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第三話。瑠璃×クロム×キジ・火星水星編。メインキャスト5:1~3:3。サブキャスト1:1。モブ約11名。【名無し君の不始末・君を愛す理由~episode3「絆。その知恵を疑えば」~】

名無し君の不始末●クロスオーバー作品3・番外編・acoustic・瑠璃夢雉雷凪鳶

(名無し君本編とは全く違う異次元の物語。本編とは、設定や世界観にずれがあります)作:七菜かずは


【名無し君の不始末・君を愛す理由~episode3「絆。その知恵を疑えば」~】


■登場人物


★カズマ・瑠璃るり 【瑠璃】 ♂

・29歳。黒ぶち眼鏡。黒短髪。身長165センチ。

真面目。幼い頃から、クロムに恋心を抱いている。ケテラス星北大陸リゼル城の皇子であったが、そのことを隠して生きてきた。

子供や女性が苦手。中々他人に心を開かない。やわらかい関西弁。

キジの相棒。親友。医療機関ウンディーネのビル内九階、キジの広い自室に居候している。

働いているのは地下一階のインドランス研究診療内科。キジの部屋か地下一階に居ない時は、食堂かキジのアトリエか最上階のエリアに居ることが多い。

少し前まで月にあるインドランス研究所でインドランスの為の機器製作や研究を行っていたが、最近水星のウンディーネ内に出来たインドランス研究診療内科の担当医として、新しく派遣されてきた。


★カルク・キジュリュク・ゼット 【キジ】 ♂ 

・水星にある巨大な病院の偉い医師。水星では、王様の次に偉い、大臣という肩書き。29歳 。

幼い頃クロムに一目惚れしてから、ずっと彼女を想い続けて新薬開発の研究に精を出している。

才能が有り、誰とでも仲良く出来る為、ウンディーネ内で一番人気がある。外科医。

正義心が誰よりも強く、熱い。何でも出来て頭もいいが、バカなふりをしている。

今まで周りに気が合う人間が中々おらず。いつも家族や兄弟、側近のインドランスと一緒に居ることが多かったが、最近仲良くなった瑠璃とよく行動を共にしている。

髪はオレンジ系の金髪。チャラく見える。身長高め。180センチ。

試験官ベイビー。本人たちも把握出来ないほど、兄弟がたくさん居るらしい。


黒凪くろなぎ ゆめ (クロム・ロワーツ) 【クロム】 ♀

・メインヒロイン。29歳。姫カット黒髪長髪の女性。母性のある心優しき元姫。ケテラス星中央大陸、アイゼル城966番目の王女であった。

黒凪 夢は、地球名。クロム・ロワーツは、ケテラス星での、本名。

過酷な過去があり、今や姫としての生活は消滅しているが、現在は一般人として幸せに平凡な生活を地球で送っている。歌と絵が得意。メイドカフェで社員として働いている。

今住んでいる地球から水星までは簡単に移動してこれるので、キジやライや瑠璃によく会いに来ている。最近はトビともよく一緒に居る。

インドランス(※機械と人間の死体を融合させて蘇らせた人工人間のこと。成長するアンドロイド)の心療内科医になるのが夢。今も勉強中。

水星に通うことで、水星の先進医療を日々見学し、学んでいる。

現在、水星のインドランス研究心療内科に在籍しているカズマ・瑠璃の、元恋人。十代の頃付き合っていたらしい。


★カルク・ライデイン・オメガ 【ライ】 ♂

・キジとトビとシトータの実の兄。兄弟たちのお守役というか見守り役。30歳。おっとりしていて物凄く優しいお兄さん。常識人。シンプルなメガネをかけている。

水星の第一王子だったが、王が亡くなった為、最近王位継承をしたばかり。家族想い。

クロム姫に秘かに恋心を抱いているが、それは兄弟の一部にしかバレていない。

国の将来の為、金星の金獅子姫と婚約している。金獅子のことは好きでも嫌いでもないが、「キレイな人だな」とは思っている。ろくに話したことも無い。

兄弟や国のことを誰よりもよく考えているお兄さん。いつもにこにこ。たまに兄弟に向けて出る毒舌が、本当は腹黒なんじゃないかと思わせる。

左目の下に薄い黒子が四つ並んでいる。


★カルク・トビュール・シータ 【トビ】 ♂or(♀可能)

・カルク家六男。17歳。少年。医療に必要不可欠な機械や技巧の研究を地下十階で行っている。

黒紺髪。背は低め。猫背。目の下に大きなクマ。色白。作業効率や自身の為、両手のケアだけは物凄く気を遣って毎晩行っている。

前までは地下に引きこもっていた為、水星の人々からは暗黒医師とまで呼ばれていた。

最近クロム姫のお陰で、内科や外科の診療に顔を出すようになり。再び患者や人と関わるようになってから、少しずつ性格が元のように明るくなってきたらしい。

医者になったばかりの頃(12歳~13歳で内科医としてデビュー)、その優秀な機械技術能力と医療技術(当時内科医もしていた)と目鼻立ちが整っている端正な顔つきのせいで、若い看護師や患者に執拗に追い回されたことや過激な贈り物を家族に送られてしまったことがあり。そのことにうんざりして地下に引きこもってしまっていた。

自分にファンがつかないよう、患者は一人も診ないようにしていたが、クロム姫のカウンセリングにより、他人との関りをまた持とうと勇気を持つ。

引きこもった際に、わざと頬や首、目の近くに沢山傷を作り。ウンディーネ地下十階の暗闇の中、数体の自分専属のインドランス(※アンドロイドのようなもの)と共に、それでも医療改革の為、家族の為、水星の為に研究を続けていた。

絶対に笑わない少年と言われていた。滅多に他人に心を開かないが、クロム姫のことは歴史書やニュースでよく調べて知っていた。誰よりも彼女に憧れを抱いている。

昔はよく笑う素直な子だったらしい。

可愛い声だとよく言われからかわれることもある。かわいらしいしぐさをすることがある(そのため、役者は女可能)。

基本的に自分に自信がない。情緒不安定。涙もろい。その性格は一生治らない。

キジの男らしさやコミュニケーション能力の高さに憧れていて、いつかキジのようになりたいと思っている。

コーラが好きで、毎日飲まないと頭痛が起こってしまう。歌が好き。


★カルク・ナギュルルク・レイディー 【ナギ】 ♂

・キジとライの兄弟の一人。次男。兄であるライと弟のキジ、他兄弟たちのこともを溺愛している、小児科医長。

紫の長髪。ピンクのメッシュが入ってる。

よそ者が嫌い。ツンデレ。はじめは瑠璃を毛嫌いしていたが、しょっちゅう病院棟内で会うようになってから、心を開いてきたらしい。

オカマ口調で恰好は女だが、身体は男。何もメスを入れておらず、女性化への願望も無い。

高い所が苦手な為、自分のアトリエと研究室と小児科は地上一階に置いている。(本当は、次男の為、ライの下の階のはずだが、高い所が好きなキジに譲った)

零階にあるナースステーションにて、ナースたちの指導もたまに行っている。


★店長 ♂

・オカマ。

色白。三十代後半~四十代後半。本名、頼存らいぞん 裕翔ゆうと。顔面は濃い。

地球の海底都市、日本国東京都市にて、飲食業を経営している。クロムと一緒に働いている。コスプレが趣味。テンションがいつも高い。ぶりっこ。

昔、瑠璃を雇っていたこともあり、瑠璃のことは今も溺愛している。


★ユミルカルフェ・ディアディー・マールスェ 【ディア】 ♀ 

火星、マーズキングダムに住む王族の一人。

火星は閉鎖されがちな国の在り方をしており、他者を寄せ付けない、何者とも関わらない火星人が多く。彼女もそうして生きてきた。しかし最近、宇宙船の操縦の仕方を覚え。一人であちこちの星に行っているらしい。

職業はミュージカル女優。火星ではスーパースター。地球で言う宝塚の超花形。スタイル抜群。

舞台の上や演技をしている時は華やかな表情を魅せるが、通常時は大人しくて礼儀正しい。

身長は160くらい。腰までのゆるふわウエーブの髪。緑のメッシュ、頭の上におだんご、髪右半分は濃い紫、髪左半分は濃いピンク。

母星をとても愛しているが。他の星の王族たちのように、活発な活動や政治を行えない自国への閉鎖感に苛立ちを覚えている。






MAX最大11:8?

最小5:3~?


●メインCAST(5:1or4:2or3:3)

・瑠璃 ♂ (青年):         

・キジ ♂ (青年):         ※唯一兼ね役なし予定。 

・クロム ♀ (女性):        

・ライ ♂ (青年):         

・トビ ♂or♀ (少年):

・ナギ ♂ (オカマ):     ※この話に限っては、女でも可能。        


●サブCAST(1:1)

・店長 ♂ (オカマ):        ※瑠璃とクロム以外なら掛け持ち可能!? しかし、メインキャストが兼ねる場合は他兼ね役が難しくなる。  

・ディア ♀ (女性):        


●モブCAST(6:5)

・売店のお姉さん (クロムか店長役、掛け持ち可能)♀:

・入院患者A (瑠璃役、掛け持ち可能)(好青年)♂:

・入院患者B (クロム役、掛け持ち可能)(女学生)♀:

・入院患者C (ディア役、掛け持ち可能)(オタク)♂or♀:

・入院患者D (店長役、掛け持ち可能)(デブ)♂:

・タクシーのおじいちゃん (ナギかトビかライ役、掛け持ち可能)♂:

・空港案内音声 (ディアかトビかライかキジかナギ役、掛け持ち可能)(※英語が得意な人)♂or♀:

・(ラジオの)MC (トビかライかナギかディアか店長役、掛け持ち可能)♂or♀:

・チケット売り場の黒人 (ライかナギか店長役兼ね役推奨)♂:

・エアポート案内誘導係 (トビかライかナギか店長役、掛け持ち可能)♂or♀:

・ニュースキャスター (クロムか瑠璃かディアか店長役、掛け持ち可能)♂or♀:

・看護師 (ディア役、兼ね役可能) ♂or♀:

・記者A (瑠璃役、兼ね役可能) ♂or♀:

・記者B (店長役、兼ね役可能) ♂or♀:

・記者C (ライ役、兼ね役可能) ♂or♀:






【開幕】


★シーン1


 地球。エアポート。

 大きな黒いトランク(中には大きなくまのぬいぐるみが入っている)を転がしながら、黒いライダージャケットを着ている青年の後ろ姿が目的地に向かって真っ直ぐ歩いて行く。

 彼は少し振り返り、先程まで居た水星の方角をちらりと見詰める。

 すぐに向き直し、再び歩き出す。時計を見て。

 呟く。


瑠璃「……夢……」


 彼は服のポケットから、指輪の入った小箱を取り出し。そっとキスをして。想い人のことを、考える。すぐに小箱をしまう。

 彼女に通話をかけようと思い、腕時計型の通信機に触れると、『充電して下さい』の文字。


瑠璃「あ……。じゅうでん……切れた……」


 『see you!!』の文字が表れ。画面が消えてしまう。


瑠璃「まあええか……。(上を見上げると、夜空と海が広がっていて、きらきらしている)……夢……」


 気にせず再び歩き出す。






★シーン2 


 医療大国水星。医療機関ウンディーネ。 

 沢山のビルが海の中並び、海空には幾つもの小型機や巨大魚が飛び交う。

 空と大地と海の境目はほとんど無く、わかりにくい。辺りはきらきらと白く蒼く輝いている。

 中央に聳え立つは、この星で一番高いビル。皇族たちが働く最高医療施設。

 食堂。


売店のお姉さん(クロム役)「お待たせしましたー」(ナギ、キジ、ライの注文を用意する)


