第六話 『初アイテム』
「まずは座りたまえ」
俺はブラッドレイの正面、つまりかなりの長さを誇るテーブルの先端へと座った。
ブラッドレイとは最も距離があり、かなり目立つ位置にある。
「ドマン、朝食を持ってきてくれ」
内装の広さに気を取られて気が付かなかったが、シャルとブラッドレイ以外もそこには居た。
ドマンと呼ばれた恐らく男のその生物は、見た目が明らかに普通では無い。いうなれば「リザードマン」という名称はこの生物の為にあるといっても過言では無い、それほどまでにリザードな見た目をしていたのだ。
「本題に移ろうか」
ブラッドレイの表情が再び怪しく陰る。
「ミライ君、あの聖なる地で何かを拾ったりしなかったかい?」
「え? 拾ったりって……」
ハッとして身体中を探すが、本は見つからない。
思えば先ほど着替えたときに何かが足りないと感じていた、それこそ拾った本だった。
正直なところ重要なものでも無ければ、俺の物でもないからどうでもいいのだが……無いというのは少々気持ちが悪い。
「これを探しているんだろう?」
ブラッドレイは内ポケットから本を取りだして見せた。
「これはただの本では無い、宝具庫というものだ」
「宝具庫?」
ブラッドレイが指を鳴らすと浮遊していた少女がこちらへと近づき、小さな木箱を渡してきた。
「彼女はキリセ、正真正銘の魔女だよ」
「は、はぁ」
「おや? 驚かないんだね」
「まぁ、自分の居た世界にはそりゃあもう溢れかえってましたから」
ただしジャンルだけど。
「はは、じゃあ魔法使いの国から来たのかね? まあいいさ、その木箱を開けてみてくれ」
俺は言われるがままその木箱を手に取り、蓋と思われる部分があったので開けてみた。
そこにはガラス玉のような物が鎮座しており、覗き込む自分の顔を映し出していた。
「それは"世界樹の種"と言われていた代物だ、ちょっと昔に行った場所での土産にね」
そう言うとブラッドレイは持っていた本をこちらへと投げ手渡した
「その本の表紙にクリスタルが埋め込まれているだろう? そこにその宝玉を触れさせてみたまえ」
持っていた本を裏返して表紙を見てみると、初めて見たときには気づかなかったが確かに表紙の中心にはクリスタルのようなものが埋め込まれている。
クリスタルは本に根をはるような形で埋め込まれており、最早一体化しているようだった。
俺は手元にあった箱から宝玉を取り出し、クリスタルへと密着させた。
「なっ!?」
するとどうだろう、クリスタルから本へと根を伝って光が流れる。次第に本は光を放ち、宝玉を輝く粒子へと分解し始めた。
しばらくして本は粒子を残らず吸い込むと、独りでにページがめくれ始めた。
そしてとあるページでピタリと止まり、そこには先ほど吸い込んだ宝玉が写真のように浮かび上がり、名前や様々な説明も浮かび上がった。
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【世界樹の種】
聖なる地でのみ芽生えさせることが出来、
通常の土では成長することはない。
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これが宝具庫か。
驚きを隠せていなかったのか、向かいの席ではブラッドレイが大笑いしている。
「それを"宝具庫"と呼ぶのは疲れるだろう? その本の固有名で呼ぶと良い、ほら本の裏表紙だよ」
本を裏返すと、そこには小さく「IA」と刻まれていた。
「英語……? ドイツ語……? この世界にも英語があるんですか」
「英語? 何を言っているんだね、そんな言葉はこの世界には存在しないよ」
「でもほら」
俺が本を投げると、本は吸い込まれるようにブラッドレイの手元へと飛んだ。
「どれどれ、ん? おかしいな……こんな文字は見たことが無いぞ」
そう言うとブラッドレイは俺へと本を投げ返す。
「その文字を君は知ってる、つまり君に扱われるべくしてこの場にあるということなのだろう。少々、極論じみているがね」
自分の為だけに用意された道具、それも特別な物なのだから嬉しく無い訳がない。
「ちなみにアイテムを取り出したい時には、こう唱えよ」
『我は世界を創りし者―我が名を持って命ずる、その門を開放せよ―』
なんというか、恥ずかしい。
こんな言葉を現代で叫んだりしていたら、SNSに乗せられて下手をすれば一日で人気者になれてしまうだろう。
「というわけでその本は君の物だ、大切にしたまえ」
本が自分の物になったのは良いが、アイテムは嬉しくない。
世界樹だか何だか知らないが、武器や防具として意味を成さないのではないだろうか? この死と隣り合わせであろう異世界で、貰える初期装備がただの種とはドMまっしぐらな状況だ。
「それと、旗についてだったね」
特に気にしてはいなかったものの、何かあるのなら旗の模様についても聞いておきたい。
「ちょっと長くなるよ」
どすの効いたその声に、俺は唾を飲んだ。