきと同じだね!しかも少し疲れてきたのかな?弾数がさっきより少ないーーー」
「だろうな。ちょうどさっきの半分だ」
避けられるのもわかっていた。当たらないとわかっていた攻撃を仕掛けたのはこの状況を作るためだ。二回の攻撃はあえて同じものを仕掛けた。より近い距離で、より早いタイミングで、前よりもこちらにとって良い条件で放たれた攻撃。それを容易に回避し防いだことによりお前は一瞬油断する。‘状況が良くなってもこんなものか’と。
俺の本命はこっちだ。二回目の真紅連弾は片方の銃だけで放った。その白い膜をを張らせる為に。残ったもう一丁の銃でその膜をぶち抜く為にだ!今度こそーーー
“集約魔弾”
魔弾の塊がルミを覆う白い膜へ直撃する。凄まじ轟音と衝撃を放ち周囲を煙が覆う。両銃でそれぞれ別種の魔法を放ったことにより、その反動を上手く受け流すことができずに体勢が崩れてしまう。よろける身体は爆風の衝撃に耐えることができず吹き飛ばされた。地面を這うようにしながらも視線をなんとか上空に向け、ルミの挙動を見逃さないように凝視する。次の攻撃に意識を割きたいが、痛みと魔力を大きく消費した疲労のせいで上手く頭が回らない。
ーーーこれである程度のダメージは与えたはずだ。ただ俺もかなり消耗した。どうする……
何とか立ち上がり空中にいるであろうルミの方向目掛けて銃を構える。なけなしの魔力をすべて注ぎ込み弾丸を充填する。 視界がクリアになってくると薄っすらと人影が見えた。俺の渾身の一撃は白い膜とは別に壁のようなもので防がれていたようで、人影はピンピンしている。まさか、とも思ったがこの程度で諦めるわけにはいかない。魔銃から弾丸を放とうとしたそのとき、地面から突如現れた鎖により全身が縛り付けられる。
「そこまでだ。よくやったアルメラ」
両腕を上向きに縛り上げられたままなんとか顔だけ声のする方向へと向けると、ロゼさんがこちらに歩み寄ってきていた。なぜ縛られているのかよくわからないままその理由を聞こうとすると上空から先に声が飛んで来た。
「ちょっとロゼ!なんで邪魔するんだよ!すごい素敵な一撃だったのに!ロゼが邪魔しなきゃボク当たっちゃってたのに!」
ルミ不満を漏らしているので視線を上へ向けると、ルミの前方に鎖でできた魔力の壁が張られていた。煙の向こうに見えた防壁はルミの出したものではなく、ロゼさんが出したものだったらしい。ルミの張っていた白い膜は見事にひび割れていて、弾けるように崩壊した。しかし確かに俺も解せない。なぜ戦いの最中に邪魔をしてまで止めたんだ?全然人柄を把握していない俺でもこの行為がロゼさんらしくないということくらいわかる。あの一撃で勝ててたとは思わないが、あのまま直撃していれば良いところまでいけたんじゃないか?色々考えが巡るがまとめられないままロゼさんに疑問をぶつけようとしたその時、身体に巻き付いた鎖が消えていく。
「アルメラ。この試合、お前の勝ちだ」
「……はぁ⁉︎んなわけねぇだろ!ダメージだって俺のが大きいし、最後のが当たってたってあれで勝負がついてたとは思えなーーーんが!」
突然の勝利宣言に納得がいかず、猛抗議をしていると鎖が口元に出現し言葉を遮られた。
「えーーー!ボク負けてないでしょ!なんでロゼが勝手に決めるのさ!邪魔したくせに!」
やはりルミも納得がいかないようで同じように猛抗議をしている。しかしあっという間に鎖の猿ぐつわを嵌められて俺とルミのモガモガ声が地下に鳴り響く。
「二人とも黙れ。縛り殺すぞ」
ロゼさんの脅迫に声を押し殺す。しかしルミはまだモガモガこえをあげているようで、ロゼさんは呆れたように俺たちの鎖を消した。
「黙らない!勝手に邪魔して勝手に決めんな!」
ルミはロゼさんを怒りの形相で睨み付けるとものすごい勢いで飛びかかった。片手に白い魔力を集中させて魔法を発動させようとするが、手に集まった魔力が霧散していく。ルミ自身も驚いていると瞬く間にロゼさんに頭を抑えつけられ、身体を鎖で縛り上げられる。空中にそのまま吊るされると強烈なデコピンを喰らい、痛い!と悲痛の声を上げた。
「勝手に決めてねえだろうが。試合前に言っただろ。まともにダメージ喰らうようなことになった時点でお前の負けだって。無駄に怪我する前に止めてやったんだ。ありがたく思え小娘」
ーーー試合前に……あの時か!
「う〜〜そうだけど……そうじゃない!あのまま当たってたかなんてわからないじゃん!」
「お前が一番よくわかってんだろ?今のお前じゃあの一撃は防げなかったよ」
「ーーーくっ!ロゼなんか嫌い!うざい!ムカつく!」
ロゼさんは駄々をこねるように吊るされたまま暴れ回るルミの頭を片手で締め付ける。再度ルミの悲痛の叫びが辺りに響いた。しかし、納得がいかないのは俺も同じだ。ロゼさんの方へ不審な視線を向けていると振り返り俺の心の中の疑問に答えてくれた。
「お前もかガキ。今回の親善試合はそもそもお前がどれだけやれるのかを冷静に見るために行われている。前はお前も頭に血がのぼってたし、何より俺が客観的に見て評価を下したかった」
「それにしたって俺の勝ちっていうのはおかしいでしょ!こんな終わり方じゃルミより強いってことにはーーー」
「強い?そりゃねえだろ。何を勘違いしてんのか知らねえがお前と俺たちとじゃ力量の差がありすぎるんだ。対等に比較してもらえると思い上がるな。大体ルミ!お前もクルルとの‘約束’を忘れてんじゃねえよ!」
「あはは……つい……」
「つい、じゃねえんだよ。そんなんだから枷を付けられるんだ。いい加減もっと自分を制限できるようになれ」
「約束って……いや、そんなことよりも枷ってどういう事だよ!ーーーまさか!」
さっきのルミの魔力が霧散していた光景を思い出す。そういえば、ルミからの攻撃魔法は何一つ放たれていない。俺が受けたダメージは全て肉弾戦によるものだ。そういうことか……
「理解したか?頼むからいちいち騒がないでくれ。それが今のお前の現状だってことを深く刻め。その為のこの試合だ。しかし、ルミを選んだのは完全な人選ミスだったな……」
「……どうすれば強くなれるんだ」
悔しさで声が震える。つまり俺は力を制限された状態のルミにボコボコにされたということだ。ここまで馬鹿にされていると滑稽すぎて笑えてくるな。けど、それもこれも全部弱い俺が悪い。いいさ。全部飲み込んで力に変えてやる。
「へえ。もっと激しく落ち込むかと思ったけどな。いい面構えだ。安心しろよ。その為に俺様が面倒な仕事に抜擢された」
「……抜擢?それってどういうーーー」
「まだ聞いてないか?お前がミグルミで活動していくにあたってそのままじゃ使い物にならねえ。なので死ぬ気で強くなってもらう。俺がお前の教育係だ!震えて感謝しな!」
ーーーここから本当の地獄が始まるーーー