ナギ「ありがとっ。……いやはやしかしねぇ……、兄さま? ここ一週間の、瑠璃の仕事の片付けっぷり。半端なかったわよねー」


 ナギ、うどんを受け取り。運んで、食べはじめる。


ライ「うん。関心しちゃったよね。瑠璃くん、今日から十日間、休暇だっけ?」


 ライも、うどんを食べる。


キジ「そーそっ。今、地球の美術館で色々、フェス? やってるらしくって。それを巡りたいんだと」


 キジは、ちゃんぽんを食べる。

 仲良しな医師兄弟たち。

 病院の食堂はかなり賑わっていて。

 ミーハーな患者たちや看護師たちは、顔立ち整ったキジたちを見て頬を染め見詰めている。


ナギ「へえ~」


ライ「二か月も前から休暇申請出してたんでしょ?」


ナギ「うん。そう言えば九月って……クロム姫の誕生日があるわよね?」


キジ「ふへっ?」


ライ「その為に帰国したのかな……?」


キジ「ああっ! だから変なでっけークマのぬいぐるみ買ってたのかな?」


ライ&ナギ「クマのぬいぐるみ?」


キジ「うん。先週、夜二人で飲みに出掛けた時。オモチャ屋で買ってたんだよ」


ナギ「あんたたち、最近毎晩一緒にご飯食べてるでしょ」


キジ「昼も一緒に居るよね」


キジ「いーじゃんルームメイトなんだし」


ナギ「瑠璃はただの居候でしょっ」


キジ「なんだっていーじゃん」


 可愛らしいトビ、三人の元へ駆けつける。


トビ「兄さんたちっ!♪ おつかれさまあっ」


ライ「あれ、トビ。お疲れ様。今からお昼休憩?」

ナギ「トビ、おつー」


キジ「お前まだ診察してたのか?」


トビ「うんっ! あーもうお腹ぺこぺこ! おねえさーんっ! カツカレーくださいっ! サラダとドリンクつきのやつ! 飲み物はね、コーラ!」


売店のお姉さん(クロム役)「は~い。790ベニィねー」


トビ「きゃっしゅでお願いしますっ!」


売店のお姉さん(クロム役)「はいはい。すぐに出来ますよ~」


ナギ「トビは随分垢抜けたわねえ……」


キジ「お前、午後は機器メンテもあるんだから。あんま無理すんなよな」


トビ「平気だよっ。あのね、待合室に、午前の診察受付間に合わなかった人たちが何人か居たみたいだったから。ちょっと診てたんだ!」


ライ「えっ、そんなことしてくれてたの!?」


ナギ「真面目ねえ……」


ライ「僕には出来ないなぁ~あははっ」


ナギ「兄さま何言ってんのよっ」


キジ「ライにいもたまにそうやってんじゃん」


ライ「そうだっけ?」


ナギ「そうよう。それでナースたちに怒られるの、何故かあたしなんだからっ! やめてよねっ! 救急でない限り、普通の患者には時間を守って貰わないと……」

キジ「普通の患者って何だよ」


ナギ「うるっさいな! 症状がまだ軽い患者のことでしょ! 読んでよ! 空気!」


トビ「プリンもつけてっ!」


売店のお姉さん(クロム役)「100ベニィねー」


トビ「はいっ!」


売店のお姉さん(クロム役)「はいどうぞ。おまちどうさまー」


トビ「いただきますっ!」


ライ「最近、少しだけ太れたね……トビ」


ナギ「そうよね! ガリガリ過ぎて……飢餓の国の子供みたいだったものねえ……」


トビ「あはは。コーラとサプリメントしか摂ってなかったからね……。(ナギの隣、キジの前に座って)……よいしょ。……いただきまぁすっ」


キジ「よく噛んで食えよ」


トビ「ウンッ!」


ライ「午後は診察、手伝ってくれなくって、いいからね」


トビ「えっ?」


ライ「だって、機器のメンテナンス。全館、一人でやるんだよね?」


トビ「大丈夫だよ。専属のインドランスたちと、夕方からやる!」


ナギ「ちょっと。トビ。働き過ぎはだめよ」


トビ「? どうして?」


ナギ「どうしてって……。あんた、三か月前までは立派な引きこもりだったんだから……」


トビ「最近はね、シトータお姉ちゃんと同じキックボクシングに通ってるんだよっ」


ナギ&ライ「えええええっ!?」


ライ「トビがこんなにアクティブになるなんて……」


キジ「誰に似たんだろうな?」


ライ&ナギ「それはおま……っ」(言おうとしてやめる)


キジ「あ?」 トビ「?」


ナギ「と、父さまねっ!」


キジ「あ! そうだ、トビ、お前明日の手術って結局どうするんだっけ?」


トビ「あ! そうだった。どうしよう」


ナギ「何なに? なんの話よ?」


トビ「明日、キジュリュク兄さんの担当の手術が入ってるんだけど……。そこ、ボク。見学したいなって言ったんだ」


ナギ「えっ。外科の手術に!? 大丈夫なの? トビ。あんた血が苦手だからって……ずっと……」


トビ「ずっと逃げてたら、いつまでも外科医になんて、なれないからっ!」


ナギ&ライ「!!?!」


ライ「トビ……やっぱり、外科になりたいの……?」


トビ「うっウンッ」(恥ずかしい)


ナギ「驚いた……。凄いわねぇ、これクロム・ロワーツ効果?」


キジ「見学なんて言ってないで、俺の補佐に入れよ。トビ」


トビ「え……」


ライ「うんうん。そうしてくれると助かるよねえ」


トビ「で、でも凄く偉い人の手術なんだよね……?」


キジ「それがどした?」

ナギ「キジュリュクにはそういうの関係無いからね~」


トビ「ボクが足引っ張っちゃったら……もしクレームとか……」


ライ「大丈夫だよ。キジとトビって、いつも仲良しだしさ」


ナギ「そうよ。きっといいコンビネーションだと思うわよ」


トビ「そう、かな……? でも……キジ兄さん。ボク、やっぱりまだ見学にしたほうがいいんじゃ……」


キジ「トビ。その患者のデータ、見てたよな?」


トビ「え、あ、う、うん」


キジ「同じ症状の展開の動画、オレの手元撮ったやつも色々見たんだろ?」


トビ「う、うんっ。何度も……見た……何度も」


キジ「じゃあ後はイメトレだな」


トビ「兄さん……ボク……」


キジ「トビが本当は誰よりも、誰かの役に立ちたいんだってこと。俺わかってっから」


トビ「!」


 ライとナギ、微笑んでる。


キジ「俺や親父みたいになりたいんだったら、ちゃんと準備して。努力しろ」


トビ「うん……っ」


キジ「頑張ろうな」


 トビの頭を撫でるキジ。


トビ「あっありがとう……っ」(ほっぺたを赤くする)


ナギ「可愛いわねえ~」


ライ「トビは手先がほんと器用だし。僕なんかよりも全然。きっと上手く出来るよ。信じてるよ」


トビ「っ! ボク、頑張るよ!」


ナギ「あっ、そーだ。ねえ、キジュリュク。午前にインドランスCTって使った?」


キジ「ん? 使ったけど?」


ナギ「なんっか、入場ゲートのやつが一台壊れてるみたいなのよ」


キジ「え、まじか」


ナギ「トビ~。メンテ、一階から優先的に見てってくれると助かるわ」


トビ「うんっ。わかったっ」


ライ「どう壊れてるの?」


ナギ「あたしの専属インドランスたちに何故か一瞬反応しなかったらしくて」


ライ「えっ!? 何ソレ」


ナギ「おかしいでしょ? 二重三重に確認するから、まあ見逃すとか影響は無いけど……」


ライ「初診の患者さんの場合は、気を付けないとだね」


キジ「プラグが抜けてたとかじゃねーだろーな?」


ナギ「ええっ!? まさかぁ~」


キジ「前あったんだよ……」


トビ「キジ兄さん。明日担当する手術の人って……」


キジ「勿論、人間に決まってんだろ。もうずっとここに入院してんだし。俺、一回中直接開いて全部見てるし。あの人さ、去年は癌で。その摘出ん時も。俺が出頭してっから」


トビ「そ、そっか……。でももしインドランスだったら、月と地球の研究員さんたちに、怒られちゃう……よね……」


キジ「だから。インドランスじゃねえって。正真正銘人間だよ」


ナギ「あたしたちはインドランスの手術なんて出来ないものねぇ」


ライ「そうだねえ……それが例え99%人間素体だとしても、元死体……ライフリサイクルされたインドランス生命体の場合は、手術は違法になっちゃうからね」


ナギ「ぷぷっ! ねえ。瑠璃だったら、CTなんかなくっても。それが例え1対99%のでもさ。眼力で見破りそうよねぇ」


キジ「なんだよそれっ」


 ナギとキジ、あの瑠璃なら機械が出来ないことでも自己理論で完璧に判別出来そうだなと、確かに笑い合う。少し苦笑が混じる。


ナギ「ふふふっ。キジュリュク、大好きな瑠璃が十日間も居ないなんて寂しいんじゃない?」


キジ「んぁあ? 別に?」


ライ「絶対寂しいでしょ!」 トビ「うんうんっ」


ナギ「なっかよっしだもんねえ……」


ライ「あはは……こんなに仲良しになるなんて、誰も思わなかったよね」


キジ「なんで?」 

トビ「??」


ナギ「そうねえ……。半年前のあの日。全兄弟と全病棟のインドランス、ナースたちに、ライ兄様から『瑠璃くんとキジュリュクを接触させるなー!』って強烈な指示があったくらいだったものね」


キジ「え!? だからなんで!」 

ライ「あー……ははは……」


 ナギ、キジのほっぺを少し強くつねって!


