今日の僕に、明日の君へ
僕は君が好きなんです。
そんな当たり前が、もうどれくらい続くだろう。どれくらい続いて、どれくらい変わらないのだろう・・・
変わらぬ僕に、君は。何度微笑んでくれたんだろう。その度に、数秒喜んで。変えられない状況に苛立って、いつまでも心にこもる気持ちに悲しくなる。
そうやって、今日も言えなかったと後悔を繰り返す日々。いつか言えると思っていたのはもう随分前で。今はもう、伝えないまま終わってしまうことに怯えている。
言えなかった気持ちは、消えるんだろうか。雨に濡れた地面が、陽の光に照らされて乾くように。この気持ちもいつか、乾いてしまうんだろうか。
でもきっと、なくなりはしないんだろう。忘れられたりは、しないんだろう。空から降る雨粒を地面が受け止めるように。僕が涙を流したら、きっと何かがそれを知って、受け止めるだろう。誰かがこぼした、悲しみを。
夏の暑さとともに、気分屋な雨が降り続く。履き替えた靴はまだ少し湿っぽい、この季節を僕はあまり好きにはなれない。
ビニール傘を真ん中に、寄り添って歩くカップルたち。彼らはきっと、この夏も楽しい思い出を作るのだろう。
「・・・僕が泣きたいくらいだよ」
泣き続ける、悲しい色の空を見て思わずこぼした。
「すごい雨だね」
聞こえた声の方を見れば、赤い傘が立っていた。・・・顔は見えなくても、聞き覚えのある声。綺麗な声だと思う声、思うだけで、言うつもりはないけれど。
「待ってるのは、雨?それとも友達?」
「・・・どっちも、かな。君は?」
「う〜ん・・・ 私もどっちもかな?」
表情は隠れたまま。隣にいるのになんだかおかしいね。
雨も、君も、僕も。変わらぬまま、時間だけが過ぎていく。
・・・いつまでも続けばいいと思ってしまうのはいけないことかな。今この時が変わらなければ、君の隣に入れるからなんて。吐き出せない望みがまた増える。君のせい? いや、僕の身勝手だ。
「雨、止まないね」
「・・・そうだね」
「・・・ハァ。待ってるだけじゃ何にも変わらないかぁ」
その言葉の後に、君は僕の隣から動き出した。・・・終わりなんだ、寂しい気持ちが膨らむ。
「か、帰りません!?あ、雨も止みませんし!あの、傘ないみたいだし!! わ、私の傘大きいから二人ぐらい余裕です!」
「・・・え?」
「え。あ、いやあの・・・ そ、そうですね!? 友達待ってるんだもんね? お、おせっかいでした、か?」
「・・・ いや、あの。君も友達待ってるんじゃ」
「え!? いやあの・・・」
・・・傘が赤いせいだろう。きっと、そのせいだ。
「じゃあ、お邪魔します」
「ど、どうぞ」
そう言って、君の隣へ。さっきと違って、お互いの顔が見える距離。・・・やっぱり顔が赤いね。きっと赤い傘のせい。僕もきっと今、顔が赤いだろうから。
「・・・そう言えば。友達はいいんですか?」
「え?あぁ、大丈夫です。いくら待っても来る気配がなかったので。そっちは?」
「・・・僕も、かな。待ってても仕方なかったのかも」
「・・・好きな人、とか?」
「・・・どうだろうね。そっちは?」
「・・・好きな人、でした。でももう諦めましたけど」
「へぇ」
君をふる男なんて、バカだと思うけど。
♦︎♦︎♦︎
「じゃあここで。・・・傘、ありがとう」
「いえいえどういたしまして」
・・・今度こそ、終わりだね。名残惜しい気持ちをこらえて傘を出る。
「・・・あの」
君の声。赤い傘がまた、顔を隠してる。
「なんですか?」
「・・・わ、私。ま、待つのは得意なんで!」
「・・・えっと、はい」
「じゃ、じゃあまた明日」
そう言って、赤い傘は遠ざかる。
♦︎♦︎♦︎
今日の僕に、君は傘をくれた。何かお返しをしないと、なんて。君にとっては他意はない、ただの当たり前のことなのかもしれない。
「・・・夏祭り」
駅のホームに貼られていた、大きな花火が描かれたポスター。・・・流石に、ないかな。
「・・・言うだけなら、タダだよな」
だめでもともと。断られたら、それまでだ。
僕は。明日の君へ。夏祭りの約束をしよう。
「・・・そう言えば。好きな人って、誰なんだろう」
【続】




