表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

議題一『朝はご飯とパン、どっちが良いか?』

作中で取り上げている議題に対して、皆さんも一緒に考えると面白いと思いますので、ぜひ一度ご参加ください。

 都内にあるけど決して賑やかではない場所にある私立高校。偏差値も平均より少し高いくらいのこの学校に、他の学校にはない特殊な部活が存在していた。

 その名はGDグループディスカッション部。その部室の扉を開けて意気揚々とホワイトボードに何かを書き込む女子生徒がいた。彼女はボードの一番上を埋めると満足げに席に着く。

「はっやくー、だっれかー、こーないーかなー♪」

 リズムを付けて楽しそうに歌う。放課後にこの部室であれこれ議論するのを楽しみにしている彼女は、歌いながらも自分の考えた議題に関して頭を働かせていた。


 数分後、部室には男子二人、女子二人の全部で四人の生徒が集まっていた。

「今日はこれだけ?」

 最初に来ていた女子生徒が近くの男子生徒に質問する。

「後の二人は今日は塾だって、先週言ってただろ。覚えておけよ部長」

 部長と呼ばれた女子生徒は少し不満そうに口を尖らせるが、すぐに気持ちを切り替えて議題を発表する。

「しょうがないか。それじゃ、今日もたくさん話し合うわよ!」

 そう言って後ろのホワイトボードをバンと叩く。

「まずはこれ! 『朝はご飯とパン、どっちが良いか?』」

 部長はその議題の下にご飯とパンを左右に分けて書き込む。

「それじゃまずは最初の印象で、もしくは自分の習慣でも良いからどっちかに手を挙げてね」

 そしてすぐに部長が朝はご飯の人、と部員たちに質問する。最初に部長から質問されていた男子生徒が一人だけ手を挙げる。

「それじゃ私と衣笠君がご飯派ね」

「お、部長もか」

 衣笠と呼ばれた男子生徒は自分一人だけと思っていたので、部長の山口という苗字がご飯の下に書かれて少しほっとしていた。

「それじゃ自動的に綾ちゃんと長谷川君はパン派ね」

 部長は続けてパンの下に二人の名前を書き込む。すると綾ちゃんと呼ばれた女子生徒がおずおずと手を挙げた。

「ん? どうしたの」

「すいません、私はどっちも好きなのでどっちも良い派にしてもらえますか?」

 その発言に部長が返答しようとするよりも先に長谷川と呼ばれていた眼鏡の男子生徒が彼女に指摘した。

「ご飯かパンかと二択で聞かれているのに別の案を出すのは自分勝手だと思わないか?」

「ひっ……」

 彼のイラつきを感じ取ったのか綾が怯えた声を出す。部長が二人の間に入る。

「こらこら脅かさないの。別に問題ないわよ、そういう意見が出るのもグループディスカッションの醍醐味でしょ?」

「しかし!」

 尚も反論しようとする長谷川に部長が強い一言を投げかける。

「理由を聞いてからで良いでしょう?」

 その言葉に長谷川は黙り、それまでのしかめっ面から急にニヤッと笑う。

「確かに。期待してるよ、灰咲さん?」

 長谷川は彼女の挑戦が無謀だと感じたのかすでに勝者の余裕を見せて笑う。部長はその笑みを見て勝ち負けじゃないんだけどなと思いながら議事を進める。

「それじゃ誰から、というかどこから意見を言う?」

 はいと右手をピシッと天井に向けて主張する長谷川は自信満々の笑みを受かべていた。

「じゃあまずはパン派の長谷川君からどうぞ」

 部長に促されて長谷川は席を立ってから発表を始める。

「一般的にパンよりご飯の方が良いと思われがちですが、ご飯の方が良いとされる理由の一つとして他のおかずと組み合わせて食べられるからというのが挙げられます。確かに味噌汁や焼き魚と一緒に食べれば栄養バランス的にも良いでしょう。しかし今回はあくまでもご飯とパンだけで考えるんです。特にコンビニにある菓子パンなら最初からジャムやハムが挟まれていて食べるのも楽です。準備に時間がかからない点も含めて、パンの方が良いと思います」

 自信満々に自分の意見を発表し終えて一礼してから着席する。部長は長谷川の意見を端的にボードに書き起こす。

「『食べるのが楽』、『準備が楽』……、確かにジャム一個買っておけば朝寝坊してもなんとかなるもんね」

 部長が長谷川の意見に少し賛成していた。それに満足して笑みを浮かべるが、衣笠がそれに噛みつく。

「話にならねぇな」

「何だと?」

 衣笠は挙手したり、席を立ったりすることなくそのまま自分の意見を、主に長谷川に向けて発表し始める。

「お前自分で矛盾したこと言ってるんだよ。あくまでもご飯とパンを単体で考えるって。なのにジャムとかハムを入れて良いなら、ご飯だってふりかけやお茶漬けがありってことになるぞ?」