ナギ「あんたと瑠璃がクロム姫のことを好きだからよ! 愛してるからよ!! ワカレヨ! 今更だけどっ!」


キジ「あ、ああ……そっか……。まあ、あいして、る、けど……さ」(動揺)


ライ「そう。絶対会ったら大喧嘩になっちゃうと思ったんだよ……。二人とも、全然タイプが違うし」


ナギ「でも二人とも理数系でしょ?」


ライ「そんな広い区分で二人を計れると思う?」


ナギ「無理ね!」


トビ「キジ兄さん。ボクも、クロム姫のこと、だいすきだよっ」


キジ「そうか。ライバルだな!」

ナギ「ふふっ」


トビ「ライ兄さんも、クロム姫のことだいすきだよ?」


キジ「……えっ??」

ナギ「え?」


トビ「……?」


ライ「ごちそうさまー。僕、午後の診察始まっちゃうから、行ってくるね~」


 ライ、満面の笑みでそそくさとエレベーターに乗り込み内科のある階へ。


キジ「ちょっと! ライにい!?」


ナギ「やばっ! あたしも行かないとっ! 今日は水曜だから午後混むのよねー。ごちそうさまー!」


 ナギの担当は一個上の階の小児科の為、階段で行く。


キジ「トビお前なに!? いつから知ってたんだよ!?」


 トビ、食器を下げて歩き出す。


トビ「え? 兄さん何言ってるの? ボクたちも行かなきゃっ! ごちそうさまぁ!」


 キジも慌てて食器を片付ける。


キジ「だってライにいには婚約者が……!」


トビ「それってあっち側が勝手に決めた話でしょ?」


キジ「そうなのか!? なんでずっと引きこもってたお前がそんなん知ってんだよっ!」


トビ「あははっ」


キジ「ちょっ! トビ、待てっ! あっ、わり、ご馳走様ぁっ!」


売店のお姉さん(金獅子役)「はいはいそのままで結構だよー。いってらっしゃぁーい先生」


キジ「トビ待てっ! ちょっ詳しくっ!」


 キジ、トビのところまで走る!


トビ「兄さん。あと一分しかないよっ! えれべたー!!」


キジ「連打連打!」

トビ「きたきた!」


キジ「混んでる!! 乗れねえ! そっちのえれべたーもボタン押せっ!!」


トビ「ボク階段で行くよ!」


キジ「バッカ間に合わねえだろ!」


トビ「兄さんが間に合わないとダメなんだよ!」


キジ「しゃあねえ走るぞっ!」


トビ「兄さんっ! あっちで患者さんが迷子になってるみたいっ!」


キジ「ほっとけっそれはほっとけっ!」


トビ「すいませ~ん、通りま~すっ」


入院患者A(瑠璃役)「あっ、キジュリュク先生こんにちはー!」(好青年)

キジ「うっす!」

入院患者B(クロム役)「トビくん、今日も診察出るのー? 頑張ってねっ!」(女学生)

トビ「ありがとーっ!」

入院患者C(ディア役)「キジュリュク様。先日頂いた火傷の薬、本当によく効きました!」(オタク)

キジ「そっか! よかったな! 大事にしろよ!」

入院患者D(金獅子役)「キジュリュク様ーサインください!」(デブ)


キジ「わりぃっ! 急いでるんだっ! ごめんなっ!」 

トビ「失礼しますっ!」


入院患者A(瑠璃役)「そっか、もう午後の診察の時間か……」(好青年)

入院患者B(クロム役)「キジュリュク先生、かっこいい……。トビくんは可愛い……ハムスターみたい」(女学生)

入院患者C(ディア役)「トビくんは、白衣、やっぱちょっと大きそうだね」(オタク)

入院患者D(金獅子役)「キジュリュク様、夜部屋に来てくれるかなあ……」(デブ)

入院患者A(瑠璃役)「キジュリュク先生に点滴交換して貰いたいよね」(好青年)

入院患者B(クロム役)「っわかるっ! しぐれちゃんだと危なっかしくて。こっちがやろうか? ってなっちゃうんだよね……」(女学生)

入院患者C(ディア役)「トビくんの手つきって、キジュリュク様に凄く似てて器用だよね」(オタク)

入院患者D(金獅子役)「キジュリュク様に……手術されたいなぁ……」(デブ)






★シーン3 


空港案内音声(ディア役)『It will begin boarding at 13:00p.m.Your flight will take off on time.Enjoy your flight!』


 地球。数年前まで瑠璃が生活をしていた、日本のとある東京都市の地下世界。

 エアポート。彼を出迎える、パステルの派手な格好をした筋肉ムキムキゴリゴリの『店長』。


店長「っ! 瑠ッ璃っちゃぁぁぁ~んっ!」(抱き付くっ!)

瑠璃「てんちょ……ゴフッ!!」


店長「会いたかったぁ~っ!」(抱き締めるっ!!)


瑠璃「て、店長……。お元気そう、で……っ!」


店長「瑠璃ちゃああああ~んっ!」(泣くっ!!)


瑠璃「っ……しぬ」


クロム「ちょっと店長っ。騒ぐと他の通行人の方々の迷惑になりますよっ」


 えんじ色のコートを羽織り、黒いワンピースを着ているクロムが、二人の傍に駆け寄る。


店長「あ、あら……。ごめんなさいね。つい! いや~もお~。やっだ! 瑠璃ちゃん、また痩せたんじゃない!?」


瑠璃「いや。月に居た頃よりはやや太りました……」


店長「そーお!?」


クロム「ほんとに……?」


瑠璃「いちきろ……くらいは」


店長「それ、便秘してるとかじゃないわよね!?」


瑠璃「あー……そっか」


クロム「そうなんですか!?」


瑠璃「ははっ……」


店長「んもうっ! こんな所でいつまでも立ち話じゃなんだわっ! お店、行きましょっ!」


クロム「そうですね。行きましょう、瑠璃」


瑠璃「夢……」


クロム「ふふ。おかえりなさいっ」


 久しぶりに会う彼女の笑顔に、きゅんとして、ほっとする。


瑠璃「うん……。やっぱ、地球に帰ってくると、落ち着くわ」


店長「当たり前でしょっ! 地球は、瑠璃ちゃんの、第二の故郷なんですからねっ! さ、荷物持つわよっ! 何コレっ!? 軽っ! ってか、なんでキャリーケース? 服や家具は結構夢ちゃん家に瑠璃ちゃんのやつ、置いてあるって言ってなかったっけ?」


瑠璃「あ。これは……」


店長「お土産!?」


瑠璃「あ、そう、です。うん」


店長「あらいやだ! あたしお餅食べたいわっ!」


瑠璃「え!?」


クロム「店長、朝から言ってて。あんころ餅が食べたいって……」


瑠璃「ちょおコンビニで買いましょう」


店長「いやいや、お店すぐそこだから! とりあえずは行きましょうよっ! ねっ!」


瑠璃「はいはい」


クロム「帰ってくるの、いつぶりでしたっけ?」


瑠璃「いつやったかな……?」


クロム「私はしょっちゅう水星に遊びに行かせていただいてますけど……」


店長「もー! 瑠璃ちゃん、もっと頻繁に帰ってくればいいのにいー」


瑠璃「すんません……」


店長「ヘイタクシィィー!!」


 店長、凄い形相でタクシーを捕まえる。


クロム「お店に、ご馳走。出来てますよ」


瑠璃「え。なんやろ。ありがとう」


クロム「店長。昨日の夜から頑張って作ったんですよ」


瑠璃「悪いなぁ」


クロム「他の従業員の子たちも手伝ってくれたんですけど……」


瑠璃「今誰か店におるん?」


クロム「あ、いえ。今日は定休日だし。皆帰っちゃいました」


瑠璃「そか……」


店長「タクシーきたきた! ほら二人は後ろ乗ってっ! 瑠璃ちゃんの荷物、後ろに入れるわよ~」


瑠璃「あっ、やりますやります!」


店長「いいのいいのっ!」


クロム「ふぁぁ……」


瑠璃「なん? 夢も、店長と一緒に料理作ってくれたん?」


クロム「あ、はい、一応……」


瑠璃「んな、頑張らんでも。適当でよかったんに」


店長「なあに言ってんのよっ! うちの元ナンバーワンの帰国よお!? しかも、元、月のインドランス研究所研究員のエースで! 現、水星インドランス研究所心療内科医……」

瑠璃「あ、一番街までお願いします。えっと、大きいほうの愛星あいほしクリニックの前で降ろして下さい」


タクシーのおじいちゃん(ナギ役)「はいよぉまいど!」


店長「ちょっと瑠璃ちゃん!? 何勝手にタクシー代払ってるのっ!」


瑠璃「夢、ガム食べる?」


夢「はいっ!」


瑠璃「ほい」


夢「ありがとうございます!」


店長「ちょっと!」


瑠璃「店長は飴な」


店長「あっありがとうっ! 相変わらず気が利く子! 恐ろしい子っ!」


 タクシーが出発する。


瑠璃「はぁ……。やっと休暇取れたわ……」


クロム「ふふ。お疲れ様」


瑠璃「仕事、結構慣れたし。店長も寂しいてうるさいから……。これからは月イチくらいは帰ってこよかな?」


店長「そうしなさいよ! 週イチでもいいわよ! 定期アタシが買ってあげるから!」


クロム「そうですね。そうしたらみんなで過ごせますね」


瑠璃「……ありがと……」


 瑠璃とクロム。見詰めあって、少し微笑む。






 店長とクロムが経営している、バー(元メイドカフェ)に辿り着く三人。


店長「ただいまぁ~っ」

クロム「ただいまー」

瑠璃「……ふう。ただいま……。あ、店長、テレビ見てもええですか?」


店長「どうぞどうぞ? いつも言うけど。ここは瑠璃ちゃんの家でもあるのよっ好きにしてっ」


瑠璃「はいはい」


 瑠璃、ニュースチャンネルをつける。


クロム「瑠璃、すぐにご飯にしていいですか?」


瑠璃「うん、あっ、なんか手伝う?」


クロム「ううん! 大丈夫。手洗ってきて」


瑠璃「うん」


店長「夢ちゃんお刺身出しちゃってー」


クロム「はあい」


店長「今夜はっ! 瑠璃ちゃんの大好きなっ! ハマグリ仕入れちゃいましたあ~♪」


瑠璃「おー」


クロム「海老も帆立もありますよ」


店長「魚介鍋よっ」


瑠璃「おー」


クロム「店長、私食器とお箸用意して……」


店長「お酒はねー、コレッ! 超秘蔵! 最高級芋焼酎~っ!」


瑠璃「おお~っ」


 三人で仲良く宴会をし。楽しくお酒を飲み、夜を過ごす。


店長「そう言えばそのキャリーケース、結局何が入ってるのよ?」(おつまみをもぐもぐしながら)


