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泥雪のスノウマン

作者: 雛月詩音

 むかつく。あーむかつく。別に理由とかないけどむかつく。

 あるでしょ? そういうことって。ワケもなくイライラするときとか。ない? あるの。だって今あたしがそうだし。


 寒いし。雪とか積もりまくり。白い。真っ白だよ。

 それでそこかしこで子どもとか大人とかが雪ダルマなんか作ってるの。一生懸命でっかいの作ってるひととかちいさいの量産してるひととかいろいろだけど。あーもう必死になっちゃってむかつく本当。


 なんか雪ダルマ見てると余計イラッと来るんだよね。

 だから泥水ぶっかけてやった。

 真っ白できれーな雪ダルマが一瞬にして泥まみれ。真っ黒というか真っ茶色。汚れちゃった、あーきたない。かわいそー。

 ちょっと目を離したせいで苦労の結晶を台無しにされちゃった女のこが、泣きそうな声あげながら家の中に駆け込んでった。おかーさーん。だるまさんがー。

 まったく。どうしようもないな。


 何こめかの雪ダルマに泥水ぶっかけた後、ふっと振り返ると、ちっさな女のこがあたしを見上げてた。上目づかいで。ぼけーと。

 まったく気配を感じなかったあたしはびっくりして、思わず声をかけた。

「何あんた?」

「雪ダルマつくろ?」

 話しが通じないからガキは嫌いだ。

「作らない」

 そう言って逃げようと思ったら、マフラーの端っこを掴まれた。首しまった。

「放してよ」

「じゃあおねーちゃんは、からだのほうね。おっきいの作ってね」

 話しが通じないから、ガキは嫌いだ。

 まじで作り始めてるし。三歩転がすごとにこっち見んなよもう。


 あーもう寒い冷たい手袋べちゃべちゃだし重いしなんだこれ雪ってなんでこんな重いんだよふざけんな。

 ていうかなんであたしは雪玉転がしてんだよ。

「ふおーもう少しでできるよおー」

 ふおーじゃねえよ。寒いよ。

 あーもうリアルに冷たいよ手が。もうとっとと帰ってコタツ入りたい。コタツでみかん食べたい。むくのがちょっと面倒だけどこの際ぜいたく言わないから。そしたらシロ適当にいじった後でコタツで夕寝。そうだそうしよう。

 ちなみにシロはうちの飼いねこだ。


「できたーッ!」

 肩で息をするあたしは返事できない。でっかい雪ダルマが、真っ白まっさらなスノウマンが生まれちゃったよこんちくしょう。ガキには頭持ち上げるの無理だから、完成させたのはあたしなんだけど明らかにガキのほうが喜んでる。重かったっつの。

「ようし」

 はいはいよかったね。あたしは疲れたから、濡れるのも構わずスノウマンの横に座り込んだ。ガキはてってってとスノウマンから離れていった。おいちょっとまてもう帰るのかよ。すこしは遊んでけよ。あたし何のために働いたんだよ。

 と思ってたらこっちに戻ってきた。ガキはワケわからんから嫌いだ。

 はあ、とため息ついて俯いたあたしの耳に、やたら元気なガキの歓声が飛び込んできた。


「たあーっ!」


 ふっとんでった。

 あたしの目の前で。スノウマンの頭が。

 ドロップキックだった。それはもう見事なドロップキックだった。揃えた両足がスノウマンのどたまにクリティカルヒットしてすこーんともうだるま落としみたいに吹っとんでくのがはっきり見えた。

 スノウマンの頭は勢いよく吹っとんだあと、地面にぶつかると粉々に割れた。粉々。完膚無きまでに粉々だった。真っ白だったけど地面の泥雪と混じって区別つかなくなった。それはもう、あっという間に。

 スノウマン、お亡くなり。

 享年一分。

 早。

「あはははははは!」

 やったらうれしそーな、ガキの笑い声。雪の中に倒れこんだまま、げらげら腹抱えてわらってる。もう本当心の底からたのしそーなの。すごい。わらいすぎ。明らかにわらいすぎ。

 で、あっちみれば粉々の元スノウマン。あたしが苦労して持ち上げてやったスノウマン。

「ぶっ」

 なんかウケた。

「ははっ。オマエ、やってくれたなこら」

 ぱぁーんと軽くガキのあたまをひっぱたいてやった。でもまだ笑ってるし。

 ガキは笑い続けてる。あたしも座ったままちょっと笑った。通行人にへんな目で見られたけど、まあいいや、ゆるしたげる。

 ああ、なんか早くあったまりたいな。帰ってコタツとか入ってみかん食べたい。

 そんでシロいじくいって、コタツつけっぱで夕寝するの。

 気持ちいいぞきっと。

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