1-11 個室訪問
正式に『傭兵ギルド ミグルミ』へ所属することになった俺は、改めて挨拶やお礼をするために団員達の部屋を順番に尋ねていた。お節介オバケのグラスも心配だからと付いてくることを望んでいたのだが、これくらいの常識的行動は一人でやらせてくれと断ったのだった。
大体の建物の構造は、昨夜の外出時に把握しているので問題無いだろう。団長クルルの部屋を出た後、グラスはクルルより臨時の仕事を任されたらしい。不安そうな顔をしたグラスと別れるとその足で団員達の部屋へと向かう。
ーーーーどれだけ俺に社交性が無いと思ってんだよ!挨拶くらい余裕だっての!
見返してやろうと強く心に決めて、団員達の部屋が用意されている棟へとたどり着く。まずは、知ってる人から挨拶していくか……
最初に訪れたのはバクラさんの部屋だ。この人には短期間で二回も治療でお世話になったからな!お礼も兼ねて、新しい団員としてきちんと話しをしたかった。期待と緊張で胸を膨らませながらドアをノックして返事を待つ。しかし、何も反応が無い。少し控えめにしすぎたのかなと思い、今度は少し強めにノックをした。ドアの向こうから人の気配を感じる。外開きの扉であることを考慮して少し下がってドアが開くのを待っていると、目の前に勢いよく刃物のようなものが突き出された。前髪を掠めたそれをゆっくりと見つめるが、突然の身の危険に思考の処理が上手く追い付かない。そのまま後退りするように尻餅をついてしまう。
なんだ?なにがおきた?刃物?敵?えっ?、とこんがらがる思考の末に、素早く立ち上がると魔銃をドアに向けて構える。ゆっくりと開いていく扉から目を離さないように、固唾を飲み込んだ。
「誰だ?」
恐ろしく低い声が半開きの扉の向こうから問いかけてくる。
「ア、アルメラです。バクラさんの部屋……ですよね?」
恐る恐る姿の見えない人物に問いかける。
「ああ?アル……?ああ、あのボロいガキか。何の用だ?」
ーーーボロいガキって……!
「えーっと、入団することになったんで先日のお礼も兼ねて、挨拶をしに……」
思いがけないパワーワードとの遭遇に困惑しながらも要件を伝える。ってかキャラ違いすぎだろ!本当にバクラさんか?などと疑問を感じていると完全にドアが開いた。部屋の中を慎重に覗くと、上半身が裸のTHE寝起き!という雰囲気を放つバクラさんが気怠そうにこちらを睨んでいた。ベッドに腰掛けたまま低い唸り声を上げて頭を押さえると、片手で招き入れるような動きをしている。それに従うように、部屋へと入る。
「し、失礼します」
入室する時にドアに貫き刺さる刃物が視界に入るが、極力何も考えないように中へ向かおうとすると、
「それ。持ってこい」
『それ』というのは十中八九横に突き刺さっているこの刃物のことだろう。はい……と乾いた声で返事をし、指定された物を力強く抜き取った。
ーーーーってこれ包丁じゃねーか!!あの人が投げてきたんだよな⁉︎当たってたら死ぬぞ!
驚愕と恐怖を同時に感じ、顔面蒼白になっていると、
「大丈夫だよ。即死じゃないなら治してやるから」
と俺の心の声を読み取ったのか、これまた気怠そうに言ってきた。……いや、これ頭に当たったら即死でしょ。と心の中でツッコミを入れながらも持ってきた包丁をバクラさんへと差し出す。
「これ……。あの、大丈夫ですか?体調悪そうですけど、物凄く。水飲みます?」
「悪いな。そっちのキッチンにあるから持ってきてくれ。それと、お前なんか作れるか?」
「作れる?料理なら多少は……」
「じゃあなんかテキトーに作ってくれ。冷蔵庫の中のもので。食えればいい」
「えっと、俺これから他の団員の人達にも挨拶に行かないといけないんですけど……」
「お前。挨拶とお礼をしに来たんだろ?わざわざ俺の睡眠の邪魔をしてまでこんな朝っぱらから押しかけて来たんだよな?」
物凄い圧を感じる。朝っぱらって……もう昼過ぎだぞ。しかし、ここで断ったら最悪殺されると思ったので、仕方なく昼過ぎの朝ごはんを作ることにした。
冷蔵庫の中をチェックすると、卵やバター、ハムにチーズにオリーブオイルなんかも揃っていて調味料も一通りある。
ーーーーこれならある程度のものは作れそうだな。ん?これは……よし!