瑠璃「ああ……。もう日付変わりましたね……。やったら、ええか。……よいしょ」


 瑠璃、キャリーケースを開け、中から大きなくまのぬいぐるみを取り出す。


クロム&店長「??」


瑠璃「はい、店長。誕生日おめでとうございます」


店長「っきゃー!?!? 何ー!? くまくまくまくまくまくまくあああああああ!!」


クロム「可愛いっ」


瑠璃「前、通信でおっきいぬいぐるみ欲しい言うとったから……」


店長「やだ、そんな前のこと覚えててくれたのねえ! 瑠璃ちゃんったら! やだもおっ! 嬉しいわあっ! ありがとうっ!」


 店長、くまのぬいぐるみに何度もキスをする。


店長「汚れちゃうと困るから、上のアタシの部屋にしまってくるわねっ!」


クロム「はーい」


 店長、鼻歌交じりで階段を上がっていく。


瑠璃「むっちゃ喜んどったなぁ」


クロム「そうでしたね。ふふ」


瑠璃「……」


クロム「……」


 なんとなく、会話が途切れる。

 カウンターで、隣同士に座っている二人は、お互い、酒を一口ずつ飲んで。


瑠璃「……あのさ、」


クロム「はい」


瑠璃「夢も、今日誕生日やな」


クロム「はいっ! ありがとう。私のわがままに付き合ってくれて」


瑠璃「んや。俺も美術館巡り、久々に行きたかったし」


クロム「凄い展示ばっかりなんですよ」


瑠璃「ああ。ニュースにもなっとったな」


クロム「一人で行ってもよかったんですけど……。でも、瑠璃が確か、モネとルノアール好きだったなって思って……」


瑠璃「シャガールも好き」


クロム「よかった! 世界遺産展と、デザイン解剖展も、どうしても行きたくって……」


瑠璃「へー。この前言うとった、日本画展は?」


クロム「あっ。それは明後日行こうと思ってて……」


 クロム、テーブルの端に置いてあった、色々な美術館のパンフレットを手に取り、瑠璃に見せる。


瑠璃「はぁ……。落ち着くなぁ、ここは……」


クロム「ウンディーネ……。は、心休まりませんか?」


瑠璃「んー……。キジュリュクと二人で居る時は、割と穏やかな気がする……かな」


クロム「ふふ。そうなんですね?」


瑠璃「夢……」


 瑠璃、クロムの頭を撫で、頬に触れる。


瑠璃「誕生日、おめでとう……」


クロム「あ、ありがとう……」


瑠璃「俺、……月に居るころはほんまに、全然暇なくて……。でも、これからは、時間、作るから……だから」


クロム「……っ」


 二人の距離が、近くなって。


瑠璃「これからは……一緒に――」


クロム「っ!! お鍋吹きこぼれてるっ!」


瑠璃「えっ!? ああっ!?」


クロム「あわわわっ」


瑠璃「これっ! 鍋つかみっ!」


クロム「わわっすみませんっ!」


瑠璃「火傷せんといて」


クロム「大丈夫ですっ!」


 店長、階段から下りてくる。


店長「なーにー? 大丈夫ー?」


クロム「はいっ。お鍋、もう出来ちゃいましたよっ」


店長「よしっ。じゃあ食べましょうっ!」


瑠璃「店長、飲み物足りてます?」


店長「あらら、ありがとうっ」


クロム「お鍋よそいますねー」


店長「あっ。ねえ瑠璃ちゃん」


瑠璃「はい?」


店長「一応上に布団敷いておいたんだけど……」


瑠璃「えっ」


店長「え? ホテル取ったの?」


瑠璃「あー……いやぁ……」


店長「何よぉ。ほんっと自分に無頓着なんだからっ! どうせそんなことだと思ったっ!」


クロム「あの、瑠璃、部屋に取りに来てほしい荷物があるんですけど」


瑠璃「え? あ、俺も。夢ん家に置かせて貰てるやつで、必要な機材があって……」


店長「じゃあついでに夢ちゃん家に泊まっちゃいなさいよ」


瑠璃&クロム「えっ!?」


店長「いいじゃないそれで」


瑠璃「やっ、でも、俺ら……」


クロム「っ……」


 店長、鍋の中に入っていたタコをむしゃむしゃと食べる。


店長「なんで全然好き合ってるのに別れたの?」


クロム&瑠璃「ええええっ」


 つい立ち上がる二人。


店長「月で瑠璃ちゃんが働いてた二年間、全く会えなかったから?」


クロム「そ……っ」


瑠璃「そうです、けど……」


店長「下らない」


クロム「店長……?」


店長「夢ちゃんはともかくとして、瑠璃ちゃんは夢ちゃん以外は無理なんだから。ちゃんと時間作っていちいち会いに来なさいよ」


瑠璃「ぐっ……っ!!」

クロム「ともかくというのは……」


店長「ぼやぼやしてると、水星の王子様たちに、夢ちゃん取られちゃうわよっ」


瑠璃「すんません……」


クロム「や、でも……っ。瑠璃も水星で、いい出会いがあったかも知れないし……」


店長「アンタ何言ってんのよ? こんないい男捕まえといて。あのねえ、医者の周りにいい女なんて居る訳ないわよ!」


クロム「ええ~っ!? なんで!?」


店長「ねえ、瑠璃ちゃん!?」


瑠璃「ん、まあ……そうかな……?」


クロム「いやいや! でも、でもっ」


店長「ちゃんと元鞘に戻りなさいっ。そうしたいんでしょっ? あんたたち、もうすぐ三十になるのよ? 自分たちの歳考えなさい。……アタシ、ちょっとトイレっ」


 店長、席を外す。


瑠璃&クロム「……っ」


クロム「あ、あの、瑠璃……」


瑠璃「……夢、取りに来て欲しいもんって、なん?」


クロム「えっと……。以前キジに教わった特殊な薬草を何種類か育ててみたんですけど……。いくつか実が生って……。それで、それを綺麗に採取して欲しくて……あの、やり方がよくわからなくて……。採取したら、キジに見せて欲しいんです」


瑠璃「それってもしかして……クロムリアの種の薬草も……?」


クロム「えっ? あ、えっと、そんな名前だった、かな? ギザギザの葉っぱで……」


瑠璃「蜂蜜みたいな香りがする?」


クロム「あっ、そう!」


瑠璃「凄いな。夢、あんな繊細なもん、育てられたんか」


クロム「……あの、瑠璃……」


瑠璃「なん?」


クロム「二年以上、経ったのに……その、」


瑠璃「あ……う、うん……」


クロム「まだ……」


瑠璃「……」


クロム「すきですか」


瑠璃「っ――。……俺は……」


 店長の言った通り。瑠璃には、クロムしか居なかった。


瑠璃「っ……」


 店長、戻ってくる。


店長「っはぁー。快便快便っ!!」 瑠璃「俺は夢しか……っ!」


店長「あらあ……!?」


クロム「んっ~! もぉー店長台無しですっ!」


瑠璃「はぁぁ……」


店長「えっ!? 何!? アタシ邪魔!? ここ自分家なんだけど!?」


クロム「わかってますよぉー」


店長「まあまあ夢ちゃんも瑠璃ちゃんも、今日はいっぱい飲んでってってって♪」


瑠璃「いただきます!」(怒)

クロム「いただきまぁ~す。ふふっ」


店長「あぁ~楽しい夜だわぁ~! 今日はもお、うんっと強いのも開けちゃおうっ! ぱっか~ん!」


瑠璃&クロム「おー」


 三人とも、酔いつぶれるまで飲み明かす。






 翌朝。バーの近くにある、夢が住んでいるマンション。夢の部屋。


瑠璃「……?」


 瑠璃、目が覚める。見慣れない光景に思考が停止している。

 ぼやけた目をこすりながら、真っ白い布団の中、その心地よさに抱かれて。

 隣で寝息を立てているクロムを、彼女本人だと気が付くのに少し時間がかかる。


瑠璃「あ、さ……?」


クロム「むにゃ……」


瑠璃「うッわ!!!!?!」


クロム「っ!? ふぁっ!?」


瑠璃「ゆ、夢……の、家?」


クロム「あ、あれ……? おはようございます……?」


瑠璃&クロム「……っ!」


 お互い、がばっと背を向けて!


瑠璃(あかん、どうやってここに来たか覚えとらん……っ!) 

クロム(私パジャマ着てるってことはお風呂入ったのかな……!?)


クロム「ご、ごめんなさい、その、確認なんですけど、えーと、昨日……って、一緒に私の家まで帰って来たんでしょうか……?」


瑠璃「多分……」


クロム「七杯目くらいまでは覚えてるんですけど……!」


瑠璃「俺も……店長が脱ぎだした所くらいまではなんとか……」


クロム「瑠璃それ、瑠璃のシャツとジャージです、ね……? うちに置いてあった……。私、一昨日まとめてリビングに置いておいたんですけど……」


瑠璃「あ、ありがとう。風呂入ったんかな?」


クロム「(瑠璃の首辺りの香りを嗅いで)……っいい匂いです!」


瑠璃「そ、そか……。それはよかっ、った……?」


 彼女にうんと近付かれて驚き心臓が飛び跳ね、照れてつい目を逸らしてしまう。


クロム「ふふ。お茶、淹れますねっ!」


瑠璃「頭痛いとかないん?」


クロム「へ。瑠璃は頭痛いんですか?」


 クロム、お茶を淹れ、瑠璃に湯呑を手渡す。


瑠璃「んや。俺宴会始まる前に薬飲んどいたから大丈夫……」


クロム「私もっ!」


瑠璃「……なんも、なかったんかな……?」


クロム「瑠璃、洗濯機回すけど洗うものありますー?」


瑠璃「あっ。ちょお待ってっ」


クロム「入れちゃってくださーい」


瑠璃「はいー……っ、あ……」


 瑠璃、部屋の隅に積み重なっている本の山に気付いて。


クロム「? どうしました?」


瑠璃「これ……インドランスの本?」


クロム「あっ! そっそう!」


瑠璃「ふ。しっかり勉強しとるんや」


クロム「そりゃしますよ!」


瑠璃「春に試験、受けるん?」


クロム「はいっ! 勿論!」


瑠璃「夢やったら、ライもキジも、試験無しで喜んで雇うやろ……」


クロム「そんなの、同じ試験を受けようとしている他の方に申し訳ないじゃないですか」


瑠璃「インドランスのカウンセラーなんて。不人気なんやから……枠なんていくらでもあるんやで」


クロム「……瑠璃、やっぱり水星での仕事、大変なんですか?」


瑠璃「うん、まあ……猫の手も借りたいって感じかな……」


クロム「そっそれなのに、十日間も休んでいいんですか!?」


瑠璃「うん。休み取る為に三日徹夜してもうた」


クロム「えっ!?」


瑠璃「ははっ。平気やよ。まあ、あれで約十日は、カウンセリングでなんかあってもどうにかなるはずや」


クロム「そうですか……。あー……もうお昼過ぎですね……」


瑠璃「結構ぐっすり寝た気ぃするわ」


クロム「ねっ」


瑠璃「今日行こうと思っとった美術館、何時から?」


クロム「えっと……今日のは……夕方五時からの、彫刻の個展ですっ。五番街!」


瑠璃「んなら……もうちょいゆっくりしててもええな」


クロム「そうですね」


瑠璃「明日は?」


クロム「明日は少し早起きしたくて……朝九時から、絵画の……」


瑠璃「ふぁ……」


クロム「ふふ。……ラジオつけますね」


 クロム、洗濯機を回しながら。お茶を淹れ。少し、部屋の片付けをする。

 瑠璃、お茶を飲みながら、あぐらをかいて。積んである本の一番上にあるやつを取り、ぱらぱらとめくる。


瑠璃「夢、なんか手伝おか?」


クロム「いえ! 大丈夫ですっ!」


瑠璃「そか」


クロム「なんだか、昔に戻ったみたいですねっ!」


瑠璃「え? せ、せやな……」


 二人、昔付き合っていた頃はお互いの一人暮らしの家を良く行き来していた。そのことを思い出す。


クロム「テレポータでなら、水星なんて一瞬なんだし。瑠璃、ここからかよったらどうですかっ?」


瑠璃「え……」


クロム「だって……。今回は大きな荷物があったから、エアポートで来たんですよね?」


瑠璃「あ、う、ん……」


クロム「♪~」(拭き掃除をしている)


