表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

第八話 『案外、骨は脆い』

 テラは近くに置いてあったベルを鳴らすと、背後で山積みになっていた紙の束がカウンターの上へとふわふわ移動してきた。

 テラは自分の胸ポケットに入っていたペンを指で弾くと、俺の手のうちへとすっぽり収まった。


「最初の項目から最後の項目まで、書き漏らすんじゃないよ」


 手元にある紙を見ると、入試や入社時に書くものと大差の無い内容だった。

 名前、年齢、希望の職業などなど、感覚的にはゲームのアバターを作っている様な気分だ。


「職業って何があるんですか?」

「基本的には『戦士』『魔法使い』『武闘家』『僧侶』、番外編としては『盗賊』とかかな。上級職になれば『魔法戦士』『賢者』『白魔術師』『黒魔導師』、それから『ハンター』に『仙人』……とまぁ、成りたいものは人それぞれ。つまるところ人の数だけ職があるのさ」


 成程と先程の職業一覧を脳内でリピート再生する。

 『戦士』は好感触だ。剣を振るえるというのは基本的に頭を使わなくても良い、最も戦いやすい職業だろう。

 『魔法使い』はちょっと面倒くさそうだ。いくつもの本を読まなくては無さそうだし、プログラミングを挫折したトラウマのある俺としては寧ろ就きたくない職の一つに入るだろう。

 『武闘家』はまず無理だ。打たれ弱ければ、忍耐力もゼロ。

 『僧侶』に関しては論外だ。


「ここは戦士だな」


 紙にペンを触れようとした時、背後からの叫びに驚き手元を狂わす。


「やめてください」

「おいおい、折角俺たちの仲間に誘ってやってるってのによ。そりゃあ無いんじゃねえの?」


 振り返ると杖を持った少女が男達に囲まれ、その細い腕を掴まれていた。

 少女は必死に振りほどこうともがいているが、男の方が力が上なのだろう、どんどん引きずられている。


「それじゃあ初クエストと行こうや! ドラゴン退治にしとくか? まあ、焼け焦げにならないように気を付けるんだなあ! はっはっはっは!」

「誰か……助けて……っ!」


 気が付くと、俺の拳は少女を掴む男の顔面へとクリティカルヒットしていた。

 右手の骨に響く感触、相手の肉へ、骨へと食い込んだ感覚。

 手ごたえあり


 男は背負っていた大剣の所為もあってか、そのまま後ろへと倒れこんだ。


「こっちだ!」


 俺は解放された少女の手を掴み、建物の外へと飛び出した。

 親玉を倒された周りの男達は皆一斉に剣を抜き、逃がすまいと追ってくる。


「何か、何かアイテム……」


 ブラッドレイから貰った魔法のバッグ、その中には俺が偶然現代から持ってきていた物を詰め込んでおいた。

 俺はバッグを漁り、何か役立つものが無いかと手探った。

 ふいにコツン、と手に当たる感触を覚える。


「これは、解約したガラケー!」


 ガラケーの中でも小さい部類、いわゆるキッズ携帯というやつだ。

 俺は携帯の先端についていた取っ手付きの紐へと手を掛け、背後の奴らへと投げると同時に紐を引き抜いた。


 途端、辺りには痛いくらいに鼓膜を振るわすほどの高音が響き渡る。


「鼓膜破壊爆弾~」


 どこぞの猫型ロボットよろしく、俺はこれでもかと言うほどに格好をつけて見せた。

 勿論ただの防犯ブザーである、がこの世界の輩には十分に効いた模様。襲って来ていたDQNどもは耳を塞ぎながらブザーを恐れて距離をとっていた。

 これで時間はかなり稼げるだろう。




 俺と少女は街の外、少し小高い丘の上まで逃げ切っていた。

 少女が息を切らしているのを見ると、何だか気を使ってしまう。


「大丈夫か? 悪かったないきなり、喘息持ちとかじゃないよな?」

「ぜん……そく? わ、私なら大丈夫です! お気遣い、ありがとうございます」


 少女は苦しそうな声を上げながらも精一杯、こちらへと微笑んで見せた。

 俺は「そうか」とだけ言い、その場に両手両足を広げて寝転ぶ。

 すると釣られるように少女もまた隣に座りこんだ。


「あの、お名前をお伺いしても……」

「ん? ああ、タバネ・ミライだよ。好きに呼んでくれ」

「ではミライ……って呼んでも良いですか?」

「構わないよ」


 そう言うと、少女の顔はぱあっと明るくなった。


「えっと、聞かれてはいませんが……一応。私の名前は『フィリア・アレイスモール』、フィリアとお呼びください」

「分かったよフィリア」


 地面に手をつき、立ち上がろうとしたその時、拳へと激痛が走った。


「痛っ!?」


 手の甲を見てみるが表面上は何ともなく、考えられる原因は一つしか無かった。


「まさか、殴った時にやっちまったのか!?」


 折れたか砕けたかしたのだろう。

 俺は新底自分のスペックの低さに呆れかえり、ズキズキと痛む拳を左手で押さえつけた。


「どうしましたか? 痛むのですか?」


 フィリアが心配そうに声をかけてくる


「ちょっと見せてください」


 俺が右手を差し出すと、フィリアは何やら呪文と思われる詠唱を始めた。


「この大地をあまねく精霊たちよ、今我に一筋の力を……『レコル』!」


 そこらじゅうの草花、終いには木々からも緑色の粒子が飛び出して俺の右手へと集まりだす。

 次第に痛みは引いていき、俺の腕には何かがあったという違和感だけが残った。


「すげえ、本当に治ってる」

「これでも一応、見習いの僧侶なんです」

「おお! ありがとうな!」


 そう言うと、フィリアは何やらもじもじと口ごもるように呟きだした


「登録所にいたということは、ミライも冒険者になりたて……ですよね?」

「ん? そうだけど」

「あ、あの……ご迷惑でなければ、その……私とパーティを組んでもらえませんか?」


 !?

 果たして良いのだろうか、これYESと答えても良いのだろうか。

 修学旅行などでも隔離されるような男女の関係、それを遥かに飛び越して一緒に一つテントの下で冒険など許されるのだろうか? これは法律的にはありなのだろうか。

 いやそもそもこの世界に法律なんて存在しない、あるとすれば金と力と知恵のみ。

 ならば……答えは一つ


「OKです」

「おーけー……?」

「大丈夫ってことです」

「な、なるほど……」


 こうして俺は初めての仲間を作ることが出来ました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