面白いものを見つけたので早速調理に取り掛かる。そば粉だ!このそば粉を水や卵、塩を加えてよく混ぜる。ラップをして冷蔵庫で少し寝かせる。この間に他の食材の準備をして、ついでに荒れ放題な部屋の中を掃除することにした。寝起き直後の食事も辛いだろうから、バクラさんにはゆっくりお風呂に入ってもらい少しでも目を覚ましてもらうことにする。ベッドのシーツやカバーを取り替えて、窓を開けて部屋の空気を入れ替える。気持ちの良い天気で気分も軽やかになりそうだ。適当にバクラさんのタオルと着替えを準備して脱衣所に置いておくと、いい時間になってきたので調理を再開することにした。
熱したフライパンにバターを入れ生地を流し込み、丸く伸ばして各種具材を入れて、焼けてきたタイミングで端を折りたたむ。そば粉の香ばしい香りが食欲を駆り立ててくる。これを様々な具材で趣向を変えて複数枚焼き上げた。ちょうどバクラさんも出てきたみたいなのでテーブルに並べて食事の準備を整えた。
食卓に並ぶのは葡萄のジュースに数種類のガレット。生地の上にたっぷりとサラダと目玉焼きを乗せたもの。定番のチーズとハムと卵を乗せたもの。最後にバターでソテーしたリンゴをシナモンと砂糖で味付けしたデザートのガレットも用意した。
「おはようアルメラ。僕、寝起きの機嫌があまり良くないみたいなんだ。だから誰も僕の部屋に寄り付かなくてね。誰かと朝に食事を一緒にするなんて本当に久しぶりだよ。部屋も生まれ変わったみたいに綺麗で驚いた。ありがとう。十分なお礼をしてもらったよ」
数時間前の人物とは別人のようになったバクラさんが笑顔で感謝の言葉を述べてきた。あまりの変わり様に戸惑いながら水も用意して食事の席に着く。いただきます!と合掌をして、二人で焼きたてのガレットを食べることにした。
「!!!美味しいな!何?アルメラってシェフ志望でミグルミに来たのかい?シオンにも負けないレベルだよこれは!」
「喜んでもらえて嬉しいです!入った理由は料理とは全く関係ないんですけど。強くなりたくて……力が欲しくてここに来ました。これからよろしくお願いします」
舌鼓を打っているバクラさんに深いお辞儀をする。食事中に真面目過ぎたかとも思ったが、俺がミグルミに来た理由を明確に意思表示しておく為に挨拶に来たんだ。万が一にでもシェフと間違われたら困るしな。
「強く、ねぇ。それなら僕の担当じゃないな。君の教育係も相棒も既に決められているみたいだよ?クルルから何も聞いてない?」
「いや、まだ何も。まずは団員の皆さんに挨拶をしようと思って」
トレーナー?フェロー?聞き慣れない言葉に戸惑いながら、特に聞いていない旨を伝える。よく考えてみれば、ミグルミに所属したものの仕事内容などは何も告げられていない。なんとなく話の流れで各団員達に顔合わせっていうことになったけど……挨拶回りが終わったら一度そこらへんを確認しなくちゃな。
それからはグラスとここまでしてきた旅の内容を聞かれたので色々話した。出会った時のこと、森で魔獣の群れに襲われたこと、そして黒白橋で戦った男のこと。食事が終わり、後片付けをしようと食器をまとめ始めたところでバクラさんに止められる。
「ご馳走さま。本当に美味しかったよ、ありがとう。片付けくらいは自分で出来るからアルメラは他の団員へ挨拶を済ませてきなよ」
アンタのせいでだいぶ足止めされたんだけど……とか思っちゃいけないな。おかげでバクラさんのことも少しだけわかったし。何よりもまず、朝はもう二度と寝起きのこの人には近づいてはいけないという有力な情報を得ることが出来た。恐らく、グラスが心配していたのはこういうことなんだろう。出鼻を挫かれてしまったが、バクラさんの言葉に甘えて部屋を後にする。次の部屋へと向かった。
「にしても広いな……ギルドってどこもこんなに広いもんなのか?一人一人の部屋の広さが村とは大違いだ」