瑠璃「夢……今の、冗談?」


クロム「えっ?」


瑠璃「一緒に暮らしても……ええんか?」


クロム「……瑠璃が……」


 二人、向かい合って。見詰めあって。


瑠璃「っ……」


 ラジオのニュースがふと耳に届く。


MC(トビ役)『ここで、緊急ニュースです。本日。水星、医療大国ウンディーネにて、重大な医療ミスが起こったようです』


瑠璃「っ……!?」


クロム「い、医療ミス?」


MC(トビ役)『火星の政治家、グンジ・フローリンがインドランスであると知りながらも、水星の外科医師が強制的に手術を行い、機能停止にさせてしまったようです』


瑠璃「グンジ・フローリン……?」


クロム「知っているインドランスですか?」


 瑠璃、自分の鞄を探る。


瑠璃「いや……知らん……。新型かな。ちょお調べてみるわ……えーと……あっ!!」


クロム「どうしました?」


瑠璃「充電切れとるん、忘れとったわ」


クロム「ええっ!? もーっ! はいっ、充電器っ!」


瑠璃「悪いっ。えーと……っ。よし。起動……インドランスの……月んとこから……っ」


 腕時計を充電器の上にかざすと、すぐに復活する。ネットワークを駆使して、全銀河の中からそのインドランスの名前を検索する。


瑠璃「なんで……。そんなインドランス、一件もヒットせん……」


クロム「えっ。どうして……」


MC(トビ役)『担当医は、水星のスーパーエースドクター、カルク・キジュリュク・ゼット氏で……』


瑠璃「キジ……!」


クロム「インドランスだってわかっているんだったら、いくらキジでも手術なんてしませんよっ……!」


瑠璃「俺がおらんかったせいか……?」


クロム「水星の全患者の名簿は!? 瑠璃、今見れますか!?」


瑠璃「――っと。うわわ、カルクの皆からメッセむっちゃきとる! えーと、とりあえず、グンジ・フローリン……検索……っ!」


 検索をする。


瑠璃「っ! あった! グンジ・フローリン……。三週間前からノーマルに入っとるな……。今日の朝、腎臓の手術……か」


クロム「? ……どうしてインドランスなのに、ノーマル? 普通の病棟に入ってるんですか?」


瑠璃「インドランスCTの結果がホワイトや。五件中全部」


クロム「それって人間ってことじゃないですか!」


瑠璃「なんでや……?」


クロム「CTのデータって、書き換えられるんですか? 写真なのに……?」


瑠璃「んなこと絶対出来へん。CTのデータ結果に間違いは無い。不正が出来んよう、360度の映像を一回で何万もの承認と一緒に撮るのと、映像にその紋が映るし……」


クロム「キジから連絡は?」


瑠璃「むっちゃ来てる……っ。くっそ、全然気付かんかった……っ! 夢には連絡来とらん?」


 クロム、自分の腕時計型通信機を鞄から取り出して。大きいモニターを出現させる。


クロム「えっと……。っあ! トビとライとキジとナギ、シトータからも来てます……っ! っ、やっぱり、ニュースのこと……!」


瑠璃「最悪や……っ」


クロム「で、でも、水星にはインドランス研究心療内科の他のスタッフだって居ますよね?」


瑠璃「他のスタッフは……機械のこととかは……その~」


 瑠璃、言葉を濁す。


クロム「え……? どういう意味です、か? 瑠璃が居る心療内科って、みんなインドランスのカウンセラーになりたくて配属されている訳じゃ……」


瑠璃「無いんや。科長もウンディーネの元精神心理カウンセラーで人間専門。他三人も、元アナウンサー、元教師、元保育士で……。

仕事はみんなよぉ出来るし、真面目やけど……。インドランス開発に携わっとったのは、俺だけで……」


クロム「そうなんですか……」


瑠璃「せやから。なんか不備があってもええように、色々マニュアルを作って置いて来たんやけど……。インドランス関係の設備は、全部俺が創ったんをウンディーネでつこぉとるから」


クロム「だから徹夜して……?」


瑠璃「うーん……」


MC(トビ役)『水星時間での本日15時より、謝罪会見が行われる予定です』


クロム「謝罪会見……?」


瑠璃「俺、行かな……っ!」


クロム「えっ。あ、あの! キジと一度通信したほうがよくないですか!?」


瑠璃「さっきからずっと鳴らしとるけど、繋がらんわ……。きっともう報道が詰めかけてて、病院、凄いことになっとるんやないかな」


MC(トビ役)『今追加で入った情報です。人とインドランスとを判別する医療機器、“インドランスCTスキャン”を作成したウンディーネのカルク家の六男。

カルク・トビュール・シータ氏によって。インドランスであっても人であると結果が出るように細工してあったことが明らかになりました』


瑠璃&クロム「ええっ!?」


クロム「トビ……っ!?」

瑠璃「なんで……!」


クロム「細工なんて出来るんですか!?」

瑠璃「あほか! こんなのでたらめや! トビはインドランスの開発には少しも関わってないやろ!」


クロム「そっ……そうですよね」


瑠璃「しかも細工なんて出来るはずない。俺が異動してきた半年前、俺とライとキジ、三人の指紋と眼紋がんもんが無いと、セキュリティは解除出来へんように障壁を三重に張ってあるんや」


クロム「っ……! 水星に行きましょう! このままじゃ他の患者さんやインドランスたちにまで、何かよくないことが起きる気がします! 嘘の情報ばらまかれて、きっとトビもキジも、……っ!」


瑠璃「ああ……っ! 行こう!!」


 二人、着替えてすぐに部屋を飛び出す!






 エアポート。チケットカウンター。


クロム「ッ明後日の夜まで満席~!?」


チケット売り場の黒人(ライ役)「ソウ。ムリ。ノセラレナイ」


瑠璃「一枚くらいあるやろ!」


チケット売り場の黒人(ライ役)「今日ノブン、サッキ、完売シタ」


瑠璃「さっきって……!」


クロム「ううっ、凄い人……っ! きっと報道の人たちなんかが買い占めちゃったんですね……」


瑠璃「なんでテレポータまで今使用点検中なんや!」


チケット売り場の黒人(ライ役)「キマリゴト。清掃中。ルール、カエラレナイ!」


クロム「はぁぁ……っ! どうしようっ! せめて瑠璃だけでも水星に行かないと……っ!」


瑠璃「っ! 夢、テレビ! あれ、病院前の映像や」


 エアポート内の上空に浮いている大きな映像パネルに、水星の状況が映されている。


クロム「うっわ……やっぱり凄い報道の数……! 水星に着いてからも、これじゃ病院に入るのが大変そうですね……」


瑠璃「本当に空き、一個も無いんやな!? 立ちでもええんやけど!」


チケット売り場の黒人(ライ役)「ムリ。立チハ、アブナイ。ノセラレナイ。席ナイ。カエレ」


瑠璃「ぐうう……っ!」


クロム「っあの! 私、宇宙船の船長をしていたことがあって! 小型船でもなんでもいいので! 借りられませんか!?」


瑠璃「そっか! 夢なら操縦出来る!」 

クロム「っ」(強く頷く)

チケット売り場の黒人(ライ役)「操縦? デキルノ? カワイイ。アナタ。トテモビジン」


クロム「あ、ありがとう!?」


チケット売り場の黒人(ライ役)「連絡先オシエテ。ココニ、書イテ」


クロム「はいっ!」


チケット売り場の黒人(ライ役)「今夜、オレノ部屋、キテ」

クロム「え!?」

瑠璃「おいお前!! 堂々とナンパすな!!」


チケット売り場の黒人(ライ役)「ちぃっ……!!」


瑠璃「舌打ちかい……!」


チケット売り場の黒人(ライ役)「ン~……。小型機、ゼンブ、デハラッテル。ムリ。カセナイ。残念」


クロム「くううっ……!」


チケット売り場の黒人(ライ役)「緊急、ナノ?」


クロム「っそう!!」 瑠璃「せや!!」


チケット売り場の黒人(ライ役)「ンナラ、アソコ並ンデル人タチカラ、奪エバ? アソコニ居ル人タチ、皆、チケット、アル」


 彼が指差したのは、乗船アナウンスがされた、今まさに、宇宙船に乗り込もうとしている人たち。


瑠璃「……っ!」


クロム「瑠璃!」


瑠璃「声掛けよう!」


クロム「で、でももうあの人たちすぐに乗船するんですよ!? これを逃したら、二日以上もう便は無いし。譲ってくれるかどうか……っ」


瑠璃「こっちはマジで急いどんねん! 交渉する!」


クロム「っ! ま、待って……っ!」


観光客?(ディア役)「もしもし~? アタシィ~」


クロム「?」


 瑠璃、足早に、その列に近付く。

 クロムは、真横で騒いでいるドピンクのコートを着ているスタイルのいい女性が気になり、そちらをじっと見た。


観光客?(ディア役)「やっだ~! だぁかぁらぁ~! なんでか知らないけどむっちゃ混んでるんだってばぁ~! 行く気失せ失せってかぁ~?」


 その人物は、どうやら誰かと通話しているようだった。


観光客?(ディア役)「え? あぁ~うん~アタシはぁ~。あ~チケット~? 受け取ったわよぉ~大丈夫~! 黒ヤギさん来たぁ~。ってか~、折角の長期休暇なのにい~なぁんで健康診断なんか行かなきゃいけないのぉ~? アタシぃ、ほんとは今日地球でネイルやりたいんだけどぉ~」


クロム「っ! 瑠璃瑠璃!」

瑠璃「! なん?」

クロム「あの人、いけるかも!」

瑠璃「ウッ。すっごい香水くさ」

クロム「ココナッツとバナナとイチゴ、ですかね?」

瑠璃「鼻もげそう」

クロム「我慢して!」


観光客?(ディア役)「明日ぁしかも都内で竜巻たつまきのコンサートがあってぇ~。アタシそのチケット取れちゃったからぁ~ほんとーは今日水星に行きたくないっていうかぁ~! 聞いてる~? ねぇ~」


