Parade
1
それは近くで鳴りだした。
「チャラララ…ララン…チャラ…ラ…ラ…ララン…」
黒天井につき何も見えないが、耳には自然と入る。
…壊れているのだろうか。
綺麗には聞こえないのだが、音色はなぜか心地良い。
懐かしいような…。何の曲だろう。
そんなことを考えながら、掠れゆく演奏をしばらく聞いていた。
「ガシャ…チャララン…」
鈍い音を立てると同時に、静謐を漂わせていたオルゴールは鳴り止む。
それはどこか儚く、何かが終わったような感覚に陥らせる。
歯車が外れたのだろうか。
しかし、もう一度あの音色を聞いてみたい。
もう決して聞くことは無いのだから。
2
『おもちゃのチャチャチャ…おもちゃのチャチャチャ…チャチャチャ…おもちゃのチャチャチャ…』
脳裏に歌詞が過ぎる。オルゴールはこの曲を演奏していたのだろうか。
「ポタ…ポタ…。」
つまらない事を考えている内、額に水滴が落ちてきたような。
「ザー…ザー………」
雑音は次第に激しさを増す。
雨、あの日も同じように降っていた。
身体中を打つ音はどこか哀愁を漂わせる。何回も打たれる内、心の奥底までも水満たしになった気分。
何度この感覚に陥っただろう。憎しみ、怒りさえ伴った苦しみは忘れることもない。体に残る痛々しい古傷。
3
強い明るさに照らされると、目が覚めた。
起きて早々何かぎこちない。
悪夢を見ていたせいだろうか。内容はよく覚えていないがなんとも不愉快だった気がする。
早速起き上がろうと床に手を着ける。刹那、何か鉄製のものを踏んだようだが寝惚けていてよくわからない。
そんなことより今日は久々の快晴なのだ。こんな日は嬉しいことがありそうで和気藹々としてくる。
些細なことなどそんな期待の前には勝てず、パッと勢いよく立ち上がる。
その光景はいつもと違った。
いつも可愛い熊の人形、腕がちぎれてボロボロになっていた。一体何があったのだろう。
歩み寄ろうとした途端「バキバキ」という音がたつ。木も老朽化してるのだろう、張り替えないと。
そんなことを考えながらもそそくさと近くに行き、熊の人形の手前で状態を伺う。
綿が出ている、もう手遅れだ。だからここに捨てられているのか。
…捨てられている、とは…。
自然と出てきた言葉に自分自身脳を疑った。
人形は大事そうに何かを持っている。
…日記か。
それを読めばなんとなく今の状況がわかるかもしれない。そんな気がした。
きつく抱えられた腕から躊躇なく奪う。
その日記は古いようで汚れている。ページを開けて見た瞬間既視感を覚えたのは謎だ。
4
「ひさびさにかえってきてくれたおとうさんがにっきとおにんぎょうをくれた。
とてもうれしかった。あしたからあそぼうとおもう。にっきもかこうとおもう。きょうはだいすきなおとうさんとおうたをうたったよ」
「みんなのためにおとうさんはじしんのけんきゅうをしている。きょうはおとうさんからおるごーるをもらった。むかしおとうさんのおとうさんからもらったんだって。わたしはおとうさんがすき。はやくかえってこないかな。」
「お父さんにもらったにんぎょうとおままごとをした。とてもたのしかった。このにんぎょうをみるとお父さんを思いだす。」
一連を読み、これらのページは何故か印象深い。
そして突如として雰囲気が変わるページが存在する。
「お父さんは私を見捨てた。もう一、二年帰ってこないし連絡もない。こんな人形もういらない。見ているだけで腹が立つ。今日もカッターで人形を傷つける。こうすることが楽しい。」
「お父さんが首を吊って自殺しているのが見つかった。私は人形をお父さんに模して首を吊ったところを想像する。なんとも愉快だ。お金は残してくれているし死んでくれて良かった。
今日もこの地域で小さい地震が起きた。お父さんは地震研究家じゃなかったの。なんで死んだの。やっぱり寂しい。悲しい。」
青と赤のコントラストは大切だったはずの人形にまで及ぶようになった。
読む内に悲しくなったが同時に楽になった気持ちの方が大きい気がする。
日記はまだ続く。
「子供が生まれて3年も経つ。昔遊んでいたあの人形でおままごとをしている。大事にしているようだ。お父さんの自殺の原因は未だにわかっていない。けれども今が幸せだから辛いことは考えないようにしている。それにしても最近地震が多くて怖い。大きいのが来なければいいが。」
「非常食を引き出しに入れていると懐かしいオルゴールが出てきた。お父さんを思い出す。こういう日は泣きたい。最近強い揺れが来るようになった。地震の影響で人口減少しているらしい。
そろそろ大きいのが来るのかな。オルゴールの演奏は『明日があるさ』、懐かしい。明日もあってほしいな」
日記はここで終わっている。
読み終わった瞬間「ドッ」と鈍い音を立てて大地が揺れだし、一見の静けさをかき乱した。
「ガタ…ガタ…、ザー…ザー…」
次第にオルゴールは鳴り始める。
また雨だろうか、しかし水滴は感じない。
ふと、見上げていた焦点を目の前に向けてやると、木の断片が山々を形成しているようで、麓付近に多くの人形達が寝そべっていた。
思い出した…。
私は…。私は…
オルゴールは鳴り止み、愛された人形は熊の吐露を見て、ニコリと笑った。