国から少し離れた森の中とはいえ想像よりも遥かに広い敷地に、建物の大きさ、部屋の豪華さ、それら全てに目を疑った。昨夜はあまり気にも止めなかったが、物凄い資金が無ければこのギルドは建てられないんじゃないか?疑問をいくつも浮かべていると、次の部屋の前に着いた。深呼吸をして早速扉を叩く。今度はシオンさんの部屋だ。少し待つと軽やかな返事と共に中から美女が現れる。
「はい。あ、アルメラくん遅かったんですね。クルルさんから話は聞いてますよ。いらっしゃい。どうぞ中に入ってください」
「この間は手当てしてくれてありがとうございました。お邪魔します」
部屋の中は全てのものが整理整頓されていて、細かいところまで女性らしさが溢れているような華やかな空間だった。いい香りが部屋を満たし、所々にあしらわれた小物や雑貨が個性を演出していて、花をモチーフにしたものが多い。
「うわぁ、綺麗な部屋ですね」
「ありがとうございます!お客様が来るときだけ綺麗にしてるだけですよ。ちょっとしたおもてなししか出来ませんが、良かったらお茶でも召し上がって行ってください」
一つ前にバクラさんの部屋を経験しているからだろうか、この短時間での居心地の良さに思わず涙が出そうになる。
「おい!新人!早くしろよ!オマエのせいでオレ達がどれだけお預けを食らってると思ってるんだ!」
部屋の奥から声が聞こえる。覗き見ると、俺とシオンさんの他に二人の人物が部屋の中には居た。雪のような白髪の少女とベージュの髪色をした少年?がテーブルに着いている。
「あー!ロゼにボコボコにされてた人だー!やっときたねー。これでようやくシオンのケーキが食べられる!」
「こら!ルミ!言葉に気を付けなさい!ごめんなさいアルメラくん。貴方が来た時のおもてなし用にケーキを焼いていたんだけど、香りにつられてこの二人が押しかけてきちゃって」
「いえ、全然……それより、ケーキを作ってくれたんですか?ありがとうございます!」
正直先ほど食事を終えたばかりで食欲はまるで無いのだが、こんな美人が作るケーキを食べる機会はそうそうあるもんじゃない。逃すわけにはいかなかった。
ーーーいや、まてよ!もしかしてこれからはシオンさんの手料理を食べる機会が沢山あるんじゃ……最高かよミグルミ!!!
「シオンー!はやくはやく!ボクもうお腹ぺこぺこだよー!ケーキ!ケーキ!」
「新人もやっと来たんだ!早くしろシオン!何してるオマエ!さっさと席につけ。オマエがいないとオレ達も食べれないんだ。いい加減にしろ!」
どうやら俺が来るまで食べることを許してもらえなかったらしい。二人はよだれを垂らしながらシオンさんの持つケーキに釘付けとなっていた。それも頷ける。鼻腔を抜ける甘い匂いが食欲をそそり、先程食事をしたばかりの俺ですら口の中がよだれで溢れそうになった。
「アルメラ君の為に焼いたんですよ?是非召し上がっていってください。私からの入団祝いです」
「ありがとうございます!いただきます!」
「喜べ新人!オレ達が一緒に食べてやる!知ってるか?食事というのは誰かと食べる方が旨味が増すんだ。感謝しろよ」
「おやつ!ケーキ!やっと食べれりゅ!」
二人の異常なテンションに戸惑いつつも席に座る。人間は食に対してここまで狂乱できるのかと心配になるほどに昂ぶっている。シオンさんが切り分けたケーキとお茶を運んできてくれたので早速食べることにした。
「「「「いただきます!!!!」」」」
両隣で凄まじい勢いで頬張る二人を横目に、俺も一口ケーキを食べる。口の中に入れた瞬間に脳へ衝撃が走った。今までに味わったことのない暴力的なまでの甘味と旨味が舌から脳へと駆け巡る。料理っていうのは脳で味わうものだったのかと錯覚させるような快感を得た。
ーーーなんだこれ!!美味すぎるだろ!!こんな料理食べたことない!!!おかしくなりそうだ!!!