瑠璃「っあの!!」


観光客?(ディア役)「? ハイ?」


瑠璃「すいません、ちょっと話ええですか……」

観光客?(ディア役)「やっ……やだ……! お、オズワルド様!?!?」


瑠璃「えっ?」


観光客?(ディア 役)「オズワルド様よね……!? 一番街の! あっ、アタシ、昔よく、貴方のお店に通ってて……!」


瑠璃「えっと……あ、ありがとうございます?」


クロム「瑠璃のホスト時代を知っている方ですか……」


瑠璃「ホストなんて俺……」


クロム「ほら。うちのメイド喫茶が売り上げが悪かった時に、ホストフェアやったじゃないですか。五年くらい前かな……? 瑠璃はその時だけ厨房じゃなくて表を……」


瑠璃「あぁ……。消したい過去その二か」


クロム「消えてたんですね脳から」


観光客?(ディア役)「ああっあのっ……! サイン下さいっ! あ、あとあとっ……! 一緒に写真撮って貰えると……っ!」


瑠璃「ああ、ええですよ」


観光客?(ディア役)「やっぱりかっこいいわぁぁ……」


瑠璃「あの……。俺実は今、水星で医者をやってて……」


観光客?(ディア役)「ええっ!? そ、そうなのッ!? イケメンなのに!?」


瑠璃「ええと今すぐに水星に戻りたいんやけど、でもチケットが完売で……」


観光客?(ディア役)「アタシのチケット、あげるっ!! これでお役に立てるかしらっ!?」


瑠璃「ええんですか?」


観光客?(ディア役)「いいのよお! オズワルド様には……っ! あの頃、アタシの夢をたくさん叶えて貰ったものっ! お姫様抱っこに、ハグに、誕生日には……っ! 手っ……! 手を繋いでっ! ケーキをあ~んして貰ったことも……っ! そしてっ! ほっぺについてしまったホイップを……っ! そのっ! 唇でえええっ……! あ~んっ! アタシのぉっ! 青春~っ!」


瑠璃「全然覚えてねえ」


 心のシュレッダーにかけました。


クロム「瑠璃! 心の声! 漏れてます!!」


瑠璃「ハッ」


観光客?(ディア役)「あのメイドカフェ、バーになっちゃったんでしょ? 久々に行ってみようかしらぁ」


瑠璃「あ、あの。じゃあ今度何か奢らせてください! これ、俺の名刺!」


観光客?(ディア役)「えっ。なんで!? 名刺っ!? 貰うっ!」(受け取る)


瑠璃「お礼に!!」


観光客?(ディア役)「えええ何言ってるのよう~そんなぁ~! いいの~!? ねっ。でも、今は急いでるんでしょっ? いってらっしゃいっ! ほらほらっ」


瑠璃「すっすんませんっ! じゃあ夢、俺先行くわ!」


クロム「うんっ! 私も、後で必ず行きます! キジの力になってあげて下さい!」


瑠璃「っ!」(強く頷く)


 瑠璃、宇宙船に乗り込んで行く。


クロム「っ……。はぁ……っ」


観光客?(ディア役)「アンタ、オズワルド様の彼女?」


クロム「えっ。っと……」


 彼女では、ない。


観光客?(ディア役)「すんごい事になっちゃってるわね。水星。意味わかんな。これ、普通の診察してないのかしら」


 二人で、巨大モニターを見詰める。


クロム「そ、そうかも知れませんね……!」


観光客?(ディア役)「大変ね。彼、どこ行ってもモテるでしょうから。じゃあね」


クロム「あっあのっ! 本当にありがとうございましたっ!」


 彼女はふと立ち止まって。


観光客?(ディア役)「ねぇ!」


クロム「っ!?」


観光客?(ディア役)「お腹空かない? アンタもアタシも、予定に穴があいちゃったでしょ? 一緒に蕎麦でもどーう?」


クロム「……っはい! 是非!」


 二人、並んで歩き出す。


観光客?(ディア役)「オズワルド様……少年ぽさが無くなって男の色気が増してたわね……」


クロム「そ、そうかも……?」


観光客?(ディア役)「かつ丼でもいいわね……あっお稲荷さん食べよう」


 クロム、一瞬振り返って。


クロム「……瑠璃、頑張って……」


観光客?(ディア役)「ちょっと~っ。はやく~っ」


クロム「あっ! すっすみませんっ!」


 瑠璃、 貰ったチケットを見て。


瑠璃「っファーストクラス……!? たっ高……っ! 一席141万!? なっ!? ……何者……!?」


エアポート案内誘導係(金獅子役)「お客様、チケットを拝見致します」


瑠璃「はっはいっ! お願いします!」


エアポート案内誘導係(金獅子役)「……確認致しました。どうぞ。特別乗客ルームは、そちらの金のカーペットの方へお進み下さい。よい旅を」


瑠璃「っ……!」






★シーン4  


 ウンディーネ、十階。王、ライの部屋。


ニュースキャスター(ディア役)『本日午前に水星で起こった医療ミスについてですが、担当外科医の解雇を求められる声が多く……』


ナギ「トビ、テレビ消しなさい!」


トビ「でも……なんかでたらめなことばっかり報道されてて……」


ナギ「っ! ライ兄さま。本当に謝罪会見なんてするの?」


 スーツに着替えたライが、報道陣の前に出る為、髪のセットをナギにやってもらっている。


ライ「うん。まあ、仕方ないよね。……他の弟たちは?」


ナギ「各自、自分の部屋から出ないよう言っておいたわ。後でちゃんとまとめて報告するからって色々言いくるめてっ! それにしても兄さま……、スーツかっこいいわ」


ライ「ありがと。……キジュリュク、着替えられた?」


キジ「んー……」


 キジ、スーツ姿でさっきからずっと、ライの部屋の床に、乾拭きで消えるチョークで何やらカツカツと熱心に計算式を書いている。


ナギ「ちょっとっ。あんたさっきから何やってんのっ!? スーツ汚れるからあんまり床で作業しないでっ」


トビ「キジ兄さん、それってCTスキャンの理論証明?」


キジ「うんー」


 キジの計算は、止まらない。


ライ「あはは。何その数式。終わりあるの?」


キジ「もうちょっと……」


トビ「……瑠璃さん、帰って来ないね……」


 キジの手が一瞬止まる。


ライ「休暇中だもん。仕方ないよ」


ナギ「でもそろそろ着信に気付くんじゃない? ねえキジ、あんた連絡返って来てないの?」


キジ「もう今更、瑠璃が来たっておせえだろ」


ナギ「そうかもしんないけどさ……。でも、」


キジ「俺は、機械の故障は疑わねえ。ナギが昼間言ってたやつも、ただプラグの差し加減が甘かっただけだったろ」


ナギ「確かにそうだったけど……」


ライ「じゃあその計算式はなんの為に? 瑠璃くんの機械の正当性を確かめる為じゃないの?」


キジ「……トビ……」


トビ「うん?」


キジ「悪かったな。折角のデビュー戦が台無しだ」


トビ「キジュリュク兄さんのせいじゃない!」


キジ「確かに人間だったのに……なんで……。まるですり替えられたみたいだった……」


ナギ「すり替えられた……?」


キジ「ああ……」


 キジの計算はいつまでも続く。


トビ「ライ兄さん……あの、」


ライ「ん、どした?」


トビ「ボク、今日の手術に出れてよかったよ。キジュリュク兄さんだけが傷付くのは、嫌だから……」


ライ「優しいね、トビ。でも、キジュリュクは大丈夫だよ。今までもこんなことはいっぱいあった。心配なのは患者さんと、トビと瑠璃くんのことかな……」


トビ「ボクは大丈夫だよ!」


ナギ「トビが明るくなって、よかったわね~ほんっと」


 入院患者たち、ライの部屋の扉をノックする!


入院患者A(瑠璃役)「キジュリュク先生!! ライデイン様!!」(好青年)

ライ「ん……? あれっ、キョウくん?」

トビ「入院患者さんたち……?」

ナギ「ちょっとみんなどうしたのよ! 入院部屋から出ちゃだめって館内放送したでしょー!?」

入院患者A(瑠璃役)「だって! いてもたってもいられなくて!」

ライ「まあまあ。みんな、部屋に入って。話聞くから」


 ライ、患者たちを部屋に招き入れる。


入院患者B(クロム役)「失礼しますっ!! ナギ様っ! トビくんっ! なんなの、あのニュース、どういうことですか!? ひどいことばっかり! ハラタツ!」(女学生)

ナギ「ミナミちゃん……心配かけちゃったわね」


入院患者C(ディア役)「キジュリュク様、瑠璃さんが創った機械を、トビくんが創ったことにされてませんか……?」(オタク)

キジ「あー……。そうみたいだな」


入院患者D(金獅子役)「トビくん、気にしないで……! キジュリュク様がいなくなっちゃったら、銀河中に居る全ての人間が、傷を癒せず飢え死にだよ! 困り果てるよう!!」(デブ)

トビ「うんうん、ありがとう……」

キジ「カサイ、落ち着け」

入院患者D(金獅子役)「無理ですっ! テレビ局に殴りこむっ!」

入院患者B(クロム役)「そうですっ! 言いたい放題でもう我慢出来ないっ!」


キジ「ッ! ……やめろっ!!」


入院患者ABCD「っ……! キジュリュク様……っ」


ライ「みんな。何があってもウンディーネはなくならないし、僕たちは大丈夫だから。病室に戻って?」


ナギ「そうよ。信じて? ほら見て。キジは、仲間の為に、こうして必死にもがいてる。自分のケツは自分で拭ける男よ。みんなだってわかってるでしょ?」


トビ「みなさん……。ボクたちは負けません!」


ライ「今日の午後の診察は全部臨時休業にしちゃってるけど……。それも、やっぱり多くの患者さんたちにたくさん迷惑かけちゃってる。……明日から、普通の日常に戻したい! その為に、その為に……」


入院患者B(クロム役)「謝罪会見……ですか……」


ライ「うん。これは、僕たちの隙を謝る会見なんだ。……見守っていて」


入院患者A(瑠璃役)「ライ様……っ。~……わかりました。でも、信じているのは、今までも、これからも、変わりませんから! それは、ずっと医学を繁栄させるために努力してきたカルク家をずっと側で見てきたから! 水星人として。わかるんです! ……っ失礼します!」


 入院患者さんたち、一人ずつ頭を下げ、部屋を出て行く。


キジ「……っ……。あー……だめだっ」


トビ「ねぇ。兄さん」


キジ「結論が、出ねえ……」


トビ「兄さん?」


キジ「瑠璃なら……」


トビ「キジュリュクにいさーん?」


キジ「瑠璃ならどうする……?」


トビ「ねえ、ここさ。ちょっと複雑な数式にし過ぎじゃない?」


キジ「えっ」


トビ「ふふ。兄さん、いつからそんなに頭デッカチになっちゃったの?」


キジ「お、おいトビ」


 チョークを握り締めるキジの手を、そっと握るトビ。


トビ「自分の知恵に、振り回されないで」


キジ「……っ」


トビ「こっからここまでは、余計!」


キジ「あーっ! 折角ここまで……っ!」


トビ「消しちゃえ消しちゃえっ!」


キジ「おいトビ! お前ふざけ……っ!」


トビ「もっと簡単に考えられるでしょ ? 長所生かしなよ単細胞」


ナギ&ライ&キジ「!?」


トビ「結論は出てるはず。知りたい答えは、何? ……人間が、インドランスだった。それだけでしょ? つまりさ、兄さんの式は……結局は今こう。1+0イコール1。これは間違ってる」


