灰色の景色
――何故、どうしてこうなった――
疑問ばかりが思考を遮る。
いや、そもそも考えたくないのかもしれない。目の前の現実と向かい合うのがなによりも怖かった。
大切な人達が燃えて灰になってゆく。その現実が。
僕の大切な人達が無惨にも燃えて散ってゆく光景を下卑た笑みで見下ろすあの男達も。それに興じて、この公開処刑をまるで宴のように囲み熱を帯びて狂乱する人々も。
壊れていると思った。その時はただ、なんて壊れた世界なんだろうと思った。
炎の熱に喉がやられて声にならない声だけが汚く響くも、民衆達の騒ぎ声に掻き消される。
涙は流れる前に熱によって溶かされていく。噛み締めた唇から血の味だけがした。
僕はただ見ていることしか出来ない。僕に全てを教えてくれた二人が灰になってゆく様をただ見ていることしか……。
目をそらすことは許されなかった。全てが僕の責任だから。この地獄が終わる最期の瞬間まで網膜に焼き付けた。
足下から立ち昇る炎によって灰と化す二人の顔を最期まで見続けた。
熱さも、痛みも、苦しみも、何もかもわかるはずはないが、二人は苦悶の表情を出すことはなく最期の時まで笑っていた。
いつも僕に向けてくれたあの優しい笑顔を最期まで僕に見せてくれた。
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どれだけの時が過ぎたかわからない。声は潰れ、涙は枯れた。
固い地面に倒れ、二人だった大量の灰に包まれて意識が遠くなる。
どうして……どうしてこうなった……。
霞む視界と意識の中で二人の笑顔が燃えていく。
世界が、人々が壊れているからじゃない……僕が……僕に力が無いから……
「気を失っているようです。どうされますか?」
痛みも感情も消えて後は意識が消えるのを待っている時、男の声が聞こえた。
「くだらないことを聞くな。此奴は我が王家に泥を塗った。国の外に捨ててこい」
――そうか……まだ死ねないのか……
昔から聞き慣れた恐怖の象徴の声を最後に、僕は意識を落とした。
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「しかし本当によろしかったのですか?―――様を……まるで廃棄物のように捨ててしまって……」
「廃棄物同然ではないか。私はたとえ身内だろうと甘やかしたりはしない。私に従えない者は排斥する。貴様は己の仕事を黙ってやればいいのだ」
「し……失礼しました」
王族のような風貌をした男は広場に残った灰を踏み躙り、苛立った様子で城に戻っていく。
途轍もない領土と軍事力を保有しているこの国を治める男は憂いていた。全てが自分の思い通りにならないことを。幸福感と絶望感を上手く操りながら民衆を己の傀儡とすることは難しいことではない。しかし、どうやらその事実に気付きを覚えている者達がいるらしい。厄介だ。目的を妨げる可能性のあるモノの芽は早いうちに摘まねばならない。
ここは 私 の国なのだ。他の誰でもなく、私の。土地も、財産も、名声も、民衆の命でさえもだ。全てが私という王家の血により成り立っている。全てが私の副産物に過ぎない。男は強く湧き上がる欲望を抑えるように国の全てを貪った。あらゆるものを消費することにより、抑制しようとしたのだ。
しかし、男の欲望は止まらない。国一つだけでは足りなくなっていた。九つの国を全て自分の物にしたいと、世界を自分の所有物にしたいと強い願いが男の脳内を埋め尽くす。
神に選ばれた私こそが、世界を掌握するに相応しい。
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公開処刑が終わり、国を後にする一人の男がいた。巨大な門を抜けて国外へ出ると近くに深い森が見える。夜が深まっていく中で、森の中から馬車が走ってくるのを確認した。こんな時間におかしいと不審に思った男は、一人森へと忍び向かう。魔獣の騒めきが蠢く中、少し進むとボロ雑巾のような塊を闇夜に見つける。慎重に近付き凝視すると人だということがすぐにわかった。男は慌てて駆け寄り、ゆっくりと倒れた身体を抱え、水を与える。
ーーーよかった、まだ息はある。これなら……
木々の合間から差し込んだ月夜に照らされて、倒れていた人物の顔をはっきりと視認できるようになると、男は驚愕した。
「君はこんな所で死んではいけない」
呻き声を上げて再度意識を完全に失ってしまった少年をしっかりと抱き抱え、男は森を歩み始める。
ーーーーこんな世界は間違っているーーーー