二人に習うように俺も次々とケーキを頬張る。食べる手が止まらない。狂乱にも近い二人のはしゃぎっぷりにも納得できてしまうほどの美味しさだった。これは大事件だぞ。シオンさんは目の前でニコニコしながらお茶を飲んでいる。こんなに天使みたいな人が楽園のような甘味を生み出したことに感動して思わず涙が出てくる。
「あら!そんなに喜んでくれて嬉しいわあ!たくさんあるからどんどん食べてね!」
「ふぁりがほぉございふぁす!」
ものの数分で三人で特大ホールケーキを全て食べきってしまった。最初見たときはまさかこの量を食べきるとは考えもしなかったが、悪魔に取り憑かれたかのように皿を貪り尽くした。しかも、身体の調子がとても良くなった気がする。甘い物はやっぱ最強なのかもしれない。
「新人!オマエ、今身体の調子が良いと思ってるだろ?」
「え?なんでわかるんだ?」
突然ベージュの髪色をした少年に心を読まれて慌ててしまう。そんなに顔に出ていただろうか?
「シオンの作るものはドラッグみたいなものだからな。アイツの特殊な魔力で育てた植物を大量に使っているからそこらへんのものよりも味が深まるんだよ。
美味い代わりに中毒性が半端ないけどな。まあ、麻薬みたいなもんだ。身体の調子が良く感じてるのも、一種の興奮作用が働いてるってこと」
……ん?今コイツさらっと恐ろしいこと言わなかったか?特殊な魔力?中毒作用?麻薬?言われてみれば確かにシオンさんはケーキを一口も食べていなかった。二人のはしゃぎ様に加え、俺自身の発狂具合も中々のものだったかもしれない。幸福感から一転、途端に恐怖が全身を襲った。
「もう!レイ君は何てこと言うんですか!人の料理を悪い物みたいに言って。もう作ってあげませんよ?安心してくださいアルメラ君。確かにレイ君の言ったことも間違っているわけではないんですが、比率も抑えてあるので中毒性も少しだけですよ!」
「少しだけって……中毒性はあるんですね?」
笑顔で怖いことを当たり前のように言ってくるシオンさんが少し怖くて思わず椅子から落ちそうになる。
「大丈夫だよ!シンジン!ボクもレイもいっぱい食べてるけど全然元気だから!ビビるなビビるな!」
ーーーいや、ビビるだろ!!
「平気って、何を根拠に……あと俺はシンジンて名前じゃない。アルメラだ。よろしくな!」
麻薬疑惑の混乱で勢いに任せて自己紹介をしてしまった。でも三人一緒に居てくれたのは正直ありがたい。バクラさんのとこでだいぶ時間をロスしたからな。
「そういえばきちんとした挨拶はまだでしたね!私はシオンと申します。ミグルミにはロゼさんやバクラさんと同じタイミングで入りました。わからないことがあれば何でも聞いてください!少しはお力になれると思います」
ーーー聞きたいことしかない。主にケーキの成分とその副作用について!
「ボクはルミ!よろしくシンジン……じゃなくてアルメラね!アルメラ!ロゼにやり返しいこ!その後でボクともやろ!」
シオンさんと白髪の少女が立て続けに自己紹介をしてくれた。あの二人と同じタイミングってことは、シオンさんは結構古参なのかな?ルミはなんていうか、テンションがいつもキマってるな。やろってなんだ?戦うってことか?こんな小さい女と?そういえばあの時もやけに物騒なこと言ってたな……殺し合いとかなんとか……
「オレはレイ。さっきこいつらが名を呼んでいたからもう知ってるとは思うが、一応形式を重んじて改めて名乗ってやる。あと、ルミ。やめておけ。下手したら死ぬぞ」
「あ、ああ。よろしくお願い……します。シオンさんには色々と聞きたいことが……ルミはそうだな。レイの言う通り危ないからやめておこう」
「おい!さっきから気になっていたが、何故シオンには敬語でオレ達には馴れ馴れしいだ!オマエは新人。つまり後輩だろ!グラスのヤツといい全く。最近入ってくるのは無礼なヤツばかりだな」
「なんでって、お前らどう見ても俺より歳下だろ?お前の方こそ結構馴れ馴れしいんじゃないか?」
「んな⁉︎ルミはともかく、オレはオマエよりも長く世界に触れている!確実にだ!見た目で判断するんじゃない!なんだ?小さいからか?オマエは人の年齢をサイズで判断するのか?だったらシオンはどうーーー」