キジ「間違ってる……?」


トビ「わかってないの? インドランスって、死体だった人間を蘇らせた生命体だよ? つまり、人間が1ならインドランスは1には成れない。インドランスは、0」


キジ「っ!」


トビ「僕なら、計算式は……こうして、こうして、こう……」


キジ「っ! トビ、お前天才!」


ナギ「ええっ? つまりどういうこと?」


トビ「今朝ボクとキジュリュク兄さんが手術した人は、ここ数日の間に誰かに殺害されて。イ ンドランス化されてたってこと」


ナギ「ッそんなこと出来る!? 監視カメラは!?」


トビ「個人部屋にはついてないでしょ? ね、兄さん。ボクはあの人、自殺したんじゃないかなって思うんだけど……」


キジ「俺も……そう思ってたけど……でも」


ライ「それだけじゃインドランス化の説明は出来なくない?」


キジ「火星の政治家とか言ってたな……。俺、あんま、個人情報の詮索とかはしたくねーんだけど……」


トビ「火星って、鎖国してるんでしょ?」


ナギ「してるけど、裏で月と何か取引してるって、聞いたことあるわ」


ライ「ただの噂かと思ってたけど……。本当なのかな? キジュリュク、瑠璃くんからそういう話、聞いたことないの?」


キジ「そう言えば……前回の手術した後、瑠璃めっちゃ色々患者について聞いてきたんだよな……」


トビ「?」


キジ「俺がカルテ作っててさ。そん時。なんで火星人なんて手術したんだって」


トビ「駄目なの?」


ライ「駄目じゃないけど……ねぇ」


ナギ「あまり前例はないのよ」


トビ「鎖国してるから?」


キジ「謎が多いんだよ。火星人って。でも、あの政治家は、火星の……なんだっけ? 一番権力持ってる城から運ばれてきて……」


ナギ「マーズキングダム」


キジ「そうそうそれそれ」


ライ「それでね。どうしても入院させて手術しろって言われたんだよ。火星の王族たちに」


トビ「なんか、それってはめられてない?」


ナギ「兄さま。火星も医療機関があるのよね? 確か」


ライ「人づてで聞いた話だけどね。そうらしいね」


ナギ「もしもよ? 裏で月と取引してるのが本当で。薬でインドランス化させるモノを火星が開発してたら……?」


キジ「まあ、そういうのがマジであるんだったら、今回の件は可能だけど……。でも、月が絡んでるんだったら、瑠璃があの患者のことも知ってたはずだ。でも、そういう感じじゃなかったんだよな……」


トビ「火星って、何の為に鎖国してるの?」


ライ「大昔の大きな戦争が原因らしいよ。ケテラスと、地球と、大規模な攻防戦があったって……」


トビ「その時って、水星は……」


キジ「火星の味方なんてしてねえはずだ」


ライ「……ナギ」


ナギ「これって、もしかして……」






★シーン5 


 エアポート内。蕎麦屋。


クロム「……」


 クロム、蕎麦屋の隅にあるテレビを気にしている。少しぼーっとしていて。


観光客?(ディア役)「……食べないの?」


クロム「はっ」


観光客?(ディア役)「変な子。そう言えば名前聞いてなかったわね」


クロム「あ……えっと、」


観光客?(ディア役)「私はディア」


クロム「わ、私は……黒凪、夢……」


ディア「? ……貴女、クロムじゃないの?」


クロム「え……?」


ディア「あ、またニュースやってる」


クロム「……っ。キジへのバッシングばっかり……」


ディア「キジ?」


クロム「あ……えっと、あの外科医、って。私、知り合いで……」


ディア「何? 恋人?」


クロム「えっ!? い、いやっ。ちがっ!」


ディア「何故赤くなるの? 好きなの?」


クロム「す、好きというか……」


ディア「好きなんじゃない」


クロム「きっ嫌いではないですけど!」


ディア「そっか。向こうがあんたのこと好きなのね」


クロム「っ~」


ディア「はいはい。で、あのニュース、何? 腹立つの?」


クロム「はい……。私に、何か出来ること無いかと思って……」


ディア「これって、一体なんの問題を取り上げてるの? わかりやすく簡潔に教えて」


クロム「えっ? えーと……。火星人の政治家さんを、水星の医師が手術したみたいなんですけど……。数週間前までは確実に人間だったのに、今朝手術をしてみたら、インドランス化してしまっていて。そのことが大問題になっていて……」


ディア「??」


クロム「わかりにくい、です、か……?」


ディア「何が問題なの? インドランスは人間でしょう。誰がどう手術したって。怪我や病気を治すのは医者として当然じゃない?」


クロム「!」


ディア「元死体が生き返ったモノ? って言った方がよいの?」


クロム「いっいいえ! インドランスは、人間です! でも、法的にはそれがまだ認められていなくて……」


ディア「法律のせいで、水星のこの医師が、叩かれているの?」


クロム「そう、です……」


ディア「ふぅん」


クロム「水星ではインドランスの手術は絶対的に禁止されているんです……」


ディア「何故?」


クロム「インドランスの知識を持った医師が数少ないのと、月との格差付けの為です……」


ディア「月が水星を傘下に置く為?」


クロム「……そうです」


ディア「ハハッ。くだらね!」


クロム「……あ、あの。ディア、さんは……色んな喋り方を……するんです、ね?」


ディア「変? ごめんなさいね。まだ言葉を覚えたてでね」


クロム「言葉? ご出身は……どこなんですか?」


ディア「アマゾニスプランティア」


クロム「えっ……と?」


ディア「貴女は地球?」


クロム「私は……そう、ですね。地球……」


ディア「ケテラスでしょ? ケテラス星中央大陸、アイゼル城」


クロム「っ――!?」


ディア「何故自分のことを隠そうとするの? 貴女のこと、宇宙海賊の間では有名なのに」


クロム「えっ……。ディアさん、海賊なんですか!?」


ディア「そう見える?」


クロム「い、いえ……」


ディア「ふふ」


クロム「……」


ディア「ねえ。水星を助けたいんでしょ?」


クロム「っ……は、はい」


ディア「じゃあ。私の願いを叶えて。クロム姫」


クロム「っ? ……」


ディア「さっき呼んだから。もうすぐうちの飛空艇がくる頃かな。間に合うといいんだけど……」


クロム「ひくうてい……?」






★シーン6


キジ「ふぅ……」


トビ「キジ兄さん……。瑠璃さん、帰って来れないのかな……?」


キジ「俺は……」


トビ「兄さんは、信じてるんでしょ……?」


キジ「……っ」


ナギ「クロム姫は?」


トビ「姫さんとも、連絡つかないんだ……」


キジ「折角デートしてんのに、水差す必要ねーだろ」


トビ「えっ。デート!? そ、そうなんだ……」


ライ「さてっ! 行こっかっ。謝罪会見★」


キジ「……うん。……っしょっと」(重い腰を上げる)


ナギ「待って……っ! 本当に、いいの……? 簡単に頭下げて……っ! アタシたち、本当に間違ってたの……?」


看護師(ディア役)「ライデイン様っ! ライデイン様っ!」(ドアを叩きながら)


ライ「? はい。どうぞー?」


看護師(ディア役)「失礼致しますっ! グンジ・フローリン様が目覚めましたっ! お願いしますっ! 彼が、お話があると――……っ!」


ライ&ナギ&キジ&トビ「っ!!!?」


看護師(ディア役)「あっ後!」


ライ&ナギ&キジ&トビ「っ!?」


看護師(ディア役)「テレビ見てくださいっ! クロム姫様がうつっていましたよっ!」


ライ「え?」

キジ「なんで?」


看護師(ディア役)「なんか、緊急記者会見、やっているみたいです! 多分、これから陛下たちが行く会場と同じ場所で……!」


ナギ「トビ、テレビっ!」


トビ「はいっ!」


 テレビを慌てて点けるトビ。皆、テレビの前に集まる。


 シャッターの音が五月蠅く鳴り響く。


ライ&キジ「クロム……っ!」


 黒いシンプルなドレスに身を包み、凛とした表情のクロム。


記者A(トビ役)『クロム姫! 今回の水星での騒動、どう思われますか!?』


記者B(ナギ役)『そもそも、本当にケテラスの元皇女であるという証拠証明からお願いします!』


記者C(ライ役)『何故急にこの会見に挑んだのでしょうか!?』


キジ「なんで……っ。これじゃあクロムがクロムだってこと、全宇宙にバレちまうぞ……っ!」


 クロム、頭を深々と下げて。


クロム『……っ。私が正真正銘の、ケテラス星アイゼル城の元皇女であるという証を見せなければ、話が先に進まないようなので。……先に、私が本物のクロム・ロワーツである理由を皆さんにお見せします』


キジ「まさか背中見せるつもりじゃ……っ!」

ナギ「あららっ! 脱ぐわよ……っ!?」

トビ「背中!?」

ライ「姫さんの背中には、ケテラスに伝わる、魔法で創られた大きな焼き印が押されてあるんだよ。姫さんの名前と、誕生日と、アイゼルの王族の家紋が入ってるやつがね……」

トビ「それがクロム姫である証……」


 クロム、黒いドレスを少し脱ぎ、記者たちに、背中を見せる。


クロム『これが、私がクロムであるという証です』


ライ「姫さん……っ!」


 カメラのフラッシュが多量にたかれる。

 クロム、ドレスを着直して。また礼をして。


クロム『さて……っ今回の水星での一件ですが。火星で開発された、このマルジェダという薬のせいで起こった事件だと、私はとある方に教えられました』


ナギ「マルジェダ……?」


記者A(トビ役)『とある方というのは誰ですか!?』


クロム『火星のアマゾニスプランティア領土、マーズキングダム第二皇女、ユミルカルフェ・ディアディー・マールスェ様です』


 ざわつく記者たち。


トビ「誰……?」

ナギ「火星人なんてほっとんど知らないもの」

ライ「僕は、一回だけお会いしたことあるけど……」

キジ「いい奴なの? なんでクロムがそいつと面識あんの?」

ライ「さあ……?」


クロム『ディア皇女。お願いします』


 ディア、ゆっくりとクロムの横にやってくる。真っ赤な、派手なドレスを着ている。


ディア『皆さん。こんばんは。……わたくしはユミルカルフェ・ディアディー・マールスェ。火星の姫です』


ナギ「兄さま、本物!?」

ライ「うっうん。確かに! 本物! あのセンター分けの紫とピンクのふわふわ髪、覚えてるっ!」


ディア『水星の医師の方々。この度は我が国の元民の手術をして頂いたそうで。大変、お世話を掛けました』


キジ「元……?」


 ディア、深く深く頭を下げる。


ディア『すぐに、病に侵されているグンジ・フローリンを回収し。わが国の最高医療を持ってして、再手術を行いたい所ではありますが……。

幾つか問題がございまして。是非とも、全銀河警察クドゥルシェにて、彼に処罰を与えて欲しいと……わが国は思っております』


キジ「なんだ、どういう事だ……?」


ディア『グンジ・フローリンは、三つの罪を犯した大罪人。既に火星人としての戸籍や生命書は剥奪済み。国外追放しているのです。あの者は既に、火星人でも人間でもなんでもありませぬ』