 ここまでは単なる反論と一旦区切ってから、改めて衣笠は自分の意見を発表する。

「そもそもパンは消化吸収が早い。七時に朝ごはんを食べたとしたらまず十二時の昼ごはんまで持たないね。加えてすぐに腹が減るということは間食しやすいんだよ。体型を気にする女性にはまずおすすめしないね」

 意外と女性目線でも考えられていることに衣笠以外の全員が驚いた。しかし衣笠はそんな変化には気付かずに話を続ける。

「また反論に戻っちまうが、コンビニにはおにぎりや弁当だってあるんだぜ? 準備が楽って長所はそっちだけの話じゃないんだよ。ってわけでどう考えてもご飯の方が良い、以上!」

 そこまで話し終えて衣笠は背もたれに寄りかかり一息つく。何か反論はあるかという挑発の視線を長谷川に向ける。長谷川はその視線に対して睨むことしかできなかった。

「『ふりかけやお茶漬け』、『ダイエットに適している』、パン派のこれは消しますか」

 部長は衣笠の意見を書いた後に、パン派の意見の『準備が楽』を消す。衣笠が部長の意見はと尋ねるが、『ダイエットに適している』が主な理由だったから言われちゃったと少し残念そうな顔を見せる。部長の意見も内包していたことで自分の意見が完璧だと思い、衣笠はさらにふんぞり返った。それを横目に部長が綾に発表を促す。

「それじゃ最後に綾ちゃんよろしく!」

「は、はい!」

 部長の声にちゃんと返事をしてから立ち上がって発表を始める。

「その、私がどちらも良いと思ったのは、やっぱりご飯っておいしい物とか好きな物を食べた方が良いと思うんですよ。特に朝ごはんから自分の苦手な物が出たらちょっと嫌だなって、その日一日がブルーになると思いました。だからご飯が良いとかパンが良いとかよりも自分の好きな物を食べてテンションを上げた方が良いと思いました。私の意見は、これで終わりです」

 最後にそそくさとお辞儀をしてから着席する。その意見に男子二人がかなり驚いていた。

「『好きな物を食べた方が良い』、これは納得の意見ね」

 素晴らしいわ、綾ちゃんと部長が今日一番の賞賛の言葉を綾に送る。それを聞いて綾は頬を緩ませた。

「それじゃ意見が出そろったし、何か質問はあるかしら?」

 部長が発言を促すが、長谷川は悔しそうな表情を浮かべるだけで何も言わない。衣笠は綾の方を見ながら何やら考え込んでいたが、反論しようがないのか諦めたように部長に対して首を振る。衣笠の首の動きを見て、部長は綾の方にも視線を動かす。綾も衣笠と同じ動きをした。

「それじゃ私から一つ綾ちゃんに」

「は、はい。何ですか?」

「綾ちゃんが一番好きな食べ物って何?」

 部長の質問に男子二人が首をかしげる。その質問に意味はあるのかと考える。綾も不思議に思ったが素直に答える。

「私は肉じゃがが好きです」

「肉じゃがはさすがにご飯と一緒に食べるよね?」

「? はい、そうですけど……」

「だったら綾ちゃんも結局はご飯派になるんじゃない?」

 部長の質問に全員がはっとなる。特に言われた張本人の綾は最初どう返答するか悩んで慌てた声を出すが、部長の視線からその質問の意図を思い出し落ち着きを取り戻す。

「確かに、私の例ではご飯派になります。しかしジャムパンがとにかく好きって言う人もいると思うので、一般的な意見としては好きな物を食べる派ということになります」

 綾の解答に満足げに頷き、よくわかったわありがとうと部長が返す。グループディスカッション部では自分の意見に如何に説得力を持たせられるかを目標にしている。主観ではなく客観的に考えて、如何に相手を納得させられるかが大事である、とここにいる全員が最初に教わった。部長はそれをわかっているか確かめたかったのである。

「それじゃあ他にはなさそうだし、どれが一番納得できたか聞くわよ」

 部長が三人にどれが一番納得できたか質問する。部長の票も含め全員が綾の意見に納得していた。

「それじゃ、『朝はご飯とパン、どっちが良いか?』の解答は『自分の好きな物を食べるのが良い』という結果になりました」

 意見を出した綾ちゃんに拍手と部長が率先して綾に称賛の拍手を贈る。二人の男子も綾に拍手を贈る。綾は恥ずかしそうに、でも嬉しそうな笑顔を見せた。


 余談。

 絶対にどっちかにしないといけないってルールだったらどっちと部長が三人に尋ねる。長谷川が悔しそうな顔を見せたが、満場一致でご飯になった。

まだまだ書きなれないので読みにくいかもしれません。

長くお付き合いいただけたらと思いますので、宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