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漂流3日目

オレはひたすら後悔していた。

仕事が辛いのは皆同じのはずなのに、なぜあの時逃げ出してしまったんだろうか。

もう少しだけ耐え忍んでさえいれば、こんな悲惨な事にはならなかった。

きっとこれは天罰に違いない。


相変わらず降り注ぐ痛烈な日差し。

空は雲ひとつなく、雨を降らす所か陽が陰る事にすら期待できない。

水に飢え、腹を空かし、体に力が入らない。

とうとう身を起こす事すらできずに、板の上に四肢を投げ出すばかり。

今すぐ日本に、あの日常に帰りたい。

だがそんな願いは叶うことなく、刻一刻と体力を奪われていく。

オレの命は正に風前の灯火だった……。




ーーなんて事にはならず。

オレは今の境遇を全力で満喫していた。

飲料水として各種ドリンク、惣菜パンやらスナック菓子にチョコレート等も山ほど発見して、食料はバッチリ。

帽子があるから熱射病も平気だし、水中ゴーグルで海の中も楽しめる。

他にも娯楽として小説が何冊も手に入った上に、欲しかった作品まで運良く見つかった。

大好きなシリーズだったけど忙しくて読んでなかったやつだ。

ずぶ濡れだから乾かしてからじゃないと読めないが、贅沢は言ってられない。

しばし太陽のもとに晒す。


しばらくして。

板の上にうつぶせになって寝転がり、誰にも邪魔されることなく本を読みふけった。

手元にはコンソメ味のスナックとオレンジジュースを完備。

そんな事をしていると、つい漂流中だと言う事を忘れてしまいそうになる。

魚の跳ねる音を聞いて『あ、今遭難してるんだった』と思い出す始末だった。



「最後マジかよ! 作者天才じゃねえか、こんな結末誰に書けるんだよ!」



辛いことを挙げるとしたら、こんな時だろう。

今の気持ちを誰かと共有することが出来ないのだ。

スマホが無いからSNSも無理、というかネットに繋がらないだろう。

だからと言って寂しい訳ではないけどな。



「キュィィイーッ」

「おう、また遊びに来たのか。ルカ、おいで」

「キュッ キュウ」



イルカ友達の『ルカ』だ。

かわいい。


最初コイツが寄ってきたときはサメが来たと思って死を覚悟したぞ。

そんな事もなく可愛いパートナーが出来たわけだ。


その辺に浮いてたビーチボールを広い、ルカに投げてやる。

するとまた器用に鼻先でつついて返してくる。

上手い上手い、正確に返ってくるぞ。


「お前どっかの水族館に居たりしたか?」


なんて声をかけたりしながら楽しく遊んだ。

答えなんか返ってこないのはわかってるけどさ、ついね。



しばらくボールで遊んでたら腹が減ってきた。

板にの端に腰かけて、足を海水に浸しながら飯を食い始めた。

タマゴサンドを取り出してモシャリ。

うん、美味い!


その間にルカは、水中に伸ばされた足の裏に体を擦り付けてきた。

たまに海面から顔を出して様子を窺いつつ、また足にちょっかいを出してくる。

超絶かわいい。


ネットニュースで読んだなぁ。

イルカは賢い上に好奇心が強くて、人間とも仲良くなりやすいって。

水族館のイルカも来場者と水槽越しにコミュニケーション取ったりするらしいし。

皆のアイドルになれているのも納得だ。



顔を出した時にルカの鼻先を撫でてやった。

すると嬉しいのか気持ちいいのかキュウキュウ鳴き始める。

たまんねぇ、本当に癒される。


こんな安らかな気持ちはいつぶりだろう。

許されるなら、こんな毎日がずっと続いてほしい。


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