怒った様子で机を叩きつけ猛抗議をしてくるレイの言葉が突然遮られる。見ると、シオンさんがレイの口元を片手で塞いで力強く握っていた。レイはなにやらモゴモゴ言っているが声は全く聞き取れない。
「レイ君?女性に年齢の話はダメですよ?」
笑顔は変わらないのだが、明らかに重い雰囲気を纏ったシオンさんが寒気を帯びた声音でレイに囁く。ルミと俺はそれを見てただただ震えていた。
「さあ!話が逸れてしまいましたね!アルメラ君、わざわざ挨拶に来てくださってありがとうございました。また私のケーキが食べたくなったらいつでも来てくださいね?」
いつもの明るく優しい雰囲気のシオンさんが戻ってきていた。結局ケーキの麻薬疑惑に関しては恐怖で何も聞くことが出来なかった。また今度バクラさんにでも聞いてみよう。食べたことあるみたいだったし。
「こちらこそ遅くなってすいません。ご馳走様でした。すごく美味しかったです。すごく。不思議なくらい」
「アルメラ!オレはクルルに呼ばれているからもう行くが、グラスの馬鹿にも言っておけ!オレのが年上だと!」
「うーん。ボクはどうしようかなー。暇だからアルメラに着いてってみようかな!でもなー。やろって言ったのに断られちゃったしなー」
「着いてくるのはいいけどさ……さすがにお前みたいな小さい女と戦えねーよ。何かあったら大変だろ?」
シオンさんの部屋を出て各々がこれからの予定へ向かおうとしていると、ルミがどうするか決めきれずに悩み始めた。シオンさんは笑顔で手を振り部屋のドアをゆっくりと閉める。これから後片付けや雑務を部屋でこなすらしい。天使のようだ。レイは俺が歩いてきた通路をそのまま歩いて行った。しかし、ルミと俺の会話が聞こえたのか立ち止まり振り返る。
「ん?アルメラ。オマエやっぱり勘違いしてるな?」
「俺?なにを?」
「オレが先程部屋で言った‘下手したら死ぬ’って言うのは、ルミじゃない。オマエだ。オマエのことを心配して言ってやったんだ。ロゼが認めてクルルが選んだ男だからな。無駄に命を散らせるのは惜しい」
「はぁ?何を言って……大体ルミもお前も戦えるのかーーー」
俺が発言を終える前に周囲に重い空気が立ち込める。身動きが取れなくなり固唾を飲み込む。重苦しい空気の発生源はすぐにわかった。レイだ。
「‘戦えるのか’だって?ミグルミに戦えないヤツがいると思うのか?魔導傭兵ギルドなんだ、戦力にならない人間がいるはずないだろう。察しが悪いようだからもう一度だけ心配してやるよ。オマエの命が一番儚いぞ?」
小さく笑みを浮かべながら強大な魔力を放つレイの姿に俺は全く動くことが出来なかった。身体中から変な汗が一気に溢れてくる。白装束のアイツやロゼさんとはまた違った魔力……いや、それ以上に強力なのか?
「なになにー?レイ‘やる気’なの?相手してくれるの?」
視界の端で何事も無いかのように瞳を輝かせて浮かれている少女の姿に驚愕する。この息も出来ないような重圧の中でコイツは何ともないのか?視界に映る小柄な少年と少女に恐怖すら感じてしまう。レイは少し息を吐くと魔力を収め、後ろ手に手を振り去っていく。
「クルルに呼ばれてるって言っただろ?また今度なルミ」
レイがそのまま通路を歩き視界から消えるまで俺は動くことが出来なかった。疲労感が全身を襲い思わず壁に寄りかかる。そんな俺をルミが心配そうに見上げている。
「はは、バケモノばっかかよミグルミは!」
「オイ!こんな所にいやがったのか!遅えぞ!」
魔力の圧にやられて気落ちしていると、聞き慣れた声がギルド内に響く。シルバーアクセサリーを複数身につけているその人物は登場開幕からややキレ気味だった。
ーーーなんでこの人大体キレてんだよ……
「あーーー!ローーゼーー!」
テンションをぶち上げてルミがロゼさんに抱きつく。ロゼさんはそれを片手で防ぎながら俺に向かって話しかけてきた。
「何してんだガキ!クルルに言われたからお前のこと待ってんのに、いつまで経っても来ねえじゃねえか!何時間待たせるつもりだ!」
「すいません。他の人達に挨拶してたら思いの外時間かかっちゃって。ロゼさんは……その、ある程度見知った顔だから最後でいいかと」
目線をそらし、頬を描きながら気まずそうにそう答えた。
「俺様よりあいつらのことを優先したってわけか……よくわかった。オイ、おもて出ろ!」
この展開は……




