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2日目

 午前5時半、修三は眼が覚めた。

 室内は暗いが、控え目な物音が聞こえる。荷物を出し入れしたり、布団を畳んだり、着替えたりする音だ。時折ヘッドランプの光が視界に入る。早い人はもう出発していく。二人とも6時半の朝食を予約してあるからゆっくりで良い。隣の陽介はまだ寝ている。

 窓を見る。仄かに明るい。寝返り打ったり、ぼんやり無想したり、また窓を眺めたりしていると明るくなってきた。至近の外壁や木々しか見えないが、今朝も曇天のようだ。布団の外は寒い。やがてぶら下がる白熱電球が点灯した。修三は身体を起こして毛布を羽織り、ライトノベルの続きを読み始めた。

 6時半になった。陽介以外、皆身支度を済ませ食堂へ向かって行く。陽介が起きる気配は無い。修三は陽介を揺するが効果無い。「おい、飯だぞ、起きろ」陽介がむにゃむにゃ何か言う。反応悪い。仕方ないので、修三は陽介の顔に昨日脱いだ靴下を載せてみた。

 数十秒後「ぶは・・・く、がはっ・・・何、これ?」陽介が苦しそうに靴下を掴んだ。

 「はっはっは、もちろん俺の靴下だ」

 「もう、死ねよ!」

 「まあまあ、朝飯だぞ、早く起きようぜ。山の朝は静かで澄んでいて気持ち良いな」

 「俺は全然爽やかじゃなかったよ。君のおかげでな」

 「うっひょーん♪俺が悪かったよ」

 「にくいなあ」


 朝食後には弁当を受け取り、温かいココアを飲み、天気予報を見、地図を確認し、トイレを済ませ、布団を畳み、荷物を片付け、それから登山靴に足を入れた。今日の歩行時間は朝日岳山荘?まで6~7時間の見込みとなる。一路北へ縦走していく。


 歩きながら話すのは、今日もどうでもいい話ばかりだったが、やがて横殴りの雨が降り始めた。見晴らしも悪い。顔を上げると強風にレインウェアのフードをめくられるので、修三はロープでフードを縛って固定する。アラブのベドウィンみたいだ。なんというか、もう笑うしかない。

 「わっはっはっは!ひどいなオイ!」修三が叫ぶと、

 「まったく!君、ものすごく格好悪いよ」陽介も叫んだ。

 そうして雪倉岳山頂。何も見えない。強風でまともに立てない。二人とも無意味に大笑いだ。とりあえず写真は撮ったが、ひどい写真だった。

 どこかで雷が鳴った。

 「避難小屋へ行くぞ!ゴー!」修三が叫ぶと「行くぞとゴーは同じ意味だけどね!」と陽介が突っ込んできた。

 しばらく行くと地図通り避難小屋があった。雨脚はさらに激しく叩きつけてくる。小屋はコンクリート製の簡素な造りで、入ると先客が三人いた。軽く挨拶して二人はリュックを降ろした。溜め息が漏れる。茶を飲みチョコレートを食べる。しばらく無言で疲れに身をまかせた。身体の重さを実感する。やがてドカンと雷が至近に落ち、皆、身をすくませる。

 修三は陽介と顔を見合わせた。言葉も無いので、修三は鼻の横に人指し指をあてくるくる回し、鼻をほじる真似をして見せた。

 「あっはっは、本当に君は馬鹿だな」陽介はまだまだ元気だ。


 それでも1時間で天候は回復し、なんとか無事に朝日岳山荘に入ることができた。その日の夕陽は明るく大きく、雲の中で幻想的にぼやけていた。当然撮影したが、やはり写真ではその素晴らしさは伝わらない。

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