記者B(ナギ役)『三つの罪とはなんですか!?』


ディア『その1。死んだ人間を勝手にインドランス化させてしまう危険薬、マルジェダの開発を行ったこと』


キジ「やっぱり……! でも、そんなの可能なのか……?」

トビ「キジ兄さんがさっき組み立てた理論式なら……不可能じゃないと思うけど……」


ディア『その2。マルジェダを、大量生産し密売を行っていたこと。……その3……』


 皆、息を飲む。


ディア『火星への母性愛か何かが邪魔して出来なかったのか、火星では実験を行わず……。医療のライバル国である水星で……このように勝手に実験を行い、その星の方々にご迷惑を掛けたこと……っ!』


クロム『……水星の医師たちを信じている水星の人たち。……っ彼らは、何も問題なんて、起こしていませんっ! 今まで通り。信じることをやめないでください!』


 瑠璃、水星に降り立つ――。走って。報道陣、野次馬をかき分けて行く。


クロム『報道の皆さん。伝えてください。カルク・キジュリュク・ゼットは……っ! 銀河一の外科医です!! 彼を医療界から追放したら、私が……っ。ケテラスが、許さない……っ!』


キジ「クロム……!」

ライ「キジュリュク、行こう!」

キジ「ああ……っ!」


クロム『今回私が火星の姫とここに居るのは……っ。罪を犯した彼に、このまま死なれるのは困るからです!』


ディア『マルジェダはまだまだ、副作用がある超危険薬。薬によって無事にインドランス化したとしても、すんなり順応し、綺麗に適応が続く人間は数パーセントです。このままではきっと、グンジ・フローリンは……っ』


トビ「待ってっ! 兄さん、あの人また手術するの!?」


キジ「このまま死なす訳にはいかねえだろ!」


ライ「キジュリュク、僕が補佐に入る」


キジ「っ! 行こう」(強く頷く)


 キジとライ、部屋を出る! トビとナギ、二人を追い掛ける。


トビ「待ってよ。瑠璃さんが居ないのに……インドランスの手術なんて……!」


ナギ「そうよ。相手がインドランスなら、最高執刀医は瑠璃でないと……!」


キジ「俺だって知識がねえわけじゃねー! やってやる!」


ライ「瑠璃くんも、いつ来れるかわからないしね」


ナギ「でも、失敗したらどうするの!」


キジ「どうせ一回死んでる命だろ?」


ライ「これで火星に恩が売れるね」


 足音が四人に近付いてくる。


瑠璃「――キジュリュク!」


キジ「っ!! 瑠璃……っ!」


トビ「瑠璃さん!」


ナギ「瑠璃!」


ライ「瑠璃くん!」


瑠璃「悪い。遅れた……っ!」


ナギ「トビ! エレベター!」


トビ「はいっ!」


ライ「瑠璃くん。おかえりなさい」


キジ「お前状況わかってんだろうな」


瑠璃「ああ……っ! 薬によるインドランス化の全摘出と、損傷部分の治療と縫合、」


キジ「後、再インドランス化の為の移植と、……ライ兄、輸血も!」


ライ「彼、呼吸器に異常もあったから。ソコもやっちゃおう♪」


トビ&ナギ「全部!?!?」


 五人、エレバータに乗り込む。


キジ「行くぞ」


ライ「瑠璃くん、手術半年ぶりくらい?」


瑠璃「あ、いえ。月イチで、月に講師に行ってるんで。その時にインドランス化手術はやっとるんよ」


ライ「あぁそうだったね」


トビ「この三人なら、半日もかからないかもね……」


ナギ「でも、普通なら十時間はかかる手術よ」


トビ「兄さん、僕も助手に入っていいのかな……?」


ライ「勿論。お願いするよ、トビ。ナギも来てくれるよね?」


ナギ「ああもうっ。了解っ! ナースはどうするの!?」


ライ「今なら選びたい放題でしょ」


 お目当ての階に着く。全員降りる。


瑠璃「さて……。ご対面やな」


 患者が居る部屋の前まで来て。


キジ「四時間で終わらしてやる」


瑠璃「何弱気になっとんねん。……三時間で十分や」


 キジと瑠璃、拳と拳をぶつける。





★シーン7


 クリスマスイブ。

 水星にも、きらきらと雪が降る……。


クロム「ふぁ……っ。寒い……っ。……わぁ……雪、だっ!」


キジ「上向いて歩いてんと転ぶぞ」


 クロムの後ろから歩いてきたキジが、ふとクロムに声を掛ける。


クロム「あれっ。キジ! っ! メリークリスマス!」


キジ「っ。おう」


クロム「寒いですねっ。手袋持ってくればよかったっ」


キジ「……ここ、開いてるけど?」


 キジュリュク、自分のコートのポケットを広げて彼女を招く。


クロム「へ? ……ポケット?」


キジ「来いよ」


クロム「……ふふっ。恥ずかしいですねっ」


トビ「姫さんっ!」(キジを押し倒し、クロムの手を引っ張る)


キジ「ゴフッ!!」


クロム「ひゃっ!? トビ!?」


トビ「ふふ! めりくり!」


クロム「ふふ。……っうん。めりくり。です」


トビ「みんなもう待ってるよっ! 来て来てっ!」


クロム「あっ! まっ待ってっ引っ張らないでっ!」


キジ「トビてめえちょっ待てっ!」


 三人が入ったのは、超高級レストラン。

 そこでは、カルク家の兄弟ほぼ全員と、キジたちの祖父、ウンディーネで働く看護師たちの中でもかなりの古株数人、医療関係者……。そして、瑠璃が、立食パーティに参加していた。


ナギ「あらクロム姫。随分お洒落しちゃって~。頑張ったわね」


クロム「ナギ。こんばんは。だって今日は超豪華ウンディーネの立食パーティですよ!? 少しは背伸びしてお洒落しなきゃ……っ!」


ナギ「ふふ。そんなんじゃ、色んな男にダンスに誘われちゃうんじゃあな~い?」


クロム「うっわあああ伊勢海老動いてるーっ! あっ、アワビ! フォアグラ! タコス! チーズ食べたいな……」


トビ「クロム姫。ワインどうぞ」


クロム「あっ、ありがとうっ!」


トビ「後でボクと踊ろうねっ♪」


クロム「うんっ♪」


ナギ「ちょっと兄さん! いいの!? 姫はトビと楽しくやってるわよ!?」


ライ「あはは。いやいや。今日は姫さんのことは誘えないよ。……金星の人たちも来てるしね」


ナギ「そ……っそっか……」


ライ「僕は金獅子と踊らないと。……行ってくるね」


ナギ「兄さま、スッゲー嫌そうっ!! ……なによ。なによなによっ! そんなに政略結婚が嫌なら、あっちに嫌っていっちまいなさいよっ!」


ライ「ははは。無理だよ。ナギ、バカ?」


ナギ「えっっ!?」


ライ「いってきま~す……」


クロム「おいひい~」


キジ「おいクロム。あんま食いすぎんなよ?」


クロム「だっておいひいんらもん~」


瑠璃「夢」


クロム「っ!! ゴホッゴホッ! んんんんんん!」


トビ「お水お水っ!」


クロム「んっんっんっんっ……! ぷはっ。はう……」


瑠璃「なんや。大丈夫?」


クロム「はいっ! 大丈夫っ! 今日お昼ご飯、抜いてきたから……お腹空いてて……っ!」


瑠璃「そうなんや」


キジ「なーなークロムー俺と踊ろうぜー」


クロム「ふぇ?」


キジ「なっ!」


クロム「……うわー……。足踏みそう……」


キジ「いいっていいってっ! 行こう行こうっ!♪」


クロム「は、はいー……」


トビ「いってらっしゃーい」


瑠璃「ふぅ……」


トビ「ふふ。瑠璃さんも、こういう場所は苦手そう」


瑠璃「んまあ……。でも、しょうがなしやんな」


トビ「今回の一件の英雄だもの。居ないと困るよー」


瑠璃「全く同じ感じでライにも言われたわ……」


トビ「お疲れ様でした。……ありがとう。国を守ってくれて」


瑠璃「それは……。夢……っ、いや。クロム姫が、盾になってくれたお陰や」


トビ「そっか……。ふふ。瑠璃さんも、姫さんのこと、だーいすきなんだねっ」


瑠璃「えっ」


トビ「ボクも、だーいすきだよっ」


瑠璃「あ、ああ……」


 ディア、いつの間にか入店しており。瑠璃とトビの横に立っていた。


ディア「わたくしも。好きですわよ」


トビ「? あれっ。火星の姫様っ! 来てくれたんですねっ」


ディア「ええ。お招きありがとうございます」


瑠璃「……?」


ディア「こんばんは」


瑠璃「あの、どっかで会ったことあります……?」


ディア「あらいやだ。空港でのこと、もう忘れてしまったんですの? オズワルドさ・ま★」


瑠璃「!!!!」


トビ「おずわるどさま??」


瑠璃「あっあの時の!?」


ディア「ええ。思い出しまして? メイクが違うからわかりにくかったかしら」


瑠璃「っ――!? ってことは、昔から、地球に出入りして……っ」


ディア「お忍びでねっ。……ねえオズワルド様? わたくし、あの時の航空チケット代、まだお礼を何も頂いていないのだけれど……っ」


瑠璃「そ、そうですね! えーと、おっお金!?」


ディア「ふふっ」


 瑠璃の着ているスーツのネクタイを、ぐいっと引っ張るディア。


ディア「……欲しいのは、アナタ。……明日から一か月。わたくしと男女交際してくださいまし」(にっこり)


トビ「えっ」

瑠璃「えっ」


トビ&瑠璃「ええーっ!?」


 皆、振り向く。






おわり

こんにちは。お疲れ様でした!

一体どんな作品に仕上げられているのか、いつも、書き始める時はどきどきと不安でいっぱいで。作品として上手く形に出来ないのではないかという思いで溢れています。

今回こんなにも沢山のCASTを出演させようと思い立ったのは、映画のような脚本を書きたい! と思ったからです。

キジと瑠璃の友情。

クロムから皆を想う愛情。

水星や、他の星の人たちの願い。

そういったものを、日常とは少し違った形で表現してみたかった。

毎日小さなドラマは、誰にでも起こる。

でも、何か事件があった時。それを乗り越える為に悪戦苦闘する人間の姿。

知恵や経験のせいで簡単に開かれない道もあるということ。

たっぷりと、ご堪能し、演者の皆様の声劇ライフに少しでも、色を添えられますように。

ありがとうございました~!

また次の作品で、お会いしましょう!

七菜かずは

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